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《 лезвие(リェーズヴィエ:刃)》そして秘策

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 時は遡り、あれは3年前。
 我々が最も脅威となる敵が現われた。
 「業」様の居室へ呼ばれた。

 「宇羅、石神が「石神家」を使うようになった」

 「業」様から、そのように言われた。
 あの常に余裕のある「業」様が、何かの不安を抱かれていることに驚いた。
 私は、あらためて「石神家」について説明せよと命じられた。

 「はい。石神家は日本の旧い家系の中でも特に異色の家系です。古来から剣技を研鑽し、妖魔を駆逐するほどの技を身に着けております。余りにも卓越した剣技故、時の権力によって重視されてきました」
 「石神高虎は、その石神家を大きく変えるとタイニータイドが予言した」
 「そのような!」

 尋常ではない予言だった。
 石神家だけでも強力な戦力であることに加え、あの石神が更なる進歩をもたらすと言うのか。
 石神家は古来から妖魔を相手にする剣技を磨き上げて来た。
 以前に「業」様が今後脅威になる日本の裏の家系を潰して回った中で、ついに石神家には手が出せなかった。
 今であれば別だが、当時は「業」様のお力もまだ届かなかったのだ。
 それに石神家は外の世界に興味が無かった。
 自分たちを害する者には徹底的に攻撃するが、そうでなければ関わらない。
 だから放置した。

 石神高虎が石神家の血筋であることは、私からお話ししている。
 あの異質な家系から、世界の運命を左右する子どもが生まれたことは、私も関わって知っていた。
 当時は「業」様の真の運命も知らず、石神高虎の命を救うことに懸命になっていた。
 同時に「業」様の運命を誘ったのも私だ。
 「業」様と石神という、世界の宿命に関わった自分を誇らしくも思う。
 今は石神高虎は敵であるが、私自身の中で「業」様に相応しい敵として成長したことを嬉しくも思う。
 その「業」様ご自身も、石神が好敵手であることを喜んでおられる。
 もちろん、憎い敵であることに変わりはないのだが。
 実を言えば、自分の中に存在する複雑な心を持て余してもいた。
 「業」様に以前に正直に申し上げたが、「業」様はお笑いになって、私の心の揺れを御赦し下さった。
 私が「業」様と石神の宿命に深く関わっているだけだと。
 
 「タイニータイドは、今後石神家が途轍もない発展を遂げると言っていた。この俺の力を大きく削ぐこともあり得ると」
 「まさかそのようなことはございますまい! 「業」様のお力は絶対のものです!」

 嘘偽りなく自分はそう思っている。
 「業」様が擁する妖魔の膨大な数は、いずれ「業」様がご自由に操れるようになれば、人類を圧倒する。
 今も日々、そのお力は御成長なさっており、すぐに数億の妖魔を扱えるようになり、その後は桁違いに大きくなられることも確実だ。
 100の妖魔を相手に出来る石神家であろうと、数だけでも瞬時に呑み込めるようになられるだろう。
 凡そ人間が叶うお方ではないのだ。
 正確なことは分からないが、石神家の剣士は数十人のはずで、50にも満たないのは確実だった。
 ならば、ものの数ではないはずだ。

 「タイニータイドの予言は確実だ。俺はその前に石神家を潰しておきたい」
 「それはいずれ時が解決いたします。「業」様のお力は日々大きく強くなられておりますゆえ」
 「宇羅、石神を甘く見るな。俺が強くなればあいつも強くなる。タイニータイドが俺の力を見誤ることはない。ならば、何かが起きるのだ」
 「は!」

 確かに「業」様の仰る通りだ。
 「業」様の勝利は揺るぎないものとしても、石神の力を削ぐことは重要なことだった。
 これまでも何度も確実な作戦の多くが、石神の反撃によって潰えているのだ。
 その度に「業」様は御赦し下さっているが、それはいずれ「業」様が勝利することが確実だからだ。
 今はまだ前哨戦に過ぎない。
 「業」様の御成長を待つ時期なのだ。

 「宇羅、お前は石神家の者と会ったことはあるか?」
 「はい。石神高虎がまだ幼い頃に、石神家の者たちから道間家に依頼がありました。その折まではそれほど剣技は見ておりませんが、その後「業」様の御命令で石神の父親を手に入れ、その剣技の凄まじさを知りました」
 「虎影か。あいつは石神家の当主だったな」

 「はい、今思えば迂闊でした。石神家は岩手の盛岡から外へ出る人間は、その血が薄いというのが今までの実例で。あの一族はこぞって剣技の鍛錬しかしません。外へ出ることなど、思いつきもしない連中ですので。もう少し留めて置いて、「業」様のお力でもっとあの剣技を吸収しておけばと」
 「仕方がない。俺の力がまだ及ばなかったのだ。今ならば石神家の剣技を全て吸収した上で、他にも幾度かは転写出来るがな」
 「はい」

 「業」様は新たなお力に目覚められ、妖魔の複製が可能となった。
 《地獄の悪魔》もそのお力で、何度でも甦らせることが出来る。
 そのお力だけでも、「業」様の勝利は堅くなっているのだが。
 何しろ、転写先になる妖魔の数は膨大にあるのだ。

 「お前は石神家の剣技を見たことがあるか?」
 「何度かは、その一部を。吉野の「堕乱蛾」狩に、私も出掛けて見たことはございます。妖魔の中でも決して弱くはない「堕乱蛾」ですが、何しろその上に数が凄まじく。でも、石神家の連中はまるで遊び半分で大半を殺していました。私にも理解出来ないほどの高度な剣技でした」

 本当は感動していたのだが、褒めれば「業」様の機嫌を損ねるかもしれないと思った。

 「石神家の剣技は不味い。石神が石神家本家と繋がったことで、あやつ自身も、また石神家本家も飛躍する」
 「はい」

 そのことはこの時点では想像も出来なかったが、後に多くの戦場で目の当たりにすることになった。
 ミハイルのジェヴォーダンが瞬時に解体され、強力な妖魔も斃されて行った。
 「業」様の先見の明だったのだ。

 「是非、石神家の剣技を手に入れたいものだな」
 「はい」

 「業」様のお考えは分かるが、あの剣技は門外不出で、一族の者しか体得出来ない。
 私が見た所、あの血にも何かがありそうなのだ。
 環境的にも外の人間が教わることも、また才能的にも体得することも出来ないだろうと思った。

 「宇羅、どうすれば手に入る?」
 「それは……」

 出来ないとは言えなかった。
 短い時間で必死に考えた。

 「石神家の者の頭が手に入れば」
 「そうすれば出来るか」
 「はい。妖魔の中に、人間の脳から知識を吸い上げる者が御座います。それで石神家の剣技を盗めるかと」
 「そうか。ならば必ず手に入れろ。手段は問わない。必ずやれ」
 「かしこまりました」

 「業」様の居室を退室し、私は頭を悩ませていた。
 「業」様に申し上げたことには、もちろん嘘偽りは無い。
 しかし、一体どのようにして石神一族の「頭」を手に入れるのか。

 私は命懸けで考えねばならなかった。
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