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西安 潜入調査 Ⅲ

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 「おい、ちょっと待てよ」

 中華料理店を出てすぐに声を掛けられた。
 8人の男たちだった。
 カタギの服装や髪型ではない。
 僕たちはすぐに、銃や武器を持っていることに気付いた。
 特殊なセンサーですぐに分かる。
 
 「なんだい?」
 「さっき、あの店から出て来たよな?」
 「ああ、美味い店だと聞いたもんでね」
 「ちょっと付き合ってくれよ」
 
 そう言った男が銃を抜いた。
 隠すつもりもないようだ。
 僕たちの正体が知られたわけではない。
 知っていれば、銃などで脅すことはしない。
 丸腰で細身の若い男女を拉致する意図があるだけだ。
 恐らく、三合会と接触した怪しい連中と見ているのだろう。
 そうであれば、間違いなく敵だ。

 抵抗せずに男たちに付いて行き、路地裏へ入った瞬間に行動を起こした。
 男たちは囲むように僕たちの前後にいた。
 ズハンが前に動き、僕が振り返って銃を構えた男の股間を蹴り上げた。
 ズハンは前方の5人の男たちの背後に回り、全員の腰骨を砕いて行く。
 僕も後ろの2人の胸骨を砕いた。
 2秒で全員が地面に転がる。
 男たちは何が起きたか分からないはずだ。
 すぐに先ほどの三合会の男に連絡する。
 5人程が走って来た。

 「いきなり襲われました」
 「御無事ですか!」

 三合会の男たちは、倒れている連中を見回した。
 流石に同様している。
 この街は基本的に自分たち三合会が掌握しているはずだった。

 「申し訳ありません、こいつらも元三合会です」
 「別な派閥の?」
 「はい。前に上で締めていた連中です。何人か顔を知ってます」
 「そうですか」

 どうやら、まだ旧派閥が地位を取り戻そうと動いるのか。
 そのことを言うと、三合会の男は否定した。

 「こいつらは、もう三合会の外にいます。俺らが追い出しましたので。だから、もう「業」に着くしかないんですよ」
 「なるほど」
 「大分数は減らしたんですけどね。まだ残党がいます」
 「そうですか。では、この連中はお任せしても?」
 「はい、こちらで処分します」

 三合会は穏やかに権力の移行があったわけではないようだ。
 血生臭い抗争で、旧派閥を粛清したらしい。
 裏社会のマフィアならば、そういうことになるのだろう。
 生かして置けば、後々火種になる。

 「しかし、お二人はお強いんですね」
 「これでもニューヨークで多少は「花岡」を学んでますからね」
 「なるほど。ミスター・セイントですか?」
 「はい。父が親しくしていますので」
 「それは羨ましい」

 僕たちは離れ、駐車場に向かいながらアラスカへ通信した。
 僕が通信している間、ズハンはセンサーを全開にし、周囲を見張った。
 




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 蓮花から連絡が来た。

 「石神様、西安のハオユーたちが襲われました」
 「敵は?」
 「はい。元三合会の連中らしく、銃でどこかへ連れ去ろうとしたので、反撃しました」
 「銃で? じゃあ、ハオユーたちのことは分かってなかったんだな」
 「はい、そういうことかと。でも三合会の男たちと接触した直後らしいので、見張られているようです」
 「随分と早いな」

 蓮花がハオユーが気になることを言っていたと伝えた。

 「街に入ってから、何か嫌な感じがするそうです」
 「嫌な感じか……」
 「はい。何か具体的なものではありません。第六感のようなものだと」
 「じゃあ、《ウィスパー》が作動したんだな」
 「はい」

 《ウィスパー》は、量子AIに新たに加えた思考回路だ。
 双子が俺と聖の「勘」を解析したいと言い、少し協力したことがある。
 主にヴァーチャルリアリティの「ポッド」で行なわれたのだが、何かしら成果を得たようで、それをハオユーとズハンに組み込んだ。
 早速発動しているようだ。

 ちなみに、ハオユーたちの通信は、最初に蓮花研究所に届く。
 そこから同時にアラスカの《ウラノス》へも中継される。
 ハオユーたちは直接《ウラノス》と通信していると思っているが、実際には蓮花研究所の《ロータス》が受けて逸早く解析している。
 《ロータス》は量子AIの解析にかけては《ウラノス》以上の性能があるためで、それを万一にも知られないように、ハオユーたちにも隠されているのだ。

 「石神様、ハオユーたちは何を感じているのでしょうか」
 「最悪の状況を考えれば、西安は「業」に侵食されているのかもしれない」
 「なんですと!」

 蓮花が驚く。
 ハオユーとズハンを心配してのことだ。
 蓮花はデュールゲリエを消耗品とは考えていない。
 我が子のように愛している。

 「まだ分からん。これからあいつらが作戦を実行すれば見えて来るかも知れん」
 「はい!」
 「ハオユーとズハンにも伝えてくれ。その可能性があることを考慮して行けと」
 「かしこまりました!」

 もしも西安が以前から「業」の浸食を受け、多くの住民が敵であったとすれば、そしてそのことを中国政府が知っていたとすれば。
 そうであるならば、聖と皇紀たちがやられたことも理解出来る。
 西安の《ハイヴ》は隠密型の、完全に外界からシャットダウンしているものだ。
 だから周囲に妖魔やライカンスロープを配備していないし、レーダーなどの観測も、妖魔の探知も無い。
 もしもそういうものがあれば、俺たちの霊素観測レーダーがキャッチしているのだ。
 それにも関わらず、「虎」の軍が《ハイヴ》に近づいた絶好のタイミングで《刃》が出て来た。
 それは、外に俺たちの動きを把握する連中がいたためだ。

 恐らく、新政権の中にもまだ「業」と繋がっている連中がいる。
 今も情報を寄越さずに、「虎」の軍と「業」とをぶつけて漁夫の利を得ようとしているのだ。
 政治の世界は深い。
 特に唯物論を長く頂いている国だ。
 新政権も「虎」の軍の正しさに靡いたわけではない。
 単に、自分たちに利益をもたらすと考えているのだろう。
 多分、力で押さえるしかない国だ。
 《刃》の討伐が、そのためには絶対に必要なことだ。

 そして、それは必ず達成されなければならない。
 俺たちは強敵を前にしている。
 一度は散々にやられたが、次は必ず勝つ。
 聖の仇であり、また石神家の途轍もない怒りだ。
 
 俺たちは絶対に勝つ。 
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