上 下
2,316 / 2,840

「カタ研」無人島サバイバル 総括

しおりを挟む
 ボリビアの《ハイヴ》を潰した後、ターナー大将たちに散々怒られ、俺と聖は「ほんとの虎の穴」で酒を飲んだ。
 その時、ターナー大将から連絡があり、「カタ研」の無人島キャンプでの騒動がロボによって一気に解決したことを聞いた。
 間もなく、救援要請に来たルーが俺たちの所へ来た。
 ターナー大将に、俺たちが戻っていることを聞いて急いで来たらしい。
 酷く慌てていたが、俺と聖の顔を見て、心底ホッとしていた。
 聖が大笑いしていた。

 「タカさん!」
 「おう、なんだよ、大変だったんだって?」

 ルーが必死に俺たちに説明した。
 大分興奮して、またいつもの相棒のハーがいないので少々分かりにくい。
 こいつらは双子で喋るのに慣れていて、交互に喋る話し方だ。
 だから一人で話すと感覚が違うらしく、分かりにくいことも多い。
 落ち着いている時には普通に話せるのだが、興奮していると途端に破綻する。
 それでも一気に説明しようとするので、怒鳴って落ち着かせた。

 「おい! 落ち着いて話せ!」

 つまみのTボーンステーキを食わせた。
 無意識にかぶりつき、むしゃむしゃ食べて行く。
 何とか落ち着いて、ルーも多少俺たちにも分かるように話し始めた。
 
 概要はターナー大将から聞いているので、実は分かっている。
 向かった無人島が、どうやら大妖魔の巣だったようだ。
 飛行艇で降りた時には気付かず、無人島に近づいてから黒いトゲに覆われた島だと分かった。
 まあ、その時点で本来は失敗なのだが。

 そして真っ先に「皇紀通信」の装置を壊され、にっちもさっちも行かなくなった。
 「花岡」が使えなくされ、子どもたちはどうしようもなくなったと思い込んだ。
 まあ、必死に気力を振り絞って絶望はしなかったようだが。

 そこから妖魔の軍勢に襲われ続け、「花岡」が効かない状況でなんとか踏ん張ったのだと。
 でも力尽きて、亜紀ちゃんも柳もルーも倒れ、絶体絶命の時にロボに助けられたということだった。

 「ロボは最初から危ないのが分かってたんだよ!」
 「なるほどな」
 
 そういえば、様子がおかしかった。
 自分を誘う柳のこと心配していたことが、今なら分かる。
 最初は妖魔の結界に閉じ込められたと考えていたようだが、精神攻撃で暗示状態だったようだ。
 途中でそれに気付いたが、暗示は自分たちで解けなかったと。

 「帰ったら、暗示にかからない方法を教えてやる」
 「そんなのがあるの!」
 「俺は柳の催眠術にかからないだろ?」
 「あ! そうだった!」

 聖が笑っていた。

 「お前ら死に掛けたのかよ」
 「そうだよ!」
 「ばぁーか!」
 「このやろう!」

 ルーが聖に殴り掛かってぶっ飛ばされた。
 一度も勝ったことが無い上に、逆上した状態で勝てるわけもない。
 そういうことが不明になるほど、ルーは興奮している。

 「早く帰ってやれ。こっちからも大勢行くんだろう?」
 「はい!」

 ルーがテーブルのつまみを口に入るだけ入れて飛び出していった。
 俺も聖も笑って見ていた。
 何があっても食欲は喪わない奴だ。

 「元気だな」
 「相当ヤバかったみたいだけどな。まあ、100点満点の10点だな」
 「あいつら、頭悪いからな」
 「そうだな」

 聖と笑った。
 聖にバカだと言われれば、あいつらも怒るかもしれない。
 でも聖は戦闘に関しては天才であり、柔軟思考が出来る。
 同じ場面になっても、俺たちであれば全く違った対応をしただろう。
 今回、子どもたちは初手から負けるように誘導されたのだ。
 そのことに全く気付かないまま、全て妖魔にしてやられた。
 唯一の評価は、根性を見せて諦めずに戦い続けたことだけだ。
 まあ、まったくの負け戦になっていったわけだが。

 霊的な感知能力の高い双子が気付かなかったのは、最初から暗示に掛けられていたのだ。
 しかも最初は精神攻撃でもない、単純な誘導だ。
 海辺の黒いトゲだけだと思い込まされ、それも簡単に排除出来ると思わされた。
 だからほとんど警戒することなく、敵陣に誘い込まれ、更に次々と誘導された。
 どの段階でも、簡単に撃破できる他愛ないものと信じ込ませ、警戒させなかった。
 その間に思考を読み取られ、「花岡」を封じられた。

 聖に子どもたちの無人島キャンプのことを話し、聖ならどういう対応を取ったか聞いてみた。

 「なんだよ、そんなことか。俺なら最初からそんな気味の悪い場所は行かねぇよ」
 「そうだよな。じゃあ、もしも作戦行動だったら?」
 「そんなもの! ヤバいかも知れない奴がいるんだ。最初から徹底的に攻撃だろうよ。気持ち悪いけど様子を見ましたなんてなぁ! アホウ以外の何物でもねぇじゃんか」
 「その通りだな」

 大笑いした。

 まさしく子どもだったのだ。
 楽しくキャンプをすることを中心にしたために何とかなるだろうと思わされ、全て後手に回って死に掛けた。
 聖にバカにされて当然だ。

 「トラ、もしかしたらそのままだったら死んでたか?」

 聖が俺に聞いて来た。
 こいつはうちの子どもたちの心配をしてくれている。
 優しい奴なのだ。

 「いや、多分最後は誰かがキレて解決したんじゃねぇかな。亜紀ちゃんか双子の誰かがな」
 「まあ、暗示を解く方法の一つだよな」
 「ああ。無我夢中で「花岡」のでかい技を試して、実際に島ごと吹っ飛ばしたかな。ロボが助けに行ったから分からんけどな」

 まだまだ子どもたちに作戦行動は任せられない。
 今度の件がいい経験になってくれれば良いのだが。

 聖と楽しく話し、少し眠ってから家に戻った。

 さて、帰ってから説教をしなければならんか。
 まったくめんどくせぇ。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...