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復讐者・森本勝 Ⅶ
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茜たちから「花岡」の第三階梯の技を学んだ森本は、上級ソルジャーとなることが出来た。
森本は原隊に戻り、少尉階級となって自分の小隊を率いて作戦行動に出るようになった。
マクレガー大佐は森本に対しては中立を貫き、大隊の中で森本を庇っていた。
大隊指揮官として優秀な男だった。
森本のような周囲から嫌われ反発を抱かれる男を、戦う仲間として扱い、その優秀さを認めていた。
実際森本は戦士として優秀なばかりでなく、雑用を率先してやり特に小隊長となってからは部下の面倒見が良かった。
反発する部下もいたが、森本が真摯に訓練に励みまた厳しくそして優しく教導する態度が分かり、小隊の部下たちは森本を次第に慕うようにさえなっていった。
マクレガー大佐はそういう森本を信頼していた。
マクレガー大佐の大隊は全体が優秀だったので、何度か《ハイヴ》攻略や「業」の施設の襲撃も担っていた。
その中で森本の小隊は着実な作戦行動で、マクレガー大佐も森本に対する期待が大きくなっていった。
そして俺が《ハイヴ》攻略を推し進める中で、事件が起きた。
亜紀ちゃんと柳が制圧した中南米での《ハイヴ》攻略が盛んに行われた。
その攻略作戦では、石神家から虎義(こぎ)さんと烈虎(れつこ)さんの二人の剣聖が付き、最奥の強敵に備えてもらった。
「虎」の軍の《ハイヴ》攻略は手順が確立され、まず《ハイヴ》周辺のライカンスロープや妖魔の殲滅、そして爆撃機「ウロボロス」による超高熱爆弾《シャンゴ》の爆撃、最後に最奥の強力な妖魔が残っていればその駆逐だ。
内部調査が必要な場合は厄介だが、単に《ハイヴ》を破壊するのであれば、《シャンゴ》による超高熱の爆撃は非常に有効だった。
この世界に受肉している限り、《シャンゴ》の数億度に上る超高熱は存在を徹底的に破壊される。
唯一、超高熱をレジスト出来る《地獄の悪魔》などの強力な妖魔だけしか残れないのだ。
それは石神家の剣聖たちが駆逐する。
「虎」の軍のソルジャーたちは周辺で警戒しているライカンスロープや妖魔たちを殲滅するのが主な任務であり、また《ハイヴ》から逃げ出して来た連中の掃討だ。
作戦行動中は偵察観測機「ウラール」が上空で警戒し、敵の反応は一切漏らさず地上部隊と連携出来る。
ライカンスロープや妖魔たちの中には強い連中もいるので楽な作戦ではないが、ほとんど負傷者を出すことなく《ハイヴ》を壊滅出来るようになって来た。
もちろん、ソルジャーたちの練度が上がって来たせいだ。
その時の作戦もいつも通り周辺のライカンスロープや妖魔を駆逐し、《シャンゴ》での爆撃から始まったが、通常の作戦通りには行かなかった。
やはり敵も対抗手段を考えていたのだ。
最奥の《地獄の悪魔》が爆撃と同時に出現した。
別な退避口を用意していたようで、強襲部隊の背後に控えていた予備隊に襲い掛かって来た。
更に主力部隊の前にも別に2体の《地獄の悪魔》が出現し、強襲部隊は混乱した。
《ハイヴ》を取り囲んでいた主力は否応なく2体の《地獄の悪魔》に対応せざるを得なかった。
しかも、《地獄の悪魔》は剣聖の虎義さんたちにしか斃せない。
虎義さんと烈虎さんが2体を相手にしている間、予備隊は《地獄の悪魔》に襲われ殺されて行くばかりだ。
虎義さんたちは、自分たちが対応するしかないので兵を動かすなと言った。
予備隊が襲われていることは分かっていたが、今はなす術はないと。
しかし、マクレガー大佐は予備隊を見捨てることは出来ず、命令した。
「上級ソルジャーは予備隊の救出へ向かえ!」
指揮官のマクレガー大佐が命じ、上級ソルジャーたちが準備した。
手をこまねいている間にも、犠牲者は増える。
だから命じたのだろう。
しかし、《地獄の悪魔》相手に、上級ソルジャーでも及ばないことは明白だった。
それでも30名の上級ソルジャーが向かったが、森本は動かなかった。
「モリモト! お前も行け!」
「無駄です! 自分が行っても何も出来ません! 石神家の剣聖の方々もそう仰いました!」
「いいから行け!」
森本は行かなかった。
虎義さんが《地獄の悪魔》を斃し、予備隊の救出に飛んだ。
先に向かった上級ソルジャーが全員戦死していた。
予備隊も大半が殺され、81名の犠牲者が出た。
この件は軍事裁判となった。
森本の命令違反が申告され、マクレガー大佐は森本の銃殺を求めた。
部下たちを無為に殺されたことで、マクレガー大佐は怒り狂っていた。
部下思いの優しい上官なのだ。
俺の下へも報告が挙がり、俺もまた軍事裁判の法廷へ出た。
俺が何か言ったわけでは無かったが、裁判は意外な方向へ向かった。
マクレガー大佐の命令が妥当であったのかの検証が始まったのだ。
《地獄の悪魔》に対して、上級ソルジャーでは力不足であることは明白だった。
仲間を見殺しには出来なかったと言うマクレガー大佐の意見も分かる。
しかし裁判の結果、これは明らかに状況に即したものでは無かったと結論付けられた。
裁判で虎義さんがマクレガー大佐に通信していたことが、決定的となった。
虎義さんは自分が向かうまでソルジャーを動かさないように命令していた。
強襲部隊の指揮権はマクレガー大佐にあったが、作戦上で石神家の剣聖の指示があった場合はそれに従うことが厳命されていた。
虎義さんは戦場の状況を把握し、最も的確な指示を出していたのだ。
また、超量子コンピューター《ウラノス》も虎義さんの指示が最善であったと解析し、マクレガー大佐は無駄に犠牲者を出したことで降格処分となった。
森本も命令違反は明白であったので、禁固1か月となる。
この裁判の結果は再び多くのソルジャーたちの反発を招き、森本は孤立した。
裁判の正当性は受け入れられたものの、森本を嫌う人間が多かった。
森本が以前に言った「仲間を救わない」という言葉が再燃し、多くの者が森本を仲間として受け入れがたいと考えるようになった。
実際に仲間を助けることを森本は拒んだのだ。
その事実は動かしがたい。
マクレガー大佐からは森本を大隊には置けないと申告され、その森本を受け入れる部隊は少なかった。
森本は自分が言ったとおりに、仲間を見捨てる人間と多くの者が確信した。
俺は桜が率いる千万組の人間を多く抱える大隊「桜隊」に森本を編入した。
そこでも森本を嫌う者が多かったが、桜は理解してくれていた。
森本は一切の言い訳もせずに、また実直に桜の大隊で働き始めた。
森本は原隊に戻り、少尉階級となって自分の小隊を率いて作戦行動に出るようになった。
マクレガー大佐は森本に対しては中立を貫き、大隊の中で森本を庇っていた。
大隊指揮官として優秀な男だった。
森本のような周囲から嫌われ反発を抱かれる男を、戦う仲間として扱い、その優秀さを認めていた。
実際森本は戦士として優秀なばかりでなく、雑用を率先してやり特に小隊長となってからは部下の面倒見が良かった。
反発する部下もいたが、森本が真摯に訓練に励みまた厳しくそして優しく教導する態度が分かり、小隊の部下たちは森本を次第に慕うようにさえなっていった。
マクレガー大佐はそういう森本を信頼していた。
マクレガー大佐の大隊は全体が優秀だったので、何度か《ハイヴ》攻略や「業」の施設の襲撃も担っていた。
その中で森本の小隊は着実な作戦行動で、マクレガー大佐も森本に対する期待が大きくなっていった。
そして俺が《ハイヴ》攻略を推し進める中で、事件が起きた。
亜紀ちゃんと柳が制圧した中南米での《ハイヴ》攻略が盛んに行われた。
その攻略作戦では、石神家から虎義(こぎ)さんと烈虎(れつこ)さんの二人の剣聖が付き、最奥の強敵に備えてもらった。
「虎」の軍の《ハイヴ》攻略は手順が確立され、まず《ハイヴ》周辺のライカンスロープや妖魔の殲滅、そして爆撃機「ウロボロス」による超高熱爆弾《シャンゴ》の爆撃、最後に最奥の強力な妖魔が残っていればその駆逐だ。
内部調査が必要な場合は厄介だが、単に《ハイヴ》を破壊するのであれば、《シャンゴ》による超高熱の爆撃は非常に有効だった。
この世界に受肉している限り、《シャンゴ》の数億度に上る超高熱は存在を徹底的に破壊される。
唯一、超高熱をレジスト出来る《地獄の悪魔》などの強力な妖魔だけしか残れないのだ。
それは石神家の剣聖たちが駆逐する。
「虎」の軍のソルジャーたちは周辺で警戒しているライカンスロープや妖魔たちを殲滅するのが主な任務であり、また《ハイヴ》から逃げ出して来た連中の掃討だ。
作戦行動中は偵察観測機「ウラール」が上空で警戒し、敵の反応は一切漏らさず地上部隊と連携出来る。
ライカンスロープや妖魔たちの中には強い連中もいるので楽な作戦ではないが、ほとんど負傷者を出すことなく《ハイヴ》を壊滅出来るようになって来た。
もちろん、ソルジャーたちの練度が上がって来たせいだ。
その時の作戦もいつも通り周辺のライカンスロープや妖魔を駆逐し、《シャンゴ》での爆撃から始まったが、通常の作戦通りには行かなかった。
やはり敵も対抗手段を考えていたのだ。
最奥の《地獄の悪魔》が爆撃と同時に出現した。
別な退避口を用意していたようで、強襲部隊の背後に控えていた予備隊に襲い掛かって来た。
更に主力部隊の前にも別に2体の《地獄の悪魔》が出現し、強襲部隊は混乱した。
《ハイヴ》を取り囲んでいた主力は否応なく2体の《地獄の悪魔》に対応せざるを得なかった。
しかも、《地獄の悪魔》は剣聖の虎義さんたちにしか斃せない。
虎義さんと烈虎さんが2体を相手にしている間、予備隊は《地獄の悪魔》に襲われ殺されて行くばかりだ。
虎義さんたちは、自分たちが対応するしかないので兵を動かすなと言った。
予備隊が襲われていることは分かっていたが、今はなす術はないと。
しかし、マクレガー大佐は予備隊を見捨てることは出来ず、命令した。
「上級ソルジャーは予備隊の救出へ向かえ!」
指揮官のマクレガー大佐が命じ、上級ソルジャーたちが準備した。
手をこまねいている間にも、犠牲者は増える。
だから命じたのだろう。
しかし、《地獄の悪魔》相手に、上級ソルジャーでも及ばないことは明白だった。
それでも30名の上級ソルジャーが向かったが、森本は動かなかった。
「モリモト! お前も行け!」
「無駄です! 自分が行っても何も出来ません! 石神家の剣聖の方々もそう仰いました!」
「いいから行け!」
森本は行かなかった。
虎義さんが《地獄の悪魔》を斃し、予備隊の救出に飛んだ。
先に向かった上級ソルジャーが全員戦死していた。
予備隊も大半が殺され、81名の犠牲者が出た。
この件は軍事裁判となった。
森本の命令違反が申告され、マクレガー大佐は森本の銃殺を求めた。
部下たちを無為に殺されたことで、マクレガー大佐は怒り狂っていた。
部下思いの優しい上官なのだ。
俺の下へも報告が挙がり、俺もまた軍事裁判の法廷へ出た。
俺が何か言ったわけでは無かったが、裁判は意外な方向へ向かった。
マクレガー大佐の命令が妥当であったのかの検証が始まったのだ。
《地獄の悪魔》に対して、上級ソルジャーでは力不足であることは明白だった。
仲間を見殺しには出来なかったと言うマクレガー大佐の意見も分かる。
しかし裁判の結果、これは明らかに状況に即したものでは無かったと結論付けられた。
裁判で虎義さんがマクレガー大佐に通信していたことが、決定的となった。
虎義さんは自分が向かうまでソルジャーを動かさないように命令していた。
強襲部隊の指揮権はマクレガー大佐にあったが、作戦上で石神家の剣聖の指示があった場合はそれに従うことが厳命されていた。
虎義さんは戦場の状況を把握し、最も的確な指示を出していたのだ。
また、超量子コンピューター《ウラノス》も虎義さんの指示が最善であったと解析し、マクレガー大佐は無駄に犠牲者を出したことで降格処分となった。
森本も命令違反は明白であったので、禁固1か月となる。
この裁判の結果は再び多くのソルジャーたちの反発を招き、森本は孤立した。
裁判の正当性は受け入れられたものの、森本を嫌う人間が多かった。
森本が以前に言った「仲間を救わない」という言葉が再燃し、多くの者が森本を仲間として受け入れがたいと考えるようになった。
実際に仲間を助けることを森本は拒んだのだ。
その事実は動かしがたい。
マクレガー大佐からは森本を大隊には置けないと申告され、その森本を受け入れる部隊は少なかった。
森本は自分が言ったとおりに、仲間を見捨てる人間と多くの者が確信した。
俺は桜が率いる千万組の人間を多く抱える大隊「桜隊」に森本を編入した。
そこでも森本を嫌う者が多かったが、桜は理解してくれていた。
森本は一切の言い訳もせずに、また実直に桜の大隊で働き始めた。
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