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亜紀ちゃんたち、石神家へ Ⅳ

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 「聖さん! そのことはタカさんも知ってるんですか!」
 「いや、話してねぇ。親父さん、ああ虎影さんか、約束したからな」
 「でも!」
 「亜紀、トラにとって親父さんは特別だ。あんまりにも懐かしくてあいつがどうにかなっちまう。それほど親父さんには特別な思いがあんだよ」
 「そうですけど!」
 
 聖さんが虎蘭さんの方を向いた。

 「虎蘭、お前が話してくれよ」
 「え! 私ですか!」
 「ああ、お前がトラの子を産んだ時にな。その時なら、トラも乱れねぇだろうよ」
 「な、なんで私が!」
 「トラは最高に幸せな気分になる。だからだよ。そういう時にしか聞かせたくねぇ」
 「……」
 「な、頼むぜ」
 「分かりました」

 私は納得したわけじゃなかったけど、聖さんがタカさんのことを思ってそう言ったのだ。
 聖さんはタカさんのことでは絶対に間違わない!
 だから引っ込んだ。





 翌日からも厳しい鍛錬は続いた。
 暫くは型の練習ばかりだったが、5日目から対戦、乱取りが始まった。
 どの剣士たちも遠慮なく身体に突き刺そうとして来る。
 私も真夜たちも最初は戸惑っていたが、そのうちに冷静に対処できるようになった。

 「亜紀! お前はすぐに攻撃しようとしやがる! 直せって言ってるだろうがぁ!」
 「すいません!」

 虎白さんが一番私に厳しく指導してくれた。

 「世界に取り込め! 世界を築け!」
 「はい!」

 タカさんや聖さんにもいつも指摘されていたことだった。
 それが、ここで鍛錬していると深く理解して出来るようになっていった。
 そして私が出来るようになると、更に上のことを要求して来る。

 時々聖さんが夕飯に呼んでくれ、大量のステーキを食べた。
 やがて、二週間が過ぎた。
 最後の晩に、虎白さんが自宅に呼んで下さった。

 「三人とも、よく頑張ったな」
 「虎白さん、そういうの似合わないですよ?」
 「なんだとぉー!」

 みんなで笑った。
 夕飯は驚いたことにフレンチだった!

 栗のムースのジュレ。
 それは分かった。
 でも次に出て来たこれはなんだ?
 牛のステーキがフレンチトーストで挟んであるし、真ん中にまた別なのがあるぞ?

 「牛フィレのパン・デピスだよ。知らんか?」
 「知りませんよ!」
 「香辛料を練り込んだフレンチトーストで挟むんだ。中心にはフォアグラを入れてある」
 「すごいじゃないですかぁ!」
 「大したことはねぇよ。丁度食材があっただけだ」
 「ウソですよね!」
 「まあな」

 虎白さんが大笑いした。
 全部虎白さんが作っているのだと虎蘭さんが教えてくれた。
 本当にスゴイ!
 フレンチトーストの甘さとフィレ肉の旨味がバターの香りで包まれ、それにフォアグラの濃厚な肝の味が絡まってる!

 ランプレドットと香味野菜の煮込み。
 鹿肉のコンソメポッシェ、ポトフ仕立て。
 そしてまた一段とスゴイのが出た!

 太刀魚ミキュイと秋野菜モザイク!
 格子状に太刀魚と秋野菜のジュレが並んだテリーヌだぁ!
 もう綺麗過ぎてナイフを入れるのが怖くなるほどだった。
 時々虎白さんの料理を食べているらしい虎蘭さんが言った。

 「虎白さん、今日は一段と気合入ってますね」
 「そりゃな。高虎の娘たちがこれだけ強くなってくれたんだからよ」
 「なるほど」
 「虎白さん!」
 「お前ら、高虎のために戦ってくれんだろ?」
 「そりゃもちろん!」
 「「はい!」」
 「だったら大歓迎だ。頑張ったら、俺だって報いたくならぁ」
 「「「ありがとうございました!」」」

 本当に美味しいお食事だった。
 あんまりにも美味し過ぎて、今日は私もみんなと同じ量だ。

 「おい、亜紀、ステーキ食べるだろ?」
 「はい? ああ、今日はもう十分ですよ。余りにも美味しくて、もう大満足です」
 「おい、ふざけんな! お前のためにこれからジャンジャン焼いて持って来んだからよ!」
 「え、そうなんですか?」
 「チィ! 止めて来る!」
 
 私は笑って、それも頂くと言った。
 大量のステーキが運ばれて来た。
 虎白さんは本当に優しい。
 デザートのレモンアイスを頂き、みんなでエスプレッソを飲んだ。
 虎白さんがパボーニを操って自ら目の前で淹れてくれた。

 「明日は帰っちまうのか」
 「はい、本当にお世話になりました」
 「いいって。まあ、また来いよ。まだまだお前らは強くなる」
 「はい、必ず来ますね!」

 真夜と真昼もお礼を言い、是非来ると言っていた。

 「亜紀は「虎相」が出るだろうとは思ってたけどな。まさかお前らまで出るとはなぁ」
 「真白さんのお陰ですよ」
 「そうですよ。物凄く痛かったけど」
 「ワハハハハハハハ!」

 虎白さんは、真夜たちもこれからもっと強くなれると言ってくれた。

 「まあよ、「虎相」って石神家の血がねぇと出ないって言われてたんだけどよ。聖はものすげぇの出すし、天丸も出るしなぁ。今はいねぇけどルーちゃんもハーちゃんも、千鶴も御坂も出た。他にもどんどんなぁ」
 「それって、どういうことなんですかね?」
 「聖でぶったまげたけどな。どっかで石神家の血が流れてんのかと納得した。まあ、あいつの場合、後から別にも分かったけどよ」
 「はい?」
 「でも、そっからもどんどん出る。こりゃ、伝が間違ってたんだろうと思ってな」
 「そうなんですか?」
 「それによ、ちゃんと調べたら、どこにもそんな伝は無かった」
 「はい?」
 「誰かが言い出したことがよ、そのまま真実みたいに伝わってただけよ。先祖は「真に戦う者は「虎相」を纏う」とだけ言ってたんだ。まあ、江戸時代の虎之介の日記だけどな」
 「虎之介さん!」
 「ああ、知ってんのか? まあ高虎が大好きなご先祖だしな、お前らにも話したか」
 「はい、タカさんから聞きました!」
 
 江戸時代に一江さんのご先祖と一緒に妖魔狩をしていた人だ。
 
 「どんどん増えていいですね!」
 「まあな。高虎の前に並べてやるって約束したしな」
 「今、剣士はどれくらいいるんですか?」
 「4000人くらいかなぁ。もうちょっと増えてると思うけど、よく知らねぇ」
 「エェ!」

 ちょっと前は数百人だったはずだ!
 増えたなー。

 「剣聖の方は?」
 「200人くらいかな」
 「そんなに!」
 
 「高虎もどんどん見込みのある奴は寄越すしよ。こないだも我當会か、ヤクザが30人で、その後もどんどんそこから送られてくる」
 「凄いですね!」
 「アラスカからもなぁ。あそこの千石が前より頑張ってるよ」
 「ああ、なるほど」

 きっと森本さんのことがあってからだ。
 私の同行した作戦で森本さんが戦死されたので、私も経緯を聞いている。
 虎白さんに森本さんと《無量》さんのことを話すと、みんな押し黙った。

 「まあな。俺たちゃみんなそうよ。誰かのために必死で戦うだけだ。高虎は、その戦いにもっと高い意味を持たせてくれてる」
 「はい……」
 「《空に咲く花》かぁ。まったくたまんねぇな」
 「はい!」

 その晩は聖さんや天丸さんも呼ばれてお酒を飲んだ。
 タカさんの話が多く、それはいつまでも尽きなかった。




 翌朝、私たちは出発し、二週間ぶりに家に帰った。
 タカさんに報告し、真夜と真昼は一緒に夕飯を食べて泊って行った。
 「虎相」の真実を話すと、タカさんが大笑いしていた。

 「そうだったのかよ」
 「でも、やっぱり石神家は特別ですよ!」
 「そうだな」

 ルーとハーから、「人生研究会」の新人たちの話を聞いた。

 「取り敢えずさ、秩父の「虎の穴プチ」に送ったよ」
 「幹部たちが交代で鍛えてるから」
 「へぇ、そっか」

 あんまし興味ない。
 まあ、クズばっかだったからなぁ。
 でも、結構楽しかったよ!
 みんな元気でね!
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