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ガンドッグ Ⅴ
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アラスカで、「ガンドッグ」の連中を外壁近くの施設へ入れた。
移民してきた人間たちの一時的な収容施設だ。
検疫と共に、ここでタマの精神走査を受けて反乱分子を取り除くことになっている。
今回は既にタマが「ガンドッグ」の全員の精神を洗い出し暗示も掛けているので必要はない。
周囲にデュールゲリエを配置し、全員を中の広間へ集めてからタマの精神操作を解いた。
自分たちがここまでの記憶がなく、武装解除されていることに驚いていた。
「心配するな。お前たちの希望の場所へ運んだら武器は全部返す。だがここにいる間はダメだ」
ラッセルが俺に言った。
「まずは礼を言う。無事にここまで連れて来てくれて感謝する」
「いいさ、仕事だからな。それに下心もあるしな」
ラッセルが笑った。
「分かっている。我々も「虎」の軍には興味があるのだ」
「まあ、話し合いによってはな。お前らは物騒だからなぁ」
「そうだな」
デュールゲリエたちが、全員に紅茶を持って来て配った。
大勢なのでしばらく掛かる。
俺はそれを待って、話を切り出した。
「俺たちは「業」と戦っている。それは知っているな?」
「もちろんだ。恐ろしい連中だ」
「でも、お前たちは「業」の仕事を受けたよな?」
「そうだ。我々と利害の一致があったと思ったからだ」
「利害?」
ラッセルは俺を見て言った。
「「虎」の軍はサイキックの集団かもしれないと考えていた」
思いも寄らない内容だった。
「サイキック?」
「お前たちは驚異的な能力を持っている。だからだ。「ハナオカ・アーツ」のことは知らなかったからな」
「なんだ、それは?」
話の方向が見えない。
「我々はサイキックを滅ぼすための組織だった」
「!」
ラッセル以外の全員も俺を見ていた。
「私の祖父が、エドガー・ケイシーと親しかったのだ」
ラッセルが語り出した。
エドガー・ケイシーとはアメリカの予言者であり、また心霊医術者としても知られている。
予言者として数々の予言を残していて、クムランのエッセネ派の存在を主張し、後に『死海文書』が見つかったことから世界的に有名になった。
「ケイシーは一つの重要な予言を残していた。それはいずれ世界が恐ろしい力を持つ超能力者によって滅ぼされるというものだった」
「「業」じゃねぇか」
ラッセルは笑って首を振った。
「ケイシーは「エスパー」と言ったのだ。そして祖父はケイシーからエスパーを狩り、根絶やしにすることを頼まれた」
「お前の祖父さんは特殊な人間だったのか?」
「ASFA(「軍保安局」:Armed Forces Security Agency)の創立者の一人だ。あの組織は本来、ケイシーの予言のエスパーの管理のための組織だった」
ASFAとは現在のアメリカ国家安全保障局(NSA)の前身だ。
今のNSAはもちろん、超能力者狩りなどは行なっていない。
「祖父はそこから独自の組織を作った。超能力者を探し、それを狩る人間たちだ。当時から厄介な超能力者は多かった。だから対抗するために特殊な銃技を編み出し、それを鍛錬する人間たちを育てた」
「おい、お前たちの銃技は相当特殊だぞ? あれを独自に編み出したって言うのかよ?」
「もちろんそうではない。それもケイシーの予言にあったのだ。ガンスリンガーの技は全てケイシーがアカシック・レコードから教えてくれていた」
「……」
ケイシーたちが「エスパー」と呼んだのは多分当時の社会背景があるだろうと俺は思った。
アメリカで20世紀初頭に「超心理学」という新しい分野の学問が出来て、そこでは超常能力を「ESP(Extra Sensory Perception)」と呼んでいた。
そこから社会一般にESP能力を有する人間を「エスパー(Esper)」と呼ぶようになったのだ。
ケイシーは「業」を予言で観たのかもしれないが、恐ろしい超常的な力を行使する「業」を当時の超能力者・エスパーと認識したことは想像出来る。
「祖父は幸いに社会的な成功者であり、資金も潤沢にあった。また交流する仲間からの支援金もあった」
「それが「ガンドッグ」の始まりか」
「そうだ。我々はずっと銃技の鍛錬をしながら、超能力者を探し殺して来た」
「お前たちの暗殺は、そういうものだったのだな?」
「超能力者そのもの、または彼らに力を貸す連中だ」
「ハーマン大統領候補はどうだったんだ?」
「あの男は国内に超能力者の訓練施設を作ろうとしていた。国中の超能力者を集め、国家の援助でその能力を高める構想だ」
「なるほどな」
今は超能力者のことを「サイキック」という名称で呼ぶことが多い。
ラッセルも今はその言葉を使っている。
「ガンドッグ」が狂信的な集団であり、社会悪であることは思う。
しかし、人間が何を信じるのかは自由だ。
敵対すれば滅ぼすまでだが。
「お前たちがそれを信じて来て、今も活動を続けていることは分かった。でも、どうして「業」と手を組んだ?」
「「虎」の軍が超能力者の集団であることを告げられた。その証拠と共にな」
「あー」
絶大な破壊力を俺たちは持っている。
俺自身がアメリカ東海岸を壊滅させたのだ。
その後の米軍の全ての攻撃を跳ね除けた。
確かに俺たちが超能力者の集団であり、世界を滅ぼすと思われても仕方がない。
「もちろん全てを信じたわけではない。公的には「業」による世界壊滅の話も広まっているしな」
「だから試したのか?」
「そうだ。「虎」の軍がどの程度の能力なのか見極める必要があった。しかし……」
「その過程で「花岡」を知ったんだな?」
「その通りだ。日本に恐ろしい「ハナオカ・アーツ」があることを知った。超能力と言えないこともないが」
「ばかやろう!」
ルーとハーが死に掛けたんだぞ。
「我々もその後に「業」のことをあらためて調べたのだ。そして「業」こそがエドガー・ケイシーの遺した滅びの怪物であることが分かった」
「まったくよ! じゃあ、どうして三合会なんかと手を結んだんだよ!」
「我々が「業」のことを知ったのは、その後だったのだ。三合会は世界的に拡がっている組織だ。だから我々の仕事に丁度良いと考えた」
「フン!」
俺の不満顔をラッセルは真摯に見詰めた。
「我々は、「虎」の軍と手を結ぶために中国へ行ったのだ」
「なんだと?」
また話が飛んだ。
このジジィは話を飛ばすのが好きなようだ。
「我々から接触しても、あなたがたは信用してくれないと思った」
「一度は敵同士だったしな!」
「だから「業」と敵対する組織として、中国で暴れた」
「あ?」
「三合会が「業」と繋がっていることは分かっている。だから奴らを裏切り、我々の中核を晒しながらあなた方に助けを求めた」
「よく分からんが?」
「もう三合会とは決裂したことをあなた方に分かってもらいたかった。その上であなた方に救援を頼み、我々を信頼してもらった上で、戦いに組み入れて欲しかった」
「バカなのかよ?」
ラッセルが下を向いた。
その両肩が小さく震え出した。
「その通りだ。我々は百年近くも間違って来たのだ。罪のない人間を散々殺して来た。でも、もう間違わない! 「虎」の軍と共に戦いたい! あの悪魔と!」
虫のいい話だとは思う。
「うちにもサイキックがいる。優秀で美しく強い心を持った男だ」
「そうなのか!」
「テキサスのショッピングモールでお前の所のリリーが小さな女の子を殺した。そいつの身体を貫いて心臓を破壊した」
「「ライブラの魔女」か!」
「なんだと?」
ラッセルが息を荒くして説明した。
目も血走って来た。
「「ライブラの魔女」は、超能力を他人に分け与えることが出来ると言われて来た。だから我々も必死に探し出そうとしていた」
「分け与える?」
「詳細は分からない。どういう方法なのかも。でも、実際に「ライブラの魔女」の周辺で、超能力者が増えていた。自分の生命力を使って与えるのだろうということは予想していたが、リリーが殺したのは幼い少女だったはずだ」
「ああ、そう聞いているぞ」
「恐らく、自分の最後の生命力を使ったんだ。「ライブラの魔女」は目撃例がどんどん若くなっていった」
「……」
ラッセルの息がますます荒くなっていく。
顔も蒼ざめて来た。
心臓の疾患でもあるのか。
これ以上興奮させるのは不味いと感じた。
「リリーから、一緒にいた男ごと殺したと聞いた」
「生きてるよ」
「そうか。「ライブラの魔女」が最後の力を使ったのだな。自分の命の天秤を全部傾けて、その男に渡したのだろう」
「……」
聖が俺に言った。
「トラ、そいつヤバそうだぜ!」
俺は緊張と興奮でラッセルの代謝がおかしくなっているのかと思っていた。
しかし、ラッセルの状態が本当に異常なことに俺も気付いた。
移民してきた人間たちの一時的な収容施設だ。
検疫と共に、ここでタマの精神走査を受けて反乱分子を取り除くことになっている。
今回は既にタマが「ガンドッグ」の全員の精神を洗い出し暗示も掛けているので必要はない。
周囲にデュールゲリエを配置し、全員を中の広間へ集めてからタマの精神操作を解いた。
自分たちがここまでの記憶がなく、武装解除されていることに驚いていた。
「心配するな。お前たちの希望の場所へ運んだら武器は全部返す。だがここにいる間はダメだ」
ラッセルが俺に言った。
「まずは礼を言う。無事にここまで連れて来てくれて感謝する」
「いいさ、仕事だからな。それに下心もあるしな」
ラッセルが笑った。
「分かっている。我々も「虎」の軍には興味があるのだ」
「まあ、話し合いによってはな。お前らは物騒だからなぁ」
「そうだな」
デュールゲリエたちが、全員に紅茶を持って来て配った。
大勢なのでしばらく掛かる。
俺はそれを待って、話を切り出した。
「俺たちは「業」と戦っている。それは知っているな?」
「もちろんだ。恐ろしい連中だ」
「でも、お前たちは「業」の仕事を受けたよな?」
「そうだ。我々と利害の一致があったと思ったからだ」
「利害?」
ラッセルは俺を見て言った。
「「虎」の軍はサイキックの集団かもしれないと考えていた」
思いも寄らない内容だった。
「サイキック?」
「お前たちは驚異的な能力を持っている。だからだ。「ハナオカ・アーツ」のことは知らなかったからな」
「なんだ、それは?」
話の方向が見えない。
「我々はサイキックを滅ぼすための組織だった」
「!」
ラッセル以外の全員も俺を見ていた。
「私の祖父が、エドガー・ケイシーと親しかったのだ」
ラッセルが語り出した。
エドガー・ケイシーとはアメリカの予言者であり、また心霊医術者としても知られている。
予言者として数々の予言を残していて、クムランのエッセネ派の存在を主張し、後に『死海文書』が見つかったことから世界的に有名になった。
「ケイシーは一つの重要な予言を残していた。それはいずれ世界が恐ろしい力を持つ超能力者によって滅ぼされるというものだった」
「「業」じゃねぇか」
ラッセルは笑って首を振った。
「ケイシーは「エスパー」と言ったのだ。そして祖父はケイシーからエスパーを狩り、根絶やしにすることを頼まれた」
「お前の祖父さんは特殊な人間だったのか?」
「ASFA(「軍保安局」:Armed Forces Security Agency)の創立者の一人だ。あの組織は本来、ケイシーの予言のエスパーの管理のための組織だった」
ASFAとは現在のアメリカ国家安全保障局(NSA)の前身だ。
今のNSAはもちろん、超能力者狩りなどは行なっていない。
「祖父はそこから独自の組織を作った。超能力者を探し、それを狩る人間たちだ。当時から厄介な超能力者は多かった。だから対抗するために特殊な銃技を編み出し、それを鍛錬する人間たちを育てた」
「おい、お前たちの銃技は相当特殊だぞ? あれを独自に編み出したって言うのかよ?」
「もちろんそうではない。それもケイシーの予言にあったのだ。ガンスリンガーの技は全てケイシーがアカシック・レコードから教えてくれていた」
「……」
ケイシーたちが「エスパー」と呼んだのは多分当時の社会背景があるだろうと俺は思った。
アメリカで20世紀初頭に「超心理学」という新しい分野の学問が出来て、そこでは超常能力を「ESP(Extra Sensory Perception)」と呼んでいた。
そこから社会一般にESP能力を有する人間を「エスパー(Esper)」と呼ぶようになったのだ。
ケイシーは「業」を予言で観たのかもしれないが、恐ろしい超常的な力を行使する「業」を当時の超能力者・エスパーと認識したことは想像出来る。
「祖父は幸いに社会的な成功者であり、資金も潤沢にあった。また交流する仲間からの支援金もあった」
「それが「ガンドッグ」の始まりか」
「そうだ。我々はずっと銃技の鍛錬をしながら、超能力者を探し殺して来た」
「お前たちの暗殺は、そういうものだったのだな?」
「超能力者そのもの、または彼らに力を貸す連中だ」
「ハーマン大統領候補はどうだったんだ?」
「あの男は国内に超能力者の訓練施設を作ろうとしていた。国中の超能力者を集め、国家の援助でその能力を高める構想だ」
「なるほどな」
今は超能力者のことを「サイキック」という名称で呼ぶことが多い。
ラッセルも今はその言葉を使っている。
「ガンドッグ」が狂信的な集団であり、社会悪であることは思う。
しかし、人間が何を信じるのかは自由だ。
敵対すれば滅ぼすまでだが。
「お前たちがそれを信じて来て、今も活動を続けていることは分かった。でも、どうして「業」と手を組んだ?」
「「虎」の軍が超能力者の集団であることを告げられた。その証拠と共にな」
「あー」
絶大な破壊力を俺たちは持っている。
俺自身がアメリカ東海岸を壊滅させたのだ。
その後の米軍の全ての攻撃を跳ね除けた。
確かに俺たちが超能力者の集団であり、世界を滅ぼすと思われても仕方がない。
「もちろん全てを信じたわけではない。公的には「業」による世界壊滅の話も広まっているしな」
「だから試したのか?」
「そうだ。「虎」の軍がどの程度の能力なのか見極める必要があった。しかし……」
「その過程で「花岡」を知ったんだな?」
「その通りだ。日本に恐ろしい「ハナオカ・アーツ」があることを知った。超能力と言えないこともないが」
「ばかやろう!」
ルーとハーが死に掛けたんだぞ。
「我々もその後に「業」のことをあらためて調べたのだ。そして「業」こそがエドガー・ケイシーの遺した滅びの怪物であることが分かった」
「まったくよ! じゃあ、どうして三合会なんかと手を結んだんだよ!」
「我々が「業」のことを知ったのは、その後だったのだ。三合会は世界的に拡がっている組織だ。だから我々の仕事に丁度良いと考えた」
「フン!」
俺の不満顔をラッセルは真摯に見詰めた。
「我々は、「虎」の軍と手を結ぶために中国へ行ったのだ」
「なんだと?」
また話が飛んだ。
このジジィは話を飛ばすのが好きなようだ。
「我々から接触しても、あなたがたは信用してくれないと思った」
「一度は敵同士だったしな!」
「だから「業」と敵対する組織として、中国で暴れた」
「あ?」
「三合会が「業」と繋がっていることは分かっている。だから奴らを裏切り、我々の中核を晒しながらあなた方に助けを求めた」
「よく分からんが?」
「もう三合会とは決裂したことをあなた方に分かってもらいたかった。その上であなた方に救援を頼み、我々を信頼してもらった上で、戦いに組み入れて欲しかった」
「バカなのかよ?」
ラッセルが下を向いた。
その両肩が小さく震え出した。
「その通りだ。我々は百年近くも間違って来たのだ。罪のない人間を散々殺して来た。でも、もう間違わない! 「虎」の軍と共に戦いたい! あの悪魔と!」
虫のいい話だとは思う。
「うちにもサイキックがいる。優秀で美しく強い心を持った男だ」
「そうなのか!」
「テキサスのショッピングモールでお前の所のリリーが小さな女の子を殺した。そいつの身体を貫いて心臓を破壊した」
「「ライブラの魔女」か!」
「なんだと?」
ラッセルが息を荒くして説明した。
目も血走って来た。
「「ライブラの魔女」は、超能力を他人に分け与えることが出来ると言われて来た。だから我々も必死に探し出そうとしていた」
「分け与える?」
「詳細は分からない。どういう方法なのかも。でも、実際に「ライブラの魔女」の周辺で、超能力者が増えていた。自分の生命力を使って与えるのだろうということは予想していたが、リリーが殺したのは幼い少女だったはずだ」
「ああ、そう聞いているぞ」
「恐らく、自分の最後の生命力を使ったんだ。「ライブラの魔女」は目撃例がどんどん若くなっていった」
「……」
ラッセルの息がますます荒くなっていく。
顔も蒼ざめて来た。
心臓の疾患でもあるのか。
これ以上興奮させるのは不味いと感じた。
「リリーから、一緒にいた男ごと殺したと聞いた」
「生きてるよ」
「そうか。「ライブラの魔女」が最後の力を使ったのだな。自分の命の天秤を全部傾けて、その男に渡したのだろう」
「……」
聖が俺に言った。
「トラ、そいつヤバそうだぜ!」
俺は緊張と興奮でラッセルの代謝がおかしくなっているのかと思っていた。
しかし、ラッセルの状態が本当に異常なことに俺も気付いた。
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