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母がなくては…… Ⅱ

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 4時過ぎにホテルへ着いて、チェックインを済ませて荷物を運んだ。
 ホテルは陽子さんたちのお宅に近い場所にある。
 私たちは結構あちこちに行っているけど、ホテルに泊まることはほとんどない。
 私もタカさんに連れてってもらった、軽井沢のホテルとかしか無いと思う。
 あとは修学旅行か。
 他の人たちも同じようなものだ。
 麗星さんは一番多く、栞さんと鷹さんは多少。
 六花さんは初めてらしい。
 だから、みんな楽しみにしていた。
 ツインの部屋を人数分予約していた。
 栞さんと鷹さんと士王。
 六花さんと響子ちゃんと吹雪。
 麗星さんと天狼と奈々。
 私と柳さん。
 双子。
 私と柳さんが幹事なんでで覗きに行くと、それぞれの部屋で、みんなワイワイと楽しんでいた。
 タカさんはロボと双子の部屋で遊んでいた。

 麗星さんたちの部屋に入ると、麗星さんが、絵の額の裏に何か貼っていた。

 「何をしてるんですか?」
 「あのさ、こういう部屋で額の裏に御札が貼ってあるとコワイじゃない」
 「え?」
 「私の趣味なの」
 「「……」」

 何やってんですか、麗星さん。

 タカさんとロボは陽子さんのお宅に泊めていただく。
 5時にロビーに集合だ。

 少し前にロビーに行くと、もう陽子さんが旦那さんとお子さんたちを連れて待っていた。
 タカさんが来て、ニコニコして頭を下げた。
 陽子さんが嬉しそうに笑っていた。

 「トラちゃん! やっと来たね!」
 「陽子さん。わざわざすみません」
 「何言ってるの! もう、本当になかなか来てくれないんだから!」
 「すみません。今日はお世話になります」
 「まあ、お世話になるのはどっちかと言うとうちの方だけどね!」
 
 タカさんが私たちを改めて紹介し、旦那さんやお子さんたちとも話していた。
 みんなでマイクロバスに乗って移動する。

 「ねえ、トラちゃん。本当にご馳走になっていいの?」
 「もちろんです。こんなに大勢引き連れて申し訳ない」
 「また! トラちゃんは気を遣い過ぎだよ! 私たちは仲良し姉弟なんだからね!」
 「そうですね」

 タカさんが笑っていた。
 でも、いつもの笑顔ではない。
 愛想笑いじゃないけど、何か違う。
 本当に陽子さんと会えたのは嬉しそうなんだけど。

 お店は料亭だ。
 今日は和食三昧で量も石神家仕様で頼んである。
 地元でも有名なお店らしく。陽子さんたちも楽しみにしている。
 特別に、ロボも入れてもらえる。
 大きな座敷に通され、次々と料理やお酒が運ばれて来た。
 タカさんは陽子さんたちと同じテーブルに座っている。
 声が聞こえて来た。
 陽子さんの旦那さんの声が聞こえた。

 「石神さん。命を助けていただいたのに、お礼にも伺わずに申し訳ない」
 「そんな! 勝手に俺がやったことですし、整備工場の方も忙しかったと聞いてますし」
 「いや、本当にその通りなんだけど、それにしても命の恩人に」
 「もう、やめてくださいよ。俺たちは義兄弟なんですからね。何かするのは当然です。貸し借りなんかじゃないですよ」
 「いや、そうは言ってもずっと気になっていたんだ。今日は石神さんにお会い出来て良かった」
 
 陽子さんの旦那さんは白血病に罹っていた。
 余命宣告をされるまで悪化していたんだけど、タカさんが「Ω」と「オロチ」を送って命を取り留めた。
 その話をしている。

 「陽子さんには本当にお世話になりましたからね。そのご家族は俺にとっても掛け替えがない人たちなんですよ」
 「石神さん……」
 「トラちゃん!」
 「お袋が、誰も知り合いのいない山口に来て。本当に南原さんが優しい人で、陽子さんと左門がお袋に良くして下さって。特に陽子さんはお袋に気を遣って下さって。今でも感謝しているんですよ」
 「トラちゃん、ありがとう」
 
 タカさんの本心だろう。
 最愛のお母様のことを大切にして下さった陽子さんたちには、最大の感謝を感じているんだ。

 「でもなー。トラちゃんやり過ぎだよ! あの大きな家、今でも持て余してるんだから!」
 「アハハハハハ!」
 「本当にね。僕たちには贅沢ないい家だ」
 「あなたはそんなこと言うけどね! お掃除だって大変なのよ!」
 「ああ、僕も手伝うようにするよ」
 「10年遅いわよ!」
 「ゴメンって」

 みんなで笑った。
 本当に陽子さんは気遣いがスゴイ。
 話題を変えて雰囲気を良くしていた。
 陽子さんには二人のお子さんがいた。
 上は中学生の猛君と、下は小学6年生の美鈴ちゃん。
 二人とも陽子さんに似て可愛らしい。
 私たちの「喰い」に驚いてるけど。
 タカさんがお子さんたちにいろんな話をしていた。
 流石はタカさんで、子どもたちが大笑いしている。
 陽子さんと旦那さんも笑っている。
 私も安心して「喰い」に専念した。
 一段落して、お子さんたちを私がテーブルに誘って、一緒に食べた。
 私たちにも慣れてくれて、次第に笑顔になってくれる。
 やっぱり陽子さんのお子さんだ。
 優しく頭がよく、明るい。
 二人ともタカさんのことが大好きになったと言い、またタカさんの傍に戻って行った。
 そしてまたタカさんの話に大笑いしていた。
 鷹さんにご飯をもらっていたロボも、タカさんの所へ行く。
 響子ちゃんもタカさんの隣に座ってニコニコしている。
 そのうちに士王や吹雪、天狼と奈々もタカさんの傍に行った。
 大勢の子どもたちに囲まれて、タカさんも嬉しそうな顔をしていた。
 でも、なんかいつもと違う。
 タカさんがどこか寂しそうなのだ。
 
 じゃー、ここはアレしかないだろう!
 
 「じゃあ、そろそろ! 「ヒモダンス」! やるよ!」
 「おい、今日はやめろ!」

 タカさんが叫んだけど、みんなで踊った。

 ♪ ヒモ! ヒモ! タンポンぽぽぽん!…… ♪

 陽子さんたちが最初はびっくりしてたけど、そのうちに大笑いした。

 「トラちゃん、何あれ!」
 「いや、俺もよく分からなくて……」

 「タカさんが考えたんだよ!」
 「てめぇ!」

 ハーが言って、またみんなで笑った。
 ルーとハーが「ヒモダンス」を猛君と美鈴ちゃんに教えていた。
 タカさんがやめろと言ったが、陽子さんも面白がって一緒に教わっていた。

 みんなで大笑いして、また歓談した。
 ロボは士王や子どもたちと遊んでいる。
 響子ちゃんは六花さんと楽しく話している。
 栞さんと鷹さんと麗星さんも仲良く話し、六花さんと響子ちゃんも交えて生まれて来る子どもたちのことを楽しみだと言っていた。

 みんな美味しい料理を堪能し、お店を出た。
 先にタカさんたちを陽子さんの家に送って、みんなでホテルへ戻った。
 大浴場を貸切にし、みんなで入った。
 士王が大興奮だ。
 背中を流すと言いながら、みんなのオッパイを触ろうとする。
 みんな分かっているので、なかなか触らせない。
 今日は麗星さんのオッパイに夢中だ。
 滅多に会えないからなー。
 あいつめぇー。

 栞さんに怒られている士王を見ながら、タカさんのことを思った。
 タカさん、今頃どうしているだろうか。
 楽しそうにはしていたけど、時折、ふと表情を変えていた。
 やっぱり寂しそうな横顔だった。

 タカさん……
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