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亜紀と柳のお留守番 Ⅳ
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一江さんに連絡した。
「ああ亜紀ちゃん! 体調は大丈夫?」
「はい、お陰様ですっかり! 柳さんも元気ですよ! 本当にありがとうございました」
「ううん、いいのよ。わざわざ連絡してくれたの?」
「ええ、それもあるんですが」
私は一江さんに佐野さんの連絡先を教えてもらいたいと言った。
「どういうこと?」
「さっき、家の倉庫の掃除をしてたんです。そうしたら佐野さんの手紙とか見つかって」
「え?」
「タカさんが高校を卒業する頃のお手紙なんです。タカさんのことをものすごく心配してたんです! 突然いなくなって連絡が取れなくなって」
「まあ、それは分かるけど」
「だから! 是非タカさんが無事で立派になってるってお伝えしたくて!」
「……」
一江さんが考えていた。
私の気持ちはもちろん通じているだろう。
「亜紀ちゃん、気持ちは分かるけどね」
「はい、タカさんに止められてるんですよね?」
「そう、部長の過去に勝手に介入するなって。前にね、私もいろいろ調べて連絡先は把握してるの。でも部長から厳重に勝手に連絡はとるなって命令されてるのよ」
「知ってます。でも、佐野さんだけは本当に」
「悪いけどね、亜紀ちゃんの頼みでもそれは聞けない」
「一江さん……」
「ごめんね。部長の許可があれば本当にすぐに教えられるけど」
「はい、分かりました。申し訳ありませんでした」
「ううん、ほんとにごめんね」
「はい、じゃあまた」
電話を切った。
「柳さん、どうですか?」
「うん、《アイオーン》が今やってる。あ! 出てきたよ!」
「やったぁー!」
私が電話で一江さんと話している間に、うちの量子コンピューター《アイオーン》が一江さんの《セラフィム》にハッキング攻撃を仕掛けていた。
一江さんが《セラフィム》に接触していたり、コンソールに入ればアウトだったが、私と話しているので対応する間は無かったはずだ。
そしてついに、《セラフィム》から佐野さんの情報を手に入れた。
一応はハッキングの偽装工作は《アイオーン》に命じて施している。
一江さんが攻撃されたと思わなければ、分からないに違いない。
《アイオーン》の方が《セラフィム》よりも高性能で、序列も上になっているから出来たことだ。
もちろん私たちが勝手に《アイオーン》にこんなことは命令出来ない。
実は皇紀の秘密コードを以前に偶然知ったからだ。
長く海外に滞在してる皇紀の部屋の掃除をしようと思って入ったからだ。
ついでに皇紀の「秘密コレクション」を覗こうとして本棚の本を抜いたら、それが出てきた。
《YOSHIOMIAAKIKOUKIRHUHER……》
540桁にもなる長大な文。
山中家の家族の名前から始まるそれが、私には重要なコードなのだと気づけた。
だから控えておいた。
今回、《アイオーン》の管理者コードのようなものではないかと試したのだ。
ビンゴだった!
佐野さんは、今は警察署を定年退職され、神奈川県の警備会社に勤めていらっしゃる。
柳さんとハイタッチし、すぐに連絡してみた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
亜紀ちゃんからの電話が終わると、デスクの端末から《セラフィム》が私に話し掛けて来た。
《一江様 ただいま《アイオーン》と交信いたしました》
「え、なに? 《セラフィム》、どういうこと?」
思いも寄らない報告で、一瞬戸惑った。
《セラフィム》と《アイオーン》は時々交信しているが、いちいち私に報告は無い。
《石神亜紀様の命令で、佐野健也様の現在の個人情報を求められたとのことです》
「え!」
《《アイオーン》は石神皇紀様の御用意した疑似管理者コードが使われたとのことで、私との間でディス・インフォメーションの情報を流すように提案いたしました。わたしも同意し、そのように対処いたしました。佐野健也様の情報に類似したものを作成し、《アイオーン》に渡しました》
「そんなことが……」
私は《セラフィム》から、どのような情報を渡したか聞いた。
電話でも亜紀ちゃんは佐野さんの情報を欲しがっていた。
私に断られることを見越して、《アイオーン》でハッキングをしようとしていたということか。
今、部長は盛岡の石神家本家に出掛けている。
亜紀ちゃんたちが掃除をしていて佐野さんの手紙を見つけたのは本当のことなんだろう。
そこで亜紀ちゃんがどうしても佐野さんを部長に会わせたいと思ったか。
前にも亜紀ちゃんは乾さんのことで思い立ち、乾さんと部長を会わせることに成功した。
あの時は私たちも協力した。
部長が本当に喜んでいた。
だけどあの後で部長から厳重に二度とやらないように言われた。
叱られたわけではない。
部長は特別な状況にいる。
恐ろしい敵に常に狙われているのだ。
だから、部長の大切な人間を増やせば、その人たちも狙われる可能性が高い。
乾さんにはディディを付けた。
あれは乾さんを幸せにしたいという思いの他に、自分と関わってしまった乾さんを護るという意味もあるのだ。
今部長の周囲にいる人間たちは当然防御対策をしている。
でも、これ以上増やせば増やす程、護り切れない可能性だってある。
それを部長は一番心配しているのだ。
《一江様、何か御指示はありますか?》
「ううん、大丈夫。その対処でいいわ。ありがとう」
《いいえ、どういたしまして》
さて、どうするか。
亜紀ちゃんは早速《セラフィム》から得た情報で、佐野さんに連絡するだろう。
佐野さんの現在の状況は私も覚えている。
神奈川県の警備会社で定年退職後に働いていらっしゃる。
《セラフィム》は別の警備会社の会社名と架空の連絡先を教えたようだ。
亜紀ちゃんが連絡しても通じない。
でも亜紀ちゃんはきっと諦めないだろう。
部長にすぐに連絡したいが、石神家本家に行っている間は緊急を要することでしか連絡しないように言われている。
もちろんそういう場合は私以外にも部長に連絡が行くようにもなっている。
だから明日部長が戻られる時にしか伝えられない。
予定では昼食を摂ってから盛岡を出発するということだった。
ただ、亜紀ちゃんの気持ちももちろん分かる。
出来れば穏便に済ませたいものだ。
今回は亜紀ちゃんの暴走だが、部長に知られる前に解決してあげたい。
優しい子が部長のためを思って行動したのだから。
私は大森に相談した。
「ああ亜紀ちゃん! 体調は大丈夫?」
「はい、お陰様ですっかり! 柳さんも元気ですよ! 本当にありがとうございました」
「ううん、いいのよ。わざわざ連絡してくれたの?」
「ええ、それもあるんですが」
私は一江さんに佐野さんの連絡先を教えてもらいたいと言った。
「どういうこと?」
「さっき、家の倉庫の掃除をしてたんです。そうしたら佐野さんの手紙とか見つかって」
「え?」
「タカさんが高校を卒業する頃のお手紙なんです。タカさんのことをものすごく心配してたんです! 突然いなくなって連絡が取れなくなって」
「まあ、それは分かるけど」
「だから! 是非タカさんが無事で立派になってるってお伝えしたくて!」
「……」
一江さんが考えていた。
私の気持ちはもちろん通じているだろう。
「亜紀ちゃん、気持ちは分かるけどね」
「はい、タカさんに止められてるんですよね?」
「そう、部長の過去に勝手に介入するなって。前にね、私もいろいろ調べて連絡先は把握してるの。でも部長から厳重に勝手に連絡はとるなって命令されてるのよ」
「知ってます。でも、佐野さんだけは本当に」
「悪いけどね、亜紀ちゃんの頼みでもそれは聞けない」
「一江さん……」
「ごめんね。部長の許可があれば本当にすぐに教えられるけど」
「はい、分かりました。申し訳ありませんでした」
「ううん、ほんとにごめんね」
「はい、じゃあまた」
電話を切った。
「柳さん、どうですか?」
「うん、《アイオーン》が今やってる。あ! 出てきたよ!」
「やったぁー!」
私が電話で一江さんと話している間に、うちの量子コンピューター《アイオーン》が一江さんの《セラフィム》にハッキング攻撃を仕掛けていた。
一江さんが《セラフィム》に接触していたり、コンソールに入ればアウトだったが、私と話しているので対応する間は無かったはずだ。
そしてついに、《セラフィム》から佐野さんの情報を手に入れた。
一応はハッキングの偽装工作は《アイオーン》に命じて施している。
一江さんが攻撃されたと思わなければ、分からないに違いない。
《アイオーン》の方が《セラフィム》よりも高性能で、序列も上になっているから出来たことだ。
もちろん私たちが勝手に《アイオーン》にこんなことは命令出来ない。
実は皇紀の秘密コードを以前に偶然知ったからだ。
長く海外に滞在してる皇紀の部屋の掃除をしようと思って入ったからだ。
ついでに皇紀の「秘密コレクション」を覗こうとして本棚の本を抜いたら、それが出てきた。
《YOSHIOMIAAKIKOUKIRHUHER……》
540桁にもなる長大な文。
山中家の家族の名前から始まるそれが、私には重要なコードなのだと気づけた。
だから控えておいた。
今回、《アイオーン》の管理者コードのようなものではないかと試したのだ。
ビンゴだった!
佐野さんは、今は警察署を定年退職され、神奈川県の警備会社に勤めていらっしゃる。
柳さんとハイタッチし、すぐに連絡してみた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
亜紀ちゃんからの電話が終わると、デスクの端末から《セラフィム》が私に話し掛けて来た。
《一江様 ただいま《アイオーン》と交信いたしました》
「え、なに? 《セラフィム》、どういうこと?」
思いも寄らない報告で、一瞬戸惑った。
《セラフィム》と《アイオーン》は時々交信しているが、いちいち私に報告は無い。
《石神亜紀様の命令で、佐野健也様の現在の個人情報を求められたとのことです》
「え!」
《《アイオーン》は石神皇紀様の御用意した疑似管理者コードが使われたとのことで、私との間でディス・インフォメーションの情報を流すように提案いたしました。わたしも同意し、そのように対処いたしました。佐野健也様の情報に類似したものを作成し、《アイオーン》に渡しました》
「そんなことが……」
私は《セラフィム》から、どのような情報を渡したか聞いた。
電話でも亜紀ちゃんは佐野さんの情報を欲しがっていた。
私に断られることを見越して、《アイオーン》でハッキングをしようとしていたということか。
今、部長は盛岡の石神家本家に出掛けている。
亜紀ちゃんたちが掃除をしていて佐野さんの手紙を見つけたのは本当のことなんだろう。
そこで亜紀ちゃんがどうしても佐野さんを部長に会わせたいと思ったか。
前にも亜紀ちゃんは乾さんのことで思い立ち、乾さんと部長を会わせることに成功した。
あの時は私たちも協力した。
部長が本当に喜んでいた。
だけどあの後で部長から厳重に二度とやらないように言われた。
叱られたわけではない。
部長は特別な状況にいる。
恐ろしい敵に常に狙われているのだ。
だから、部長の大切な人間を増やせば、その人たちも狙われる可能性が高い。
乾さんにはディディを付けた。
あれは乾さんを幸せにしたいという思いの他に、自分と関わってしまった乾さんを護るという意味もあるのだ。
今部長の周囲にいる人間たちは当然防御対策をしている。
でも、これ以上増やせば増やす程、護り切れない可能性だってある。
それを部長は一番心配しているのだ。
《一江様、何か御指示はありますか?》
「ううん、大丈夫。その対処でいいわ。ありがとう」
《いいえ、どういたしまして》
さて、どうするか。
亜紀ちゃんは早速《セラフィム》から得た情報で、佐野さんに連絡するだろう。
佐野さんの現在の状況は私も覚えている。
神奈川県の警備会社で定年退職後に働いていらっしゃる。
《セラフィム》は別の警備会社の会社名と架空の連絡先を教えたようだ。
亜紀ちゃんが連絡しても通じない。
でも亜紀ちゃんはきっと諦めないだろう。
部長にすぐに連絡したいが、石神家本家に行っている間は緊急を要することでしか連絡しないように言われている。
もちろんそういう場合は私以外にも部長に連絡が行くようにもなっている。
だから明日部長が戻られる時にしか伝えられない。
予定では昼食を摂ってから盛岡を出発するということだった。
ただ、亜紀ちゃんの気持ちももちろん分かる。
出来れば穏便に済ませたいものだ。
今回は亜紀ちゃんの暴走だが、部長に知られる前に解決してあげたい。
優しい子が部長のためを思って行動したのだから。
私は大森に相談した。
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