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竹流と馬込、石神家へ Ⅲ
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その夜、また虎蘭と虎水が俺たちの家に来て、更に虎白さんまで来た。
来たかー。
一緒に夕飯を食べる。
今日はイノシシ肉の肉じゃがとキノコとアサリの味噌汁だった。
両方に浅葱が散りばめられているが、香りが濃厚だった。
素材の違いを痛感する。
やはり美味い。
イノシシ肉は癖があるものだが、臭みは綺麗に抜けている。
それでいて、野生の濃厚な赤身と脂身のバランスが素晴らしい。
養豚では決して味わえないものだろう。
素材に拘る料理人も多いが、本当にいい食材は最高の料理になるのだ。
まあ、多くは契約農家だのと言って安い箔を付けているだけだが。
悔しければ、石神家のように野生のイノシシやシカを狩って来い。
山の手入れをし、山菜やキノコを集めなければ無理なのだ。
田畑にしても、本当に愛情を注いで育て上げれば、生命は必ず報いてくれる。
でもそれは経済社会の採算を考えれば出来ないことなのだ。
石神の里は、その点で妥協が無いと言うか、最高の剣技を追求するという一点に全てのことが集中している。
だから食事の点でも贅沢は無いが、最高のものが用意される。
もちろん素材ばかりではなく、料理も高い水準を求めているのだ。
食事に唸りながら、俺はまた虎白さんに、馬込にやったことをしつこく聞かれるのかと思っていたが違った。
意外なことに、虎白さんは竹流に話しかけた。
「竹流、お前は父親のことはほとんど知らないんだよな?」
「はい、産まれてすぐに両親が離婚し、母親に育てられましたので」
「そうだよな。そのことは親父さんから聞いているんだ」
「え! 虎白さん、父のことを知ってるんですか!」
「まあ、ちょっとだけな。高虎はどこまで知っている?」
俺は義理の弟の左門から連城十五のことを聞いて興味を持ち、その後に自衛隊で特別に資料の閲覧をし、情報を得たことを伝えた。
「本当に特別な閲覧をさせてもらったんですよ。特戦群自体が機密部隊ですし、そこから「裏鬼」に配属されたことまでは何とか。幾つかの戦闘記録は読んでいますが、凄まじい男だったようですね」
「ああ、俺たちはあいつの実家との関りで以前からちょっとな。連城がここに修行に来たこともあんだ」
「えぇ! 外部の人間を入れたんですか!」
「あんだよ、そんなのは幾らでもあらぁ」
「マジで!」
まあ、そんなには無いはずだ。
石神家を知ってる人間はごく一部だし、そういう連中は大体近づこうとしない。
あるとすれば、修行目的だろう。
石神家の戦闘力は凄まじいので、何かしらの教えを乞いたいという連中はいるだろうとは思った。
それをどういう基準で受け入れているのかは分からないが、そのことを虎白さんが教えてくれた。
「たまに教えてくれっていう奴はいるんだよ。でも、大体面倒だから追い返してる」
「ですよねー」
「だからよ、正式な伝手で来る奴しか相手にしねぇんだ」
「正式な伝手ってなんですか?」
「まあ、幾つかな。今は高虎の紹介がほとんどだ」
「それは分かってるんで、他の伝手を!」
「なんだこのやろう!」
頭を引っぱたかれた。
虎蘭に助けを求めたが、横を向いて虎水と話している。
こいつ、また逃げたな。
「以前は百家が多かったかな。あそことは昔から縁が深いからなぁ。寄越す奴もいつも大した奴らでな」
「え、どんな連中なんです?」
「まあ、早霧家とか虎眼流の連中は何度も来たなぁ。あそこは基本剣技だからよ、うちでも教えやすかった。他の武術もあったけどな。あとは吉原龍子の紹介も何度かあったな」
「ほう、そうなんですね」
吉原龍子は恐らくは俺の関連で伝手を持った人間たちを送り込んでいたのだろう。
まあ、そういうことで石神家も吉原龍子のことを知ったのだろうし。
「それと、連城家も古武術の家でな。あそこは怒貪虎さんから言われて預かった」
「えぇ! そうだったんですか!」
「ああ、特に連城十五は連城家でも特別な人間でよ。怒貪虎さんが気に入って、念入りに教えるように言われたんだ」
「怒貪虎さんが!」
「あの人は、いつだって日本のことを考えてる。いずれ起きる大きな戦争のために備えてたんだよ」
「はい!」
やはり、すごい人だ。
「見た目はカエ……」
その時、俺の全身が凍り付いた。
これほどの人間たちが集まる中で、その気配に寸前まで誰も気付いていなかった。
俺もギリギリだった!
虎白さんたちは、俺の後ろを驚いて見ていた。
「『帰らざる河』のロバート・ミッチャムみたいにカッコイイですもんね!」
「おう」
ペタペタペタ……
「「「怒貪虎さん!」」」
「え、いらしてたんですか?」
あっぶねぇー!
虎白さんが場所を空け、虎蘭と虎水がカールとファンタを用意しに出て行った。
常に用意してあるらしい。
「お久し振りです、怒貪虎さん!」
「ケロケロ」
「え、カエル……」
「!」
馬込が言い、俺はすかさず馬込を突き飛ばし、背中に怒貪虎さんの蹴りを受けた。
アバラが何本か砕け、血泡を吹きながら馬込に「見た目の話をすんな」と言った。
馬込は青い顔をして何度もうなずいた。
しまった、こいつらには何も話してなかったぁ!
虎蘭がすぐに「Ω」「オロチ」の粉末を用意してくれ、俺は自力で折れた骨を押し戻した。
激痛で目の前が真っ白になる。
「すいません、高虎が相変わらずのバカで」
「ケロケロ」
「はい、こいつが連城の息子の竹流です」
「ケロケロ」
「はい? そうですか、もう知ってましたか」
竹流を見ると、よく分からないという顔をしている。
それはそうだ、「ケロケロ」が分かるわけがねぇし、怒貪虎さんと会うのも初めてのはず。
それに、そもそもが怒貪虎さんはここでしか会えないのだから、竹流が会っているわけがない。
どういうことだろうか?
すると怒貪虎さんが竹流に話しかけた。
「ケロケロ」
「はい、ギターは続けてます! 神様に教わったんで、一生離れられません!」
「ケロケロ」
「はい! ありがとうございます!」
「……」
もういいもん。
馬込が俺の傍に来て、小声で聞いて来た。
「石神さん、なんて言ってんですか?」
「バカ、黙ってろ」
おお!
馬込は怒貪虎さんの言葉が分からねぇんだ!
怒貪虎さんと竹流はずっと話していた。
竹流が何度も沈痛な顔になった。
「はい、頑張ります! 神様のために!」
「ケロケロ」
「そうなんですか、今日はお話が聞けて良かったです」
怒貪虎さんと竹流はまだ延々と会話していた。
一緒に聞いていた虎蘭たちは泣いていた。
なんて?
これは、後で虎蘭に教えてもらった話だ。
来たかー。
一緒に夕飯を食べる。
今日はイノシシ肉の肉じゃがとキノコとアサリの味噌汁だった。
両方に浅葱が散りばめられているが、香りが濃厚だった。
素材の違いを痛感する。
やはり美味い。
イノシシ肉は癖があるものだが、臭みは綺麗に抜けている。
それでいて、野生の濃厚な赤身と脂身のバランスが素晴らしい。
養豚では決して味わえないものだろう。
素材に拘る料理人も多いが、本当にいい食材は最高の料理になるのだ。
まあ、多くは契約農家だのと言って安い箔を付けているだけだが。
悔しければ、石神家のように野生のイノシシやシカを狩って来い。
山の手入れをし、山菜やキノコを集めなければ無理なのだ。
田畑にしても、本当に愛情を注いで育て上げれば、生命は必ず報いてくれる。
でもそれは経済社会の採算を考えれば出来ないことなのだ。
石神の里は、その点で妥協が無いと言うか、最高の剣技を追求するという一点に全てのことが集中している。
だから食事の点でも贅沢は無いが、最高のものが用意される。
もちろん素材ばかりではなく、料理も高い水準を求めているのだ。
食事に唸りながら、俺はまた虎白さんに、馬込にやったことをしつこく聞かれるのかと思っていたが違った。
意外なことに、虎白さんは竹流に話しかけた。
「竹流、お前は父親のことはほとんど知らないんだよな?」
「はい、産まれてすぐに両親が離婚し、母親に育てられましたので」
「そうだよな。そのことは親父さんから聞いているんだ」
「え! 虎白さん、父のことを知ってるんですか!」
「まあ、ちょっとだけな。高虎はどこまで知っている?」
俺は義理の弟の左門から連城十五のことを聞いて興味を持ち、その後に自衛隊で特別に資料の閲覧をし、情報を得たことを伝えた。
「本当に特別な閲覧をさせてもらったんですよ。特戦群自体が機密部隊ですし、そこから「裏鬼」に配属されたことまでは何とか。幾つかの戦闘記録は読んでいますが、凄まじい男だったようですね」
「ああ、俺たちはあいつの実家との関りで以前からちょっとな。連城がここに修行に来たこともあんだ」
「えぇ! 外部の人間を入れたんですか!」
「あんだよ、そんなのは幾らでもあらぁ」
「マジで!」
まあ、そんなには無いはずだ。
石神家を知ってる人間はごく一部だし、そういう連中は大体近づこうとしない。
あるとすれば、修行目的だろう。
石神家の戦闘力は凄まじいので、何かしらの教えを乞いたいという連中はいるだろうとは思った。
それをどういう基準で受け入れているのかは分からないが、そのことを虎白さんが教えてくれた。
「たまに教えてくれっていう奴はいるんだよ。でも、大体面倒だから追い返してる」
「ですよねー」
「だからよ、正式な伝手で来る奴しか相手にしねぇんだ」
「正式な伝手ってなんですか?」
「まあ、幾つかな。今は高虎の紹介がほとんどだ」
「それは分かってるんで、他の伝手を!」
「なんだこのやろう!」
頭を引っぱたかれた。
虎蘭に助けを求めたが、横を向いて虎水と話している。
こいつ、また逃げたな。
「以前は百家が多かったかな。あそことは昔から縁が深いからなぁ。寄越す奴もいつも大した奴らでな」
「え、どんな連中なんです?」
「まあ、早霧家とか虎眼流の連中は何度も来たなぁ。あそこは基本剣技だからよ、うちでも教えやすかった。他の武術もあったけどな。あとは吉原龍子の紹介も何度かあったな」
「ほう、そうなんですね」
吉原龍子は恐らくは俺の関連で伝手を持った人間たちを送り込んでいたのだろう。
まあ、そういうことで石神家も吉原龍子のことを知ったのだろうし。
「それと、連城家も古武術の家でな。あそこは怒貪虎さんから言われて預かった」
「えぇ! そうだったんですか!」
「ああ、特に連城十五は連城家でも特別な人間でよ。怒貪虎さんが気に入って、念入りに教えるように言われたんだ」
「怒貪虎さんが!」
「あの人は、いつだって日本のことを考えてる。いずれ起きる大きな戦争のために備えてたんだよ」
「はい!」
やはり、すごい人だ。
「見た目はカエ……」
その時、俺の全身が凍り付いた。
これほどの人間たちが集まる中で、その気配に寸前まで誰も気付いていなかった。
俺もギリギリだった!
虎白さんたちは、俺の後ろを驚いて見ていた。
「『帰らざる河』のロバート・ミッチャムみたいにカッコイイですもんね!」
「おう」
ペタペタペタ……
「「「怒貪虎さん!」」」
「え、いらしてたんですか?」
あっぶねぇー!
虎白さんが場所を空け、虎蘭と虎水がカールとファンタを用意しに出て行った。
常に用意してあるらしい。
「お久し振りです、怒貪虎さん!」
「ケロケロ」
「え、カエル……」
「!」
馬込が言い、俺はすかさず馬込を突き飛ばし、背中に怒貪虎さんの蹴りを受けた。
アバラが何本か砕け、血泡を吹きながら馬込に「見た目の話をすんな」と言った。
馬込は青い顔をして何度もうなずいた。
しまった、こいつらには何も話してなかったぁ!
虎蘭がすぐに「Ω」「オロチ」の粉末を用意してくれ、俺は自力で折れた骨を押し戻した。
激痛で目の前が真っ白になる。
「すいません、高虎が相変わらずのバカで」
「ケロケロ」
「はい、こいつが連城の息子の竹流です」
「ケロケロ」
「はい? そうですか、もう知ってましたか」
竹流を見ると、よく分からないという顔をしている。
それはそうだ、「ケロケロ」が分かるわけがねぇし、怒貪虎さんと会うのも初めてのはず。
それに、そもそもが怒貪虎さんはここでしか会えないのだから、竹流が会っているわけがない。
どういうことだろうか?
すると怒貪虎さんが竹流に話しかけた。
「ケロケロ」
「はい、ギターは続けてます! 神様に教わったんで、一生離れられません!」
「ケロケロ」
「はい! ありがとうございます!」
「……」
もういいもん。
馬込が俺の傍に来て、小声で聞いて来た。
「石神さん、なんて言ってんですか?」
「バカ、黙ってろ」
おお!
馬込は怒貪虎さんの言葉が分からねぇんだ!
怒貪虎さんと竹流はずっと話していた。
竹流が何度も沈痛な顔になった。
「はい、頑張ります! 神様のために!」
「ケロケロ」
「そうなんですか、今日はお話が聞けて良かったです」
怒貪虎さんと竹流はまだ延々と会話していた。
一緒に聞いていた虎蘭たちは泣いていた。
なんて?
これは、後で虎蘭に教えてもらった話だ。
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