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あやかし達の食事事情!①
しおりを挟むレッスン開始前夜のこと、私はふとした疑問を目の前の2人にぶつけてみた。
「そういえば、カヅキくんは吸血鬼で、チユキくんは雪女なのに普通に人間のご飯食べてるよね?」
「どっかの誰かさんが勿体ぶって血くれねーからな」
「俺は、まだ⋯⋯我慢できる⋯⋯。それに、人間のご飯も⋯⋯おいしい⋯⋯⋯⋯」
「まあ⋯⋯悪くはねえけど、ほとんど栄養にならねーじゃん」
カヅキはさも私が悪いかのようにじとりと此方を見ながら言う。
彼の瞳を見ると今朝、2人に殺されそうになったことを思い出してしまいぶるりと身体が震えた。
「勿体ぶってって⋯⋯今日の朝2人とも勝手に吸い取っていったじゃない!」
そう言って、首に残る痛々しい痕跡を2人に見せつける。
「社長にオレたちの事聞いてると思ってたんだから仕方ねーだろ!」
「あの時は⋯⋯本当に、ごめんなさい⋯⋯⋯⋯」
今朝のことを思い出しているのだろうか、チユキがシュンとした表情になる。
「チユキくんは反省してるから良いとしても、カヅキくんは全く悪いと思ってないよね⋯⋯!?」
「思ってま~す」
「その言い方、絶対思ってない⋯⋯!!」
「あ? だったらどーすんだよ!?」
「⋯⋯⋯⋯カヅキ⋯⋯マネージャーに、謝ろう⋯⋯?」
睨み合う私たちを見たチユキが、困ったようにカヅキを嗜める。
「仕方ねーじゃん。味気ないサプリメントばっかりで飽き飽きしてたんだよ」
「⋯⋯それでも⋯⋯マネージャー怖がらせた。⋯⋯ごめんなさい、して⋯⋯」
「おわ!? ちょっ⋯⋯! やめろ、チユキ!!」
一向に謝る気の無いカヅキに痺れを切らしたチユキが、強引にカヅキの頭を掴んで下げる。
「はい、ごめんなさい⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「カヅキ⋯⋯? マネージャーに、ごめんなさい⋯⋯は?」
しかし、カヅキは唇を固く結び、意地でも口を開こうとしなかった。
そんなカヅキを見たチユキは、小さくため息を吐いてから、鷲掴みにしていた頭から手を離した。
カヅキの頑固さに諦めたのかと思いきや、今度は、顎を掴んで無理矢理に口を開かせようとする。
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯もがっ!? なにふんだお、ひゆき⋯⋯!!」
「カヅキ、も⋯⋯謝って⋯⋯⋯⋯」
「わ、わはったはら⋯⋯わはったはら! とりはへずはなへっ!」
「うん⋯⋯わかってくれて⋯⋯嬉しい⋯⋯⋯⋯」
チユキの思わぬ強引さに、ようやく観念したカヅキが、私の方を見て渋々ながらも謝罪する。
彼の表情からは屈辱だ、という感情がありありと伝わってきた。
「け、今朝は⋯⋯勝手に血吸って、悪かった! ⋯⋯おら、これでいいだろ!?」
「う、うん。もう気にしてないから大丈夫だよ。チユキくんも、ありがとう⋯⋯!」
「うん⋯⋯カヅキ、いい子⋯⋯⋯⋯」
——チユキくんって意外と強引だし、怒らせると一番怖いタイプかも⋯⋯! 気をつけよう⋯⋯。
チユキは渋々ながらも謝ったカヅキを見て、嬉しそうに微笑んで頭を撫でた。
対して、カヅキは照れながらも鬱陶しそうにその手を振り払う。
その光景を見ていると、まるで、この2人の方が本当の兄弟のように思えた。
✳︎
「吸血鬼のご飯が人間の血っていうのは有名だけど⋯⋯雪女って何を食べるの?」
「俺たちは⋯⋯人間の生気⋯⋯⋯⋯」
「せ、生気!? わ⋯⋯私あの時、そんなもの取られてたの!?」
——もしかして、私の寿命が縮んだってこと⋯⋯!?
私が心の中でパニックになっていると、それを察したチユキがおずおずと口を開いた。
「安心、して⋯⋯生気っていっても⋯⋯魂とかじゃなくて、元気を⋯⋯分けてもらうだけ、だから⋯⋯」
「そ、そっかあ⋯⋯」
チユキの言葉を聞いて、ホっと息を吐く。
「っても、チユキが本気出したら人間の魂くらい余裕で吸い取るけどな」
「えっ!!?」
ホッとしたのも束の間、意地悪なカヅキの言葉に再び身体を固くする。
「カヅキ⋯⋯マネージャーを、不安にさせること⋯⋯言わないで⋯⋯⋯⋯」
「親切心で教えてやったんだろー?」
「⋯⋯⋯⋯」
怒りつつも否定しないところを見るに、カヅキの言った事は本当なのだろう。あの時、魂まで吸い取られなかったのは本当に幸運だったようだ。
——見た目ではわからなくても、この2人は人間の命なんて簡単に奪えるあやかしなんだから、マネージャーと言えどあまり気を許しちゃいけないのかも⋯⋯?
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