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天丸と天豪
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光賀天丸(こうが てんまる)。
「ルート20」の特攻隊第三番隊隊長だった男だ。
身長2メートル20センチ、体重120キロという巨体で、筋肉も凄い。
だから凄まじい強さを誇っていた。
「ルート20」では恵まれたその肉体で、カワサキZ1000Jに跨って暴れ回った。
俺とも何度か遣り合ったが、俺には敵わなかった。
肉体の能力に頼った喧嘩で、俺の予想外の攻撃を受けていつも沈んだ。
しかし純粋な奴で、いつも負けて笑っていた。
「やっぱトラには敵わねぇ」
「お前、全然考えねぇもんな」
「強けりゃそれでいいだろう」
「考えるのも強さだ、バカ!」
「ワハハハハハハハハ!」
まあ、いい奴だった。
俺と同期の奴だったが、チームがでかくなってから俺が一番隊を後輩の槙野、そして二番隊を同じく後輩のイサに任命しても、何の文句も無かった。
元々どの隊が上ということも無かったのだが、逆に周囲の人間からどういうことかと言われた。
先輩方からも言われた。
天丸は俺に次ぐ強さだったからだ。
「トラ、天丸を一番隊にしろよ」
「いいえ、一番隊は槙野です。天丸には三番隊を頼みます」
「おい、槙野やイサより天丸が強ぇだろう!」
「先輩なんだぞ!」
「そうです。でも喧嘩の強さだけで隊長は務まりません」
「トラ!」
天丸が出て来た。
「コウさん、俺は三番隊の隊長です。トラが決めた通りにして下さい」
「天丸、お前は下の人間が前に出て悔しくねぇのか!」
天丸はみんなに好かれていて、特に先輩のコウさんが天丸を推していた。
「自分なんかに気遣って下さってありがとうございます」
「お前の方がよっぽど強ぇだろうが!」
「はい。でも、強さで決まるんなら、トラがヘッドですよ」
「!」
天丸がいい笑顔で俺に言ってくれた。
「トラ、俺に三番隊を任せろ」
「おう、頼むな」
そういう奴だった。
喧嘩は滅法強いが、上に立ちたいとは思っていない。
まあ、そういう気持ちもあるのだろうが、実力で決まったことには何の文句もない。
嫌なら俺を倒して特攻隊長になればいいのだ。
何よりも俺を信頼してくれ、俺の頼みや決定は全て受け入れてくれていた。
しかし、確かに抗争になれば天丸ほど頼りになる奴もいなかった。
槙野やイサは根性で勝つが、天丸は実力を振るうだけで敵チームを斃した。
なにしろあの巨漢が暴れると敵が怯んだ。
三番隊は天丸のような喧嘩自慢の連中を集め、抗争では中心となって敵を粉砕していく部隊になった。
その天丸から連絡が来た。
イサが死んで、俺がいつでも呼べば行くと伝えていたからだ。
「トラ、話があるんだ」
「おう!」
「ちょっと会えないかな」
「おう、どこでも行くぞ!」
「そっか。じゃあ、うちのジムまで来てくれ」
「分かった。今度の金曜の夜でいいか? 7時くらいになる」
「ああ、それでいい。じゃあ、待ってるな」
5月最後の金曜日に天丸の経営する総合格闘技のジムへ行くことになった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
天丸は高校を出て、すぐに格闘技界へ行った。
最初はプロレス団体にスカウトされ、そこから総合格闘技の「T1」に転身した。
プロレス界を代表する総合格闘技選手として活躍し、並み居る外国人の強豪を降し、優勝したこともある。
現役でもまだまだ強いが、後進の育成のために『天丸ジム』を設立したのが5年前。
「T1」で日本人選手が優勝したのは天丸のみだったので、大人気になった。
総合格闘技の他、ボクシング、ムエタイの選手もいる。
テレビ局がスポンサーになっており、天丸のジムは順調に経営されていた。
アヴェンタドールで渋谷にある『天丸ジム』へ金曜日の夜に俺が行くと、ビルの玄関前ですぐに地下の駐車場へ案内され、天丸が出迎えてくれた。
スーツを着込んでいる。
安いものでは無いのが分かった。
「よう、トラ。わざわざ悪いな」
「いや、お前が呼んだらすぐに来るさ。それにしてもでかいビルだなぁ」
「ワハハハハハハハハ! お前が持ってるものに比べたらハナクソだろう」
「そんなことはねぇ。大したもんだ」
二人で駐車場からエレベーターで上に上がった。
最上階の応接室だ。
40畳ほどの部屋で、豪華な応接セットが置かれている。
案内されると、若い男が立って俺に頭を下げた。
「こいつは息子の天豪だ。まだ16歳だが強いぞ」
「そうか。天豪、石神高虎だ。宜しくな」
「はい! 親父からいろいろ伺ってます! 宜しくお願いします!」
天豪は礼儀正しい男だった。
そして天丸と同じく、気持ちの良い男だった。
三人でソファに座った。
すぐにコーヒーが運ばれる。
「天豪はよ、お前よりも強くした」
「そうか」
天豪も天丸と同じく2メートル20センチの巨体で、天丸と同じくスーツ姿だが、鍛え上げた肉体であることは明白だ。
それに動作を見て分かったが、確かに格闘技の英才教育を受けていることが伺えた。
あの当時の俺では敵わないだろう。
「俺が総合格闘技を教え、他にも幾つかの格闘技を習わせた」
「見て分かるよ。相当強いな」
「ああ。まだ年齢制限でT1には出れないけどな。18歳でデビューと共に優勝するだろうよ」
「すげぇな」
確かにあり得ないことではないだろう。
T1で実力者の天丸が直々に鍛えたのだ。
「でもよ、その夢はいいんだ」
「なに?」
「トラ、俺たちを「虎」の軍に入れてくれ」
「おい、何言ってんだよ!」
まさか、そんな話が出るとは思ってもみなかった。
天丸が俺をまっすぐに見た。
「お前、ひでぇ敵と戦ってんだろ?」
「そうだ」
「だったら俺たちも使ってくれよ。俺たちは相手をぶちのめすことしか出来ねぇ。お前の力になれるんなら」
「天丸! バカ言うな! 俺は戦争をしてるんだ」
「そうだよな。だから俺も言ってる」
「おい、格闘技じゃねぇんだ。負ければ死ぬんだぞ」
「構わねぇよ」
「お前らなぁ……」
「虎」の軍に入ってくれるのはありがたい。
だが、ソルジャーは別な話だ。
格闘技が優れていても、兵士としての素養は全く別だからだ。
「花岡」を習得すればいいのだが、その他にも銃器の訓練も必要になる。
「カサンドラ」を扱い、近接戦闘で「花岡」を使う。
それが基本的なソルジャーだった。
天丸も天豪も素養はあるだろうが、兵士としての訓練は受けていないはずだ。
折角総合格闘技で一流の人間たちなのだから、その道で進んで欲しい。
溢れんほどに才能のある二人なのだ。
戦場に立つ必要はない。
「天丸、兵士というのは格闘技とは違うんだよ」
「分かってる。でも、俺たちは戦うことに関しては一流のつもりだ」
「そうなんだろうけどな。でも、お前たちは今の道で行けばいいじゃんか」
「トラ、俺はお前と一緒に戦いたいんだ」
「そうは言ってもなぁ」
「なあ、また昔みたくさ。俺はあの時のようにお前と一緒にいれたら最高なんだよ」
「おい、族の喧嘩じゃねぇんだぞ」
「そうだろうな。でも、お前と一緒に戦えればそれでいい」
「弱ったな」
天丸の気持ちは本当に嬉しい。
だが、今から兵士としての訓練を受けても、天豪はともかく天丸は難しい。
天丸が俺を見詰めていた。
その瞳を見て、俺は思い出していた。
「ルート20」の特攻隊第三番隊隊長だった男だ。
身長2メートル20センチ、体重120キロという巨体で、筋肉も凄い。
だから凄まじい強さを誇っていた。
「ルート20」では恵まれたその肉体で、カワサキZ1000Jに跨って暴れ回った。
俺とも何度か遣り合ったが、俺には敵わなかった。
肉体の能力に頼った喧嘩で、俺の予想外の攻撃を受けていつも沈んだ。
しかし純粋な奴で、いつも負けて笑っていた。
「やっぱトラには敵わねぇ」
「お前、全然考えねぇもんな」
「強けりゃそれでいいだろう」
「考えるのも強さだ、バカ!」
「ワハハハハハハハハ!」
まあ、いい奴だった。
俺と同期の奴だったが、チームがでかくなってから俺が一番隊を後輩の槙野、そして二番隊を同じく後輩のイサに任命しても、何の文句も無かった。
元々どの隊が上ということも無かったのだが、逆に周囲の人間からどういうことかと言われた。
先輩方からも言われた。
天丸は俺に次ぐ強さだったからだ。
「トラ、天丸を一番隊にしろよ」
「いいえ、一番隊は槙野です。天丸には三番隊を頼みます」
「おい、槙野やイサより天丸が強ぇだろう!」
「先輩なんだぞ!」
「そうです。でも喧嘩の強さだけで隊長は務まりません」
「トラ!」
天丸が出て来た。
「コウさん、俺は三番隊の隊長です。トラが決めた通りにして下さい」
「天丸、お前は下の人間が前に出て悔しくねぇのか!」
天丸はみんなに好かれていて、特に先輩のコウさんが天丸を推していた。
「自分なんかに気遣って下さってありがとうございます」
「お前の方がよっぽど強ぇだろうが!」
「はい。でも、強さで決まるんなら、トラがヘッドですよ」
「!」
天丸がいい笑顔で俺に言ってくれた。
「トラ、俺に三番隊を任せろ」
「おう、頼むな」
そういう奴だった。
喧嘩は滅法強いが、上に立ちたいとは思っていない。
まあ、そういう気持ちもあるのだろうが、実力で決まったことには何の文句もない。
嫌なら俺を倒して特攻隊長になればいいのだ。
何よりも俺を信頼してくれ、俺の頼みや決定は全て受け入れてくれていた。
しかし、確かに抗争になれば天丸ほど頼りになる奴もいなかった。
槙野やイサは根性で勝つが、天丸は実力を振るうだけで敵チームを斃した。
なにしろあの巨漢が暴れると敵が怯んだ。
三番隊は天丸のような喧嘩自慢の連中を集め、抗争では中心となって敵を粉砕していく部隊になった。
その天丸から連絡が来た。
イサが死んで、俺がいつでも呼べば行くと伝えていたからだ。
「トラ、話があるんだ」
「おう!」
「ちょっと会えないかな」
「おう、どこでも行くぞ!」
「そっか。じゃあ、うちのジムまで来てくれ」
「分かった。今度の金曜の夜でいいか? 7時くらいになる」
「ああ、それでいい。じゃあ、待ってるな」
5月最後の金曜日に天丸の経営する総合格闘技のジムへ行くことになった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
天丸は高校を出て、すぐに格闘技界へ行った。
最初はプロレス団体にスカウトされ、そこから総合格闘技の「T1」に転身した。
プロレス界を代表する総合格闘技選手として活躍し、並み居る外国人の強豪を降し、優勝したこともある。
現役でもまだまだ強いが、後進の育成のために『天丸ジム』を設立したのが5年前。
「T1」で日本人選手が優勝したのは天丸のみだったので、大人気になった。
総合格闘技の他、ボクシング、ムエタイの選手もいる。
テレビ局がスポンサーになっており、天丸のジムは順調に経営されていた。
アヴェンタドールで渋谷にある『天丸ジム』へ金曜日の夜に俺が行くと、ビルの玄関前ですぐに地下の駐車場へ案内され、天丸が出迎えてくれた。
スーツを着込んでいる。
安いものでは無いのが分かった。
「よう、トラ。わざわざ悪いな」
「いや、お前が呼んだらすぐに来るさ。それにしてもでかいビルだなぁ」
「ワハハハハハハハハ! お前が持ってるものに比べたらハナクソだろう」
「そんなことはねぇ。大したもんだ」
二人で駐車場からエレベーターで上に上がった。
最上階の応接室だ。
40畳ほどの部屋で、豪華な応接セットが置かれている。
案内されると、若い男が立って俺に頭を下げた。
「こいつは息子の天豪だ。まだ16歳だが強いぞ」
「そうか。天豪、石神高虎だ。宜しくな」
「はい! 親父からいろいろ伺ってます! 宜しくお願いします!」
天豪は礼儀正しい男だった。
そして天丸と同じく、気持ちの良い男だった。
三人でソファに座った。
すぐにコーヒーが運ばれる。
「天豪はよ、お前よりも強くした」
「そうか」
天豪も天丸と同じく2メートル20センチの巨体で、天丸と同じくスーツ姿だが、鍛え上げた肉体であることは明白だ。
それに動作を見て分かったが、確かに格闘技の英才教育を受けていることが伺えた。
あの当時の俺では敵わないだろう。
「俺が総合格闘技を教え、他にも幾つかの格闘技を習わせた」
「見て分かるよ。相当強いな」
「ああ。まだ年齢制限でT1には出れないけどな。18歳でデビューと共に優勝するだろうよ」
「すげぇな」
確かにあり得ないことではないだろう。
T1で実力者の天丸が直々に鍛えたのだ。
「でもよ、その夢はいいんだ」
「なに?」
「トラ、俺たちを「虎」の軍に入れてくれ」
「おい、何言ってんだよ!」
まさか、そんな話が出るとは思ってもみなかった。
天丸が俺をまっすぐに見た。
「お前、ひでぇ敵と戦ってんだろ?」
「そうだ」
「だったら俺たちも使ってくれよ。俺たちは相手をぶちのめすことしか出来ねぇ。お前の力になれるんなら」
「天丸! バカ言うな! 俺は戦争をしてるんだ」
「そうだよな。だから俺も言ってる」
「おい、格闘技じゃねぇんだ。負ければ死ぬんだぞ」
「構わねぇよ」
「お前らなぁ……」
「虎」の軍に入ってくれるのはありがたい。
だが、ソルジャーは別な話だ。
格闘技が優れていても、兵士としての素養は全く別だからだ。
「花岡」を習得すればいいのだが、その他にも銃器の訓練も必要になる。
「カサンドラ」を扱い、近接戦闘で「花岡」を使う。
それが基本的なソルジャーだった。
天丸も天豪も素養はあるだろうが、兵士としての訓練は受けていないはずだ。
折角総合格闘技で一流の人間たちなのだから、その道で進んで欲しい。
溢れんほどに才能のある二人なのだ。
戦場に立つ必要はない。
「天丸、兵士というのは格闘技とは違うんだよ」
「分かってる。でも、俺たちは戦うことに関しては一流のつもりだ」
「そうなんだろうけどな。でも、お前たちは今の道で行けばいいじゃんか」
「トラ、俺はお前と一緒に戦いたいんだ」
「そうは言ってもなぁ」
「なあ、また昔みたくさ。俺はあの時のようにお前と一緒にいれたら最高なんだよ」
「おい、族の喧嘩じゃねぇんだぞ」
「そうだろうな。でも、お前と一緒に戦えればそれでいい」
「弱ったな」
天丸の気持ちは本当に嬉しい。
だが、今から兵士としての訓練を受けても、天豪はともかく天丸は難しい。
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