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茜と葵 Ⅱ
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トラさんに、乾さんのお店へ連れて来られた。
デュールゲリエがどういうものか見せてくれるというお話だった。
私が知らない相棒にビビって不安に思っていることを心配して下さっている。
自分でも情けない話だが、人間ですら緊張するのに、デュールゲリエとどう付き合えばいいのか分からなかった。
先に中華街で陳さんのお店で昼食を頂く。
オーナーの陳さんが本当に喜んでいたのがすぐに分かった。
トラさんも嬉しそうに陳さんと話していた。
「こっちへ来ると、絶対に寄るんだよ」
「そうなんですか!」
「トラちゃん、今日も一杯食べてってね!」
「はい!」
私は本格的な中華料理を知らないので、注文は全部トラさんがやってくれた。
出て来たお料理がなんていう名前か知らないものも多かったが、本当に全部絶品で美味しかった。
特に北京ダック!
あんなに美味しい物がこの世にあったなんて。
トラさんが私に一杯勧めてくれた。
お腹が苦しくなるほど食べてしまった。
「ここには、乾さんたちにしょっちゅう連れて来てもらったんだ」
「そうなんですか!」
高校時代にも、トラさんが走り屋の方々と親しくしているのは知っていた。
乾さんというお名前ももちろんだ。
でかい輸入バイクの販売店をしていたことも知っている。
トラさんは乾さんのことをいろいろと話して下さった。
知らないお話ばかりで、トラさんが本当に可愛がられていたことが分かった。
卒業の時の、RZとの別れは思わず号泣し、トラさんが困っていた。
そして数年前に亜紀さんがトラさんと乾さんを再会させたこと。
嬉しくって、私も叫んでしまった。
陳さんが来て笑っていた。
「すいません、大声で。こいつに昔話をちょっとしたら」
「うん、いいよ。茜さん、いい子だね」
「まあ、そうなんですが」
私がお料理が美味しいと言うと、陳さんも喜んでくれた。
陳さんがサービスだと北京ダックを追加してくれ、トラさんがまた困った顔をしていた。
トラさんは誰からも愛されるお人だ。
食事を終えて、乾さんのお店へ伺った。
大きなバイクショップで、品もいい。
それに掃除が行き届いているのが印象的だった。
トラさんの愛車アヴェンタドールで行ったので、エンジン音でか乾さんがお店の外へ出て来た。
「乾さーん!」
「おう、やっと来たか! てめぇすっかり来なくなっちまってよ!」
「年明けにも来たじゃないですかぁ!」
「毎週来い!」
「そんなぁ!」
乾さんに紹介していただいた。
「こいつも「ルート20」のメンバーでして」
「美住茜です! 今日は押し掛けてすいません!」
「いいよ。トラの大事な人間なんだろう? だったら俺も大歓迎だ」
「え!」
「茜は「虎」の軍に入ったんです。ちょっと危険な任務もあるんで、デュールゲリエを付けるつもりで」
「ああ、そうか。じゃあディディを観たいってことだな?」
「はい。ディディを見れば、デュールゲリエがどういうものか分かると思って」
「そうか、じゃあ入れよ。茜さん、ゆっくりしてってくれな」
「はい、ありがとうございます!」
トラさんが笑っていた。
「お前、どこがコミュ障なんだよ?」
「え、だって、乾さんっていい人じゃないですか!」
「会ったばかりだろう」
「そんなの! あんなに良い人って滅多にいませんって」
「そうかよ」
トラさんがまた嬉しそうに笑った。
お店に入って、すぐにディディさんがコーヒーを持って来てくれた。
あんまりにも綺麗な人なんでびっくりした。
身長は2メートル以上あるんだけど、優しい雰囲気で包まれている。
本当に人間と変わらないと言うか、人間以上に温かなことが分かった。
トラさんが私を紹介してくれ、ディディさんも丁寧に挨拶してくれた。
「石神様、今日も陳さんのお店へ寄られましたか?」
「ああ、ついさっきな。だから茶うけはいらないよ」
「かしこまりました。でもオレンジケーキがありますので、後で是非」
「そうか、ありがとうな」
ディディさんはにこやかに笑って、仕事へ戻った。
乾さんが微笑んで見送っていた。
「悪いな、今ちょっと接客中でよ。すぐに来るから」
「はい」
トラさんが乾さんと楽しそうに話し始めた。
お二人とも本当に嬉しそうだ。
「トラ、そういえばちょっと前から幾つかキリスト教の教会からの注文が続いててよ」
「へ、へぇー」
乾さんがトラさんを睨んでいた。
トラさんの目がちょっと泳いでいる。
なんだろ?
「お前、なんか知ってるよな?」
「なんでですかぁ! 俺はクリスチャンじゃないですよ!」
「あ、やっぱ知ってるな!」
「だからなんでぇ!」
「お前がウソついてる時は分かるんだよ!」
「えぇ!」
「白状しろ!」
トラさんが珍しくしどろもどろで話した。
「あのですね、ちょっとキリスト教関係で俺の関係のサイトがありまして」
「なんだよ、そりゃ?」
「あの、なんかファンクラブ的な?」
「そんなのがあんの?」
「はい。ちょっと事情がありまして。そこにですね、前に俺がお世話になってて素晴らしいバイクショップがあるってですね」
「うちのことかよ!」
「そうですよ! 素敵なお店じゃないですか!」
「バカ!」
「いいじゃないですか!」
「また忙しくなりやがってんだぞ!」
「おめでとうございます!」
「このやろう!」
思わず笑ってしまった。
きっと、トラさんが関わっているきっかけは、ローマ教皇の関連だろう。
ピエロの青さんも、そのお陰で酷い目に遭ったとこないだ言ってた。
響子ちゃんに会いに、トラさんの病院へ行くと青さんのお店に寄るようになった。
だから大体の事情は私も知ってる。
ディディさんが接客を終えて、こっちへ来た。
「おお、ディディ、座れよ!」
「トラ、まだ話があんだよ!」
「今日はもう、この辺で。茜にディディを紹介しなくちゃ!」
「このやろう」
乾さんが嬉しそうなのが印象的だった。
トラさんに会えたからなんだろう。
「それにしてもトラぁ! お前すっかりご無沙汰じゃねぇか!」
「だから年明けに、六花と来ましたよね?」
「だからもっと来い!」
ディディさんが微笑んでいた。
私にも分かった。
ディディさんは、乾さんが喜んでいると自分も嬉しいのだ。
乾さんは、とにかくトラさんにもっと来てもらいたいのだろう。
さっきもそんな遣り取りがあった。
そのことがディディさんにも分かっている。
「あなた、石神さんがいらして良かったですね」
「あ? うぅ、まあな」
「ウフフフフ」
「ディディ、毎晩やってるか!」
「はい!」
「おい!」
ディディはトラさんの命令には絶対に従うと聞いていた。
だけど、こんなことまで即答かー。
恥ずかしがってる乾さんが可愛らしかった。
ああ、ここは温かい。
トラさんが、その温もりを護ろうとしていることも分かった。
デュールゲリエがどういうものか見せてくれるというお話だった。
私が知らない相棒にビビって不安に思っていることを心配して下さっている。
自分でも情けない話だが、人間ですら緊張するのに、デュールゲリエとどう付き合えばいいのか分からなかった。
先に中華街で陳さんのお店で昼食を頂く。
オーナーの陳さんが本当に喜んでいたのがすぐに分かった。
トラさんも嬉しそうに陳さんと話していた。
「こっちへ来ると、絶対に寄るんだよ」
「そうなんですか!」
「トラちゃん、今日も一杯食べてってね!」
「はい!」
私は本格的な中華料理を知らないので、注文は全部トラさんがやってくれた。
出て来たお料理がなんていう名前か知らないものも多かったが、本当に全部絶品で美味しかった。
特に北京ダック!
あんなに美味しい物がこの世にあったなんて。
トラさんが私に一杯勧めてくれた。
お腹が苦しくなるほど食べてしまった。
「ここには、乾さんたちにしょっちゅう連れて来てもらったんだ」
「そうなんですか!」
高校時代にも、トラさんが走り屋の方々と親しくしているのは知っていた。
乾さんというお名前ももちろんだ。
でかい輸入バイクの販売店をしていたことも知っている。
トラさんは乾さんのことをいろいろと話して下さった。
知らないお話ばかりで、トラさんが本当に可愛がられていたことが分かった。
卒業の時の、RZとの別れは思わず号泣し、トラさんが困っていた。
そして数年前に亜紀さんがトラさんと乾さんを再会させたこと。
嬉しくって、私も叫んでしまった。
陳さんが来て笑っていた。
「すいません、大声で。こいつに昔話をちょっとしたら」
「うん、いいよ。茜さん、いい子だね」
「まあ、そうなんですが」
私がお料理が美味しいと言うと、陳さんも喜んでくれた。
陳さんがサービスだと北京ダックを追加してくれ、トラさんがまた困った顔をしていた。
トラさんは誰からも愛されるお人だ。
食事を終えて、乾さんのお店へ伺った。
大きなバイクショップで、品もいい。
それに掃除が行き届いているのが印象的だった。
トラさんの愛車アヴェンタドールで行ったので、エンジン音でか乾さんがお店の外へ出て来た。
「乾さーん!」
「おう、やっと来たか! てめぇすっかり来なくなっちまってよ!」
「年明けにも来たじゃないですかぁ!」
「毎週来い!」
「そんなぁ!」
乾さんに紹介していただいた。
「こいつも「ルート20」のメンバーでして」
「美住茜です! 今日は押し掛けてすいません!」
「いいよ。トラの大事な人間なんだろう? だったら俺も大歓迎だ」
「え!」
「茜は「虎」の軍に入ったんです。ちょっと危険な任務もあるんで、デュールゲリエを付けるつもりで」
「ああ、そうか。じゃあディディを観たいってことだな?」
「はい。ディディを見れば、デュールゲリエがどういうものか分かると思って」
「そうか、じゃあ入れよ。茜さん、ゆっくりしてってくれな」
「はい、ありがとうございます!」
トラさんが笑っていた。
「お前、どこがコミュ障なんだよ?」
「え、だって、乾さんっていい人じゃないですか!」
「会ったばかりだろう」
「そんなの! あんなに良い人って滅多にいませんって」
「そうかよ」
トラさんがまた嬉しそうに笑った。
お店に入って、すぐにディディさんがコーヒーを持って来てくれた。
あんまりにも綺麗な人なんでびっくりした。
身長は2メートル以上あるんだけど、優しい雰囲気で包まれている。
本当に人間と変わらないと言うか、人間以上に温かなことが分かった。
トラさんが私を紹介してくれ、ディディさんも丁寧に挨拶してくれた。
「石神様、今日も陳さんのお店へ寄られましたか?」
「ああ、ついさっきな。だから茶うけはいらないよ」
「かしこまりました。でもオレンジケーキがありますので、後で是非」
「そうか、ありがとうな」
ディディさんはにこやかに笑って、仕事へ戻った。
乾さんが微笑んで見送っていた。
「悪いな、今ちょっと接客中でよ。すぐに来るから」
「はい」
トラさんが乾さんと楽しそうに話し始めた。
お二人とも本当に嬉しそうだ。
「トラ、そういえばちょっと前から幾つかキリスト教の教会からの注文が続いててよ」
「へ、へぇー」
乾さんがトラさんを睨んでいた。
トラさんの目がちょっと泳いでいる。
なんだろ?
「お前、なんか知ってるよな?」
「なんでですかぁ! 俺はクリスチャンじゃないですよ!」
「あ、やっぱ知ってるな!」
「だからなんでぇ!」
「お前がウソついてる時は分かるんだよ!」
「えぇ!」
「白状しろ!」
トラさんが珍しくしどろもどろで話した。
「あのですね、ちょっとキリスト教関係で俺の関係のサイトがありまして」
「なんだよ、そりゃ?」
「あの、なんかファンクラブ的な?」
「そんなのがあんの?」
「はい。ちょっと事情がありまして。そこにですね、前に俺がお世話になってて素晴らしいバイクショップがあるってですね」
「うちのことかよ!」
「そうですよ! 素敵なお店じゃないですか!」
「バカ!」
「いいじゃないですか!」
「また忙しくなりやがってんだぞ!」
「おめでとうございます!」
「このやろう!」
思わず笑ってしまった。
きっと、トラさんが関わっているきっかけは、ローマ教皇の関連だろう。
ピエロの青さんも、そのお陰で酷い目に遭ったとこないだ言ってた。
響子ちゃんに会いに、トラさんの病院へ行くと青さんのお店に寄るようになった。
だから大体の事情は私も知ってる。
ディディさんが接客を終えて、こっちへ来た。
「おお、ディディ、座れよ!」
「トラ、まだ話があんだよ!」
「今日はもう、この辺で。茜にディディを紹介しなくちゃ!」
「このやろう」
乾さんが嬉しそうなのが印象的だった。
トラさんに会えたからなんだろう。
「それにしてもトラぁ! お前すっかりご無沙汰じゃねぇか!」
「だから年明けに、六花と来ましたよね?」
「だからもっと来い!」
ディディさんが微笑んでいた。
私にも分かった。
ディディさんは、乾さんが喜んでいると自分も嬉しいのだ。
乾さんは、とにかくトラさんにもっと来てもらいたいのだろう。
さっきもそんな遣り取りがあった。
そのことがディディさんにも分かっている。
「あなた、石神さんがいらして良かったですね」
「あ? うぅ、まあな」
「ウフフフフ」
「ディディ、毎晩やってるか!」
「はい!」
「おい!」
ディディはトラさんの命令には絶対に従うと聞いていた。
だけど、こんなことまで即答かー。
恥ずかしがってる乾さんが可愛らしかった。
ああ、ここは温かい。
トラさんが、その温もりを護ろうとしていることも分かった。
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