富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
上 下
2,511 / 2,920

北海道「無差別憑依」事件 Ⅳ

しおりを挟む
 石神からの要請があり、俺たち「アドヴェロス」もすぐに出動した。
 「タイガーファング」が来てくれ、俺たちは専用の「ファブニール」である《ザンザス》ごと運んでもらった。
 石神たちと連携するためには、共通の量子AIを積み込んだ《ザンザス》が必要だったからだ。

 先ほど、石神から柏木さんを送って欲しいと言われた。
 すぐに「タイガーファング」が来て柏木さんを乗せた。

 どうやら、今回のライカンスロープはまだ人間の意識を残している者がいるらしい。
 もしかしたら、元に戻せる可能性を石神は考えていた。
 本当にそれが出来たらどんなに素晴らしいことか!
 でも、これまでも石神と蓮花さんたちが散々研究し、試していたことだ。
 石神の友の槙野さんを死なせてしまったことで、石神も必死にその方策を模索した。
 しかし、失敗したと聞いている。
 石神の嘆きは大きかった。

 「早乙女さん! また集団が来ます!」
 「分かった! 磯良、愛鈴! 頼む!」
 「「はい!」」

 青函トンネルは磯良と愛鈴に任せ、早霧たちは海上を飛んで来る連中を任せていた。
 獅子丸は俺たちの傍にいて、もしもの場合の援護要員だ。
 羽入と紅は逆に遊撃的に敵に対応していた。
 青函トンネルが主力だったが、海上を飛んで来るライカンスロープも結構いた。
 成瀬は「虎」の軍のデータとリンクして、本土へ向かってくる敵を把握していく。
 大きく迂回するライカンスロープもいる可能性もあったが、石神はそれは別な部隊にやらせていると言った。
 成瀬が端末を見ながら言った。

 「早乙女さん、道内の状況はまだ混乱しているようです」
 「そうか」

 成瀬が見ている画面には、敵の数を示す多くの光点がまだまだ多い。
 色分けされているのは、「憑依型」の妖魔とそれによって怪物化したライカンスロープのものだ。
 「憑依型」の妖魔を示す赤の光点はまだ無数にある。
 北海道の全域にそれは拡がっており、石神たちも奮戦しているはずだが、まだ犠牲者は増えそうだった。
 通信が入った。

 「どうした、羽入!」
 「早乙女さん、俺たちの所へはほとんど敵が来ません!」
 「そうか」
 「俺たちも北海道へ渡らせて下さい!」
 「なんだと!」
 「紅が言ってます。現場はまだまだ人手が必要らしいって」
 「それはそうだろうが」
 「お願いします! 少しでも救える人間を!」
 「……」

 みんな同じ気持ちだ。
 成瀬が通信を聞いていて俺に向かってうなずいた。

 「分かった! 「虎」の軍に連絡して、お前たちも道内へ行ってくれ!」
 「ありがとうございます!」

 こっちは何とかなりそうだ。
 羽入の言う通り、少しでも救える人間が増えればと思った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「「業」様、状況は上手く行っています」

 「業」様はお顔に笑顔を作られた。
 今回は怪物化しても、しばらくは人間の意識を残すように「憑依」を調整しているものが大半だ。
 そうすることで、石神たちは手をこまねき、より大きな被害を得られるはずだ。
 数日もすれば妖魔が完全に乗っ取るのだが、甘い石神は保護を考えるかもしれない。
 それに、即座に妖魔が意識を乗っ取る者も少数混ぜている。
 きっと大混乱に陥るだろう。
 ああ、笑いが止まらない。

 しかし、「業」様が肩で大きく息をしている。
 あの「業」様が疲弊しているとは!

 「「業」様、もうお休み下さい」
 「あと一手だ」
 「でも、もう十分に」
 「いや、あと二つゲートを開く。「神」と《地獄の悪魔》を送り出せ」
 「二つもですか?」
 「ああ、北海道には石神の足止めで「神」を送る。青森にはあの目障りな警察たちがいる」
 「はい、でもあのような小者たちを」
 「石神を苦しめるためだ。いいから準備しろ」
 「はっ!」

 ゲートを作るのは「業」様にとっても相当な御負担になる。
 特に今回は無数のゲートを広範囲に作ったのだ。
 そして最後に大型のゲートを作ると仰った。
 この作戦は「業」様にとって重要なものなのだろう。
 嫌がらせのようなものではあったが、確実に石神たちを苦しめている。
 日本でこれほどの被害が出たのならば、「虎」の軍への信頼は大きく失墜する。
 御堂と共に日本中から歓迎されている石神たちに、一矢を報いることになるだろう。
 私は「業」様の御命令に従い、「神」と《地獄の悪魔》の召喚の準備をした。
 石神は「神」を降すだろうが、その間に《地獄の悪魔》が警官たちを皆殺しにする。
 《デモノイド》に手をあぐねていた奴らに、《地獄の悪魔》は斃せない。

 見ていろ、石神。
 お前の大事な者たちを皆殺しにしてやる。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 
 俺と紅は江別市に飛んだ。
 紅に抱えてもらって移動する。
 
 「羽入、作戦に大きな変更があった」
 
 飛行中に紅が俺に言った。

 「なんだ?」
 「ライカンスロープの中に、まだ人間の意識を残している者が多いそうだ。そういう者は釧路に移送し、隔離することになった」
 「そうなのか!」
 
 敵の殲滅作戦ではなくなった。
 でもそれは、俺にも喜ばしいことだった。

 「じゃあ、元に戻せるってことか!」
 「いや、それはまだ不明だ。これから研究して行くんだろう、でもきっと石神様ならば」
 「そうなのか」

 紅が言った。

 「羽入、油断するな。時間が経過すれば本来のライカンスロープになる可能性が高い。それに擬態する連中もいるに違いない」
 「ああ、分かった」
 「いや、お前は甘い所がある。だから心配なんだ」
 「大丈夫だよ。お前がちゃんと守ってくれるんだろう?」
 「もちろんだ!」

 二人で笑った。
 数分後、俺たちは江別市に降りた。





 江別市でも、「虎」の軍のソルジャーやデュールゲリエたちが戦闘を展開している。
 だが、敵の数が多く、しかも散開しているのでなかなか進んでいない。
 どこも同じ状況なのだろう。
 俺と紅はすぐに「憑依型」の妖魔の索敵に入った。
 紅が霊素観測レーダーからのデータを受け取って、敵の位置を探っていく。
 俺は周囲の凶暴なライカンスロープを撃破しつつ、紅が指示する人間の意志を残した者をデュールゲリエに引き渡す。
 「憑依型」の妖魔は結界を張る別な妖魔がいるらしく、発見は困難を極めた。

 「羽入! 《ウラノス》が解析した! 結界内の「憑依型」も分かるようになったぞ!」
 
 いい知らせだった。
 俺たちはデータを受け取りながら、どんどん移動して「憑依型」の妖魔を狩って行った。
 少し後で、また《ウラノス》が新たな解析を終え、人間の意識を残したライカンスロープも餞別出来るようになった。
 紅が俺に指示を飛ばし、どんどん作業は進んで行った。

 「紅、いい感じだな!」
 「ああ、臨界ポイントも随分と伸びた!」
 「そうか!」

 俺たちは必死で狩りと撃破と収容を続けて行った。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 「早乙女さん、視認撃破数は100%です!」
 「おお、そうか!」

 《ザンザス》の中で俺たちは喜んでいた。
 磯良と愛鈴は青函トンネルを守り切り、早霧たちも広い範囲を防衛している。
 早霧たちの移動はデュールゲリエが運んでいるので、高速で処理出来ている。
 青森の霊素観測レーダーで、大きく迂回するライカンスロープが、石神の言う別な部隊が全て撃破していることが分かった。

 「徐々に本土に渡るライカンスロープの数が減少してます」
 「石神たちが頑張っているんだろう」
 「ええ、でもまだまだ道内は相当数が残ってますよ」
 「とにかく俺たちはここでの防衛だ。気を抜かずに頑張ろう」

 戦闘が始まって既に2時間が経過している。
 そろそろ交代で休憩をさせようと思った。
 その時、成瀬が叫んだ。

 「霊素観測レーダーに大きな反応! ゲートが開きます!」
 「なに!」
 「北海道で展開したものとは全然違います! 大きな妖魔が来るかも!」
 「全員を呼び戻せ! 羽入と紅もだ!」
 「はい!」

 





 俺の後ろで控えていた十河さんが俺の肩に手を置いた。

 「早乙女さん、いよいよ私の出番ですかね」
 
 何の気負いも無かった。
 十河さんはいつでも、自分が出るつもりだったのだ。

 「はい、その時には宜しくお願いします」
 「分かりました」

 俺は前に向き直った。
 情けなくも、涙が零れそうになったのだ。
 十河さんをまだ死なせたくない。
 俺はそのために全力を傾けるつもりだった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...