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最後の晩餐 Ⅳ
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木村さんとお話し出来て、本当に良かった。
タカさんはいつだって同じだ。
大事な仲間を愛して来た。
その仲間を傷つける人間を許さなかった。
でも、本当はそれだけじゃない。
タカさんのあの優しさで、どうしようもなく悲しかったんだ。
前に聞いた、赤木さんのお話。
タカさんは怒り狂っていたけど、ついに敵の馬路を殺さなかった。
赤木さんが辞めるように言ったからだ。
タカさんが愛した人たちは、タカさんのことも愛していた。
だから、自分の命などよりも、タカさんのことを考えた。
赤木さんは、激痛なんて言葉じゃ足りない程の痛みの中で、タカさんを止めた。
レイは自分の命を捧げた。
シャドウさんが誘拐された時も、タカさんのために自爆しようとしたそうだ。
鷹さんは「女」を喪うことを知って、命懸けでタカさんのために「飛行:鷹閃花」を体得した。
青嵐さんは、タカさんの大事な御堂さんを護るために「デス・ウィッシュ」を使って死ぬつもりだった。
御堂さんも、自分を攻撃させて「渋谷HELL」を終息させた。
井上さんも、御堂さんを助けようと襲撃の最中に避難所を飛び出した。
今も多くの人たちがタカさんのために、命懸けで戦っている。
ああ、響子ちゃんは、自分が死ぬという時に、タカさんに命を預けたじゃないか!
響子ちゃんは、最期にタカさんと一緒にいたかったんだ!
私はそのことに気付いて、独りで号泣した。
みんな、そうなんだ……
そして、その夜、私は夢を観た。
どこかの広い高原。
綺麗な花が咲き誇っている。
遠くに青い山が連なっていて、その裾野までずっと草原が広がっている。
気持ちの良い風が吹いていた。
花の匂いを運んで来る。
美しい場所。
自分がそういう場所にいるのを、不思議と自然に受け入れていた。
丘の上に、白いパラソルと白いテーブルが見えた。
そこへ近づくと、男性が座っていて私を向いて微笑んだ。
すぐに分かった。
葬儀の時に遺影で観たイサさんだった。
「亜紀ちゃんだね? 初めまして」
「初めまして! 諫早さんですよね!」
「うん」
手招きされ、イサさんの向かいに座った。
「あの、ここは?」
「うん、ある方が用意して下さったんだ」
「ある方?」
「とっても上の方でね。特別に俺たちのために用意して下さったんだ」
「そうなんですか?」
よく分からないけど、私はイサさんとお話し出来て嬉しかった。
「亜紀ちゃんは、俺のためにいろいろ動いてくれたね」
「え、いいえ! 私が諫早さんのことが気になって、どうしても。でも、何となく私の中で分かったみたいです」
「そうか。トラさんには本当に申し訳ないことをした」
「そんな! タカさんは諫早さんのことが本当に大事で!」
「トラさんは本当に優しい。でも、そんなトラさんを俺は苦しめてしまったよ」
「それはそうですよ! 大事な諫早さんを喪って、タカさんが悲しまないはずはありません! でも、諫早さんのせいじゃないですよ!」
「うん」
諫早さんが優しく笑った。
ああ、やっぱりこういう人だったんだ。
「諫早さんはほんの少しも、タカさんのことを裏切ろうとはされませんでした。ご家族を喪っても」
「それはそうだよ。トラさんを裏切るなんて絶対に無い」
「はい! だからタカさんも諫早さんが何か悪かったなんて全然思ってません!」
「そうか」
「タカさんは諫早さんに何も出来なかったことが悲しいんだと思います」
「そんなことはないよ。トラさんは最後に俺の気持ちを汲んでくれた。それで満足だ」
イサさんは透き通るような明るい笑みを浮かべた。
イサさんが心底から満足しているのが分かって、私も嬉しくなった。
「タカさんは、最初からイサさんが死ぬおつもりだったのは分かっていたんでしょうか」
「そうだね。トラさんは最初に俺を睨んでいたんだ」
「え!」
「俺に事情を話せ、頼れって言うつもりだったんだよ」
「でもイサさんは、そうしなかったんですね」
「うん。今だから分かるけど、トラさんは俺がどうしようもない状況にあると分かっていたんだ。家族が人質とかは知らなかっただろうけどね。だけど、俺がトラさんに何も話していないってことは、トラさんは俺が死ぬつもりだってことは分かっていたと思う」
「イサさんはタカさんを絶対に裏切らないですもんね。だったら、もう……」
イサさんが優しく笑った。
「そうだよ。トラさんに話さずに、最初の約束通りに一緒に食事をすることにした。それは、トラさんが俺が覚悟を決めていることを知っていたということだね」
「タカさん……」
「それでもトラさんは俺を睨んだ。その気持ちを考えると、今でも申し訳ないよ」
「……」
「俺が何も言わずに笑っているんで、トラさんも付き合ってくれた。きっと一緒に来たマクシミリアンさんも同じだったと思う」
「はい……」
「楽しかった。本当に最後に楽しくて、最高の時間を過ごせた」
「イサさん……」
イサさんはまた私に笑い掛けてくれた。
「でも、やっぱりトラさんは辛かったんだな。あんなに怒り狂って」
「何度も、イサさんに敵から連絡が来ていたんですね?」
「うん。俺にトラさんを早く連れて行けってね。俺が死ねばトラさんも、街の人間も犠牲者は出ないと思っていたんだけどね」
「タカさんはやっぱり全部分かっていた……」
「トラさんは最高だからね。もちろんそうだよ。でも、最後はあんなに悲しんで。本当に申し訳ない」
「そんな。イサさんはご立派です」
イサさんは優しく笑い、立ち上がって泣き出した私の頭を撫でてくれた。
イサさんは全てを納得している。
自分の覚悟を通せたことを喜んでいるのが分かった。
私も落ち着いて来た。
「亜紀ちゃんは本当に優しいね」
「いいえ。でも本当に、そんな別れもあるんですね」
「ああ、そうだね。あれは最高だった。俺も本当に嬉しかった、何時間もトラさんと楽しく「ルート20」時代の話が出来た」
「そうですか!」
「一緒にいたマクシミリアンさんも良い方だった。トラさんが信頼する仲間なのはすぐに分かった。トラさんを任せられる人だと思ったよ」
「マクシミリアンさんも喜びますよ」
「じゃあ、是非伝えて欲しい。トラさんをお願いしますって」
「はい、必ず!」
私たちはしばらくの間、話していた。
「ルート20」の思い出を沢山聴かせて頂いた。
何時間、話していたのかも分からない。
やがて日が翳って来た。
「そろそろかな。亜紀ちゃんと話せて本当に良かったよ」
「私も! 諫早さん、またお会い出来ませんか?」
「それは無理かな。今回のことも、本当に特別な計らいなんだ」
「そうですかー。残念です」
「アハハハハハ。亜紀ちゃんには分からないだろうけど、本当に奇跡なんだよ?」
「はい、分かりました!」
イサさんが笑っていた。
「トラさんは本当に凄い人だ。こんな奇跡も用意してもらえる程にね。それに亜紀ちゃんも凄いよ。トラさんに信頼され、トラさんのために命懸けで戦っているんだね」
「当たり前ですってぇ!」
「アハハハハハハハハ! 今日は本当に楽しかった」
「はい、私も!」
「俺もトラさんのお陰で、こっちでは随分と良くしてもらえるそうだ」
「そうですか!」
「トラさんは最高だ」
「はい、本当に!」
私たちは握手をして別れた。
イサさんは眩く輝きながら、草原の風の中に消えて行った。
その神々しく美しい光景を、私は絶対に忘れない。
そして、私とイサさんにこの場所を用意してくれた方に最大の感謝を。
朝方に目が覚めた。
夢を観たことは分かっている。
自分が随分とイサさんを追い求めていたから観た夢なのかもしれない。
でも、それがどうした。
私はイサさんとお会いし、一杯お話しすることが出来たのだ。
それだけが、私の中の真実だ。
本当かどうかなど、どうでもいい。
私はイサさんを尊敬し、タカさんを愛しているのだ。
あんまり嬉しくってタカさんの部屋に突撃した。
ロボが怒って突っ込んで来てぶっ飛ばされた。
タカさんが笑いながらロボを宥めてくれ、「どうした」と聞いてくれた。
「エヘヘヘヘヘへ!」
「なんだよ!」
「タカさん! 大好きです!」
「ばか!」
タカさんに抱き着いた。
ロボは諦めて、タカさんの隣に横になった。
タカさんが、私の頭を撫でてくれた。
タカさん、愛してますってぇ!
タカさんはいつだって同じだ。
大事な仲間を愛して来た。
その仲間を傷つける人間を許さなかった。
でも、本当はそれだけじゃない。
タカさんのあの優しさで、どうしようもなく悲しかったんだ。
前に聞いた、赤木さんのお話。
タカさんは怒り狂っていたけど、ついに敵の馬路を殺さなかった。
赤木さんが辞めるように言ったからだ。
タカさんが愛した人たちは、タカさんのことも愛していた。
だから、自分の命などよりも、タカさんのことを考えた。
赤木さんは、激痛なんて言葉じゃ足りない程の痛みの中で、タカさんを止めた。
レイは自分の命を捧げた。
シャドウさんが誘拐された時も、タカさんのために自爆しようとしたそうだ。
鷹さんは「女」を喪うことを知って、命懸けでタカさんのために「飛行:鷹閃花」を体得した。
青嵐さんは、タカさんの大事な御堂さんを護るために「デス・ウィッシュ」を使って死ぬつもりだった。
御堂さんも、自分を攻撃させて「渋谷HELL」を終息させた。
井上さんも、御堂さんを助けようと襲撃の最中に避難所を飛び出した。
今も多くの人たちがタカさんのために、命懸けで戦っている。
ああ、響子ちゃんは、自分が死ぬという時に、タカさんに命を預けたじゃないか!
響子ちゃんは、最期にタカさんと一緒にいたかったんだ!
私はそのことに気付いて、独りで号泣した。
みんな、そうなんだ……
そして、その夜、私は夢を観た。
どこかの広い高原。
綺麗な花が咲き誇っている。
遠くに青い山が連なっていて、その裾野までずっと草原が広がっている。
気持ちの良い風が吹いていた。
花の匂いを運んで来る。
美しい場所。
自分がそういう場所にいるのを、不思議と自然に受け入れていた。
丘の上に、白いパラソルと白いテーブルが見えた。
そこへ近づくと、男性が座っていて私を向いて微笑んだ。
すぐに分かった。
葬儀の時に遺影で観たイサさんだった。
「亜紀ちゃんだね? 初めまして」
「初めまして! 諫早さんですよね!」
「うん」
手招きされ、イサさんの向かいに座った。
「あの、ここは?」
「うん、ある方が用意して下さったんだ」
「ある方?」
「とっても上の方でね。特別に俺たちのために用意して下さったんだ」
「そうなんですか?」
よく分からないけど、私はイサさんとお話し出来て嬉しかった。
「亜紀ちゃんは、俺のためにいろいろ動いてくれたね」
「え、いいえ! 私が諫早さんのことが気になって、どうしても。でも、何となく私の中で分かったみたいです」
「そうか。トラさんには本当に申し訳ないことをした」
「そんな! タカさんは諫早さんのことが本当に大事で!」
「トラさんは本当に優しい。でも、そんなトラさんを俺は苦しめてしまったよ」
「それはそうですよ! 大事な諫早さんを喪って、タカさんが悲しまないはずはありません! でも、諫早さんのせいじゃないですよ!」
「うん」
諫早さんが優しく笑った。
ああ、やっぱりこういう人だったんだ。
「諫早さんはほんの少しも、タカさんのことを裏切ろうとはされませんでした。ご家族を喪っても」
「それはそうだよ。トラさんを裏切るなんて絶対に無い」
「はい! だからタカさんも諫早さんが何か悪かったなんて全然思ってません!」
「そうか」
「タカさんは諫早さんに何も出来なかったことが悲しいんだと思います」
「そんなことはないよ。トラさんは最後に俺の気持ちを汲んでくれた。それで満足だ」
イサさんは透き通るような明るい笑みを浮かべた。
イサさんが心底から満足しているのが分かって、私も嬉しくなった。
「タカさんは、最初からイサさんが死ぬおつもりだったのは分かっていたんでしょうか」
「そうだね。トラさんは最初に俺を睨んでいたんだ」
「え!」
「俺に事情を話せ、頼れって言うつもりだったんだよ」
「でもイサさんは、そうしなかったんですね」
「うん。今だから分かるけど、トラさんは俺がどうしようもない状況にあると分かっていたんだ。家族が人質とかは知らなかっただろうけどね。だけど、俺がトラさんに何も話していないってことは、トラさんは俺が死ぬつもりだってことは分かっていたと思う」
「イサさんはタカさんを絶対に裏切らないですもんね。だったら、もう……」
イサさんが優しく笑った。
「そうだよ。トラさんに話さずに、最初の約束通りに一緒に食事をすることにした。それは、トラさんが俺が覚悟を決めていることを知っていたということだね」
「タカさん……」
「それでもトラさんは俺を睨んだ。その気持ちを考えると、今でも申し訳ないよ」
「……」
「俺が何も言わずに笑っているんで、トラさんも付き合ってくれた。きっと一緒に来たマクシミリアンさんも同じだったと思う」
「はい……」
「楽しかった。本当に最後に楽しくて、最高の時間を過ごせた」
「イサさん……」
イサさんはまた私に笑い掛けてくれた。
「でも、やっぱりトラさんは辛かったんだな。あんなに怒り狂って」
「何度も、イサさんに敵から連絡が来ていたんですね?」
「うん。俺にトラさんを早く連れて行けってね。俺が死ねばトラさんも、街の人間も犠牲者は出ないと思っていたんだけどね」
「タカさんはやっぱり全部分かっていた……」
「トラさんは最高だからね。もちろんそうだよ。でも、最後はあんなに悲しんで。本当に申し訳ない」
「そんな。イサさんはご立派です」
イサさんは優しく笑い、立ち上がって泣き出した私の頭を撫でてくれた。
イサさんは全てを納得している。
自分の覚悟を通せたことを喜んでいるのが分かった。
私も落ち着いて来た。
「亜紀ちゃんは本当に優しいね」
「いいえ。でも本当に、そんな別れもあるんですね」
「ああ、そうだね。あれは最高だった。俺も本当に嬉しかった、何時間もトラさんと楽しく「ルート20」時代の話が出来た」
「そうですか!」
「一緒にいたマクシミリアンさんも良い方だった。トラさんが信頼する仲間なのはすぐに分かった。トラさんを任せられる人だと思ったよ」
「マクシミリアンさんも喜びますよ」
「じゃあ、是非伝えて欲しい。トラさんをお願いしますって」
「はい、必ず!」
私たちはしばらくの間、話していた。
「ルート20」の思い出を沢山聴かせて頂いた。
何時間、話していたのかも分からない。
やがて日が翳って来た。
「そろそろかな。亜紀ちゃんと話せて本当に良かったよ」
「私も! 諫早さん、またお会い出来ませんか?」
「それは無理かな。今回のことも、本当に特別な計らいなんだ」
「そうですかー。残念です」
「アハハハハハ。亜紀ちゃんには分からないだろうけど、本当に奇跡なんだよ?」
「はい、分かりました!」
イサさんが笑っていた。
「トラさんは本当に凄い人だ。こんな奇跡も用意してもらえる程にね。それに亜紀ちゃんも凄いよ。トラさんに信頼され、トラさんのために命懸けで戦っているんだね」
「当たり前ですってぇ!」
「アハハハハハハハハ! 今日は本当に楽しかった」
「はい、私も!」
「俺もトラさんのお陰で、こっちでは随分と良くしてもらえるそうだ」
「そうですか!」
「トラさんは最高だ」
「はい、本当に!」
私たちは握手をして別れた。
イサさんは眩く輝きながら、草原の風の中に消えて行った。
その神々しく美しい光景を、私は絶対に忘れない。
そして、私とイサさんにこの場所を用意してくれた方に最大の感謝を。
朝方に目が覚めた。
夢を観たことは分かっている。
自分が随分とイサさんを追い求めていたから観た夢なのかもしれない。
でも、それがどうした。
私はイサさんとお会いし、一杯お話しすることが出来たのだ。
それだけが、私の中の真実だ。
本当かどうかなど、どうでもいい。
私はイサさんを尊敬し、タカさんを愛しているのだ。
あんまり嬉しくってタカさんの部屋に突撃した。
ロボが怒って突っ込んで来てぶっ飛ばされた。
タカさんが笑いながらロボを宥めてくれ、「どうした」と聞いてくれた。
「エヘヘヘヘヘへ!」
「なんだよ!」
「タカさん! 大好きです!」
「ばか!」
タカさんに抱き着いた。
ロボは諦めて、タカさんの隣に横になった。
タカさんが、私の頭を撫でてくれた。
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