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未来への希望

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 俺が眠りに付きその後の忙しさもあったため、大事なことが通り過ぎ、また目前となっていた。
 保奈美や諸見と綾の弔いがあり、喫緊の問題として俺と聖がいない間の防衛体制の構築、そして新たな作戦の準備、世界中で勃発している戦乱の対処。
 誰もが忙しく動き回り、全て上手く対処してくれた。
 そして俺の私的なことでも大きな変化が進んでいた。
 出産ラッシュだ。

 まず、皇紀と風花に子どもが生まれた。
 7月初旬のことだ。
 すぐに六花と双子が行き、祝っている。
 その後「紅六花」の連中も顔を出し、更に世界中から祝いの品が届いて大変だったようだ。
 俺も案内され見せてもらったが、膨大な量だ。
 あのアラスカでの結婚式の影響だ。

 「ワハハハハハハハ!」
 「広い家で良かったです」
 「ワハハハハハハハ!」

 7月の中旬に身体が動くようになって、俺は大阪へ行き、二人の子どもたちに会った。
 他の子どもたちは既に行っているので、今回は同伴しない。
 まだ俺の体調が万全ではなく、「タイガーファング」で行った。
 青嵐の操縦で、護衛にまた虎蘭が付いた。
 二人に似て可愛らしい子どもたちだった。
 男女の双子で、世間的には男児が先に生まれたことにされることが多かった。
 だが、皇紀と風花は実際に生まれた順に従った。
 先も後も兄も姉も無いのだ。
 二人にとっては大切な、愛する子どもたちでしかない。
 風花も家に戻っており、双子を見せてもらった。
 とにかく皇紀が嬉しそうだった。
 すぐに俺に二人の子どもを抱かせてきた。

 「お前、ルーとハーが大好きだからな」
 「エヘヘヘヘヘ」
 「風花、こいつがデレ過ぎないように頼むな」
 「はい!」

 虎蘭も生まれたばかりの双子を見て、喜んでいた。
 やはりこいつも「女」なのだ。
 普段は荒くれのような面も見せるが、やはり芯には優しい慈愛の心がある。
 まあ、石神家はみんなそんなだが。

 「おい、虎蘭。石神家の人間って子どもの頃は何やって遊ぶんだよ?」
 「え、普通ですよ?」
 「だから、お前らの普通ってよく分かんねぇんだよ!」
 「?」

 虎蘭は困ったような顔をして、スマホを取り出して虎白さんに聞くと言った。

 「ますます分かんねぇから、もういいや」

 皇紀と風花が笑い、虎蘭も笑った。
 まあ、自分の正常を証明するっていうのは意外に難しいものだ。

 皇紀と風花は一人ずつ子どもを抱いて、虎蘭に順番に抱かせた。
 俺が抱き方を教えると、虎蘭は嬉しそうな顔で二人を抱いてあやした。
 遠慮する青嵐にも抱かせて、幸せそうな顔をしていた。
 皇紀と風花は若い二人だが、子育ては周囲の人間に助けてもらいながら何とかやるだろう。
 部屋には育児書が何冊もある。
 風花が、六花から良いものを送ってもらったのだと言っていた。
 俺が見ると、付箋が沢山ついていた。
 「絶怒」の連中も結婚している者も多いし、風花は様々な人間に慕われている。
 ご近所にも親しい人間も多く、「梅田精肉店」でももちろん風花は大事にされている。
 皇紀は、まあ子どもを愛することに関しては何の不安も無い。
 こいつならば、何があっても必ず何とかするだろう。
 それに野薔薇もいる。
 それに……

 「お父様ぁー!」

 外へ出掛けていた二人が入って来た。

 「おう、野菊か!」
 「お会い出来て嬉しく思いますぅー」
 「俺もだ。皇紀たちを宜しくな」
 「はいぃー! お姉さまと一緒に御守り致しますぅー」
 「おう!」

 タヌ吉の二人目の子だ。
 「野菊」と名付けた。
 野薔薇と同じく、異常に美しく、そして愛らしい娘だ。
 俺に対して絶対にして絶大な愛情を持っていることが分かる。
 だから俺も、本当に愛らしく思っている。
 麗星に、妖魔の子について聞いたが、生憎麗星も詳しくは無かった。
 妖魔と人間の間に子をなすことは過去にもあったようだが、ほとんどが生まれると人間とは離れるようだ。
 家族として長く人間の傍にいることは、前例が無いそうだ。
 しかも、人間の命ずるままに他の人間を護るなどとは。
 俺に甘えて縋る野菊の後ろで、野薔薇が微笑んでいた。
 妖魔にそういう感情があるのかは分からんが、「妹」に俺を譲っているという感じか。
 俺は野薔薇を手招いて抱き締めてやった。

 「野薔薇、最近はうちに来ないじゃねぇか」
 「すみません。風花ちゃんに子どもが生まれたので忙しく」
 「忙しいったって、皇紀もいるし、デュールゲリエたちもいるだろう?」
 「いいえ、何と言っても大きな光の子なので」
 「え?」
 「幼い時に狙ってくる輩も多く。それに「業」の方でも以前の偵察程度から、徐々に攻性を帯びたものに変わって来ております」
 「そうなのか」

 光の子ってなに?
 「業」の動きについては、俺も霊素観測レーダーなどで把握している。
 確かに風花の妊娠以降、近寄る数が増えてはいるようだ。
 だが、野薔薇たちによって即座に消されている。

 「じゃあ結構大変だな」
 「いいえ、それほどでも。でも、いつ強力な奴が来るかもしれませんので」
 「そっか。じゃあ、頼むな。でも短時間でもいいから会いに来てくれよ」

 野薔薇の顔がパッと輝いた。
 俺を抱き締める腕に力が入った。

 「お父様!」
 「お前の顔を見たいんだよ。もっと野菊と一緒に来てくれないか?」
 「はい! 是非に!」

 野薔薇が俺に嬉しそうな顔を向けて喜んだ。
 こいつが言うのだから、本当にまあ、いろいろやってくれているらしい。
 妖魔は嘘を言えない。
 まあ、野薔薇と野菊が何をどうやっているのかは全然知らんが。

 あまり長い時間はおらず、皇紀たちの家(?)を出て京都の道間家にも寄った。
 麗星に虎蘭を紹介し、また天狼、奈々、夜羽にも会わせた。
 虎蘭がまた嬉しそうに三人の子どもに挨拶した。
 天狼が虎蘭を見て、尊敬の眼差しで言った。

 「虎蘭様は相当お強い方ですね」
 「まだまだですよ」
 「素晴らしい方とお会い出来ました。これからもよろしくお願いします」
 「こちらこそ。天狼さんも相当ですね」
 「いいえ、こちらこそまだまだです。早く父上のお役に立ちたいと思っております」
 「そうですか」

 虎蘭は一人前の人間に対するように話していた。
 奈々は甘えるばかりだったが、虎蘭を少しばかり警戒しているようだった。

 「奈々、どうした?」
 「うーん、この方には敵いませんね」
 「おい、何やろうとしてんだよ!」
 「エヘヘヘヘヘヘ」

 そういう警戒だった。

 「虎蘭、こいつ、五平所をぶっ殺しそうな悪戯ばかりでよ」
 「え?」

 俺が数々の奈々の悪戯を話すと、虎蘭が爆笑した。

 「いい鍛錬になりそうですね!」
 「お前よ……」
 「虎蘭様、是非我が家へ」

 五平所がマジな顔で虎蘭に頼んで、みんなが笑った。
 道間家でまた美味い食事をもらい、家に戻った。





 貴い命が喪われ、そして新たな命がこの世に生まれる。
 生転流転は無常であり、恩寵だ。
 俺たちは、そういう世界にいるのだ。
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