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未来への希望 Ⅳ

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 タケのビルに戻って、夕飯までのんびりとした。
 子どもたちも帰って来て、小鉄たちの手伝いをしに行く。
 俺はロボとイチャイチャして遊んでいた。
 六花はまた一江たちと電話で話していた。
 やがて、タケが呼びに来た。
 準備が出来たらしい。
 下に降りると「紅六花」のメンバーの他に、「暁園」の子どもたちも丁度入って来た。
 亜蘭が俺たちを見て、いきなり泣きやがった。

 「みなさん!」
 「おう、泣くなよ、お前」
 「だって! 懐かしくって」
 「そんなに経ってねぇだろう!」
 
 ルーとハーが両脇で亜蘭の背中を撫でて落ち着かせた。
 俺は亜蘭の股間が持ち上がるのを見た。
 まあ、健康でよろしい。

 六花が最初に挨拶した。

 「みんな、また世話になる。でも、いつだってここに来るのは最高の楽しみなんだ。思えば長い付き合いになった。タケやよしことはもう20年以上の付き合いだ。本当に長い。それでも、気持ちはいつまでも変わらない。お前らは最高の仲間だ!」

 『ウォォォォォォーーーーー!』

 歓声が沸いた。
 結構、上手いこと言うようになった。
 六花も、昔のようにただ大事な連中と一緒、というものでは無くなって来た。
 「虎」の軍の強力な部隊を率いる、「総長」となったのだ。
 その心が普段の言動にも顕われて来ている。
 俺も挨拶させられた。

 「まあ、六花とはいつも仲良しだからな。また出来た」

 みんなが笑った。
 「暁園」の子どもたちがいるので、言い方は控えた。

 「これからも仲良しだからな! また六花と来ます!」

 爆笑。

 「トラ! あとでまたヤりましょう!」
 「おう!」

 ヤらねぇ。
 それに折角俺がコンプライアンスを考えたのに台無しだ。
 みんなが爆笑の中、料理が運ばれて来た。
 「暁園」の子どもたちはまた幾つものテーブルに分散され、「紅六花」の連中と一緒になっている。
 でも、すぐに六花の周囲に自然に人が集まって来る。
 飲み食いよりも、六花と話したいのだ。
 吹雪も大人気で、あちこちのテーブルに呼ばれた。
 もうすっかり「紅六花」のシンボルだ。

 俺の子どもたちは当然「喰い」。
 まあ、もう式典のようなものだ。
 みんなが笑いながら見ている。
 何人か猛者たちが一緒のテーブルで肉を奪い合っていた。
 子どもたちも楽しそうに一緒に奪い合って喰っている。

 小鉄が俺に、次々と新しい料理の皿を持って来て、感想を聴きたがった。
 これまでの料理に改良を加えたり、新規メニューに加えたいものがメインだが、その他にも自分が単に挑戦したものもあった。
 俺が食べながらアドバイスしていき、美味かったものは六花や吹雪にも食べさせた。
 小鉄も喜び、メモを取っていった。

 「石神さんに教わった「雪野ナス」が大評判なんですよ!」
 「雪野さんが創ったんだ!」

 まあ、あれは美味い。
 1時間もすると食事も一段落し、うちの子どもたちも各テーブルを盛り上げに行く。
 そのうちに演芸が始まった。
 「紅六花」のヒロミ、ミカ、キッチ、ラクの四人でバンド演奏があった。
 ヒロミがリードギター、ミカがドラム、キッチがベース、ラクがキーボードとボーカルだった。
 みんなが盛り上がる。
 よしこが傍に来て、「紅六花」で飲む時に恒例でやるようになったそうだ。

 「石神さんのギターがみんな好きで」
 「なんだよ」
 「あいつらがずっと練習してたんですよ」
 「そうなのかよ」
 「あの「虎酔花」でも時々演奏するんです」
 「ほんとかよ!」

 「紫苑六花公園」でライブをやったこともあるらしい。
 確かにそこそこに聴けるバンドだった。

 「バンド名は?」
 「「紅六花」ですけど?」
 「お前ら、それしかねぇのかよ!」
 「アハハハハハ!」

 曲目は、もちろん既存バンドのコピーだ。
 ただ、外部で演奏したりするには著作権がある。
 たとえ無料コンサートだったとしても、周辺では露店が立つこともある。
 完全に無料で扱えることは少ない。
 
 「ほとんど俺の曲じゃねぇか……」
 「はい」
 「……」
 
 別に著作権料を支払っても大丈夫な連中なのだが。
 もちろん、俺には一言もねぇ。
 その後でうちの子どもたちも芸を出した。
 亜紀ちゃんが「オッパイ花岡」を披露し、Cカップになった。
 みんなが爆笑する。
 双子が「ウンコ分身」で乃木坂48をやり、大騒ぎになった。

 「ここ、食堂なんで」
 「「ゴメンね」」

 小鉄が嘆いていた。

 俺もギターをリクエストされ、エスタストーネなどを弾いた後で、フォーレの『夢のあとに』を弾き語りした。
 全員が黙って聴いていた。
 そして誰も知らない新曲を2曲弾いた。
 何の説明もしていなかったが、泣く人間が多かった。
 俺がギターを置いて頭を下げると、盛大な拍手を貰った。
 席に戻ると亜紀ちゃんが言った。

 「最後の曲は保奈美さんと諸見さんたちの曲ですか」
 「ああ、分かったのか」
 「だって、そのままでしたもん」
 「そうか」

 亜紀ちゃんは俺のギターをしょっちゅう聴いている。
 そのためか、俺の心が伝わるようだ。
 恐らく、他の人間にも伝わっているのだろうと思った。
 誰にも聴かせたことは無いが、俺のことをよく知っている人間たちだ。

 「いい曲でした、本当に」
 「まあ、俺にはこんなことしか出来ないからな」
 「出来るからスゴイですよ」
 「そんなんじゃねぇよ」

 亜紀ちゃんが涙目で立ち上がり、席を離れた。
 大丈夫かと心配で、何となく目で追っていた。
 意外に感受性の強い子だ。
 乱れるようなら慰めに行こうと思っていた。
 電話を始めたようだ。

 「!」

 亜紀ちゃんに近寄る。

 「もしもし、橘さんですか。遅い時間にすいません」
 「おい! お前!」
 「今、タカさんが新しい曲を……はい、また素晴らしい曲で」
 「お前! やめろぉ!」
 「たぶん、絞ればまだまだ出来ます。はい。その通りです。はい。次は冬頃にまた……」
 「勘弁しろぉー!」

 亜紀ちゃんが走り出した。
 みんな何事かと見ている。

 「じゃあ、またお電話します!」
 「……」

 亜紀ちゃんが止まってニッコリと笑った。
 もう涙の痕すらねぇ。
 このやろう。

 「橘さん、お元気でしたよ」
 「今すぐデュールゲリエの特攻隊を向ける」
 「ワハハハハハハハ!」
 「お前ヨ!」
 「あと30曲欲しいですって!」
 「……」

 ルーがソニーの録音機を持って来た。

 「亜紀ちゃん、橘さんに送っといた」
 「ありがとー!」
 「……」

 ……





 どうやら、俺の冬の予定が決まったようだ。
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