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復讐者・森本勝 Ⅱ
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森本勝だった。
森本とは以前に少し関りがあってから知っている。
森本は嬉しそうに俺に挨拶をしてきた。
俺の隣で千石が少し硬い表情になっていた。
「石神さん! お久し振りです!」
「おう、森本か。お前も千石の訓練を受けていたんだな」
千石の訓練、つまり「花岡」の上級技を伝授するためには、それなりの上官からの推薦が必要だった。
だから森本は、部隊の中で優秀な人材となっていたことを示している。
「はい! 自分も早く上級ソルジャーになりたいんで!」
「森本! 勝手に石神さんに話しかけるんじゃない!」
千石は少し顔を歪ませて言っていた。
それで俺にも分かった。
千石は決して自分の感情で他人と接しない。
あくまでも、常に「虎」の軍、そして俺のために優秀な兵士を作り上げることだけを考えている。
その千石が森本を毛嫌いしていた。
その理由は俺には心当たりがあった。
そして千石は自分の悪感情を隠そうともしない。
つまり、千石は森本を合格にするつもりはないのだ。
俺はそれに気付かないフリで、千石に声を掛けた。
「千石、いいんだ。森本と話させてくれ」
「石神さんがそうおっしゃるなら」
千石がそう言って引き下がった。
俺の言うことには素直に従う。
まあ、森本は嫌われる奴だ。
仕方がない。
「どうだよ、調子は」
「はい、結構いいですよ! 石神さん、ちょっとご覧になってもらえますか?」
「ああ、いいだろう」
千石がまた森本を止めた。
「おい、森本。石神さんはお忙しいんだ。勝手なことを言うな」
「何言ってんですか! 石神さんがいいっておっしゃったでしょう!」
森本が大きな声を出したので、何人かがこっちに来た。
一応ここでは千石の方が上官だ。
今の口の利き方は確かに問題がある。
そして即座に他の人間が動いたのは、ここでも森本が嫌われていることを示している。
「おい、森本!」
「お前、また千石少佐に御迷惑を!」
森本が引っ張って行かれそうになったが、森本が抗った。
森本に手を掛けた男がぶっ飛ばされる。
「おい、森本!」
「なんだよ! こいつらが先に手を出したんだろう!」
「いい加減にしろ!」
茜と葵が、何が起きているのか分からずに驚いていた。
説明してやりたいが、結構根の深い問題があった。
「森本、もうやめろ。俺がちゃんとお前を見ていてやる」
「はい! お願いします!」
「石神さん!」
「千石、いいから訓練を続けてくれ」
「分かりました」
千石も引っ込み、休憩を終えて全員に組み手をやらせた。
相手は自由に選べるようで、森本は先ほどぶっ飛ばした男と遣り合った。
当然、お互いに相手を潰そうとしている。
千石も当然注視していた。
森本を嫌ってはいても、何かあれば自分が止めるつもりだ。
ソルジャーは荒っぽい連中も多い。
軍人の中にも多いが、それ以外の組織から来ている奴らの中にはとんでもない連中がいる。
森本もそういう人間だった。
相手が左のジャブを放ち、森本との距離を制御しようとした。
ボクシングをやっていた奴のようだ。
近接戦闘ではボクシングの様式は有効であることが多い。
素早いジャブはかわそうとすれば防御も決まったパターンになり、攻撃手段を制約される。
しかし森本はそれを無視するように顔の前面をガードしながら前に出た。
相手は森本のレバーに右ストレートを狙う。
ボクサーの良い連携だった。
森本がガードを開き、口から何かを霧のように吹いた。
相手が思わず顔を手で拭う。
目を閉じたその瞬間に、森本が右フックをこめかみ、左ストレートでストマック、右足でレバーへの前蹴りを放つ。
見事なコンボだった。
相手は地面に沈み、呻いている。
見ていた千石が駆け寄る。
「森本! 何を吹いた!」
「水ですよ」
「お前! これは組み手だぞ!」
「だからなんです? 要は相手をぶちのめす訓練でしょうが」
「何を言ってるんだ!」
他の組み手をしていた連中も手を止めて集まって来る。
森本が格闘技以外の手段で相手を倒したことを見ていた者たちがいたのだ。
その他の人間も何事かとこちらを見ていた。
「森本、この訓練は「花岡」を中心に技を鍛え上げるものだ。相手を汚い手段でぶちのめすことではない」
「千石さん、こいつは自分をぶちのめすつもりでしたよ」
「だったら格闘技で相手しろ」
「格闘技ってなんです? 要は相手を殺す手段でしょう」
「だったら武器や「カサンドラ」を使ってもいいってか? 何でもアリならば、そういうことだろう!」
千石が正論を言う。
しかし森本は怯まなかった。
「用意出来ればそうしますね。今は「カサンドラ」が無いんで、手に入るもので対応しました」
「貴様!」
俺は黙っていた。
森本と千石がどうするのかを見ていた。
しかし千石はとうに森本を扱うつもりは無かったようだった。
「森本! お前はここを去れ! お前に教える技は無い!」
「分かりました。では、これで」
森本は軽く頭を下げて訓練場を出て行った。
千石の決定に逆らうつもりは無いようだった。
茜と葵は心配そうにその背中を見ていた。
千石が俺に頭を下げて来た。
「石神さん、申し訳ありませんでした。お見苦しいところを」
「いいよ、ここでのことは全部お前に任せているんだ。お前の思うようにやればいい」
「はい。森本は才能はあるんですが、どうにも規律と協調性が」
「そうか」
「私がもっと器が大きければ良かったんですが」
「だからお前に任せるんだって。お前が判断し、お前が導け」
「はい!」
千石は訓練に戻った。
森本に倒された奴も大した怪我ではない。
俺は茜たちを連れて、森本の後を追った。
あの日のことを思い出していた。
森本勝と最初に出会った日のことだ。
森本とは以前に少し関りがあってから知っている。
森本は嬉しそうに俺に挨拶をしてきた。
俺の隣で千石が少し硬い表情になっていた。
「石神さん! お久し振りです!」
「おう、森本か。お前も千石の訓練を受けていたんだな」
千石の訓練、つまり「花岡」の上級技を伝授するためには、それなりの上官からの推薦が必要だった。
だから森本は、部隊の中で優秀な人材となっていたことを示している。
「はい! 自分も早く上級ソルジャーになりたいんで!」
「森本! 勝手に石神さんに話しかけるんじゃない!」
千石は少し顔を歪ませて言っていた。
それで俺にも分かった。
千石は決して自分の感情で他人と接しない。
あくまでも、常に「虎」の軍、そして俺のために優秀な兵士を作り上げることだけを考えている。
その千石が森本を毛嫌いしていた。
その理由は俺には心当たりがあった。
そして千石は自分の悪感情を隠そうともしない。
つまり、千石は森本を合格にするつもりはないのだ。
俺はそれに気付かないフリで、千石に声を掛けた。
「千石、いいんだ。森本と話させてくれ」
「石神さんがそうおっしゃるなら」
千石がそう言って引き下がった。
俺の言うことには素直に従う。
まあ、森本は嫌われる奴だ。
仕方がない。
「どうだよ、調子は」
「はい、結構いいですよ! 石神さん、ちょっとご覧になってもらえますか?」
「ああ、いいだろう」
千石がまた森本を止めた。
「おい、森本。石神さんはお忙しいんだ。勝手なことを言うな」
「何言ってんですか! 石神さんがいいっておっしゃったでしょう!」
森本が大きな声を出したので、何人かがこっちに来た。
一応ここでは千石の方が上官だ。
今の口の利き方は確かに問題がある。
そして即座に他の人間が動いたのは、ここでも森本が嫌われていることを示している。
「おい、森本!」
「お前、また千石少佐に御迷惑を!」
森本が引っ張って行かれそうになったが、森本が抗った。
森本に手を掛けた男がぶっ飛ばされる。
「おい、森本!」
「なんだよ! こいつらが先に手を出したんだろう!」
「いい加減にしろ!」
茜と葵が、何が起きているのか分からずに驚いていた。
説明してやりたいが、結構根の深い問題があった。
「森本、もうやめろ。俺がちゃんとお前を見ていてやる」
「はい! お願いします!」
「石神さん!」
「千石、いいから訓練を続けてくれ」
「分かりました」
千石も引っ込み、休憩を終えて全員に組み手をやらせた。
相手は自由に選べるようで、森本は先ほどぶっ飛ばした男と遣り合った。
当然、お互いに相手を潰そうとしている。
千石も当然注視していた。
森本を嫌ってはいても、何かあれば自分が止めるつもりだ。
ソルジャーは荒っぽい連中も多い。
軍人の中にも多いが、それ以外の組織から来ている奴らの中にはとんでもない連中がいる。
森本もそういう人間だった。
相手が左のジャブを放ち、森本との距離を制御しようとした。
ボクシングをやっていた奴のようだ。
近接戦闘ではボクシングの様式は有効であることが多い。
素早いジャブはかわそうとすれば防御も決まったパターンになり、攻撃手段を制約される。
しかし森本はそれを無視するように顔の前面をガードしながら前に出た。
相手は森本のレバーに右ストレートを狙う。
ボクサーの良い連携だった。
森本がガードを開き、口から何かを霧のように吹いた。
相手が思わず顔を手で拭う。
目を閉じたその瞬間に、森本が右フックをこめかみ、左ストレートでストマック、右足でレバーへの前蹴りを放つ。
見事なコンボだった。
相手は地面に沈み、呻いている。
見ていた千石が駆け寄る。
「森本! 何を吹いた!」
「水ですよ」
「お前! これは組み手だぞ!」
「だからなんです? 要は相手をぶちのめす訓練でしょうが」
「何を言ってるんだ!」
他の組み手をしていた連中も手を止めて集まって来る。
森本が格闘技以外の手段で相手を倒したことを見ていた者たちがいたのだ。
その他の人間も何事かとこちらを見ていた。
「森本、この訓練は「花岡」を中心に技を鍛え上げるものだ。相手を汚い手段でぶちのめすことではない」
「千石さん、こいつは自分をぶちのめすつもりでしたよ」
「だったら格闘技で相手しろ」
「格闘技ってなんです? 要は相手を殺す手段でしょう」
「だったら武器や「カサンドラ」を使ってもいいってか? 何でもアリならば、そういうことだろう!」
千石が正論を言う。
しかし森本は怯まなかった。
「用意出来ればそうしますね。今は「カサンドラ」が無いんで、手に入るもので対応しました」
「貴様!」
俺は黙っていた。
森本と千石がどうするのかを見ていた。
しかし千石はとうに森本を扱うつもりは無かったようだった。
「森本! お前はここを去れ! お前に教える技は無い!」
「分かりました。では、これで」
森本は軽く頭を下げて訓練場を出て行った。
千石の決定に逆らうつもりは無いようだった。
茜と葵は心配そうにその背中を見ていた。
千石が俺に頭を下げて来た。
「石神さん、申し訳ありませんでした。お見苦しいところを」
「いいよ、ここでのことは全部お前に任せているんだ。お前の思うようにやればいい」
「はい。森本は才能はあるんですが、どうにも規律と協調性が」
「そうか」
「私がもっと器が大きければ良かったんですが」
「だからお前に任せるんだって。お前が判断し、お前が導け」
「はい!」
千石は訓練に戻った。
森本に倒された奴も大した怪我ではない。
俺は茜たちを連れて、森本の後を追った。
あの日のことを思い出していた。
森本勝と最初に出会った日のことだ。
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