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「ルート20」絆 Ⅱ

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 バチカンでローマ教皇と会い、《タイガー・リッター(虎騎士団)》の運用の話し合いをした。
 虎騎士団の武装として「カサンドラ」の提供と特殊な防御力を持つコンバットスーツの製作などだ。
 そして俺の方から、特殊弾頭を使った銃器の貸与も可能だと話した。
 ガンスリンガーたちにはヒヒイロカネを使った弾頭を供給するつもりだったが、「Ωカメムシ」の粉末を練り込んだ弾頭でも驚異的な破壊力があることが分かったのだ。
 コスト的には「Ωカメムシ」の方が遙かに安価に済む。
 ローマ教皇、2人の枢機卿、そして虎騎士団の団長になったマクシミリアンの5人で話し合った。

 「騎士団は銃器も扱えるのか?」
 「もちろんだ。イシガミの武器は大いに役立つだろう」
 「イシガミ様、お支払いはどのように?」
 「代金はいりません。ここはヨーロッパの重要な拠点の一つになるでしょう。よろしくお願いします」
 「でも、それでは」
 
 俺は更に、もう一つの資料を見せた。
 マクシミリアンに説明する。

 「《レッドオーガ》と名付けた。高機動のモーターサイクルを開発しているんだ。良かったら騎士団で使ってくれ」
 「ほんとかぁ!」

 バイクの好きなマクシミリアンが喜んだ。
 俺が《レッドオーガ》の映像を見せると、更に興奮する。
 「紅六花」の連中が乗り回している映像だった。

 「イシガミ! これは素晴らしいな!」
 「な!」

 ローマ教皇たちは笑っていた。
 
 「騎士団は馬に乗ってないとな」
 「その通りだ!」

 俺からの話は終わり、ローマ教皇庁側からの話を聞いた。

 「イシガミ、実はフランス政府の動きが怪しいんだ」
 「フランスか」
 「ああ。どうも今の政府の上層部が、「カルマ」に接触している節がある」
 「そうか」

 俺はそれほど驚かなかった。
 フランスは気位が高い国だ。
 東洋人が自分たちの上に立つのは気に食わないと思っていることは分かっていた。

 「レジーナからも情報が提供された。極秘に非正規部隊を編成し、破壊工作を企んでいる」
 「破壊工作?」
 「今後ヨーロッパに建造される、「虎」の軍の施設への妨害や破壊工作だろうとレジーナたちは言っている。それともう一つ」
 「なんだ?」
 「イシガミの暗殺計画だ」
 「俺の?」
 
 およそ現実的ではないと思った。
 フランスは軍事大国ではあっても、俺に何か出来るわけもない。
 通常戦力でどのように来ても、俺を暗殺することは不可能だ。
 それこそ、核ミサイルを飛ばしても無駄だ。

 「お前が考えていることは分かる。だが、お前のかつての親しい人間を使おうとしているらしい」
 「なんだ?」

 マクシミリアンは、フランス政府内の内通者から計画の詳細を掴んでいると言った。
 バチカンは昔から各国に、非常に強力な独自の諜報網を持っている。
 そして、その情報は予想以上に詳細だった。

 「名前はまだ分からない。だが、「ルート20」の人間だと聞いた」
 「!」

 「イシガミ?」

 それは、イサのことか。

 「実はこの後、「ルート20」の諫早という男に会う予定なんだ」
 「なんだと!」

 マクシミリアンが興奮して立ち上がった。

 「そいつだ! 間違いないぞ!」
 「待て、マクシミリアン。イサは俺が信頼する人間だ」
 「そんなことは関係ない! あいつらはどんな手段でも使うぞ!」
 「イサは絶対に俺を裏切らない! 俺たちには絆があるんだ」
 「おい、イシガミ! 甘いことを言うな!」

 俺は手で制してマクシミリアンを黙らせた。

 「俺を信じろ、マクシミリアン。お前が俺を裏切らないのと同じだ。イサは俺を絶対に裏切らない」
 「イシガミ……しかし……」

 マクシミリアンは俺に言った。

 「おい、俺も一緒に行くぞ」
 「なんだと?」
 「俺がお前を護る。きっとお前が言った通りなのだろうとは思う。だが俺はイサハヤを知らない。俺に同行させてくれ」
 「……」

 俺は結局、マクシミリアンを連れて行くことに決めた。
 バチカンも俺のために懸命に動いているのだ。
 俺の信念は変わらない。
 イサは俺の大事な仲間だ。
 ならば、どんな疑いがあろうと俺たちには関係ない。
 イサは俺を絶対に裏切らない。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 9月の下旬に、トラさんから連絡があった。
 10月の初めにバチカンへ来るということで、俺の方からローマで会えないかと頼んだ。
 トラさんは喜んで会おうと言ってくれた。
 俺も嬉しかった。

 しかしその数日後、俺の妻と娘が誘拐された。
 白昼堂々と、武装集団が買い物に出た二人を拉致したことが分かった。
 組織的な犯行だ。
 警察が街頭カメラの映像から所持している武器などを見て、大きな組織だろうと言った。

 翌日に、犯人から連絡があった。
 警察に知らせずに、パリ市内の店に来るように呼び出された。

 「ツグォ・イサハヤだな」

 黒いスーツを着た男たちが、俺の日本語の名前をようやく発音した。
 
 「我々は政府の人間だ」
 「なんだと!」
 「奥さんと娘さんは大事に預かっている。君が我々に逆らわない限り、安全は保障する」
 「お前ら、何を言っているんだ!」
 
 政府の人間と名乗った。
 どういうことか。

 「フランス政府は「虎」の軍と袂を分かち、「カルマ」の軍に協力することになった」
 「それがどうした?」
 「落ち着きたまえ。君は我々に逆らうことは出来ない。それを理解しろ」
 「……」

 男は、俺が協力しなければ妻と娘の命は無いと言った。
 本当にその通りなのだろうと確信した。
 俺の目の前にいる連中は明らかなプロフェッショナルだ。
 
 「分かった。何をすればいいんだ?」
 「タカトラ・イシガミを知っているな?」
 「トラさん!」
 「そうだ。タカトラ・イシガミは「虎」の軍の最高司令官だ。彼があのとんでもない軍隊を創った」
 「トラさんがか!」
 「信じられんか?」
 「い、いや。あの人ならあり得る。そうじゃない、トラさんならば必ず! あの人は必要なことは何でもやるんだ!」
 「まあ、その通りだ。イシガミの意志の強さは我々も思い知っている」
 「そうだろう!」

 不思議とトラさんの名前が出て、俺も興奮した。

 「君はタカトラ・イシガミと近々会う予定だな?」
 「それがどうした?」
 「彼をある場所へ案内して欲しい。出来れば君たちが会う店を、我々の指定の店にしてくれ」
 「トラさんをどうするんだ!」
 「大きな爆弾を仕掛ける。君はイシガミを連れて行ったらすぐに離れれば良い」
 「!」

 俺は店を出て家に戻った。
 俺には全部分かった。
 あいつらは俺を巻き込んで殺すつもりだ。
 俺が離れてトラさんが何か気付けば、全ては水泡に帰す。
 だったら、そういうことだ。

 「そうか、そういうことか」

 俺のことは全て調べ上げられていたのだろう。
 相手は確かにフランス政府の上層部に繋がっており、警察を頼っても無駄だと言った。
 それでも俺は警察に、犯人の組織の人間から接触されたと言った。
 しかし、警察の表面的な対応で、型通りの「対処する」という返答だけだった。
 こいつらはもう俺に味方するつもりはないのだということが分かった。
 相手の組織は相当に大きく、そして本当に政府の上層部に繋がっているのだろう。
 
 後に俺が案内すべきローマのある区画の店が示された。
 俺の心は最初から決まっている。

 妻と娘の顔が思い浮かんだ。
 そして、トラさんの顔が浮かんだ。






 俺の心は、もう決まっているのだ。
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