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「カタ研」無人島サバイバル Ⅷ

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 ジョナサンの攻撃で一息つくことが出来た。
 亜紀ちゃんを後ろへ下がらせて休ませ、私とルーちゃんでバリケードの前で前衛戦をした。
 数体が来るだけで、私たちも交代で休みながら戦った。

 1時間もすると、また徐々に数が増えて来る。
 
 「ルーちゃん、ジョナサンにまた大きな攻撃をさせたらどうかな?」
 「ダメ! あの力は大き過ぎるよ。この島の地殻がもたないかもしれない」
 「そうか!」

 島が崩壊すれば私たちも終わりだ。
 私はルーちゃんとまた群がるトゲ人間と戦い続けた。
 ハーちゃんは後ろで瞑想している。
 ハーちゃんに期待するしかない。

 夜明けが近くなってきた。
 東の空が薄っすらと明るくなって来る。
 こんな状況じゃなければ、きっと綺麗な光景だっただろう。

 「あ、亜紀ちゃんが来るよ」

 ルーちゃんが戦いながら言った。
 亜紀ちゃんがバリケードを越えてこっちへ来た。

 「亜紀ちゃん、もういいの?」
 「柳さん、すみませんでした。本当は柳さんにも休んで欲しいんですが」
 「私は大丈夫だよ」
 「ええ、それどころじゃないようで」
 「え?」

 ルーちゃんが叫ぶ。

 「みんな気を付けて! 強い奴が来る!」

 亜紀ちゃんは私たちより前に出た。
 亜紀ちゃんにはもう分かっていたようだ。

 「パレボレ! ハーをこっちに寄越して!」
 「はい!」

 パレボレが走って行く。

 そして、あいつらが来た。






 ジョナサンが抉ったすり鉢状の地面を超えて来る。
 その時点で、体長が3メートルほどあるのが分かった。
 ゆっくりと歩いていたが、森を出てから急に走り出した。
 速い!
 他のトゲ人間よりもずっと速く、私たちの前に飛び込んでくるように迫った。

 亜紀ちゃんが右手で「オロチストライク」を放ったが、回避された。
 でも亜紀ちゃんは慌てずに左手で避けたトゲ人間の腹に撃ち込んだ。
 腹が吹っ飛んで大トゲ人間が動かなくなる。
 そして他のトゲ人間と同じく身体がボロボロと崩れて無くなる。

 「こいつらも同じだぁ! どんどん潰せぇぇぇーー!」

 亜紀ちゃんの怒号が響いた。
 みんなを安心させてくれたのだ。

 ハーちゃんが出て来た。

 「みんなゴメン! まだ分からない!」
 「いいよ! とにかく今はこいつらを!」
 「うん!」

 ハーちゃんが加わったことで、大分楽になった。
 しかし大トゲ人間がどんどん増えて行った。
 朝を過ぎると、一晩眠らないでいた私たちの体力がきつくなっていく。
 食事も出来ないでいる。

 「亜紀ちゃん! 一旦下がって食事と給水!」
 
 ルーちゃんが指示を出す。
 亜紀ちゃんは即座に後退し、茜ちゃんが食事を用意する。
 パレボレや陽菜ちゃんは後ろの上坂さんや坂上さんたちに持って行く。
 みんな疲労が溜まっている。

 「ジョナサンさん! 5キロ先に穴を空けて!」
 「分かった!」

 ルーちゃんがみんなの疲労の状況を見て指示した。
 爆風が吹き荒れ、亜紀ちゃんが戻って来た。

 「柳さんと交代!」
 「「はい!」」
 
 私が後ろへ下がり、亜紀ちゃんが前衛で戦う。
 坂上さんたちのライトはもういらないので後ろで休んでもらった。
 パレボレが残っている。

 「パレボレも休んで!」
 「僕はまだまだ大丈夫です! 何か指示があったらいつでも言って下さい!」
 「分かった! 無理はしないでね!」
 「はい!」

 私は急いでナンを食べ、水を飲んだ。

 「柳さん、俺の分も食べてくれ」

 坂上さんが言った。
 上坂さんも陽菜ちゃんたちも言う。

 「まだ大丈夫。みんな、ありがとう!」

 私は前衛に戻り、ジョナサンと交代した。
 まだ戦闘は終わらない。
 一体いつまで続くのか。

 そのことが、みんなの疲労を一層煽っていた。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「ロボちゃん、みんな楽しんでるかなー」

 昨日からうちでロボちゃんを預かっている。
 本当は石神さんと一緒にいたいのだろうが、石神さんはアメリカに行かなければならなくなった。
 「カタ研」の合宿もあったようだが、何故かロボちゃんはそっちへも行かなかった。
 まあ、ロボちゃんがうちに来てくれるのは嬉しい。

 夕べは石神さんのライヴをみんなで見て、ロボちゃんも大喜びだった。
 夜は怜花と一緒のベッドで寝てくれた。
 怜花が嬉しそうに一緒に寝た。

 でも、夜中にロボちゃんは起き出したようだ。
 久遠さんが廊下で怜花の部屋から出て来るロボちゃんを見た。

 「ロボ、どうした?」
 「にゃー」

 ロボちゃんは久遠さんの足元に来て身体を摺り寄せたそうだ。
 そして玄関ホールへ降りて行った。
 この家の中は自由にしてもらっていいので、私たちはそのまま寝た。

 朝になり、ロボちゃんの御飯を作った。
 鳥のササミと牛肉を少し焼いた。
 いつもは嬉しそうにすぐに食べてくれるのに、何故かロボちゃんは御飯をしばらくじっと見詰めていた。

 「どうしたの? 別なのが良かった?」
 「にゃーにゃーにゃー」

 少し鳴いて私に何か言おうとしているようだった。
 
 「お刺身を切ろうか?」
 「にゃ」

 ロボちゃんは御飯を食べ始めた。
 なんだったんだろう。
 御飯の後は少し怜花と遊んだけど、すぐに窓辺に行って外を眺めた。
 いつもとロボちゃんの行動が違う。
 寂しがっているのだろうか。
 でも、ロボちゃんは頭が良く、石神さんのことを理解している。
 ここに来てくれる時には、おとなしく石神さんの帰りを待っていて、私たちとも遊んでくれる。
 なんだろう。

 そしてそろそろお昼にしようかと思っていると、ロボちゃんが大きな声で鳴いた。

 「ニャーニャーニャーニャオ!」

 窓辺に行ってロボちゃんに聞いた。

 「え、どうしたの?」
 「ニャーニャーニャーニャオ!」

 ロボちゃんが窓を前足で叩いている。

 「お外に出たいの?」
 「にゃ!」
 「もうすぐお昼だよ?」
 「ニャーニャーニャーニャオ!」

 どうしても出たいようだ。
 私が窓を開けるとロボちゃんがベランダに出た。

 「ニャ!」

 一瞬でロボちゃんの姿が消えた。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 昼近くになっている。
 戦闘は終わる気配が無いばかりか、どんどんトゲ人間の数が増え、ほとんどが大トゲ人間ばかりになって来た。
 もうジョナサンの力は使えない。
 次は恐らく最後の手段だ。
 島を崩壊させ、無理矢理に脱出する。
 でもそれは島の周囲を覆っている黒いトゲに晒されることであり、生還が保証出来ない。

 亜紀ちゃんが辛そうだ。
 今は気力で戦っているが、もうもたない。
 ルーちゃんもハーちゃんも同じだ。
 私も限界が近いことを感じていた。

 何も希望の見えない中で、夢中で戦い続けるしかない。
 そして最期が訪れた。

 「亜紀ちゃん!」

 ルーちゃんが叫んだ。
 見ると亜紀ちゃんが倒れ、何体もの大トゲ人間が襲い掛かろうとしていた。
 ジョナサンが何とか吹っ飛ばし、ルーちゃんが亜紀ちゃんを抱きかかえてバリケードの内側へ運んだ。

 「ごめん。すぐに戻る」
 「亜紀ちゃん、限界だよ!」
 「今はそんなことを言ってられないよ」
 「ダメ! ここで休んで!」

 真夜と真昼がバリケードの前に出て来た。
 自分たちが戦線を支えなければならないと考えた。
 その通りだが、二人はまだ「オロチストライク」が使えない。

 ルーちゃんが戻って来て二人の隣で戦う。

 「ルーちゃん!」

 真夜と真昼の叫びが聞こえた。
 ルーちゃんが倒れた。

 「ルーちゃんを後ろへ!」
 「はい!」

 私とハーちゃんだけになり、大トゲ人間の群れを防げなくなってきた。
 
 「柳ちゃん!」

 前方のハーちゃんが叫ぶ。
 大トゲ人間よりも大きな体格の群れが1キロ先に見えた。

 「ハーちゃん! ここまで戻って!」
 「うん!」

 ハーちゃんが駆け戻って来る。

 「諦めないよ!」
 「うん!」

 ハーちゃんがあの明るい笑顔で頷いた。
 迫って来る大トゲ人間と戦う。
 目の前が暗くなった。

 「柳ちゃん!」

 咄嗟にハーちゃんが支えてくれるが身体に力が入らない。

 「柳ちゃん!」

 ハーちゃんの声が遠くで聞こえる。




 石神さんの顔が浮かんだ。
 ああ、もう一度会いたい。
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