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茜と葵 Ⅲ

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 茜に聞いてみた。

 「おい、茜。ディディを見てどう思うよ?」
 「素敵です! お美しいし優しいそうだし!」
 「ウフフフ、茜さん、宜しくお願いします」
 「こちらこそ! 本当に美人ですね!」
 「ウフフフ、ありがとう」
 「ディディは話した通り、乾さんの奥さんだ。虎彦という子どももいるんだぞ」
 「え!」
 「乾さん、今日は虎彦は?」
 「ああ、今、配達に行ってるよ。夕方には戻る」
 「そうですか」

 虎彦はもう「成人」している。
 乾さんのお店を手伝っているのだ。

 「トラ、今日はゆっくり出来るんだろうな!」
 「はい」
 「そっか」
 「出来ればディディの料理を食べさせていただけますか?」
 「おう! じゃあディディ、頼むぜ」
 「はい!」

 ディディが買い物へ行くと言うので、茜を連れて行ってもらった。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 一緒に歩いていると、ディディさんが私に言った。

 「茜さんも、今度デュールゲリエと一緒に行動されるとか」
 「はい! ちょっと不安もあったんですけど」
 「どうしてです?」
 「私、コミュ障で。人間相手も苦手なのにと思って」
 「まあ、そうですか」
 「でも、もう大丈夫です!」
 「どうしてです?」
 「ディディさんを見ましたから」
 「私を?」
 「はい! デュールゲリエというのは、トラさんみたいな人なんですね!」
 「え!」
 「優しくて、相手を大事にして! 私、そういう人が大好きです!」
 「まあ!」

 ディディさんが顔を輝かせて嬉しそうに笑った。
 近所の大きなスーパーで、私に何が食べたいのか聴きながら一緒に回った。
 私は料理のことがよく分からないので、「洋食を」としか言えなかった。
 それでもディディさんは笑顔で様々な食材を買って行った。
 買い物をしながら、また帰り道でもディディさんと一杯話した。
 私は高校時代のトラさんのお話をし、ディディさんは自分がここへ来てからのことを話してくれた。
 お互いに爆笑することも多く、すっかり親しくなった。
  
 買い物から戻ってからディディさんと仲良くしていると、トラさんと乾さんが大笑いしていた。

 「お前、もうディディとそんなに仲良くなったのかよ」
 「はい! ディディさんは最高です!」
 「そうだろう?」
 
 乾さんが私を微笑みながら見ていた。

 「トラ、この子はいいな! ディディのことがすぐに分かったな」
 「ええ。まあ単純で純粋で優しい奴なんですよ」
 「そうだな」

 何かよく分からないけど。
 虎彦さんも帰っていて、また楽しく話した。
 虎彦さんも優しい方で、私が「ルート20」の話をすると喜んで聞いてくれた。
 ディディさんはビーフシチューと私が名前も知らない幾つものお料理を作ってくれた。
 どれも本当に美味しくて感動した。

 夕飯を頂きながら、私はトラさんに断って、保奈美さんを探す話をした。

 「保奈美さんは、トラさんに惚れ込んでまして。今は世界のどこにいるのかも分からないんです」

 「国境なき医師団」に所属して、どこかの戦場にいるのだと話した。
 トラさんが補足してくれた。

 「保奈美は俺が医者になると言ったら、自分は看護師になると言ったんです。俺は高校を卒業する時に大学へ行けなくなって。保奈美はちゃんと医大に合格してたんですけどね」
 「お前は傭兵になったんだよな?」
 「そうです。保奈美もそれを知ってて。卒業して病院に入ったんですけど、その後で俺を探すために「国境なき医師団」に入ったようです」
 「そうだったか」
 「俺が連絡していれば良かったんですけど。もう保奈美に会わせる顔が無いと思ってましたから」
 「悲しい行き違いだな」
 「俺が悪いんです。でも、探そうとしても厄介な部署に入ってしまったようで。本部でも行方が分からないそうです」
 「そうか。それで茜さんが探しに行くのか」
 
 「はい! 必ず見つけ出しますよ!」

 私が言うと、ディディさんが泣いていた。

 「ディディさん?」
 「すいません。石神様と茜さんのお気持ちを思うと。茜さん、大丈夫ですよ」
 「はい?」
 「私たちデュールゲリエは、お慕いする方のために何でもします。茜さんが大事に思われている方ならば、私たちは全力で協力しますから」
 「そうですか!」
 「はい」

 トラさんが微笑んでいた。

 「茜。ディディたちは愛することが出来るんだ。愛を捧げ、その人間のために本当に何でもする」

 トラさんは、デュールゲリエたちが戦場でどうするのかを話してくれた。
 人間を護るために、真っ先に敵に突っ込んで行こうとするのだと。
 そして自分の身を挺して人間を護ろうとする。
 トラさんたちも、何度もそれで助けられたのだと言った。

 「俺たちがどんなに止めてもダメなんだ。俺も悩んだよ。何とか無茶をしないようにプログラムを組もうとしても、そうするとデュールゲリエはダメになるんだ」
 「ダメに?」
 「愛を喪うんだよ。蓮花とも何度も話し合った。きっとよ、愛っていうのはそういうものなんだろうよ。愛する者のために死ぬのが愛なんだろうな」
 「トラ……」

 乾さんが苦しそうな顔をした。
 実際にディディさんをお傍に置いている方だ。
 デュールゲリエの愛は思い知っているのだろう。
 ディディさんが乾さんの後ろへ回って、優しく首を抱き締めた。

 「あなた、私はあなたのために何かをするのが、この上なく嬉しいんですよ」
 「そうなんだろうけどな。でも、俺のために……」

 ディディさんが乾さんの肩に手を置いた。

 「大丈夫です。あなたも私のことを愛して下さっているのは知っています。だからあなたを悲しませるようなことはしません」
 「そうしてくれな」

 「茜、もう帰ろうか?」
 「え!」
 「トラ!」
 「もう分かったろう? なんか居づらくなっちゃった」
 「ちょっとそうですね」
 「待てぇ! まだいいだろう!」
 「俺も蓮花も、こんなベタベタになるプログラムは組んでねぇんだけどなぁ」
 「トラ!」

 みんなで笑った。
 乾さんだけは真っ赤な顔で黙っていた。
 息子さんの虎彦さんも嬉しそうに笑っていた。
 乾さんとディディさんが仲良くしているのが嬉しいみたいだ。
 
 「あ、そうだ! 私の相棒になってくれる人はなんて名前なんですか?」
 「ああ、《葵》と名付けた」
 「葵さん!」
 「あの定食屋で仲良くなったんだろう? また一緒にやって行けよ」
 「はい!」

 あの定食屋で、女将さんの娘だった女性だ。
 幽霊になっても、女将さんを慕い店を護ろうとしていた。
 何よりも、私なんかと仲良くしてくれ、何かと気遣いしてくれたことが思い出された。
 きっと最高のバディになる!




 本当にそう思った。
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