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千鶴・鈴葉 石神家へ Ⅶ

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 翌朝。
 また虎蘭たちが一緒に朝食を食べに来た。
 メザシ(おう!)に山菜の煮物、生卵とワカメと豆腐の味噌汁。
 十分に美味かった。
 ロボは焼いたササミを食べている。

 「鈴葉」
 「はい!」
 「お前には「虎相」を試してもらう」
 「はい。でも、自分などに出来るでしょうか?」
 「分からん。でもな、前に千石というお前より相当薄い血の奴が「虎相」を出したぞ」
 「そうなんですか!」
 
 俺は慌てて言った。

 「虎白さん! 千石の時は!」
 「ああ、真白にまたやってもらう」
 「無茶ですよ!」
 「大丈夫だ。千石よりも余程軽い」
 「でも!」

 千石は地獄の苦しみを味わった。
 若い御坂をあんな目に遭わせたくない。

 「石神さん」

 御坂が言った。

 「私はどんな試練でも大丈夫です! 石神家の技を学べるなら、どんなことでも!」
 「おい!」

 御坂の眼に強い光があった。
 若さで物事を甘く見る者の眼ではなく、真剣に何かを求める人間の眼だった。

 「分かったよ! でも我慢出来なきゃ言えよな!」
 「はい!」

 御坂が嬉しそうに笑った。
 あの苦しみを知らないうちはどうしようもない。
 御坂の剣技は優秀だ。
 これから「虎相」を身に着けるにしても、急ぐことは無い。
 若いうちに挫折するのもいい経験だろう。

 「あの、私は何を?」
 「千鶴は引き続き剣技を学べ。虎水、頼むぞ」
 「はい!」

 「高虎」
 「はい」
 「お前は俺たちにあの技を教えろ」
 「《神雷》ですか」
 「まだ名前は決まってねぇ!」
 「はーい」

 引っぱたかれた。
 もう《神雷》でいいじゃんか。

 ルーとハーは俺の手伝いだ。
 何しろ魔法陣を描くところから始めないとどうしようもない。
 そういうことを話すと、虎白さんも納得した。

 「元々、こいつらが生み出した技なんですよ」
 「そうなのか! スゴイな、ルーちゃん、ハーちゃん!」
 「「うん!」」

 双子も御機嫌だ。
 自分たちが石神家の助けになれたことが嬉しいのだ。
 
 食事を終えて、またみんなで山に登った。
 俺は時計を確認したが、朝の8時12分。
 虎白さんが家を出ると、他の家からも剣士たちが出て来て、一斉に向かった。
 8時丁度ではない。
 どうして全員が一緒に家を出て来るのか分からない。
 まさか8時12分集合ではないだろう。
 まったく不思議な集団だ。
 誰も偶然などとは思っていない。
 まるで当たり前のように同時に家を出てお互いに挨拶をして山に向かう。
 ロボも一緒について来る。
 俺は走りながら虎蘭に聞いた。

 「おい、どうしてみんな一緒に集まってんだよ?」
 「え?」
 「時間を合わせてたわけじゃねぇだろ?」
 「だって」
 「あんだよ?」
 「そうじゃなきゃ戦場じゃ困るじゃないですか」
 「あ?」
 「ん?」

 話が噛み合わねぇ。
 でも、やはり石神家本家には何か相当な、鍛錬が為すものがあるのだと思った。
 俺が虎白さんに何も聞いていないとか説明が無いということは、きっと俺の甘えなのだろう。
 まあ、そうも言っていられないのだが。

 今は報告や説明が大事なことだと言われている。
 しかし、それは本当はそうではないのではないか。
 阿吽の呼吸と言うが、本当の人間同士というのは、言葉・理屈で動くのとは違うのか。
 妖魔との戦闘集団の石神家。
 この世の条理を外れた異界の存在を相手に、一瞬の躊躇や連携の不備が即座に敗北に繋がる。
 聞いていない、言われていないでは間に合わないことがあるのだ。

 俺は聖を思い出した。
 俺と聖はそういう関係だ。
 何も言葉は必要なくとも、お互いの動きが自然に重なり合い絡み合い連携している。
 もちろん口での遣り取りもあるが、本当に重要な瞬間は目を交わすことなくお互いに支え合う。
 先日の《ハイヴ》の攻略でも、聖は俺の身体を狙って「聖光」を撃ち込んだ。
 俺が避けなければ確実に死んでいる。
 聖は念のために殺気を放ってくれたが、あれが無くとも俺は動いていた。
 聖の行動が背中で分かっていた。
 だから聖が殺気を放つ前に俺は回避していたのだ。
 そして下にいた《地獄の悪魔》は何ら回避行動を取れずに聖の銃弾を受けた。
 俺は一応文句は言ったが、聖は俺ならば避けると思ったと言った。
 その通りだった。

 俺と虎白さんたちに欠けているのはそういうものなのかもしれない。

 「あれ、怒貪虎さんは?」
 「高虎! 朝にちゃんと言っただろう!」
 「……」

 もういいもん。





 山頂に着くと、既に怒貪虎さんがいた。
 全員で整列して挨拶する。
 俺は最後尾に目立たないように立った。
 どこに立てばいいのか分からん。
 俺、当主なんですけど?

 怒貪虎さんは、独りで刀を持って何かしていた。
 みんなで観ていると、剣先に何かが浮かびそうになっている。
 魔法陣か!

 俺は前に出て言った。

 「あの、宜しければやり方を見せましょうか?」
 「ケロケロ」

 俺は「花岡」の「小雷」を使って図形を描くのだと説明した。
 ルーを呼んで今朝描かせた魔法陣の図形を見せた。

 「これです。「小雷」を左の中指から飛ばしながら、反時計回りで円を描きます。そして……」
 「ケロケロ!」

 途中まで聞いて、怒貪虎さんが自分でやり始めた。
 「小雷」を丁寧にコントロールしながら魔法陣を描き始めた。
 怒貪虎さんはルーの持って来た絵を一瞬しか見ていないが、何も迷うこともなく描いて行く。
 流石だと思った。
 一瞬で全てを覚え解析し、即座に実現する。
 本物の戦士だ。

 「ケロケロ」

 描いた魔法陣を検分するように眺め、空中に向かって「煉獄」を放った。
 直径800メートルの大きさで《神雷》がぶっ飛んで行く。

 「不味い! ロボ!」

 ロボが40メートルに巨大化した。
 怒貪虎さんが放った《神雷》が、時空の裂け目を作り、そこから海老の巨大なハサミのようなものが出て来た。
 ロボが撃った「ばーん」がそれを破壊しながら時空の裂け目を閉じた。
 全員が硬直して観ていた。

 「ケロケロ!」
 「いきなり全力で撃たないで下さい! ああいうヤバいものが来るんですよ!」
 「ケロケロ!」
 「本当に危ないんですよ? ア・ブ・ナ・イ、分かります?」

 思い切りぶっ飛ばされた。

 「……」

 もういいもん。
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