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復讐者・森本勝 XⅠ

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 桜から、森本の死を知らされた。
 蓮花にもこれから知らせると言われた。
 あいつはまた激しく泣くのだろう。

 《ハイヴ》攻略作戦は成功したが、森本と、川尻の小隊に2名の戦死者を出した。
 幸いにデュールゲリエたちが楯になってくれたお陰で、聴覚やその他の負傷を負った人間たちも治療出来る範囲に留まった。
 川尻の小隊は全員が鼓膜を損傷し、全身の血管やリンパ管、神経がダメージを受けた。
 内臓を損傷した者や骨折を来した者もいたが、全員「虎病院」で治療出来た。
 最初の《地獄の悪魔》の超震動は弱く、二度目の攻撃ではデュールゲリエたちが楯となって川尻たちを護ったからだ。
 川尻たちを庇ったデュールゲリエたちは、全員が粉砕された。

 森本の死は、桜の希望によって全「虎」の軍に知らされた。
 全員が、森本という男が何であったのかを知った。
 躊躇なく仲間を見捨てるとうそぶいていた男が、仲間を護って死んだのだ。
 森本という男への誤解の後悔が多くの者の胸に刻まれ、その死を悼まない者はいなかった。
 森本は「虎」の軍の軍葬となり、多くの兵士たちが森本を弔いに集まった。
 あれだけ嫌っていた連中が、涙を流しながら森本を讃え、謝罪し、その死を悲しんだ。

 軍葬の後で、ストライカー少佐とマクレガー大佐が俺に謝罪したいと言って、面会を求めて来た。
 俺は「ヘッジホッグ」の居室へ二人を入れた。
 俺に敬礼をした後で、深々と頭を下げて二人が言った。

 「モリモトという人間を見誤っていました」
 「「虎」の軍というものがどういう軍隊なのかをあらためて思い知りました」

 俺は二人を責める気は全くない。
 部下を、そして軍を思っての当然の行動であり感情だ。
 大切に思うのならば、森本への怒りは当たり前のことだった。
 そう二人に話した。

 「でも、タイガーはそうは考えていらっしゃらなかったんですよね?」
 「そうじゃないよ。俺は本当にあの時に言ったとおりだ。森本が自分で示したんだ。言葉の向こう側にある、本当の自分の魂の清冽さをもって、今回の行動に出たんだ。多分、森本自身だってあの時は何も分かってなかったと思うぞ」
 「しかし、森本大尉(特進階級)は実に勇敢でした。大事な仲間を救うために、自分の命を投げ捨てた」
 「まあな。でもな、森本が本当にどう考えていたのかは分からんよ。あの瞬間に、森本が決意しただけだ。まあ、自分の命を惜しむ人間じゃなかったのは分かっていたけどな」
 
 ストライカー少佐とマクレガー大佐がうつむいた。

 「自分たちは、それを信じてやれませんでした」
 「それでいいよ。人間の心は見えない。だから言葉にするんだしな。でも、言葉だってその人間の本当の心をいつも語っているわけじゃない」
 「タイガーにはどうして分かっていたんですか?」
 「俺がそうしたいと思っているからだよ。大事な仲間のために、いつだって何でもしてやりたい。まあ、出来ないことばかりだけどな」
 「「!」」

 二人が衝撃を受けていた。
 もちろんこの二人もそう思っている男たちのはずだった。
 それでも分からないのが人間の心だ。
 俺は多くの大切な人間を喪って来た経験から、二人よりも多少感ずることがあっただけだ。

 「今回は森本の他にも二人の人間を死なせてしまった。デュールゲリエたちもな。俺は諸見と綾も助けられなかった。でもな、俺たちは戦いを辞めない。今後も死んでいく者は大勢いるだろう。でも、俺たちは生きるために戦っているんじゃない。大事なものを守りたいだけだ。そうだろう?」
 「「はい!」」

 二人が立ち上がって敬礼した。




 その後で、千石が俺の所へ来た。
 千石は酷く落ち込んでいた。
 俺の前に出て、土下座をしたまま何も言わなかった。

 「千石、お前、人間の重さを知ったか」
 「……」
 
 千石はただ、床に顔を押し付けたままだった。

 「森本がどうして「仲間を見捨てる」と言い続けていたか分かるか?」

 それはストライカー少佐やマクレガー大佐にも話さなかったことだ。

 「……」

 「森本は、復讐者になりたかったんだよ。それはあいつが言っていた通りだ。あいつは自分の中心に、愛する婚約者の復讐を置きたかった」
 
 千石はまだ床に顔を向けている。

 「では、どうしてそれを口にしていたのか、だ。お前はどう思う?」
 「その通りにするためでしょうか」
 「そうじゃねぇよ。森本自身が、そう出来ない自分を知っていたからだ」
 「!」

 千石が顔を上げて俺を見ていた。
 見開いた目に涙を浮かべながら。

 「あいつはどうしたって優しい奴だったんだ。仲間が出来れば仲間のために何でもしたい男だった。あいつが整備や雑用を率先して受け持ち、周囲の人間にアドバイスしていたことを知っているか?」
 「はい、後からいろいろな人間に聞きました」
 「森本はよ、仲間のために死ぬ自分を知ってたんだ。でも、あいつは復讐者になりたかった。だからよ、口ではそうなるって言ってたんだよ。愛する婚約者のための、そういう自分になりたかったんだ。なろうとしていたんだよな」
 「石神さん!」
 「周りから嫌われて、相手にされなくなりたかったんだ。そうじゃねぇと、仲間を大事にしてしまう自分になっちまうからな」
 「森本、お前は……」
 
 千石を立たせた。
 全身を震わせ、慟哭していた。

 「森本はいい男だった。なあ、そう思うだろう?」
 「はい!」

 千石が涙を拭い、俺を見た。

 「なあ、千石。「虎」の軍は最高だぜ。まったくなぁ。俺みたいなチャランポランな人間が上に立ってるのによ、どうしてみんないい奴らばっかりなんだ」
 「それは石神さんが立ってるからですよ」
 「よせよ。俺はお前らの誰にも死んでほしく無い。だけどよ、こうしていつだってみんな死んでいくんだ。勘弁しろよ」
 「石神さん、自分が何とかしますよ」
 「おう、そうかよ」
 「もっと強いソルジャーたちに育てます。必ず! 観てて下さい」
 「ああ、頼むぜ、本当にな」
 「それでもみんな死にます」
 「おいおい」
 「それが「虎」の軍って奴じゃないんですかね」
 「本当に勘弁してくれ」

 千石が俺に敬礼した。

 「自分も必ず死にます!」
 「お前なぁ」
 「では、失礼します! やることが幾らでもありますんで」
 「頼むぞ!」
 「はい!」

 千石は颯爽と出て行った。





 森本の死は、全軍に伝えられた。
 それとは別に、千石が自分の森本への誤解と失敗と激しい後悔を語り、「虎」の軍の本質を確信したと語った。
 ストライカー少佐とマクレガー大佐も同様の自分たちの不明と森本への謂れのない言動として謝罪もした。
 自分が戦友を見捨てると言っていた森本が、最後は戦友を救って死んだことは、全「虎」の軍が心に刻んだ。
 桜も指揮官、上官として森本の心を思い遣ることの出来なかった後悔を語った。
 仲間を護って死んだデュールゲリエたち、そして《無量》の「死」についても話した。

 俺たちは大切な者のために戦い、大切な者を喪っても戦い続けるのだ。
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