22 / 28
アスモデウス編
捜索
しおりを挟む「ノアったら、一体どこにいるの⋯⋯?」
セオと別れた後、マリアンヌとアスモデウスは屋敷中を思いつく限り探し回った。
しかし、屋敷中どこを探してもノアの姿が見当たらない。
最後の手段だと、ノアの自室を訪ねようとするが、マリアンヌは後一歩のところで怖気付いてしまう。
(義姉が義弟の部屋を突然訪ねる理由って何かしら⋯⋯)
「ご主人さまー? どうしたの?」
「ね、ねぇ⋯⋯アスモデウス。さすがにわざわざ部屋まで訪ねるのは気が引けるわ⋯⋯。またの機会にしない⋯⋯?」
マリアンヌが諦めてアスモデウスにそう言った時、何者かが不意に後ろから声をかけてきた。
「そちらにいらっしゃるのは、マリアンヌ様ですか?」
ビクリと肩を揺らし、恐る恐る振り返ると屋敷で働く若いメイドが不思議そうな顔でマリアンヌを見ている。
「え、ええっと⋯⋯」
煮え切らない態度のマリアンヌに首を傾げたメイドは、少しの間考え込んだ後、閃いたというように笑顔で口を開いた。
「もしかして、ノア様をお探しでしょうか? ノア様でしたら少し前にお出かけになりましたが⋯⋯」
「⋯⋯そうなのね。彼がどこに行ったかわかるかしら?」
「そこまでは⋯⋯。申し訳ございません」
マリアンヌの質問に彼女はおさげを揺らして申し訳なさそうにペコリと頭を下げた。
「ううん、いいのよ。教えてくれてありがとう」
マリアンヌはメイドにこりと微笑みかけ、ノアを探すために街へと向かうことにした。
(あのメイドに勘違いされてなければ良いのだけれど⋯⋯もしそうだったら最悪ね⋯⋯)
✳︎✳︎✳︎
マリアンヌとアスモデウスはノアを探すため、早速街に繰り出した。
街は人で溢れかえっており、この中からノアを探し出すのは中々に骨の折れそうな作業だ。
(いつものドレスでは目立ってしまうし、この人混みだもの⋯⋯動きやすい服に着替えてきて良かったわ)
「わぁ、すごい活気だねっ! あ、僕ここ行きたいっ」
アスモデウスは、あちこちうろちょろしたと思えば、人だかりの出来ているお菓子屋さんを指差した。
お菓子屋さんのショーウィンドウには、チョコレートケーキやタルトなど美味しそうなケーキが綺麗に並べられている。
「今はダメよ。後で時間があったら寄りましょう」
「はぁい⋯⋯⋯⋯」
「とりあえず、ノアのいそうな場所を片っ端から探しましょう」
(でも、ノアの好きなものなんて思いつかないわね⋯⋯。そもそもあまり話したこともないもの)
マリアンヌがどうしたものかと立ちすくんでいると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あれ⋯⋯? もしかして義姉さんじゃない? こんなところに1人でどうしたの?」
マリアンヌに声をかけたのは、まさに2人の探し人であるノアであった。しかし、彼は両側にそれぞれ派手な様相の町娘を侍らせており、とてもじゃないが作戦の決行は難しそうだ。
「ねぇ、ノア~。この人誰?」
マリアンヌよりも幾分か若く見える女の子は、甘えるような声でノアに訪ねる。
「この人は僕の義姉さんだよ。綺麗でしょ?」
「⋯⋯⋯⋯ふーん⋯⋯」
町娘2人の値踏みするような視線がマリアンヌへと突き刺さる。その鋭い視線から逃れようと、サッと顔を逸らした。
(居心地が悪いわ⋯⋯!)
「じゃあ、僕は義姉さんと約束してたのを思い出したから、君たちはもう帰りなよ」
「えー! ひどーい! ノアから私たちに声かけてきたのに!」
「また今度ね。それじゃ」
ノアはマリアンヌの腰を抱き寄せ、去り際に不満を漏らす女の子たちにウインクして見せた。
後ろからキャーキャーと騒ぐ声が聞こえる中、マリアンヌとノアはその場を後にした。
✳︎✳︎✳︎
「それで、義姉さんはこんなところで何をしてたの? 義姉さんみたいな人が一人で出歩くなんて危ないよ?」
近くにあったカフェへと入った2人は、お茶を頼み、一息つくことにした。
「ちょっと買いたいものがあって⋯⋯そんなことより、良かったの? お友達を置いてきてしまって⋯⋯」
「ふーん? あの子たちは友達なんかじゃないから義姉さんが気にかける必要はないよ。それに、義姉さんといた方が楽しそうだしね」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
マリアンヌがカップの中の紅茶の最後の一口を飲み終わったのを見計らい、ノアは立ち上がった。
そして、「この街のことは義姉さんよりも僕の方が詳しいから、エスコートしてあげるよ」と言って手を差し出す。
今まで大人しく成り行きを見守っていたアスモデウスが、「僕はこっちの子の方が好みだなぁ! 女性への細かな気遣いが出来る男の子っていいねっ」と耳元で騒いでいた。
ノアが支払いをし、2人はカフェから出て、石畳の道を歩く。
「それで、義姉さんの買いたいものって?」
「オ、オリヴァーにケーキを買ってあげようと思って」
マリアンヌは先ほど、アスモデウスがケーキを食べたがっていたのを思い出し、咄嗟に嘘をついた。
「ふうん? そんなに食べたいなら屋敷にその店のパティシエを呼べば良いのに、変な義姉さん。ま、いいや。それじゃあ、僕についてきて!」
街を知り尽くしたノアのエスコートのもと、マリアンヌはオリヴァーとアスモデウスの好きなケーキを購入し、まだ日が高いうちに街を後にしたのだった。
5
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
友達夫婦~夫の浮気相手は私の親友でした~
きなこもち
恋愛
30歳の奈緒子(なおこ)と弘人(ひろと)は結婚5年目の仲良し夫婦。高校生からの同級生で、趣味も話も合い、まるで友達のような関係である。
そんな2人の関係は、奈緒子が十数年ぶりに会った親友、はるかによって徐々に崩れていく。
親友と夫、大切な2人から裏切られた奈緒子は何を思うのか。
ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~
ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。
ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!!
※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
私が妊娠している時に浮気ですって!? 旦那様ご覚悟宜しいですか?
ラキレスト
恋愛
わたくしはシャーロット・サンチェス。ベネット王国の公爵令嬢で次期女公爵でございます。
旦那様とはお互いの祖父の口約束から始まり現実となった婚約で結婚致しました。結婚生活も順調に進んでわたくしは子宝にも恵まれ旦那様との子を身籠りました。
しかし、わたくしの出産が間近となった時それは起こりました……。
突然公爵邸にやってきた男爵令嬢によって告げられた事。
「私のお腹の中にはスティーブ様との子が居るんですぅ! だからスティーブ様と別れてここから出て行ってください!」
へえぇ〜、旦那様? わたくしが妊娠している時に浮気ですか? それならご覚悟は宜しいでしょうか?
※本編は完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる