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挿話: 亜紀ちゃんの髪
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亜紀ちゃんの「ナゾ髪」が、ついに鉄アレイを持ち上げるようになった。
由々しき問題だ。
別に一緒に寝たいわけではないが、亜紀ちゃんは俺と寝たがる。
嫌ではないし、寒い時期は温かいと思うこともある。
問題はあの髪だ。
無意識での動きなので、俺に危険が伴う。
以前から亜紀ちゃんの感情が髪に現われることはあった。
「ディアブロ・モード」という、亜紀ちゃんの戦闘態勢の高揚は、髪を拡げている。
それから更に髪の動きが進化したようで、特に眠っている間に独自に動くようになった。
いつからか、亜紀ちゃんと寝ていると髪が拡がり、顔を覆ってウザいこともあった。
一番驚いたのは、響子と一緒に眠っている時に、亜紀ちゃんの髪がとんでもない動きをしていた時だ。
ロボに起こされてそれを見たが、髪が「ヒモダンス」のリズムで動いていた。
それだけではない。
髪が繊細に動いて「コワ顔」になった。
まあ、髪本人は脅かすつもりは無いのかもしれないが、黒い顔面というのは恐ろしい。
どうも、亜紀ちゃんが観ている夢に関連する動きのようだが、そうも言っていられない。
もう一緒に寝ないと言うと、亜紀ちゃんが大泣きした。
だから三つ編みに結んで鉄アレイを結ぶようになった。
流石に動かなくなったのだが……
それがつい先日、鉄アレイを持ち上げたどころか、高熱まで発しやがった。
まあ、悪夢を見ていたことが原因のようだが、アレは不味い。
何とかしなければ……
皇紀が一時帰国し、あの金髪ポンパドールで一緒に朝食を食べている。
双子と柳が久し振りに会う皇紀にいろいろ話し掛けていた。
亜紀ちゃんが来た。
「タカさん、夕べは本当にすみませんでした」
亜紀ちゃんがまた謝りに来た。
夕べも叱り、もう十分に謝っているのだが。
「もういいよ」
俺はしつこく叱るのは嫌いだ。
もうこの話は終わっている。
亜紀ちゃんがまた来たのは、別な意図があってのことだ。
「タカさん……」
「なんだ?」
「また一緒に寝てくれますか?」
「……」
嫌だというわけではないが、流石にあの髪の動きは不味い。
鉄アレイは最初、俺の腹に落ちて来た。
俺だから咄嗟に腹筋を引き締めて難を逃れたが、あれが頭部やオチンチンだったらとんでもないことになるかもしれない。
「タカさん……」
「亜紀ちゃんさ、ちょっと髪型を変えたらどうだ?」
「え?」
「ショートなんかも似合うと思うぞ?」
「!」
「鷹なんかツルツルじゃん! ウィッグも楽しんでるだろう?」
「た、タカさん……」
亜紀ちゃんがボロボロと涙を零し始めた。
俺は半分冗談のつもりだったので、驚いた。
いつもの亜紀ちゃんであれば、俺のジョークを分かって一緒に楽しむはずなのだが。
「わ、私は……こ、この髪が……」
亜紀ちゃんがリヴィングを出て行った。
双子がそれを見て、俺の所へ来た。
「タカさん、あれはちょっと」
「亜紀ちゃん、カワイソウだよ」
「え?」
金髪ポンパドールの皇紀が俺を見ていた。
自分はもっと酷いことをされているのではないかと、その目が訴えていた。
その通りだが。
ハーがリヴィングを出て行って、すぐに鳥かごを抱えて戻って来た。
「あー!」
「私だよ!」
「私がやるよ!」
しばらく殴り合っていたが、ハーが鳥かごをかぶり、ルーがちょっと不貞腐れた顔で隣で歌い、踊り出した。
♪ ジリジリと 求めるGimme more 誰かに盗られる前に ほら Love is burning 熱を感じて ♪
またあれかよ。
ハーが語り出した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
山中家の風呂はそれほど大きくはなかった。
大人と誰か小さな子どもが一緒に入ると、もう一杯になる。
湯船も狭い。
「亜紀ちゃんは髪が綺麗だねー」
「ほんとに!」
「うん。こんな綺麗な髪の人はあんまりいないよ」
「お母さんも綺麗だよ!」
「ウフフフ。でも亜紀ちゃんの方が綺麗」
「嬉しい!」
双子が生まれてから、奥さんは主に双子と一緒に風呂に入っていた。
亜紀ちゃんは一人でも入れるし、皇紀も大丈夫だ。
その日は久し振りに亜紀ちゃんが奥さんと一緒に入ったらしい。
それが嬉しかった。
「シャンプーの時にね、優しく髪を洗うの。それでよーくシャンプーを洗い流すのね」
「うん!」
「地肌のマッサージもね。本当はリンスがあるともっと綺麗になるんだけどね」
「じゃあ買おうよ!」
「うん、そうだね。亜紀ちゃんの髪は綺麗だから、そういうものも買おうか」
「うん!」
その翌日に、奥さんは早速リンスを買って来たらしい。
その晩も亜紀ちゃんと一緒に風呂に入り、シャンプーやリンスの使い方を教えたのだと。
それが物凄く亜紀ちゃんを喜ばせた。
その後、俺が山中家へ遊びに行くと、亜紀ちゃんがツヤツヤの髪を俺に自慢しに来たのを覚えている。
「石神さん! 私の髪、綺麗?」
「ああ、綺麗だな! なんか前より輝いてるんじゃねぇか?」
「ほんとに!」
「ああ。亜紀ちゃんは顔も綺麗だけど髪も最高だな!」
「嬉しい!」
俺もノリでそんなことを言ったのを覚えている。
その時に、奥さんから髪の毛を褒められ、リンスを買ってもらったのだという話を聞いた。
贅沢をしない山中家だったので、奥さんが亜紀ちゃんのためにと思ってやったのだろう。
双子がキラキラした目で俺を見ていた。
「お前らも綺麗な髪だよな!」
「「ワハハハハハハ!」」
まあ、子どものうちはみんなそうだよ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
語り終えて、ハーがルーに鳥かごを奪われた。
今度はハーが歌い出す。
♪ ジリジリと 求めるGimme more 誰かに盗られる前に ほら Love is burning 熱を感じて ♪
「そういうことがあったか」
「そうだよ! あの日から、亜紀ちゃんは髪をものすごく大事にしてるんだよ!」
「そういえば、最初にお前たちがうちに来た時にも、亜紀ちゃんは髪を伸ばしていたよな」
「うん。亜紀ちゃんの拘りもあるけど、お母さんとの大事な思い出なんだよ」
「そっか……」
俺はまた、考えもなしに酷い事を言ってしまったか。
いつまでたっても、俺はダメだ。
俺は肉を焼いて、亜紀ちゃんの部屋へ行った。
「おい、入るぞ!」
声を掛けてドアを開くと、亜紀ちゃんが鏡の前で鋏を持っていた。
「おい! やめろ!」
「タカさん?」
俺は焼いた肉の皿をデスクに置き、鋏を亜紀ちゃんから取り上げた。
「おい、俺が悪かったって! 亜紀ちゃんがその綺麗な髪を大事にしてることは、さっき双子から聞いたよ」
「タカさん……」
「思い出のあるものなんだよな。だったら石神家では最高に大事なものだ! 俺が悪かった! すみません!」
「そんな、タカさん、違うんです」
「そのままでいろよ。ああ、いつでも一緒に寝に来い!」
「!」
亜紀ちゃんがまた大粒の涙を流す。
「ほら、これを喰えよ。詫びに焼いて来たんだ」
亜紀ちゃんが食べ始めると、やがてニコニコしてきた。
「ほんとはさ、サロンにでも通えばいいんだけどよ」
「?」
「うち、結構サロンばりのものが揃ってるからなぁ」
「ウフフフフ」
俺も子どもたちのために、最高のヘアケアのものを揃えて行った。
切っ掛けは、そういえば亜紀ちゃんのロングヘアーを見たことからかもしれない。
俺のハゲ防止の意味もあるのだが。
「亜紀ちゃんの髪は最高だからな」
「ほんとですか!」
「ああ、ずっとそう思ってるよ」
「あの日、タカさんがそう言ってくれたから」
「え?」
「始めてリンスを使って。タカさんがうちに遊びに来てくれて」
「ああ」
亜紀ちゃんが遠い目をしていた。
「だからお母さんにもっと髪の手入れのことを聞いて」
「そうだったか」
まあ、仕方ねぇ。
その後も亜紀ちゃんと一緒に寝ている。
もう鉄アレイも結ばないし、三つ編みにもしない。
夜中にナゾ髪が暴れると、俺が話しかけるようになった。
「本当に綺麗な髪だよなぁ」
そう言って撫でてやると、大人しくなる。
ただ、毎回一度は俺の鼻をくすぐって「褒めろ」と合図するのでウザい。
まあ、それもカワイイ亜紀ちゃんのためだ。
何のこともねぇ。
由々しき問題だ。
別に一緒に寝たいわけではないが、亜紀ちゃんは俺と寝たがる。
嫌ではないし、寒い時期は温かいと思うこともある。
問題はあの髪だ。
無意識での動きなので、俺に危険が伴う。
以前から亜紀ちゃんの感情が髪に現われることはあった。
「ディアブロ・モード」という、亜紀ちゃんの戦闘態勢の高揚は、髪を拡げている。
それから更に髪の動きが進化したようで、特に眠っている間に独自に動くようになった。
いつからか、亜紀ちゃんと寝ていると髪が拡がり、顔を覆ってウザいこともあった。
一番驚いたのは、響子と一緒に眠っている時に、亜紀ちゃんの髪がとんでもない動きをしていた時だ。
ロボに起こされてそれを見たが、髪が「ヒモダンス」のリズムで動いていた。
それだけではない。
髪が繊細に動いて「コワ顔」になった。
まあ、髪本人は脅かすつもりは無いのかもしれないが、黒い顔面というのは恐ろしい。
どうも、亜紀ちゃんが観ている夢に関連する動きのようだが、そうも言っていられない。
もう一緒に寝ないと言うと、亜紀ちゃんが大泣きした。
だから三つ編みに結んで鉄アレイを結ぶようになった。
流石に動かなくなったのだが……
それがつい先日、鉄アレイを持ち上げたどころか、高熱まで発しやがった。
まあ、悪夢を見ていたことが原因のようだが、アレは不味い。
何とかしなければ……
皇紀が一時帰国し、あの金髪ポンパドールで一緒に朝食を食べている。
双子と柳が久し振りに会う皇紀にいろいろ話し掛けていた。
亜紀ちゃんが来た。
「タカさん、夕べは本当にすみませんでした」
亜紀ちゃんがまた謝りに来た。
夕べも叱り、もう十分に謝っているのだが。
「もういいよ」
俺はしつこく叱るのは嫌いだ。
もうこの話は終わっている。
亜紀ちゃんがまた来たのは、別な意図があってのことだ。
「タカさん……」
「なんだ?」
「また一緒に寝てくれますか?」
「……」
嫌だというわけではないが、流石にあの髪の動きは不味い。
鉄アレイは最初、俺の腹に落ちて来た。
俺だから咄嗟に腹筋を引き締めて難を逃れたが、あれが頭部やオチンチンだったらとんでもないことになるかもしれない。
「タカさん……」
「亜紀ちゃんさ、ちょっと髪型を変えたらどうだ?」
「え?」
「ショートなんかも似合うと思うぞ?」
「!」
「鷹なんかツルツルじゃん! ウィッグも楽しんでるだろう?」
「た、タカさん……」
亜紀ちゃんがボロボロと涙を零し始めた。
俺は半分冗談のつもりだったので、驚いた。
いつもの亜紀ちゃんであれば、俺のジョークを分かって一緒に楽しむはずなのだが。
「わ、私は……こ、この髪が……」
亜紀ちゃんがリヴィングを出て行った。
双子がそれを見て、俺の所へ来た。
「タカさん、あれはちょっと」
「亜紀ちゃん、カワイソウだよ」
「え?」
金髪ポンパドールの皇紀が俺を見ていた。
自分はもっと酷いことをされているのではないかと、その目が訴えていた。
その通りだが。
ハーがリヴィングを出て行って、すぐに鳥かごを抱えて戻って来た。
「あー!」
「私だよ!」
「私がやるよ!」
しばらく殴り合っていたが、ハーが鳥かごをかぶり、ルーがちょっと不貞腐れた顔で隣で歌い、踊り出した。
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ハーが語り出した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
山中家の風呂はそれほど大きくはなかった。
大人と誰か小さな子どもが一緒に入ると、もう一杯になる。
湯船も狭い。
「亜紀ちゃんは髪が綺麗だねー」
「ほんとに!」
「うん。こんな綺麗な髪の人はあんまりいないよ」
「お母さんも綺麗だよ!」
「ウフフフ。でも亜紀ちゃんの方が綺麗」
「嬉しい!」
双子が生まれてから、奥さんは主に双子と一緒に風呂に入っていた。
亜紀ちゃんは一人でも入れるし、皇紀も大丈夫だ。
その日は久し振りに亜紀ちゃんが奥さんと一緒に入ったらしい。
それが嬉しかった。
「シャンプーの時にね、優しく髪を洗うの。それでよーくシャンプーを洗い流すのね」
「うん!」
「地肌のマッサージもね。本当はリンスがあるともっと綺麗になるんだけどね」
「じゃあ買おうよ!」
「うん、そうだね。亜紀ちゃんの髪は綺麗だから、そういうものも買おうか」
「うん!」
その翌日に、奥さんは早速リンスを買って来たらしい。
その晩も亜紀ちゃんと一緒に風呂に入り、シャンプーやリンスの使い方を教えたのだと。
それが物凄く亜紀ちゃんを喜ばせた。
その後、俺が山中家へ遊びに行くと、亜紀ちゃんがツヤツヤの髪を俺に自慢しに来たのを覚えている。
「石神さん! 私の髪、綺麗?」
「ああ、綺麗だな! なんか前より輝いてるんじゃねぇか?」
「ほんとに!」
「ああ。亜紀ちゃんは顔も綺麗だけど髪も最高だな!」
「嬉しい!」
俺もノリでそんなことを言ったのを覚えている。
その時に、奥さんから髪の毛を褒められ、リンスを買ってもらったのだという話を聞いた。
贅沢をしない山中家だったので、奥さんが亜紀ちゃんのためにと思ってやったのだろう。
双子がキラキラした目で俺を見ていた。
「お前らも綺麗な髪だよな!」
「「ワハハハハハハ!」」
まあ、子どものうちはみんなそうだよ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
語り終えて、ハーがルーに鳥かごを奪われた。
今度はハーが歌い出す。
♪ ジリジリと 求めるGimme more 誰かに盗られる前に ほら Love is burning 熱を感じて ♪
「そういうことがあったか」
「そうだよ! あの日から、亜紀ちゃんは髪をものすごく大事にしてるんだよ!」
「そういえば、最初にお前たちがうちに来た時にも、亜紀ちゃんは髪を伸ばしていたよな」
「うん。亜紀ちゃんの拘りもあるけど、お母さんとの大事な思い出なんだよ」
「そっか……」
俺はまた、考えもなしに酷い事を言ってしまったか。
いつまでたっても、俺はダメだ。
俺は肉を焼いて、亜紀ちゃんの部屋へ行った。
「おい、入るぞ!」
声を掛けてドアを開くと、亜紀ちゃんが鏡の前で鋏を持っていた。
「おい! やめろ!」
「タカさん?」
俺は焼いた肉の皿をデスクに置き、鋏を亜紀ちゃんから取り上げた。
「おい、俺が悪かったって! 亜紀ちゃんがその綺麗な髪を大事にしてることは、さっき双子から聞いたよ」
「タカさん……」
「思い出のあるものなんだよな。だったら石神家では最高に大事なものだ! 俺が悪かった! すみません!」
「そんな、タカさん、違うんです」
「そのままでいろよ。ああ、いつでも一緒に寝に来い!」
「!」
亜紀ちゃんがまた大粒の涙を流す。
「ほら、これを喰えよ。詫びに焼いて来たんだ」
亜紀ちゃんが食べ始めると、やがてニコニコしてきた。
「ほんとはさ、サロンにでも通えばいいんだけどよ」
「?」
「うち、結構サロンばりのものが揃ってるからなぁ」
「ウフフフフ」
俺も子どもたちのために、最高のヘアケアのものを揃えて行った。
切っ掛けは、そういえば亜紀ちゃんのロングヘアーを見たことからかもしれない。
俺のハゲ防止の意味もあるのだが。
「亜紀ちゃんの髪は最高だからな」
「ほんとですか!」
「ああ、ずっとそう思ってるよ」
「あの日、タカさんがそう言ってくれたから」
「え?」
「始めてリンスを使って。タカさんがうちに遊びに来てくれて」
「ああ」
亜紀ちゃんが遠い目をしていた。
「だからお母さんにもっと髪の手入れのことを聞いて」
「そうだったか」
まあ、仕方ねぇ。
その後も亜紀ちゃんと一緒に寝ている。
もう鉄アレイも結ばないし、三つ編みにもしない。
夜中にナゾ髪が暴れると、俺が話しかけるようになった。
「本当に綺麗な髪だよなぁ」
そう言って撫でてやると、大人しくなる。
ただ、毎回一度は俺の鼻をくすぐって「褒めろ」と合図するのでウザい。
まあ、それもカワイイ亜紀ちゃんのためだ。
何のこともねぇ。
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