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復讐者・森本勝

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 中央アフリカの《ハイヴ》を「グレイプニル」に攻略させた後、俺は中南米とアフリカ各地の《ハイヴ》攻略作戦を展開していった。
 石神家の人間がいれば、大抵の《ハイヴ》は無理なく潰せるようになったためだ。
 それに、アフリカに《ニルヴァーナ》の生産施設は無いと俺は踏んでいた。
 最初は俺も、万一の細菌漏洩の危険を排除するために別な場所でやるかとも考えた。
 もちろん確信ではなく、可能性の一つとしてだ、
 しかし、最高度のレベルの中央アフリカの《ハイヴ》で何も痕跡が無かったということは、やはり違うのだ。
 俺たちが簡単に襲えない、秘匿した場所で作戦を進めている。
 偵察衛星で観測出来る《ハイヴ》ではない可能性も高まって来た。
 《ニルヴァーナ》は「業」の最高の機密事項であり、最大の戦略となるものに間違いない。
 それをロシアから遠く離れたアフリカで展開することは考えられないと気付いたのだ。
 万一、《ニルヴァーナ》を使用する前に俺たちが手にすることになれば、俺たちはワクチンを作れるようになる。
 ということは、絶対に作戦実行前に俺たちには渡さないように考えているはずだった。
 ならば、「業」は自分の手元に開発施設を置き、厳重に隔離しているだろう。
 逆に、先日の「ダウラギリ山攻略」のように、怪しい設備を露呈して俺たちを罠に追い込むことも考えているわけだ。
 まんまと引っ掛かって、危うく羽入たちを死なせるところだった。
 もちろん《ハイヴ》は、「業」にとっての戦略拠点であることは間違いない。
 だから、今のうちにどんどん潰しておく方針に変更したというわけだった。


 俺は改めて衛星や地上の霊素観測レーダーの情報を解析し、各地の《ハイヴ》の攻略を展開することに決めた。
 戦略は「虎の穴」の作戦本部と超量子コンピューター《ウラノス》によって立てられていく。
 《ハイヴ》というものが、ジェヴォーダンやライカンスロープの生育・改造の施設であり、また妖魔の召喚の機能もあることが徐々に分かって来た。
 もしかしたら他の目的もあるのかもしれないが、何にしても潰しておくに越したことはない。
 中南米やアフリカに《ハイヴ》が展開したのは、恐らくは主に資源の問題だろう。
 ロシア国内からは俺たちが膨大な資源を移動してしまったので、《ハイヴ》の機能に支障を来した。
 だから資源を集められる他国、そして侵略しても大した抵抗の無い場所に《ハイヴ》を次々と設けて行った。
 また、積極的に「業」の軍を歓迎、誘致したい連中もいただろう。
 そういうことで、中南米やアフリカが多く選ばれた。

 「虎」の軍も、戦力的に大分向上してきたところだ。
 筆頭はやはり石神家であり、剣聖たちを二人護衛に付けて、ソルジャーたちに攻略をさせていった。
 《ハイヴ》の最下層の強力な敵は剣聖が相手になる。
 もちろん、ソルジャーたちの実力で排除出来ればそれでいい。
 まあ、石神家の連中は自分でやりたがるので、大抵はソルジャーの出番はなかったのだが。
 それでも、時には剣聖たちがソルジャーにやらせることもあり、いい訓練になった。
 順調に各地の《ハイヴ》を攻略していく。
 中には「シャンゴ」の爆撃だけで片付くことすらもあった。
 また「グレイプニル」も作戦に参加したがり、更に攻略効率が上がる。
 マクシミリアンの「虎騎士団」も訓練を兼ねて参加したこともある。
 要するに、俺たちは絶好調だということだ。

 以前は一つの《ハイヴ》を墜とすのに相当苦労していた。
 最初のうちは、最奥にいる奴が俺たちにとってとんでもない強さで、何度も死に掛けた。
 しかし俺と聖の戦力が高まり、石神家も《刃》との戦闘で飛躍的に戦闘力を高めた。
 そのお陰で、大抵の《ハイヴ》を難なく攻略できるようになった。
 もちろん、石神家の最大戦力を見込んでの作戦にはなるが。
 あとは「グレイプニル」のルイーサの力も絶大だ。
 ロシア国内の最高度の《ハイヴ》はまだ油断できないが、中南米やアフリカの《ハイヴ》は困難を感ずることなく、戦闘訓練並のつもりで攻略が進んで行った。




 俺も時折《ハイヴ》攻略戦に顔を出した。
 アラスカの戦闘訓練にも出掛けた。
 調子のよい時ほど気を引き締めなければならない。
 増長すれば、必ず敵はそこに付け込んで来る。
 その日も、アラスカの訓練を視察していた。
 ようやく体調が復活した茜と相棒の葵を連れていた。
 徐々に訓練に入り、身体を鍛えて行くつもりだったのだ。
 訓練場に出ると、千石が100人程を相手に訓練をしていた。
 彼らは各隊から選抜され、上級ソルジャーを目指す連中だ。
 千石が見て一定の基準を満たしたものに、第三階梯と俺たちが呼んでいる、「ブリューナク」などを千石から与えられるというものだ。
 だからみんな真面目に訓練を受けている。

 千石が俺を見つけて、一旦休憩を伝えた。
 全員がその場で俺に敬礼してから休んだ。
 千石が俺に向かって歩いて来る。
 俺も訓練を受けている連中を近くで観ようと歩いた。

 「石神さん、いらしてたんですね」
 「おう、順調そうだな」
 「はい、みんないい連中ですよ。このままほとんどは技を教えられそうです」
 「そうか」

 千石は「ほとんど」と言った。
 つまり、もう失格の人間を見出しているということだ。
 
 「茜と葵は知っているよな」
 「はい。おい、久し振りだな」
 「はい、千石さん! その節はお世話になりました!」
 「ああ、話は聞いている。大変な任務だったそうだな」
 「すいません! 折角千石さんに鍛えて頂いたのに!」
 
 茜と葵が腰を90度に曲げて頭を下げた。

 「おい、よせって! お前たちが頑張ったのは知ってるんだ」

 茜と葵のパムッカレでの活躍は、諸見と綾の死と共に全軍が知っていた。
 《刃》という桁違いに強力な敵を相手に、避難民を護るために勇敢に戦ったのだ。
 そして死ぬ寸前までの重傷を負った。
 二人は「虎」の軍の英雄とも見做されるようになっている。
 俺も二人を普通にさせ、千石にあらためて挨拶させた。
 俺たちが話している間、休憩中の連中は各々仲の良い連中で固まって休んでいる。
 飲み物を口にし、地面に座って話している連中が多い。
 地面に寝転んで休んでいる奴もいるが、ほとんどは余裕がありそうだ。
 全員俺が来たことは分かっているが、最高司令官の俺には気安く話し掛けない不文律の決まりがあった。
 俺の言動を妨げないようにだ。
 一人の男が離れて立っており、シャドウをしていた。
 なかなか鋭い動きで、俺は話しながらその男を見ていた。

 記憶が甦った。
 俺が見ているのに気付いたのか、男も俺の方を見た。
 すぐに走って来た。





 他の連中も男を驚いて見ていた。
 男が俺の前に立って、笑顔で挨拶した。
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