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「紅市」報復防衛戦 Ⅱ

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 「ジェイ司令官! 《ミトラ》から緊急警報です! 「クリムゾン・シティ」が襲撃を受けました!」
 「なんだと!」

 俺は休暇で「ミトラシティ」の市民館で仲間とバスケットボールに興じていた。
 丁度休憩をしていた所に、司令本部から連絡が来た。
 俺の代わりに司令本部に詰めているマーキス・ヘルナンデス大佐からだ。

 「《クリムゾン》から要請次第に、増援部隊を編成して出撃します。今その準備を進めています」
 「バカヤロウ! 今すぐだぁ!」
 「落ち着いて下さい! まだ出撃要請はまだありません。《ミトラ》も《クリムゾン》も敵の規模を……」
 「マーキス、そんなヒマはねぇ! すぐに向かうぞ! リッカの街じゃねぇか!」

 俺の怒声に司令本部のマーキスが驚いていた。
 まあ、俺が今はここの最高指揮官であり、階級も上だ。
 だが、マーキスは俺が余りにも早計な出撃を指示したことで驚いているのだ。
 取り決めの行動規範を逸脱しているためだ。
 それでもマーキスは俺に従った。

 「了解、こちらで準備を進めておきます!」
 
 俺はすぐに精鋭10名ほどの名を挙げ、緊急招集するように言った。
 俺と共に日本へ最初に来て、共に「死」を乗り越えた頼もしい連中たちだ。
 俺たちが出張れば、どんな事態であっても初動が随分と有利に出来るだろう。


 「10分で出るぞ!」
 「す、すぐに呼び出します!」
 「ああ、「装備」も用意しておけ!」
 「サー・イエス・サー!」

 何か嫌な予感がしやがる。
 「クリムゾン・シティ」は前にもジェヴォーダンの襲撃を受けているが、今回は恐らく妖魔だろう。
 最近の「業」の軍は狡猾で思いも寄らない戦略を用いて来る。
 応援を呼ぶ前に一気に進められる可能性がある。
 あのリッカが大切にしている街だ。
 絶対にやられるわけには行かねぇ!




 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 
 この街に虎の旦那が設置してくれた超量子コンピューター《クリムゾン》から警報が鳴り、3分後に「Ωコンバットスーツ」を着たよしこが飛んで来た。
 普段からの出動訓練の成果だ。
 あたしたちはこの「紅市」を守るために、日頃から訓練を欠かしていない。
 避難誘導は警察署や消防署の方々の他、有志の「紅友の会」のみなさん1000名がしてくれる。
 虎の旦那が市内のあちこちに作ってくれたシェルターに誘導する。

 「タケ!」
 「おう! 今全員に召集を掛けてる!」
 「「暁園」は!」

 よしこが真っ先に「暁園」を心配した。
 こいつはあそこを大事にしている。

 「地下の「弾丸特急」でこっちへ避難してくる。大丈夫だ」
 「おう!」

 前回のここへの襲撃後に、石神さんが「暁園」の緊急避難地下鉄を通してくれた。
 東京で早乙女さんのお宅にもあるそうで、その大規模なものだ。
 「暁園」の子どもたちが全員乗って来れる。
 時速800キロで移動するので、ここまで1分で到着する。
 ほぼ真空状態のトンネルを飛んでくる。
 俺たちはそれを「弾丸特急」と名付けた。
 途轍もないGが掛かるのだが、特別なポッドに子どもたちは入るので問題ない。
 その避難訓練も何度もやっている。
 亜蘭が全部上手くやってくれるはずだ。
 緊急警報が発令しているので、市内の住民たちもそれぞれ避難を開始している。
 幾つもの場所に、住民用のシェルターが完備しているのだ。
 避難誘導はちゃんと町の青年団「紅友の会」の連中がやってくれていることも分かった。
 警察署や消防署の方々も、シェルターへ誘導してくれていた。
 そちらも何度も繰り返した避難訓練のお陰だ。

 そうしている間にも、続々と「紅六花」のメンバーが集まって来た。
 5分後には全員が揃い、「暁園」の子どもたちも亜蘭と共に到着した。
 キッチが子どもたちを地下のシェルターに誘導する。
 「弱肉強食」の向かいに建てられたここ「紅砦」が司令本部になる。
 前にいらした《エアリアル》さんがここにも「ヘッジホッグ」を建造することを始めてくれたが、まだ完成していない。
 だから狙われたか。
 亜蘭も一緒にシェルターへ行こうとするので、ミカが引っぱたいて残らせた。

 「子どもたちが不安がります」
 「その場合、お前はいらないよ」
 「えーん」

 《クリムゾン》は空間の揺らぎを観測し、緊急警報を発した。
 今はもう30キロ先に「業」のゲートが開いたと言っている。
 デュールゲリエたちが既に発進し、ゲートから出て来る妖魔やライカンスロープたちの撃退を始めている。
 刻々と動く戦況を、あたしとよしこで確認していった。

 「タケ、《地獄の悪魔》はまだ出ていないか?」
 「ああ、今のところはな。でも油断出来ない。先に今のゲートの攻撃を始めよう」
 「そうだな」

 よしこが20名程を選んで、デュールゲリエたちが交戦しているゲートへ飛ばした。

 「蓮花さんの研究所からは何か連絡は?」
 「殲滅戦装備のデュールゲリエを300体送ってくれるそうだ」
 「そうか。《御虎シティ》は?」
 「ソルジャーの出撃準備を始めてるってさ。もしもの場合は2分で増援が現着してくれるはずだ」
 「分かった」

 《クリムゾン》が、新たにゲートが30開いたと言って来た。
 予想外の大規模な強襲だ。

 「おい、不味いぜ」
 「多分、《地獄の悪魔》も出るだろう」
 「石神さんに連絡は?」
 「いないんだ。ロシアへ行ってるらしい」
 「「虎の穴」は!」
 「《クリムゾン》が連絡通信している!」
 「《ニーズヘッグ》が欲しいぜ」
 「総長がいらっしゃると言うので、亜紀さんたちが止めてくれたそうだ!」
 「おお、良かった! ここは俺たちで十分だと伝えてくれ」
 「了解!」

 あたしたちは各地に応援を頼んだ。
 蓮花さんがすぐにデュールゲリエを送ってくれ、アラスカの「虎の穴」もニーズヘッグ3機の出撃を連絡してくれた。
 その時、更に300のゲートが開いたと《クリムゾン》が言って来た。
 全くの想定外のことだ。

 「おい、ここの周辺を覆われた!」
 「応援は!」
 「ダメだ! ゲートによる位相次元空間包囲のために、「皇紀通信」ですら遮断されたぞ!」
 「なんてこった! 全員、出撃! 何としてもここを死守しろ!」
 『オウ!』

 「紅六花」の全員が飛び出して行く。
 周囲を異様なゲートが取り囲んでいるのが見えた。
 但し、全てのゲートから妖魔が出て来ているわけではない。
 今は10ほどのゲートだけだ。
 もちろん、それでも放置すればすぐに数億は出て来る。
 多少の間隙はあるが、ゲートに囲まれた状態だった。
 それに、妖魔が出て来るゲートは次々に変わり、あたしたちは最も有効なゲートの初期攻撃が出来なくなっていた。
 次第に紅市に妖魔が満ちて行く。
 仲間たちは懸命に交戦していたが、ゲートから溢れる妖魔とライカンスロープで、徐々に紅市に妖魔が満ちていく。
 まだ紅市街から8キロ半径で戦線を支えてはいるが、いずれ決壊するのは目に見えていた。
 小鉄が必死に「皇紀通信」でで応援を頼んでいた。
 敵襲があったことは最初に各地に伝えてはいるし、《クリムゾン》も通信している。
 30キロ先でゲートが開いたことは既に全ての拠点で認識している。
 しかし、戦闘が始まってからの僅かな時間での第三波はまだどこにも送られていない。
 恐らく、各拠点ではこちらからの報告を待っているところだろう。
 その状況で増援の規模を考えるはずだ。
 しかし既に出撃している増援も、この状況では市内に入って来られない。

 その時、小隊規模の携帯通信機から連絡が入って驚いた。
 今は全員がインカムで繋がっているはずだから、誰も通信機を持ち出してはいない。
 通信の識別コードは《御虎シティ》からのものだったので驚いた。
 まだ、どこもこちらへ増援を送っていないはずだった。
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