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千鶴・御坂 石神家へ XⅠ
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「斬は今も自分を殺しそうになるほどの鍛錬をしている」
俺がそう言っても虎白さんは黙っていた。
石神家として毎日必死で鍛錬している人だからこそ、斬の壮絶な日々を理解しているのだろう。
「虎影の兄貴が、花岡家に行ったことがあるんだ」
「そうなんですか!」
「怒貪虎さんの命令でな。そこでしばらく修業をしていた」
「親父が……そうだったんですね」
「斬とは会っていると思うけどな。その当時はあまりその話を聞かなかった。兄貴は他にも多くの流派の所へ行っていたからよ。どの流派でどんなことを、なんていちいち聞かなかったな」
「そうですか」
元々は怒貪虎さんが「花岡」も他の流派も納めていたはずだ。
親父には自分と同じように、直接流派に触れさせたかったのだろう。
「俺は「花岡」の技を自然に理解出来ました。もちろんルーとハーが解析してくれたお陰も大きいのですが」
「そうか」
「俺、親父に何かされてましたかね?」
「多分な。虎影は高虎の運命もある程度は見ていただろうからな」
「はい」
親父に武道の訓練を受けたことはない。
しかし、今から思えば日常の中で、自然にそれとは分からないように何かをされていたのではないかと思うことがある。
「親父はよく庭先で剣を振っていました」
「ああ、そうだろうな」
「それがとんでもなく美しくて。ああ、石神家の奥義みたいな凄いことはやってませんでしたけどね。でも美しい型を舞っていました」
「虎影は本当に美しかったな」
「はい。俺はそれをいつも見ていて。あれも何か俺に与えようとしていたのかもしれません。俺も憧れて見様見真似でやってましたし」
「そうだろうな」
「親父が俺と遊んでくれた時は、ああ、滅多には無かったです。でも、俺にプロレスを教えてやるとか、一緒に山に走って行ったり。ああいうことも、今思えばいろいろと俺の身体に教えていたんじゃないかって。ああ、思い出した。親父が俺が病弱だからって、いろいろな体操みたいなことを教えてました。今思えば不思議な動きも多かったですね」
「……」
「俺はよく親父に殴られましたけど、そういうことですら親父から何かを教わってたような気がします」
「……」
「小学生の途中から突然喧嘩が大好きになって。そうしたらほとんど勝てないことが無くなって行って」
虎白さんが小さく笑った。
「石神の子はよ、みんなそうされてんだ」
「そうですか」
「だから鍛錬に入ると、すぐに実力が伸びて来る。本人は気付かなくても、幼い頃からずっと教えられてんだよ」
「そうですね」
虎白さんが言った。
「しかし、花岡斬は凄まじいな」
「はい。たった独りで尋常じゃない鍛え方をしてますよ」
「何となく分かるよ。そんな決意をしたからにはな」
「はい」
虎白さんは遠い目をしていた。
虎白さんも求道者だ。
毎日剣の鍛錬に明け暮れて来た人だからこそ、斬の壮絶な思いも理解出来るのかもしれない。
「お前は果報者だな」
「まったくです」
千鶴と御坂の方を見た。
二人ともまだ痛むようで当分眠れそうにない。
俺たちは付き合うつもりだった。
玄関が開いた。
虎白さんが立ち上がると、廊下を歩いて来るペタペタという音が聴こえる。
誰だろうと思っていると、襖が開き、怒貪虎さんが立っていた。
「ケロケロ」
全員が立ち上がり迎える。
「ケロケロ」
「わざわざ様子を見に来て下さったんですか」
「ケロケロ」
「大丈夫そうです。今はまだ多少辛そうですが」
どうやら千鶴と御坂の様子を見に来てくれたらしい。
怒貪虎さんは二人の傍に座り、肩や背中に触れた。
「あ、温かい!」
「え、楽になりましたよ!」
二人が驚いて怒貪虎さんを見た。
「ありがとうございます!」
「随分と楽になりました。ありがとうございます!」
「ケロケロ」
何をされたのかは分からんが、千鶴と御坂は本当に楽になったようで喜んでいた。
やはり優しい人なのだ。
双子が正座して言った。
いつになく真剣な顔をして頭を下げた。
「怒貪虎さん、お願いがあります!」
「私たちにも「虎相」の稽古をつけて下さい!」
「おい!」
俺は慌てた。
「お前ら、千鶴のことを見てただろう!」
「うん! でもどうしてもやりたいの!」
「タカさんの役に立つことならなんでもしたいの!」
「バカ!」
冗談じゃない。
「虎相」が使えなくても、双子はまったく構わないのだ。
「ちょっとね、何か観えた気がするんだ」
「私たちでも出来るかもしれない!」
「ケロケロ」
怒貪虎さんが何か言った。
「ほんとですかー!」
「やったぁー!」
どうやら承諾されてしまったようだ。
虎白さんは何も言わなかったが、恐らく虎白さんなりの考えがあったのだろう。
嬉しそうに双子を見て、その頭を撫でた。
「お前らもやるか」
「「はい!」」
「じゃあ、真白に言っといてやるよ」
「「お願いします!」」
もう俺の出る幕はない。
危険な場合は止めるつもりだが、恐らくそういうことも無いだろう。
俺にも少しは何かを感じている部分がある。
「ケロケロ」
「はい、そうですね」
「ケロケロ」
「楽しみになって来ました!」
なんて?
千鶴と御坂が大分加減が良さそうになったので、今晩はもう寝ることにした。
二人を虎蘭と虎水が連れ帰った。
俺は双子と一緒に布団を敷いた。
ピッタリとくっつけている。
俺たちは仲良しだ。
「お前ら本気だよな?」
「「うん!」」
「明日はかえ……家に戻るつもりなんだけどなー」
「大丈夫だよ」
「でもなー」
「なーに、タカさん?」
「お前らが倒れるとよ」
「うん?」
「ボロボロになった俺を誰が介抱すんだよ?」
「「ギャハハハハハハハハ!」」
割と切実な問題なんですけど。
俺がそう言っても虎白さんは黙っていた。
石神家として毎日必死で鍛錬している人だからこそ、斬の壮絶な日々を理解しているのだろう。
「虎影の兄貴が、花岡家に行ったことがあるんだ」
「そうなんですか!」
「怒貪虎さんの命令でな。そこでしばらく修業をしていた」
「親父が……そうだったんですね」
「斬とは会っていると思うけどな。その当時はあまりその話を聞かなかった。兄貴は他にも多くの流派の所へ行っていたからよ。どの流派でどんなことを、なんていちいち聞かなかったな」
「そうですか」
元々は怒貪虎さんが「花岡」も他の流派も納めていたはずだ。
親父には自分と同じように、直接流派に触れさせたかったのだろう。
「俺は「花岡」の技を自然に理解出来ました。もちろんルーとハーが解析してくれたお陰も大きいのですが」
「そうか」
「俺、親父に何かされてましたかね?」
「多分な。虎影は高虎の運命もある程度は見ていただろうからな」
「はい」
親父に武道の訓練を受けたことはない。
しかし、今から思えば日常の中で、自然にそれとは分からないように何かをされていたのではないかと思うことがある。
「親父はよく庭先で剣を振っていました」
「ああ、そうだろうな」
「それがとんでもなく美しくて。ああ、石神家の奥義みたいな凄いことはやってませんでしたけどね。でも美しい型を舞っていました」
「虎影は本当に美しかったな」
「はい。俺はそれをいつも見ていて。あれも何か俺に与えようとしていたのかもしれません。俺も憧れて見様見真似でやってましたし」
「そうだろうな」
「親父が俺と遊んでくれた時は、ああ、滅多には無かったです。でも、俺にプロレスを教えてやるとか、一緒に山に走って行ったり。ああいうことも、今思えばいろいろと俺の身体に教えていたんじゃないかって。ああ、思い出した。親父が俺が病弱だからって、いろいろな体操みたいなことを教えてました。今思えば不思議な動きも多かったですね」
「……」
「俺はよく親父に殴られましたけど、そういうことですら親父から何かを教わってたような気がします」
「……」
「小学生の途中から突然喧嘩が大好きになって。そうしたらほとんど勝てないことが無くなって行って」
虎白さんが小さく笑った。
「石神の子はよ、みんなそうされてんだ」
「そうですか」
「だから鍛錬に入ると、すぐに実力が伸びて来る。本人は気付かなくても、幼い頃からずっと教えられてんだよ」
「そうですね」
虎白さんが言った。
「しかし、花岡斬は凄まじいな」
「はい。たった独りで尋常じゃない鍛え方をしてますよ」
「何となく分かるよ。そんな決意をしたからにはな」
「はい」
虎白さんは遠い目をしていた。
虎白さんも求道者だ。
毎日剣の鍛錬に明け暮れて来た人だからこそ、斬の壮絶な思いも理解出来るのかもしれない。
「お前は果報者だな」
「まったくです」
千鶴と御坂の方を見た。
二人ともまだ痛むようで当分眠れそうにない。
俺たちは付き合うつもりだった。
玄関が開いた。
虎白さんが立ち上がると、廊下を歩いて来るペタペタという音が聴こえる。
誰だろうと思っていると、襖が開き、怒貪虎さんが立っていた。
「ケロケロ」
全員が立ち上がり迎える。
「ケロケロ」
「わざわざ様子を見に来て下さったんですか」
「ケロケロ」
「大丈夫そうです。今はまだ多少辛そうですが」
どうやら千鶴と御坂の様子を見に来てくれたらしい。
怒貪虎さんは二人の傍に座り、肩や背中に触れた。
「あ、温かい!」
「え、楽になりましたよ!」
二人が驚いて怒貪虎さんを見た。
「ありがとうございます!」
「随分と楽になりました。ありがとうございます!」
「ケロケロ」
何をされたのかは分からんが、千鶴と御坂は本当に楽になったようで喜んでいた。
やはり優しい人なのだ。
双子が正座して言った。
いつになく真剣な顔をして頭を下げた。
「怒貪虎さん、お願いがあります!」
「私たちにも「虎相」の稽古をつけて下さい!」
「おい!」
俺は慌てた。
「お前ら、千鶴のことを見てただろう!」
「うん! でもどうしてもやりたいの!」
「タカさんの役に立つことならなんでもしたいの!」
「バカ!」
冗談じゃない。
「虎相」が使えなくても、双子はまったく構わないのだ。
「ちょっとね、何か観えた気がするんだ」
「私たちでも出来るかもしれない!」
「ケロケロ」
怒貪虎さんが何か言った。
「ほんとですかー!」
「やったぁー!」
どうやら承諾されてしまったようだ。
虎白さんは何も言わなかったが、恐らく虎白さんなりの考えがあったのだろう。
嬉しそうに双子を見て、その頭を撫でた。
「お前らもやるか」
「「はい!」」
「じゃあ、真白に言っといてやるよ」
「「お願いします!」」
もう俺の出る幕はない。
危険な場合は止めるつもりだが、恐らくそういうことも無いだろう。
俺にも少しは何かを感じている部分がある。
「ケロケロ」
「はい、そうですね」
「ケロケロ」
「楽しみになって来ました!」
なんて?
千鶴と御坂が大分加減が良さそうになったので、今晩はもう寝ることにした。
二人を虎蘭と虎水が連れ帰った。
俺は双子と一緒に布団を敷いた。
ピッタリとくっつけている。
俺たちは仲良しだ。
「お前ら本気だよな?」
「「うん!」」
「明日はかえ……家に戻るつもりなんだけどなー」
「大丈夫だよ」
「でもなー」
「なーに、タカさん?」
「お前らが倒れるとよ」
「うん?」
「ボロボロになった俺を誰が介抱すんだよ?」
「「ギャハハハハハハハハ!」」
割と切実な問題なんですけど。
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