2,581 / 2,859
刃
しおりを挟む
3月初旬。
俺は盛岡の石神家に来ていた。
いつものように虎白さんたちと鍛錬をした。
そしていつものように、墓参りをする。
いつからか虎蘭が気付いて一緒に付いて来るようになった。
虎葉さんの墓参りだ。
石神家の虎葉さんは、北アフリカでの戦いで戦死された。
突然現われた《地獄の悪魔》の攻略を見出すために「見切り戦」をしたためだ。
両腕から途轍もないエネルギー波を放つ奴で、防御のしようが無かった。
虎葉さんは「連山」で突っ込み、身体が四散した。
俺たちはなるべく遺体を回収したが、ついに頭部は見つからなかった。
恐らく、真っ先に粉々になって飛び散ったのだろう。
ご立派な、荘厳な最期だった。
俺は虎葉さんの墓前で手を合わせ、般若心経を唱えた。
「高虎さん、いつもすみません」
「いや、俺の役目だ。俺がお前たちを死地へ誘っている。勇敢に戦って死んだ人間には、俺はこんなことしか出来ない」
「はい」
「虎蘭。お前は虎葉さんの遺志を継いでいるな」
「もちろんです」
「いつか死ぬな」
「はい、本望です」
俺は何も答えなかった。
虎葉さんの命も、虎蘭の命も、本人だけのものだ。
それが俺には分かっている。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「業」に接近しつつあった中国に、三合会の交代劇が一石を投じた形になった。
三合会の中で最大派閥であった者たちが「業」と連携していたが、「虎」の軍によって粛清されたことで、新たな派閥が三合会を掌握することになった。
それによって中国の裏社会の構造が激変し、それに伴って政治家たちにも波紋が走った。
現行の主席一派はやはり「業」に接近しようとしていたが、反対勢力が盛り返し、政治的にも不安定になっている。
その潮流はやがて現行の主席一派を押しのけて、新たに「虎」の軍に協力する動きを招いていた。
まあ、まだまだ不安定なのだが。
今、外交特務官のウィルソンが交渉し、同時にジャングル・マスターが世論を操作している。
その成果もあって、これまでの「業」との連携の代償として、「虎」の軍に西安の割譲が認められることになった。
まだ正式な調印はかわされていないが、確実なこととして俺たちも動き始めた。
西安の視察に皇紀が赴き、その護衛を聖に頼んだ。
大分ヤバい状況だからだ。
「業」は中国との連携を望んでいただろうし、そのために何か仕掛けて来る可能性は高かった。
その流れを理解し、聖は「セイントPMC」の精鋭を皇紀のために動かし、万全の態勢で西安に向かった。
西安はユーラシア大陸の交通の要に位置する。
古くから栄えて来た都市が、そのまま地理的条件で今も要衝となっているのだ。
中国政府がこの土地に「虎」の軍の軍事基地の建設を認めるということは、概ね大勢は決したと見ていい。
もちろん、まだ油断するつもりはなく、不安定な中国政府の政情を見守っていくしかない。
しかし、「虎」の軍の強さは思い知っているので、俺は楽観視していたのだが。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
3月の下旬。
僕たちは西安に向かった。
「聖さん、今回は宜しくお願い致します」
「おう、皇紀。ちょっと面倒な土地だからな。ガードは任せろ」
「はい! お願いしますね!」
聖さんがいるのなら、どんな事態でも大丈夫だ。
これまでも何度も予想外のことが起きて来た基地選定だけど、今回は僕も安心していた。
タカさんに並んで、「虎」の軍の中で聖さんほど頼りになる人はいない。
僕と風花さんの結婚式での、タカさんと聖さんのエキシビション仕合は今でも語り草だ。
世界最強の二人と言っていいだろう。
聖さんは通常の「レーヴァテイン」などの他に、固有武器「聖光」と「散華」を携帯していた。
ならば、本当に安心だ。
中国政府が指定して来たのは、西安の西側の山岳地帯に近い場所だった。
もちろん人家や建物などは周辺に無い。
山林を切り開いてのことになるけど、それは問題ない。
タカさんがクロピョンに頼めば一瞬だ。
タカさんと話し合って、ここがアジアの中心的な軍事基地になることを期している。
地理的にアジア全体をカバー出来る絶好の位置になる。
タカさんは、こうやってそれぞれの地域にそういう中心的な拠点を創ろうと考えていた。
アジアは西安、ヨーロッパはフランス、アメリカはニューヨークだけど、まあアラスカが近い。
南アメリカはまだ未定、アフリカも同じだ。
どちらもまだ政情が不安定で、結構な激戦区となりつつある。
今後は「虎」の軍の出動も増えるだろう。
《ハイヴ》もあちこちにあるのだ。
西安はトルコのパムッカレ基地と連携することになりそうだ。
南はフィリピンのマニラ基地がある。
フランスはイサさんの一件で完全にタカさんに降伏している状態だ。
今、外交官のウィルソンさんがパリのどこかに広大な土地を交渉している。
流石にパリ近郊は難色を示してはいるけど、多分タカさんの要求が通るだろう。
僕たちは総勢30人とデュールゲリエ20体で「タイガーファング」に乗り込み、西安に向かった。
現地で中国政府が用意した「タイガーファング」の発着スペースに降り、そのまま「レッドオーガ」と「ファブニール」で基地候補地へ向かった。
僕は「ファブニール」の中で、聖さんは「レッドオーガ」を運転している。
僕のことは「セイントPMC」の皆さんが気さくに接してくれ、車内でもいろいろな話をした。
僕の戦闘力については、先日のマニラ基地でのことが伝えられており、みんな興味深く質問して来た。
「《城砦》というのは、どれほど防御力があるんだ?」
「そうですね、上級妖魔であればほぼ。《地獄の悪魔》ならば3割はと思いますけど、半分以上は突破されるでしょうね」
「でも大したものだ。じゃあ、何が来ても《城砦》が展開されれば少しは時間が稼げるということか」
「まあ、そう思っていただければ。でも今回は聖さんがいるんで、本当に何が来ても大丈夫ですよ」
「まあ、違ぇねぇ!」
みんなで笑った。
今、こうしている間にも聖さんはあの超感覚で周囲を警戒してくれている。
僕たちは本当に安心して走行していた。
俺は盛岡の石神家に来ていた。
いつものように虎白さんたちと鍛錬をした。
そしていつものように、墓参りをする。
いつからか虎蘭が気付いて一緒に付いて来るようになった。
虎葉さんの墓参りだ。
石神家の虎葉さんは、北アフリカでの戦いで戦死された。
突然現われた《地獄の悪魔》の攻略を見出すために「見切り戦」をしたためだ。
両腕から途轍もないエネルギー波を放つ奴で、防御のしようが無かった。
虎葉さんは「連山」で突っ込み、身体が四散した。
俺たちはなるべく遺体を回収したが、ついに頭部は見つからなかった。
恐らく、真っ先に粉々になって飛び散ったのだろう。
ご立派な、荘厳な最期だった。
俺は虎葉さんの墓前で手を合わせ、般若心経を唱えた。
「高虎さん、いつもすみません」
「いや、俺の役目だ。俺がお前たちを死地へ誘っている。勇敢に戦って死んだ人間には、俺はこんなことしか出来ない」
「はい」
「虎蘭。お前は虎葉さんの遺志を継いでいるな」
「もちろんです」
「いつか死ぬな」
「はい、本望です」
俺は何も答えなかった。
虎葉さんの命も、虎蘭の命も、本人だけのものだ。
それが俺には分かっている。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「業」に接近しつつあった中国に、三合会の交代劇が一石を投じた形になった。
三合会の中で最大派閥であった者たちが「業」と連携していたが、「虎」の軍によって粛清されたことで、新たな派閥が三合会を掌握することになった。
それによって中国の裏社会の構造が激変し、それに伴って政治家たちにも波紋が走った。
現行の主席一派はやはり「業」に接近しようとしていたが、反対勢力が盛り返し、政治的にも不安定になっている。
その潮流はやがて現行の主席一派を押しのけて、新たに「虎」の軍に協力する動きを招いていた。
まあ、まだまだ不安定なのだが。
今、外交特務官のウィルソンが交渉し、同時にジャングル・マスターが世論を操作している。
その成果もあって、これまでの「業」との連携の代償として、「虎」の軍に西安の割譲が認められることになった。
まだ正式な調印はかわされていないが、確実なこととして俺たちも動き始めた。
西安の視察に皇紀が赴き、その護衛を聖に頼んだ。
大分ヤバい状況だからだ。
「業」は中国との連携を望んでいただろうし、そのために何か仕掛けて来る可能性は高かった。
その流れを理解し、聖は「セイントPMC」の精鋭を皇紀のために動かし、万全の態勢で西安に向かった。
西安はユーラシア大陸の交通の要に位置する。
古くから栄えて来た都市が、そのまま地理的条件で今も要衝となっているのだ。
中国政府がこの土地に「虎」の軍の軍事基地の建設を認めるということは、概ね大勢は決したと見ていい。
もちろん、まだ油断するつもりはなく、不安定な中国政府の政情を見守っていくしかない。
しかし、「虎」の軍の強さは思い知っているので、俺は楽観視していたのだが。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
3月の下旬。
僕たちは西安に向かった。
「聖さん、今回は宜しくお願い致します」
「おう、皇紀。ちょっと面倒な土地だからな。ガードは任せろ」
「はい! お願いしますね!」
聖さんがいるのなら、どんな事態でも大丈夫だ。
これまでも何度も予想外のことが起きて来た基地選定だけど、今回は僕も安心していた。
タカさんに並んで、「虎」の軍の中で聖さんほど頼りになる人はいない。
僕と風花さんの結婚式での、タカさんと聖さんのエキシビション仕合は今でも語り草だ。
世界最強の二人と言っていいだろう。
聖さんは通常の「レーヴァテイン」などの他に、固有武器「聖光」と「散華」を携帯していた。
ならば、本当に安心だ。
中国政府が指定して来たのは、西安の西側の山岳地帯に近い場所だった。
もちろん人家や建物などは周辺に無い。
山林を切り開いてのことになるけど、それは問題ない。
タカさんがクロピョンに頼めば一瞬だ。
タカさんと話し合って、ここがアジアの中心的な軍事基地になることを期している。
地理的にアジア全体をカバー出来る絶好の位置になる。
タカさんは、こうやってそれぞれの地域にそういう中心的な拠点を創ろうと考えていた。
アジアは西安、ヨーロッパはフランス、アメリカはニューヨークだけど、まあアラスカが近い。
南アメリカはまだ未定、アフリカも同じだ。
どちらもまだ政情が不安定で、結構な激戦区となりつつある。
今後は「虎」の軍の出動も増えるだろう。
《ハイヴ》もあちこちにあるのだ。
西安はトルコのパムッカレ基地と連携することになりそうだ。
南はフィリピンのマニラ基地がある。
フランスはイサさんの一件で完全にタカさんに降伏している状態だ。
今、外交官のウィルソンさんがパリのどこかに広大な土地を交渉している。
流石にパリ近郊は難色を示してはいるけど、多分タカさんの要求が通るだろう。
僕たちは総勢30人とデュールゲリエ20体で「タイガーファング」に乗り込み、西安に向かった。
現地で中国政府が用意した「タイガーファング」の発着スペースに降り、そのまま「レッドオーガ」と「ファブニール」で基地候補地へ向かった。
僕は「ファブニール」の中で、聖さんは「レッドオーガ」を運転している。
僕のことは「セイントPMC」の皆さんが気さくに接してくれ、車内でもいろいろな話をした。
僕の戦闘力については、先日のマニラ基地でのことが伝えられており、みんな興味深く質問して来た。
「《城砦》というのは、どれほど防御力があるんだ?」
「そうですね、上級妖魔であればほぼ。《地獄の悪魔》ならば3割はと思いますけど、半分以上は突破されるでしょうね」
「でも大したものだ。じゃあ、何が来ても《城砦》が展開されれば少しは時間が稼げるということか」
「まあ、そう思っていただければ。でも今回は聖さんがいるんで、本当に何が来ても大丈夫ですよ」
「まあ、違ぇねぇ!」
みんなで笑った。
今、こうしている間にも聖さんはあの超感覚で周囲を警戒してくれている。
僕たちは本当に安心して走行していた。
0
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
甘灯の思いつき短編集
甘灯
キャラ文芸
作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)
※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる