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あの日、あの時: 赤木巡査 Ⅲ

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 「馬路さん、こいつ、どうすんですか?」 
 「もっと痛めつけてから殺す」
 「そうですか。じゃあ、ブルーシート用意しますね」

 すぐに数人がでかいブルーシートを床に敷いた。
 「後片付け」が簡単になるようにだ。
 これまで何度もやっている。 
 毎回、人を殺す時には「死蝋」の全員を集めている。
 今日もこれからポリを一人殺すのだ。
 全員を絡めて、誰にも罪を負わせる。

 俺はこれから「ルート20」と戦争をするつもりだった。
 いつまでもあいつらにでかい顔はさせない。
 そのために警官の銃を奪い、そしてあの赤虎が親しくしているポリを一人殺すのだ。
 「ルート20」は赤虎でもってる。
 だからあいつを殺せばどうとでもなる。
 しかし、赤虎はとんでもなく強い。
 鉄パイプや金属バットでは赤虎は殺せない。
 化け物みたいな奴だ。
 だから拳銃を手に入れた。

 赤木を背負っていた幹部の小牧が、床に敷かれたブルーシートに赤木を転がした。
 気を失っていた赤木が、小さく呻いて目を開いた。
 頭から結構な量の血が流れている。
 鉄パイプでぶっ飛ばしたからだ。
 思い切り殴ったが、まだ生きている。
 どうせこれから殺すのだが。
 赤木が呻いた。

 「おい、ここは……」
 
 顔が苦痛に歪んでいた。
 頭が痛ぇんだろう。
 そりゃそうだ。
 死んでりゃ楽だったろうよ。

 「お前、これから殺すから」
 「……」

 赤木にも分かってるだろう。
 ポリ相手に襲撃して攫ったんだ。
 それだけの覚悟が分かれば、ここで自分がどうなるのかも分かる。

 「お前、赤虎と親しいんだよな?」
 「……」
 「あいつをこの拳銃で殺す」
 「……」
 
 俺が問うと、赤木は黙り込んで俺を睨んでいた。
 赤虎の名前が出た瞬間に、瀕死の目に力がこもった。
 気に入らねぇ。

 「普通には殺さねぇ。泣き叫んでクソと小便を漏らすまで責める」
 「……」
 「怖いか」
 「そりゃ怖いよ。でも、どうして僕にそんなことをするんだい?」
 「お前が赤虎と仲良しだからだよ。それにこないだは俺の楽しみを邪魔したしな」
 「君たちは女子高生を拉致しようとした」
 「お前が邪魔をした」
 「当たり前だろう!」
 
 俺は赤木の右足を持ち上げてアキレス腱を切った。
 赤木が大きな悲鳴を上げ、気分が良くなった。
 
 「ここはどんなに大声を出しても誰にも届かない」

 赤木は縛られた身体で俺を見上げた、
 睨むでもない、ただ真っすぐに俺を見ていた。
 気に食わない。

 俺は解体用の大ハンマーを持った。

 「じゃあ、始めるぜ」

 赤木は尚、俺を見つめていた。




 
 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 俺は路上にRZを停め、公衆電話ボックスで110番通報した。

 「佐野刑事に伝えて下さい。三井山の製材所で拉致された警察官がリンチを受けてます!」

 それだけ言って電話を切った。  
 現状を照らし合わせれば、すぐにパトカーで来てくれるだろう。
 多分、佐野さんが警察署で待機している。
 走り去った俺が、「死蝋」のアジトを知っていると分かったはずだ。
 俺から連絡が入ることも。
 
 最初から警官隊が取り囲めば、赤木さんの命が危ないと思った。
 佐野さんは口にしなかったが、多分馬路たちは二人の警官の拳銃を奪っている。
 そのために警察官の襲撃だ。
 警官隊の姿を見れば、ヤケになって赤木さんを殺してしまうかもしれない。
 だから俺が先行した。
 俺を見れば、赤木さんよりも一人で来た俺を潰そうとするはずだ。
 まずは赤木さんを救出しなければならない。

 俺は心配していた。
 拳銃を奪うことが目的であれば、赤木さんを攫う必要はない。
 だから、赤木さんをリンチに掛けるために攫ったと観なければならない。
 今、馬路たちは赤木さんをどのようにしていることか。
 俺は焦っていた。

 道路から、馬路たちがアジトにしている製材所へ下る道がある。
 バイクの音で気付かれないように、RZを降りて歩いて下った。
 赤木さんは多分怪我をしている。
 担いで逃げ切れるだろうか。
 馬路たちは80人の大所帯だ。
 恐らく今は全員が集まっている。
 そして全員が武装していることだろう。
 80人を相手に、赤木さんを護って逃げなければならない。
 それほどの人数を相手に戦うのは無理がある。
 その上で赤木さんを逃がさなければならない。
 俺は早く助け出さなければという思いを、懸命に押し留めていた。
 早くしなければ赤木さんの命の危険はそれだけ多くなる。
 しかし、確実に救出するためには、まずは状況を把握しなければならない。

 (落ち着け、必ず赤木さんを助けるのだ)

 俺は忍び足で製材所に近づいた。
 もう日が暮れかかっている。
 津久井湖の周辺の木々が黒くなりつつある。
 夜が近い。
 




 製材所に近づくと、やはり大勢の人間が集まっている気配がした。
 俺にはそういうことが分かるようになっていた。
 広い入り口には2人が見張りに立っている。
 俺は林の影から建物の脇に忍び寄り、薄汚れた窓から中の様子を手鏡を使って確認した。
 
 何か地面を叩く音が聞こえる。
 手鏡の小さな視界で何をしているのかを見た。

 (!)

 見た瞬快、俺は怒りの怒号を叫びながら、窓を破って中へ飛び込んだ。
 俺の中で大きなものが爆発していた。


 あいつら、なんてことを!


 「てめぇらぁ! 許さんぞぉ!」

 「赤虎だぁ!」

 作業所にいた全員が構え、急いで武器を手に取ろうとする。
 もう作戦も何も無い。
 全員をぶっ潰すことしか考えられなかった。
 俺は素早く接近し、目の前の奴の腹に前蹴りを見舞った。
 フルパワーだ。
 九の字に身体を折って、そいつが吹っ飛んだ。
 多分内臓破裂を起こし、背骨も傷めたかもしれない。
 普段の俺ならば、そこまではやらない。
 しかし、こいつらだけは別だ。
 
 こいつら!
 赤木さんの両足を潰しやがったぁ!
 でかい解体用の大ハンマーで、全員で叩き潰したのだ。
 赤木さんはもう意識を喪っている。
 赤木さんの制服のズボンが赤黒く染まり、平たくなっていた。
 裾から大量の血と肉片が押し出されている。
 生きているのかも分からないが、上半身にはまだ潰された痕は無い。

 どれほど痛かったことか。
 どれほど怖かったことか。
 どれほど絶望したことか!





 絶対に許さない!
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