2,453 / 2,859
挿話: 響子の家出
しおりを挟む
また少し前の8月初旬。
オペが終わった午後3時に、六花が俺の第一外科部に駈け込んで来た。
「石神先生!」
「おう、どうした?」
六花の顔は青く、泣きそうな顔になっている。
「響子が!」
「なんだ!」
「いなくなりました!」
「なんだと!」
六花を落ち着かせ、状況を聞いた。
いつもは午睡で眠っているはずが、六花が昼食から戻ると響子がベッドからいなくなっていたそうだ。
置手紙を残して。
六花がその手紙を俺に見せた。
《旅に出ます。探さないで》
「……」
「あの、石神先生」
「あんだこれ?」
「響子はどこへ行ってしまったのでしょうか!」
「あ?」
「だってぇ!」
「まあなぁ」
一応家出かぁ。
そういえば昨日、響子がぐずっていた。
俺が最近どこへも連れて行かないということだ。
石神家などへ出掛けていて、俺も忙しかったのだ。
虎白さんからもらった岩海苔を土産にやったら、「美味しい!」と喰っていたのだが。
「こんなものじゃ誤魔化されないよ!」
「お前、美味そうに喰ってるじゃん」
「なによ!」
ご飯をお替りした。
六花が笑っていると、また響子が怒った。
「もう、二人とも!」
「「ワハハハハハ!」」
「!!!!」
ご飯はしっかり食べて、不貞寝した。
「昨日の癇癪かぁ」
「はぁ、多分」
「「般若」あたりじゃねぇの?」
「さっき見に行きましたが、来てないそうです」
「じゃあ、「緑翠」?」
「そっちも念のために電話で」
「チビザップ?」
「マシンが全然動かないんで、もう飽きてて」
「……」
また飽きたかぁー。
しかし、響子の行動範囲は狭い。
それにそんなに遠くまでは歩けない。
「あ、セグウェイはどうなってる?」
「あ!」
二人で見に行った。
セグウェイが無くなってた。
「あれで行ったかー」
「じゃあ、結構移動しますね」
「でもこの炎天下になぁ」
「心配です!」
六花がまた泣きそうな顔になった。
「大丈夫だ、レイが付いてるんだからよ!」
「はい、でも……」
「とにかく俺も探す。おい、手の空いてる奴!」
部下が数名手を挙げた。
俺と六花の話を聞いている。
「病院内を探してくれ。俺と六花は外に出る」
4人の部下が部屋を出て行った。
六花を着替えさせ、俺と一緒に外へ出た。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
頑張って、アラームを掛けてお昼寝を早く起きた。
今は午後2時。
ねむいよー。
六花はまだ30分は戻ってこないだろう。
顔を洗って服を着替えた。
フェラガモの白の半袖のシルク混のワンピースにエスカーダの鍔の大き目の帽子を被った。
一応、タカトラにもらったプラダのキャッツアイのサングラスを掛ける。
これで誰も分からないはずだ。
「え? 辞めた方がいいって?」
レイが私を止めた。
分かってるけど辞められない。
タカトラも六花も、私のことを放りっぱなしだ。
だったら、私が自分で外に出るしかないじゃない。
ルーちゃんたちに貰った虎ポーチを肩に掛けた。
「ちょっと外へ出るだけだからさ」
手紙を置いた。
ちょっと心配させてやろう。
《旅に出ます。探さないで》
これでよし!
病院内は、誰にも見咎められずにお見舞い客用の出口から出られた。
タカトラに止められている場所もセグウェイで走った。
あたしは不良だぁー!
♪ 盗んだバイクで走り出す 行き先も解らぬまま ♪
セグウェイはタカトラにもらったものだけど。
外に出た。
ものすごい、暑かった。
目の前は「般若」だ。
でも、あそこだとすぐにタカトラに捕まる。
オニオニや涼ちゃんには頼んだらちょっとは匿ってもらえるかもしれないけど、カスミちゃんはダメだ。
絶対にタカトラに忠実だからだ。
セグウェイで移動しようと思ってたけど、暑くてムリ。
「般若」の駐車場の隅に行って、可愛らしいワゴン車の隣に置かせてもらった。
帽子も邪魔なので一緒に置く。
ごめんなさい。
最近は随分と体力が出来て、結構遠くまで歩けるようになった。
「今日は渋谷に行くぞー」
頑張って虎ノ門駅まで歩いた。
途中で3回休んだ。
ふー。
虎ノ門駅は知ってる。
前にタカトラと六花と一緒に銀座から帰って来たことがある。
あの時よりも体力がある。
地下鉄口の階段を降りて、タカトラにもらったパスモで改札を潜った。
サングラスはポーチに仕舞った。
丁度病院からの降り口が渋谷本面行きだ。
すぐに銀座線が来て、乗り込んだ。
良かった、シートが空いてる。
私が座ると、乗客から一斉に見られた。
なんでだろ?
渋谷が近付くと、若い男性二人が私の前に立った。
「ねぇ、どこ行くの?」
「渋谷」
「うわぁ、日本語喋れるんだ!」
「うん」
「へぇー、一人?」
「ううん、レイと一緒」
「れい?」
渋谷駅に着いた。
私が降りると、その二人も後ろを付いて来た。
「ねぇ、一緒に遊ぼうよ」
「いい」
「レイさんって、女の子?」
「虎」
「え?」
「ちょっとウザいんだけど」
「なに?」
「もうあっちいって」
「おい」
男の一人が私に触ろうとした。
ぶっ飛んだ。
「おい、今なにし……」
もう一人もぶっ飛んだ。
なんか動かないので、そのまま歩いた。
「ありがとう、レイ!」
「え、危ないって? うん、気を付けるね」
「エヘヘヘヘ」
取り敢えず、ハチ公口に降りた。
渋谷だぁー!
暑いよー。
目の前のスタバに入ろうと思った。
交差点で信号を待ってると、ゴーカートの集団が道路を走って来た。
10台くらい。
なんか楽しそう。
すると先頭の何台かが私の前で停まった。
「君、カワイイね!」
「なに?」
他のゴーカートも気付いて私の前に集まって来る。
大勢の人が私たちを見ていた。
なんなんだ。
10人くらいの人が私を取り囲んだ。
突然竜巻みたいに空中に巻き上げられて、どっかに飛んでった。
「……」
交差点で信号待ちをしてた大勢の人たちが驚いて叫んでいる。
信号が変わった。
急いで横断歩道を渡った。
後ろで大騒ぎになってる。
知らないもん……
「うん、分かった。気を付けるって」
レイが危ないって言ってる。
でも、とにかくどっかで冷たいものを飲みたいよー。
人混みに紛れてセンター街って道を歩いた。
「カワイー! ねぇ……」
ぶっ飛ぶ。
「ちょっとちょっと、ねぇ……」
ぶっ飛ぶ。
「あ、君さ……」
ぶっ飛ぶ。
「エクスキューズ……」
ぶっ飛ぶ……
なんか20人くらいどっかに消えてった。
なかなかお店に入れないよー!
オペが終わった午後3時に、六花が俺の第一外科部に駈け込んで来た。
「石神先生!」
「おう、どうした?」
六花の顔は青く、泣きそうな顔になっている。
「響子が!」
「なんだ!」
「いなくなりました!」
「なんだと!」
六花を落ち着かせ、状況を聞いた。
いつもは午睡で眠っているはずが、六花が昼食から戻ると響子がベッドからいなくなっていたそうだ。
置手紙を残して。
六花がその手紙を俺に見せた。
《旅に出ます。探さないで》
「……」
「あの、石神先生」
「あんだこれ?」
「響子はどこへ行ってしまったのでしょうか!」
「あ?」
「だってぇ!」
「まあなぁ」
一応家出かぁ。
そういえば昨日、響子がぐずっていた。
俺が最近どこへも連れて行かないということだ。
石神家などへ出掛けていて、俺も忙しかったのだ。
虎白さんからもらった岩海苔を土産にやったら、「美味しい!」と喰っていたのだが。
「こんなものじゃ誤魔化されないよ!」
「お前、美味そうに喰ってるじゃん」
「なによ!」
ご飯をお替りした。
六花が笑っていると、また響子が怒った。
「もう、二人とも!」
「「ワハハハハハ!」」
「!!!!」
ご飯はしっかり食べて、不貞寝した。
「昨日の癇癪かぁ」
「はぁ、多分」
「「般若」あたりじゃねぇの?」
「さっき見に行きましたが、来てないそうです」
「じゃあ、「緑翠」?」
「そっちも念のために電話で」
「チビザップ?」
「マシンが全然動かないんで、もう飽きてて」
「……」
また飽きたかぁー。
しかし、響子の行動範囲は狭い。
それにそんなに遠くまでは歩けない。
「あ、セグウェイはどうなってる?」
「あ!」
二人で見に行った。
セグウェイが無くなってた。
「あれで行ったかー」
「じゃあ、結構移動しますね」
「でもこの炎天下になぁ」
「心配です!」
六花がまた泣きそうな顔になった。
「大丈夫だ、レイが付いてるんだからよ!」
「はい、でも……」
「とにかく俺も探す。おい、手の空いてる奴!」
部下が数名手を挙げた。
俺と六花の話を聞いている。
「病院内を探してくれ。俺と六花は外に出る」
4人の部下が部屋を出て行った。
六花を着替えさせ、俺と一緒に外へ出た。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
頑張って、アラームを掛けてお昼寝を早く起きた。
今は午後2時。
ねむいよー。
六花はまだ30分は戻ってこないだろう。
顔を洗って服を着替えた。
フェラガモの白の半袖のシルク混のワンピースにエスカーダの鍔の大き目の帽子を被った。
一応、タカトラにもらったプラダのキャッツアイのサングラスを掛ける。
これで誰も分からないはずだ。
「え? 辞めた方がいいって?」
レイが私を止めた。
分かってるけど辞められない。
タカトラも六花も、私のことを放りっぱなしだ。
だったら、私が自分で外に出るしかないじゃない。
ルーちゃんたちに貰った虎ポーチを肩に掛けた。
「ちょっと外へ出るだけだからさ」
手紙を置いた。
ちょっと心配させてやろう。
《旅に出ます。探さないで》
これでよし!
病院内は、誰にも見咎められずにお見舞い客用の出口から出られた。
タカトラに止められている場所もセグウェイで走った。
あたしは不良だぁー!
♪ 盗んだバイクで走り出す 行き先も解らぬまま ♪
セグウェイはタカトラにもらったものだけど。
外に出た。
ものすごい、暑かった。
目の前は「般若」だ。
でも、あそこだとすぐにタカトラに捕まる。
オニオニや涼ちゃんには頼んだらちょっとは匿ってもらえるかもしれないけど、カスミちゃんはダメだ。
絶対にタカトラに忠実だからだ。
セグウェイで移動しようと思ってたけど、暑くてムリ。
「般若」の駐車場の隅に行って、可愛らしいワゴン車の隣に置かせてもらった。
帽子も邪魔なので一緒に置く。
ごめんなさい。
最近は随分と体力が出来て、結構遠くまで歩けるようになった。
「今日は渋谷に行くぞー」
頑張って虎ノ門駅まで歩いた。
途中で3回休んだ。
ふー。
虎ノ門駅は知ってる。
前にタカトラと六花と一緒に銀座から帰って来たことがある。
あの時よりも体力がある。
地下鉄口の階段を降りて、タカトラにもらったパスモで改札を潜った。
サングラスはポーチに仕舞った。
丁度病院からの降り口が渋谷本面行きだ。
すぐに銀座線が来て、乗り込んだ。
良かった、シートが空いてる。
私が座ると、乗客から一斉に見られた。
なんでだろ?
渋谷が近付くと、若い男性二人が私の前に立った。
「ねぇ、どこ行くの?」
「渋谷」
「うわぁ、日本語喋れるんだ!」
「うん」
「へぇー、一人?」
「ううん、レイと一緒」
「れい?」
渋谷駅に着いた。
私が降りると、その二人も後ろを付いて来た。
「ねぇ、一緒に遊ぼうよ」
「いい」
「レイさんって、女の子?」
「虎」
「え?」
「ちょっとウザいんだけど」
「なに?」
「もうあっちいって」
「おい」
男の一人が私に触ろうとした。
ぶっ飛んだ。
「おい、今なにし……」
もう一人もぶっ飛んだ。
なんか動かないので、そのまま歩いた。
「ありがとう、レイ!」
「え、危ないって? うん、気を付けるね」
「エヘヘヘヘ」
取り敢えず、ハチ公口に降りた。
渋谷だぁー!
暑いよー。
目の前のスタバに入ろうと思った。
交差点で信号を待ってると、ゴーカートの集団が道路を走って来た。
10台くらい。
なんか楽しそう。
すると先頭の何台かが私の前で停まった。
「君、カワイイね!」
「なに?」
他のゴーカートも気付いて私の前に集まって来る。
大勢の人が私たちを見ていた。
なんなんだ。
10人くらいの人が私を取り囲んだ。
突然竜巻みたいに空中に巻き上げられて、どっかに飛んでった。
「……」
交差点で信号待ちをしてた大勢の人たちが驚いて叫んでいる。
信号が変わった。
急いで横断歩道を渡った。
後ろで大騒ぎになってる。
知らないもん……
「うん、分かった。気を付けるって」
レイが危ないって言ってる。
でも、とにかくどっかで冷たいものを飲みたいよー。
人混みに紛れてセンター街って道を歩いた。
「カワイー! ねぇ……」
ぶっ飛ぶ。
「ちょっとちょっと、ねぇ……」
ぶっ飛ぶ。
「あ、君さ……」
ぶっ飛ぶ。
「エクスキューズ……」
ぶっ飛ぶ……
なんか20人くらいどっかに消えてった。
なかなかお店に入れないよー!
0
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる