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聖女爆誕編

小夜、聖女を騙る。②

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 小夜は今にも叫び出したいのをグッと堪えてルッツに向き直る。

「⋯⋯聴いて、ルッツ」
「どうしたんだ?」

 神妙な面持ちの小夜を見たルッツも釣られて真面目な顔付きになる。

「祈祷も、瀉血もこの呪いには何の効果も無いわ」
「何だって!? そんなはず無いだろ!?」

 ルッツは勢い良く椅子から立ち上がった。

「良いから、落ち着いて聴きなさい。⋯⋯考えてもみなさいよ。神父が来て何か変わったかしら? きっと、敬虔な信徒である貴方は毎日のようにお祈りをしているんでしょうけど、神様は救ってくれたのかしら?」
「⋯⋯⋯⋯」

 ルッツは歯を食いしばり顔を真っ赤にして押し黙る。
 自らが信仰するものを真っ向から否定されたのだ。小夜に対して怒りを覚えるのも仕方が無いだろう。
 しかし、小夜は怯む事なく尚も言葉を紡いでいく。

「私なら⋯⋯私なら貴方達を救えるかもしれないわ」
「!!」

 ルッツは目を丸くする。あまりに大きく見開いたせいで眼球がぽろりと溢れ落ちてしまいそうだった。

「私は此の呪いの治療法を知ってるのよ。知識として識っているだけだけれどね。でも、医者の卵として困っているこの村の人たちを放っては置けない。⋯⋯まだまだ未熟な私では根治の約束は出来ないけど、手は尽くすと誓うわ」
「——って事は、あんたが本物の聖女様って事か?」
「⋯⋯っ!」
「聖女様でも無い限りこの村を救う事なんて出来ないだろ? 魔女の婆さんは召喚に成功してたってワケだ」
「そっそれは——」

 小夜は言葉に詰まった。
 出会ってからというもの、何処か冷めた目付きか怯えた眼差しばかりを向けて来たルッツだったが、今はブラウンの瞳を少年のようにキラキラと輝かせ小夜を見つめている。そんな彼を前にして嘘を吐くのは些か心苦しい、と小夜は躊躇う。
 しかし、目の前にある救える筈の人命と自らの今後の生活、そしてほんの少しの罪悪感を天秤にかければどちらがより重要であるのかは火を見るよりも明らかである。

(覚悟を決めるのよ、黒宮小夜!!)

 小夜は此処が正念場であると自らに言い聞かせ、ギュッと拳を強く握り締めた。
 そして、肺いっぱいに空気を取り込み声と共に大きく吐き出す。

「そうよ! 此の私が貴方たちの求める聖女よッ!!」

(ああ、遂に言ってしまった⋯⋯! もう後戻りは出来ないわ。でもきっと、此処で否定しても信じて貰えないばかりか不審者としてこの村を追い出されかねない。乗り掛かった船だもの、今は聖女としてこの村を救わなければ!)

 使命感に駆られた小夜は再び決意を固める。

 取り敢えず、当面の目標は決まった。
 やるべき事は大きく分けて2つ。此の村で魔法が使えない事を隠しながら聖女としてペストの流行を抑える事と、小夜をこの世界に連れてきた謎の男の捜索だ。



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