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《轟霊号》 Ⅱ

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 海上から敵地へ接近する超巨大移動要塞。
 もちろん敵地の破壊や制圧も出来るが、俺はもう一つ重大な任務を考えていた。
 それは「救出作戦」だ。
 撤退する仲間の救出もあるが、現地の市民たちの救出も考えていた。
 俺たちが最初に行なったシベリアでの救出作戦で、俺たちはギリギリの危地に陥った。
 輸送能力の限られた中での必死の作戦だったことが大きかった。
 だから救出作戦で安全に、的確に作戦行動を遂行できる移動要塞を建造したのだ。
 「虎」の軍の拠点ごと敵地に接近する、という設計思想だ。
 この規模であれば、膨大な避難民をすぐに収容出来る。
 そのため、攻撃機「ニーズヘッグ」200機もあるが、輸送用の「タイガーファング」も100機駐機している。
 爆撃機「ヨルムンガンド」も5機、地上戦力の「ファブニール」や「レッドオーガ」も大量に搭載しているし、その他の特殊機体も多い。
 本当に一大拠点なのだ。
 全体は六角形の形になっている。

 スペンサー大佐が俺と《エアリアル》を案内してくれた。
 広大な要塞なので、《エアリアル》が希望した幾つかの施設だけだったが。
 それでも昼食を挟んで夕方まで掛かった。
 下士官が俺たちに知らせに来た。

 「アカネ少尉とアオイ少尉がいらしてます」
 「おう、ここに連れて来てくれ」
 「アイ・サー!」

 しばらくして、先ほどの下士官が茜と葵を連れて来た。

 「トラさん! なんですか、ここ!」

 茜が興奮している。
 二人には驚かせようと、何も話していなかった。

 「いきなり呼び出されて、こんな場所!」
 「ワハハハハハハハハ!」

 茜と葵が《エアリアル》とスペンサー大佐に挨拶した。
 スペンサー大佐も大物なのだが、《エアリアル》は超VIPだったので、二人が慌てていた。

 「それで、ここはなんなんですか?」
 「おう、《轟霊号》だ。人類史上初の海上移動要塞だよ」
 「はい?」

 茜は意味が分からない。
 葵の方はデータを受け取って、概要を知ったようだ。
 その葵ですらも驚いていた。

 「石神様、これはとんでもない……」
 「まあな。ついに完成したんで、お前らを呼んだ」
 「はい?」

 葵もまだその意味は分からない。
 《轟霊号》の性能や規模は分かっても、何故自分たちが呼ばれたのか。

 「お前たちには《トラキリー》を率いろと言ってあるな」
 「はい、まだほとんどその活動はしていませんが」
 「構成人員は大体目処がついている。それで、お前たちの活動拠点はここだ」
 「「はい?」」
 「この《轟霊号》で各地の救助活動に赴いてもらう」
 「「エェェェェーーーー!」」

 葵は茜と話しやすいように、茜の性格に似せている。
 だから同じ反応をする。

 「この要塞は世界中のどこにでも行ける。見ても分かるように「ヘッジホッグ」があるんで、大抵の戦況にも対応出来るはずだ。その上で、お前たちが救助した人間を安全に輸送出来るってことだ」
 「トラさん!」
 「まあ、落ち着け。ちゃんと説明してやるから」
 「そうじゃなくってですね!」
 「あんだよ?」
 「もっと前に言って下さいよ!」
 「アハハハハハハハハ!」

 まあ、実を言えばそれを考えたのはそんなに前じゃねぇ。
 俺も《エアリアル》も、もちろんスペンサー大佐もこの《轟霊号》を戦闘目的で建造して来たのだ。
 だから救助者の収容施設を追加で建てて、その分少し竣工が遅れた。
 
 「とにかく飯だ! 俺も腹が減ったぞ」

 俺は笑って、《轟霊号》の士官食堂へ全員を連れて行った。





 「スペンサー、海軍の飯は陸軍よりも美味いんだよな?」
 「もちろんです!」
 「陸軍は自分とこが上だって言ってた」
 「ワハハハハハハハハ!」

 まあ、「虎」の軍では食事は美味いものにしている。
 世界中の軍隊はどこも量はあっても大体不味い。
 だから一流の料理人と専任のデュールゲリエたちを入れ、ソルジャーたちに上等な食事を出すように俺が指示した。
 それは大好評で、どこも食事の時間が楽しみになったと言われている。
 兵士の士気は、食事によって大きく左右されることを俺は知っている。
 様々な人種が入り混じっているので好みの違いは出て来るが、概ね満足されている。
 野戦の時のレーション(携帯食料)ですら良いものを用意しているのだ。
 ここではフレンチ、イタリアンを中心に、大体が自分で好きに選べるビュッフェ形式なので、出来るだけ様々な料理を出すようにしている。
 日本人も多いので、和食もあって、和食自体は他の国の人間にも結構好評だ。
 特にカレーライスは人種を問わず大評判で、いつでも切らしたことはない。
 時々、各食堂でのコンクールも行なっており、料理人たちも腕を磨いて挑戦している。

 《轟霊号》の士官食堂は幾つもあるが、スペンサー大佐は「ヘッジホッグ」に近い場所へ案内した。
 広大な場所なので、移動は軍用の電動移動車だ。
 アラスカの「虎の穴」や「アヴァロン」を走っているものとは性能や防御面で段違いだ。
 妖魔に攻撃されながらも移動出来る装甲タイプもある。

 士官宿舎の1階に食堂がある。
 飯時で大勢の士官が食事をしていた。
 俺たちは奥の個室へ入った。
 すぐにフロアマネージャーが挨拶に来る。

 「タイガーと《エアリアル》に来て頂けて光栄です!」
 「よろしくな! 腹が減ってんだ、すぐに持って来てくれ」
 
 俺たちはメニューを見て注文した。
 俺は牛の頬肉のシチューと鹿肉のグリル、それにカレーライス。
 《エアリアル》は刺身定食の膳。
 茜は俺と同じものを頼み、スペンサー大佐は4種の肉のハンバーガーを頼んだ。

 「《エアリアル》、随分と変わったものを頼むんだな」
 「ええ、日本に言ってサシミが大好きになったの。ここにもあるんだね」
 「ああ、ここは日本人も多く乗るしな。それに茜も結構使うからよ」
 「トラさん! 私のため!」
 「そうだよ。お前と葵には頑張ってもらうからなぁ」
 「そうなんですか!」

 茜が喜んだ。
 葵は飲み食い出来ないが、茜が喜んでいるので嬉しそうだった。

 「お前たちには専用の宿舎も用意するからな。そこで料理も出来るしよ」
 「え!」
 「茜、私が作りますからね」
 「うん!」

 まあ、都市が移動する規模だ。
 結構な贅沢もさせてやれる。

 「これだけの図体だからよ、畑とか牧場もあるんだよ」
 「えぇ!」
 「もちろん漁業もな。美味い魚が喰えるぞ」
 「ほんとですかぁ!」

 大体専任の乗組員5000人規模が常時ここで生活するので、食糧問題は重要な兵站だ。
 空母でも5000人が艦内で生活することが多い。
 それに比較すると乗務員は圧倒的に少ないのだが、俺たちにはデュールゲリエたちがいる。
 救助者を100万人を収容しても余裕がある。




 茜と葵が驚きから落ち着いて来て、二人でこの要塞について話していた。
 嬉しそうに、楽しそうに。
 俺はそんな二人を見て、明るい未来を感じた。
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