2,742 / 2,859
《ダウラギリ山》攻略戦 Ⅴ
しおりを挟む
私とハーは、アラスカから派遣された「虎酔会」の方々とベースキャンプで待機していた。
ここまでは全員で、普通の人間と同じく山を登って来た。
「虎酔会」の方々は、相当な実力のソルジャーと聞いていたが、実際その通りで、慣れない登山も軽々とこなしていた。
動き方を観ても、すぐに尋常ではない方々と分かった。
それにデュールゲリエと知っている私とハーにも、気さくに話し掛けて下さる。
特に部隊長の御影さんは親しく接して下さっていた。
「あんたらのことは知っているよ。デュールゲリエの中でも一番戦場を経験してるんだってな」
「はい! でも私たちは戦闘データを共有しているんで、戦闘経験の多寡はあまり関係ないんですよ?」
「そんなことはねぇだろうよ。あんたらの量子AIは、固有の集積もあるんだろう? 俺たちもデュールゲリエと散々一緒に訓練しているけどな。あんたらが一味違うことはすぐに分かるぜ」
「そうですか!」
御影さんの言う通りだ。
公表ではデュールゲリエは戦闘データを蓄積して常に高まっていると言われているが、実際には個の様々な経験も別途積み上げられ、それが各々の性格にも反映されているのだ。
だから私たちは人間と同じなのだが、中にはそのことを嫌う方もいるので戦闘機械のように表向きは説明されている。
我々が単なる機械ではないということは、実際に接した方々の一部しか分からない。
個々の性格の違いが、私たちに多様性を生み出しているのだ。
そして、多様性が量子コンピューターの「揺らぎ」を生み、更に高度の思考を持つことが出来る。
そういうことが、説明せずとも悟られる方々だった。
これまでも、そう多くはない。
一部の個人のために作られた機体は分かりやすい。
その方のためにセッティングされていることも分かっているためだ。
羽入様のための紅。
乾様のためのディディ。
聖様とご家族のためのクレア。
東雲様のための小春。
そしてもう亡くなってしまったが、諸見様のための綾。
御堂様のガードをしているダフニスとクロエはセッティングは控えめだったのだが、御堂様と毎日接しているうちにやはり個別な機体となり、聡明な御堂様も気付かれている。
私とハーは石神様の御子、ルー様とハー様を元にセッティグされ、最初に皇紀様の護衛を申し付かった。
お優しい皇紀様と一緒に過ごすうちに、やはり影響を受けて特別な機体となっている。
ハオユーとズハンもそういう意味で特別な機体だ。
石神様と蓮花様が潜入任務に特化したセッティングをされた。
今回はその二人が羽入様と紅に同行している。
一緒に作戦行動をするので、出発前にしばらく「虎酔会」の方々と合同訓練をしていた。
幸いにも皆様に認めてもらえ、こうやって親しくもさせていただいている。
私たちが機械であることは全く意識されずに、有難いことだ。
「俺たちは《ハイヴ》の攻略は初めてだけどよ。普通はこうは行かないんだろう?」
「はい。私とハーも何度か《ハイヴ》攻略戦には参加していますが、周辺の掃討戦は必ず入りますね?」
「だよな。俺たちも全ての攻略作戦は頭に叩き込んでいる。最深部にいるとんでもねぇ奴が、今回は少し違うんだよな?」
「はい。《地獄の悪魔》であることが多いのですが、《神》がいたこともあります。《刃》と呼称された最強の個体のこともありました」
「ああ、《刃》は最悪だったな。石神家の方の脳が使われたとか」
「機密事項なのでお答え出来ませんが」
「そうだったな。構わねぇよ。俺たちは石神家の方々にも訓練をしていただいた。だから少し聴いているだけだ」
「そうなのですか!」
石神家での訓練を受けられると言うのは、相当な実力を認められたということだ。
門外不出、ということではなく、あの方々の訓練には相応の実力を持っていないと付いていけないためだ。
「あそこは無茶苦茶だったぜ! 今でも時々夜中に飛び起きる」
「「アハハハハハハ!」」
ハーと一緒に笑った。
御影さんも大笑いしていた。
「さて、いよいよ明日だな」
「はい。羽入様と紅、ハオユーとズハンが到達するはずです」
「夕飯の後でブリーフィングをする。テントに来てくれ」
「かしこまりました」
私とハーはみなさんの夕飯の準備をした。
ずっと二人で食事のお世話をさせてもらった。
夕飯は牛カツとヤクの肉のシチューだ。
牛肉は全部使い切ったが、多少カツレツが薄めなのが申し訳ない。
ヤクも少なめだ。
一応登山隊なので、目立つほどの食材を持って来られなかった。
でも、みなさん喜んで食べて下さった。
御影さんが隊長クラスや技術担当者たちと私たちを呼んで、司令本部になっているテントに集まった。
全部で8名。
「羽入たちが突入前に「皇紀通信」の回線を繋げる。そこからは常にデータのやり取りが始まる。通信係は一瞬もたるむな!」
「はい!」
「ルーちゃんとハーちゃんも頼むな」
「「はい!」」
「通信が途絶えた場合、もしくは救援要請があった場合には即座に救援に向かう。第一部隊は制圧、第二と第三部隊は救出、第四部隊は《シャンゴⅡ》の準備だ」
「はい!」
《シャンゴⅡ》は投下爆弾《シャンゴ》のミサイルタイプだ。
今回の《ハイヴ》は水平方向へ伸びているようなので、飛行するタイプのものが必用だった。
自律型の目標識別の性能があり、爆破すべきタイミングを自分で判断する。
用途は、万一《ニルヴァーナ》に汚染された場合の浄化だった。
それはつまり、中に入っている人間の焼却を意味する。
石神様は、そこまでのことを考えておられた。
もちろん救出部隊が羽入様たちを外へ出す予定ではあるが、内部の状況が分からない限り、どうなるか予想が付かない。
《ニルヴァーナ》が使われる場合、内部に感染者がいるということだ。
念のための準備だった。
「ルーちゃんとハーちゃんは状況によって救出か、もしくは《バハムート》装備での制圧だ。俺も指示するが、場合によっては独断で飛んでくれ」
「「分かりました!」」
私たちを信頼してくれていることが嬉しかった。
ハーと向き合って微笑んだ。
「まだ早いんだが、明日はどうなるか分からんので言っておく」
「はい?」
御影さんが私たちに向いて、頭を下げた。
「ここまで一緒に来られて良かった。毎回美味い飯を用意してくれてありがとう」
「え、そんな!」
「私たちの役目ですから!」
全員が頭を下げて、微笑んで私たちを見ていた。
口々にお礼を言われた。
「本当にありがとう。明日は宜しく頼む」
「「はい!」」
明日はいよいよ突入だ。
羽入様たちの無事を祈った。
そして「虎酔会」の方々のことも。
ここまでは全員で、普通の人間と同じく山を登って来た。
「虎酔会」の方々は、相当な実力のソルジャーと聞いていたが、実際その通りで、慣れない登山も軽々とこなしていた。
動き方を観ても、すぐに尋常ではない方々と分かった。
それにデュールゲリエと知っている私とハーにも、気さくに話し掛けて下さる。
特に部隊長の御影さんは親しく接して下さっていた。
「あんたらのことは知っているよ。デュールゲリエの中でも一番戦場を経験してるんだってな」
「はい! でも私たちは戦闘データを共有しているんで、戦闘経験の多寡はあまり関係ないんですよ?」
「そんなことはねぇだろうよ。あんたらの量子AIは、固有の集積もあるんだろう? 俺たちもデュールゲリエと散々一緒に訓練しているけどな。あんたらが一味違うことはすぐに分かるぜ」
「そうですか!」
御影さんの言う通りだ。
公表ではデュールゲリエは戦闘データを蓄積して常に高まっていると言われているが、実際には個の様々な経験も別途積み上げられ、それが各々の性格にも反映されているのだ。
だから私たちは人間と同じなのだが、中にはそのことを嫌う方もいるので戦闘機械のように表向きは説明されている。
我々が単なる機械ではないということは、実際に接した方々の一部しか分からない。
個々の性格の違いが、私たちに多様性を生み出しているのだ。
そして、多様性が量子コンピューターの「揺らぎ」を生み、更に高度の思考を持つことが出来る。
そういうことが、説明せずとも悟られる方々だった。
これまでも、そう多くはない。
一部の個人のために作られた機体は分かりやすい。
その方のためにセッティングされていることも分かっているためだ。
羽入様のための紅。
乾様のためのディディ。
聖様とご家族のためのクレア。
東雲様のための小春。
そしてもう亡くなってしまったが、諸見様のための綾。
御堂様のガードをしているダフニスとクロエはセッティングは控えめだったのだが、御堂様と毎日接しているうちにやはり個別な機体となり、聡明な御堂様も気付かれている。
私とハーは石神様の御子、ルー様とハー様を元にセッティグされ、最初に皇紀様の護衛を申し付かった。
お優しい皇紀様と一緒に過ごすうちに、やはり影響を受けて特別な機体となっている。
ハオユーとズハンもそういう意味で特別な機体だ。
石神様と蓮花様が潜入任務に特化したセッティングをされた。
今回はその二人が羽入様と紅に同行している。
一緒に作戦行動をするので、出発前にしばらく「虎酔会」の方々と合同訓練をしていた。
幸いにも皆様に認めてもらえ、こうやって親しくもさせていただいている。
私たちが機械であることは全く意識されずに、有難いことだ。
「俺たちは《ハイヴ》の攻略は初めてだけどよ。普通はこうは行かないんだろう?」
「はい。私とハーも何度か《ハイヴ》攻略戦には参加していますが、周辺の掃討戦は必ず入りますね?」
「だよな。俺たちも全ての攻略作戦は頭に叩き込んでいる。最深部にいるとんでもねぇ奴が、今回は少し違うんだよな?」
「はい。《地獄の悪魔》であることが多いのですが、《神》がいたこともあります。《刃》と呼称された最強の個体のこともありました」
「ああ、《刃》は最悪だったな。石神家の方の脳が使われたとか」
「機密事項なのでお答え出来ませんが」
「そうだったな。構わねぇよ。俺たちは石神家の方々にも訓練をしていただいた。だから少し聴いているだけだ」
「そうなのですか!」
石神家での訓練を受けられると言うのは、相当な実力を認められたということだ。
門外不出、ということではなく、あの方々の訓練には相応の実力を持っていないと付いていけないためだ。
「あそこは無茶苦茶だったぜ! 今でも時々夜中に飛び起きる」
「「アハハハハハハ!」」
ハーと一緒に笑った。
御影さんも大笑いしていた。
「さて、いよいよ明日だな」
「はい。羽入様と紅、ハオユーとズハンが到達するはずです」
「夕飯の後でブリーフィングをする。テントに来てくれ」
「かしこまりました」
私とハーはみなさんの夕飯の準備をした。
ずっと二人で食事のお世話をさせてもらった。
夕飯は牛カツとヤクの肉のシチューだ。
牛肉は全部使い切ったが、多少カツレツが薄めなのが申し訳ない。
ヤクも少なめだ。
一応登山隊なので、目立つほどの食材を持って来られなかった。
でも、みなさん喜んで食べて下さった。
御影さんが隊長クラスや技術担当者たちと私たちを呼んで、司令本部になっているテントに集まった。
全部で8名。
「羽入たちが突入前に「皇紀通信」の回線を繋げる。そこからは常にデータのやり取りが始まる。通信係は一瞬もたるむな!」
「はい!」
「ルーちゃんとハーちゃんも頼むな」
「「はい!」」
「通信が途絶えた場合、もしくは救援要請があった場合には即座に救援に向かう。第一部隊は制圧、第二と第三部隊は救出、第四部隊は《シャンゴⅡ》の準備だ」
「はい!」
《シャンゴⅡ》は投下爆弾《シャンゴ》のミサイルタイプだ。
今回の《ハイヴ》は水平方向へ伸びているようなので、飛行するタイプのものが必用だった。
自律型の目標識別の性能があり、爆破すべきタイミングを自分で判断する。
用途は、万一《ニルヴァーナ》に汚染された場合の浄化だった。
それはつまり、中に入っている人間の焼却を意味する。
石神様は、そこまでのことを考えておられた。
もちろん救出部隊が羽入様たちを外へ出す予定ではあるが、内部の状況が分からない限り、どうなるか予想が付かない。
《ニルヴァーナ》が使われる場合、内部に感染者がいるということだ。
念のための準備だった。
「ルーちゃんとハーちゃんは状況によって救出か、もしくは《バハムート》装備での制圧だ。俺も指示するが、場合によっては独断で飛んでくれ」
「「分かりました!」」
私たちを信頼してくれていることが嬉しかった。
ハーと向き合って微笑んだ。
「まだ早いんだが、明日はどうなるか分からんので言っておく」
「はい?」
御影さんが私たちに向いて、頭を下げた。
「ここまで一緒に来られて良かった。毎回美味い飯を用意してくれてありがとう」
「え、そんな!」
「私たちの役目ですから!」
全員が頭を下げて、微笑んで私たちを見ていた。
口々にお礼を言われた。
「本当にありがとう。明日は宜しく頼む」
「「はい!」」
明日はいよいよ突入だ。
羽入様たちの無事を祈った。
そして「虎酔会」の方々のことも。
0
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
甘灯の思いつき短編集
甘灯
キャラ文芸
作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)
※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
紹嘉後宮百花譚 鬼神と天女の花の庭
響 蒼華
キャラ文芸
始まりの皇帝が四人の天仙の助力を得て開いたとされる、その威光は遍く大陸を照らすと言われる紹嘉帝国。
当代の皇帝は血も涙もない、冷酷非情な『鬼神』と畏怖されていた。
ある時、辺境の小国である瑞の王女が後宮に妃嬪として迎えられた。
しかし、麗しき天女と称される王女に突きつけられたのは、寵愛は期待するなという拒絶の言葉。
人々が騒めく中、王女は心の中でこう思っていた――ああ、よかった、と……。
鬼神と恐れられた皇帝と、天女と讃えられた妃嬪が、花の庭で紡ぐ物語。
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる