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嘘つき男、お断り。⑤
しおりを挟む「姫さんには悪いが、俺は堅苦しいのが苦手でな。婚約者候補になる事だし、素の俺で行かせてもらうぜ」
そう言って、ロナルド・オルティスはぴっしりと整えられた髪をくしゃりと崩した。
彼の豹変ぶりに呆気に取られていたがなんとか気を取り直し、王族への敬意を微塵も感じられない彼の態度を窘める。
「ロナルド・オルティス殿。シャーロット殿下への無礼な言動はお控え下さい。それに、貴方はまだ、正式にシャーロット殿下の婚約者候補となったわけではございません」
「これは失礼、教養が無いもので。俺は一介の商人なもんで爵位は無いが、金なら腐るほどある。しかも、継ぐ家が無いから婿入りも出来るし、この国の奴らも好きになれそうだ。⋯⋯って事で、俺なら姫さんの求める条件に当てはまると思うが⋯⋯どうだ?」
俺の言葉を微塵も気にしている様子も無く、ロナルド・オルティスは尚も話し続ける。確かに、彼の態度を見る限り事前にジョージから聞いていた情報通りの奴で間違いなさそうだ。
しかし、聞いていたよりも幾分か粗暴過ぎる態度である。姫様もさぞかし気を悪くされた事だろう。
「レオナルド、良いのです。わたくしは気にしておりません」
しかし、俺の予想とは裏腹に、姫様は驚きはしたものの、大して気にしている様子も無く、彼の無礼な態度に食ってかかった俺を窘める。
そして、にこりと微笑みながら口を開いた。
「ロナルド・オルティス様、この度は我がクレイン王国にお越しくださり誠にありがとうございます。今度の春告祭はわたくしたちはもちろん、国民が楽しみにしている我が国の一大行事となります。我が国の滞在中、ご不便など御座いましたら何なりとお申し付けくださいませ。短い間ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
毅然とした態度の姫様を見て、今度はロナルド・オルティスが驚いた様子を見せ、ニヤリと笑い小さく呟いた。
「⋯⋯⋯⋯へえ? 噂とは違いそうだな」
「⋯⋯噂?」
俺の訝しげな顔を見て、彼は笑いながら口を開いた。
「ああ。そこの姫さんがその美貌を使って男から金を巻き上げているって噂が流れているんだ。だから、さぞかし性格の悪い我儘なお姫様だと思ってたんだがな。俺の態度に怒る様子もないし、あんたも随分と姫さんを慕っているようだ。って事で、あの噂はガセで間違いないな」
「っ!?」
彼の言葉に吃驚で声も出なかった。しかし、なんとか声を絞り出し、彼を問い詰める。
「何処でそんな噂を⋯⋯!?」
「商売をやってると色々な話が耳に入るからな。風の噂って奴さ」
当の姫様はというと、ショックを受けた様子も無く自分の事なのにまるで関係が無いというように、にこにこと微笑んでいるだけだった。
「まあ、人の噂も七十五日って言うし、そんな気にする必要ないと思うぜ」
「そうですわ、レオナルド。わたくしは全く気にしておりませんし、言いたい方達にはお好きなように言わせておけば良いのです」
「⋯⋯⋯⋯少しは気にしてください、シャーロット殿下⋯⋯」
姫様が何処の誰かも分からない奴の言葉に傷付いてないことに一先ず安堵する。だからと言って、全く気にしないのは些か神経が図太すぎる気がするが。
しかし、この大らかなところも姫様の美点な訳で、そんな姫様に救われる事が多いのも事実であった。
姫様と話していると不意に視線を感じ、気になって視線の方を見るとロナルド・オルティスが俺の顔を凝視していた。
「⋯⋯私の顔に何か?」
「それにしてもあんた、この辺では珍しい容姿だな。その黒髪に赤い目⋯⋯何処かで⋯⋯⋯⋯」
そう言って、彼は俺の頭に手を伸ばした。そして、一房の髪を手に取りまじまじと見つめ、さらには、お互いの吐息がかかる程の距離まで顔を近づけてくる。
そのおぞましい光景に俺は鳥肌が立ち、幾分か冷たい声で彼に言った。
「⋯⋯手を離してくださいますか。あいにく、私にそのような趣味はございませんので」
またもや俺の言葉に微塵も悪いと思っていないような声音でへらりと笑い、ロナルド・オルティスは形ばかりの謝罪を述べた。
「ああ、悪い悪い。つい気になっちまってよ」
俺の容姿に興味津々な彼は、一向に離れる様子が無く、痺れを切らした俺は語気を荒げる。
「っ! 早く離れてください!」
それにしても⋯⋯⋯⋯、
——昨日といい、今日といい一体何なんだ。俺には男と触れ合って喜ぶ趣味は無い!
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