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院長夫妻と別荘
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5月6日。
今日は院長夫妻が別荘に来る。
別荘で昼食の中華丼を食べ、JRの駅に迎えに行こうとすると、早乙女から磯良が中学校で襲われたという連絡を受けた。
その前に愛鈴が獅子神のマンションの駐車場で襲われている。
敵は5人のようだが、結構な強敵だ。
愛鈴に瀕死の傷を与えた。
磯良には無理だったが、後者に携帯ミサイル撃ち込んでいる。
呆れた無差別殺人だ。
しかし、敵にとっては何の躊躇も必要のない命だった。
だが、実は被害は無かった。
愛鈴が襲われた時に、早乙女と密かに相談していたのだ。
学校へ通う磯良が襲われる可能性が高く、だからこそ「準備」をしていた。
俺と早乙女、そして副官の成瀬しか知らない。
事前にデュールゲリエを50体配備し、敵が来たと当時に生徒を避難させる。
正門に教室は面しており、廊下へ逃がせば大抵のことは大丈夫だ。
戦闘の開始と同時にデュールゲリエが生徒を避難させた。
そして早乙女が携帯ミサイルが飛び込んだ教室の生徒全員が犠牲となったこととした。
一つは「業」のテロリズムへの人々の反発を促すためであり、もう一つは磯良たちの怒りを促すためだった。
また、自分のせいで生徒たちが死傷したという状況を、磯良がどう受け止めるのかの反応を見たかった。
それは今後の戦いにおいて、必ず俺たちに付きまとうことだ。
磯良はそれを乗り越える必要がある。
午後に早乙女から報告を受け、打合せ通りに磯良には偽装された内容が伝えられた。
「ショックを受けているか?」
「少しはな。でも想像以上にそれを抑えている」
「そうか、やはり磯良は特別な感性を持っているな」
「石神、俺にはそれが悲しいよ」
「仕方がない。あいつは自分の運命を背負おうとしているんだ。そういう生き方をして来たんだよ」
早乙女は少しの間を置いて話す。
「自分の周囲が犠牲になることをか?」
「そうだ。磯良が相手にしているのは恐ろしい敵だ。甘い感情は戦いの支障になる」
「そうか……」
落ち込む早乙女に言った。
「だけどな、それも変わっていくぞ」
「え?」
「磯良は大事な仲間を得た。多分堂前家の人間にはこれまでも特別な思いがあっただろう。それに加えて、「アドヴェロス」の仲間も磯良は同様に思うようになった」
「でも、それだけなんだろう? 自分の同級生や学校の人間は、それほどの思い入れが無い」
「今はな。でも磯良の考える「大事な人間」が倍以上に増えたんだ。そのことは必ず磯良に変革をもたらすぞ」
「それは、縁のない他人にも同情するということか!」
「今まで以上にはな。磯良は自分が全然弱いと思ってきた。だから大事な人間を増やせなかった。しかし、確実にそれは増えている。ならば、これまで見捨てても平気な人間もいなくなる」
早乙女はまだよくは分からないようだった。
「皇紀はな、すれ違った子どもを気にしてアパートまでついていく。自分に無関係な人間はいないんだ」
「ああ、前に皇紀君の家出じゃないかって騒いだよな」
「そうだ。磯良にも同じ心がある。あいつはまだ子どもで喪うことを恐れてはいるが、今後その恐怖を乗り越えるだろうよ」
「石神には分かるのか?」
早乙女が少し嬉しそうな声になった。
「分かる。あいつは愛情の深い母親に育てられた。必ずあいつの心の中には深い愛情が拡がっているはずだ。まあ、まだ表には出にくいけどな。でも、大丈夫だよ。磯良はきっと乗り越える」
「そうか! ありがとう、石神!」
俺は笑って言った。
「おい、お前が先頭を切ってやるんだぞ?」
「あ、ああ!」
「磯良をお前に家にもっと呼べよ。自分を愛する人間を、磯良は必ず大事にする。そういう奴だ。あいつをもっと安心して他人と接するようにしろ。あいつの中には既にそういう心がある」
「分かった! ありがとう、石神!」
俺は笑って電話を切った。
双子を誘ってハマーで院長夫妻を迎えに行く。
「文学ちゃんと静子さんは別荘初めてだよね!」
「楽しみだよね!」
二人が喜んでいる。
「そうだな。もっと早く招待しても良かったよな」
「でもいいよ、本当に来てくれるんだもん!」
「だな!」
時間通り、午後2時過ぎに特急が到着した。
荷物があるだろうと、俺たちはホームに入って出迎えた。
「文学ちゃーん!」
「静子さーん!」
双子がお二人に駆け寄って抱き着いた。
「なんだ、ここまで迎えに来てくれたのか!」
「「うん!」」
すぐにお二人の荷物を受け取る。
俺が以前に差し上げたグローブトロッターのスーツケースだ。
院長は白のシャツに明るいグレーのパンツ、そしてヒッキーフリーマンの革のブルゾンを羽織っている。
ブルゾンは俺が差し上げたものだ。
静子さんは薄いエンジのパンツに、ゆったりとしたセーターを着ている。
その上に、ベージュの薄手のロングコートだ。
俺の別荘は山の中腹にあり、少し寒い。
お二人をハマーに乗せて、スーパーに向かった。
ハーが助手席に乗り、ルーが院長たちと一緒に後ろのシートだ。
「石神、今日も世話になる」
「何言ってんですか! 遠い所をありがとうございました」
「石神さんの別荘なんて楽しみだわ」
「はい! 精一杯おもてなしいたします!」
二人が笑った。
「すいません、ちょっと買い物に行きますのでお付き合い下さい」
「ああ、構わないよ」
折角いらしたのだ。
あのスーパーを堪能して欲しい。
スーパーに着き、専用駐車場の少し手前で停めた。
お二人に降りて頂く。
「おい、なんだこれは!」
「タカさんがね、ここのスーパーの店長さんに感謝されて、うちの専用駐車場が出来たの!」
「そ、そうなのか」
院長は訳が分からないという顔をしていた。
そりゃそうだろう、俺にも分からん。
ハマーを駐車場に入れると、すぐに店長さんが出て来た。
「石神様! お待ちしておりました!」
「こんにちは。今日は俺の上司の院長夫妻と一緒に来ました」
「さようでございますか! わざわざのお越し、ありがとうございます!」
店長さんは名刺を院長に渡した。
院長も自己紹介をしている。
「俺の一番大事なお二人でしてね」
「そうなんですか! どうぞゆっくりお楽しみ下さい」
ルーが俺たちが入るとテーマ曲が流れるのだと説明した。
店長さんもニコニコしてドアを開ける。
ワーグナーの『ワルキューレの騎行』が流れる。
店員がこちらを向いて待っており、俺たちが入ると一斉に頭を下げた。
『石神様! いらっしゃいませ!』
「な、なんだ!」
院長が驚き、静子さんが笑っていた。
「石神さんはどこに行っても楽しいわね!」
「アハハハハハ!」
俺たちは頼んでおいた肉と海鮮を受け取り、院長夫妻を新館へ案内した。
「子ども広場」で、俺と六花のダンス映像を見せる。
「お前と一色じゃないか!」
「はい。前にここで遊んでたら録画されてました。それ以来、子ども相手のダンス教室みたいのが出来まして」
「なんだ、それは?」
双子が笑って説明していた。
静子さんがまた大笑いした。
「お昼はお済みですか?」
「ああ、電車の中で駅弁を食べたよ。お前の言っていた弁当は本当に美味かったぞ」
「そうですか! 前に六花を里帰りさせた時に美味しかったんで」
「すみだ川」という料亭の弁当だ。
「じゃあ、帰りましょうか」
「おい、買い物の荷物はどうするんだ?」
「ああ、結構な量でしてね。お店の人が別途運んでくれるんですよ」
「そうなのか」
フードコートを抜けようとすると、店長さんが飛んで来た。
「あの、石神様。今日はフードコートは御使いになりませんか?」
「ああ、そろそろ3時のお茶の時間なので、別荘に戻ってからと」
「さようでございますか! それでしたら、少々お待ちください!」
「いや、今日はいいですよ」
「そんなわけには!」
店長さんが、新たにフードコートに入ったジェラートのお店から、結構な量のアイスクリームを持って来た。
保冷バッグに入れてある。
「どうぞこちらを!」
「いや、すみませんね」
ありがたく頂き、双子が喜んだ。
ハマーに乗り込む。
今度はハーがお二人と一緒に座った。
「お待たせしました。じゃあ、出発しますね」
ルーとハーが楽しそうに別荘のことや今晩の食事のことを話していく。
院長と静子さんが来てくれるのが、本当に楽しみだったと言う。
お二人はニコニコして双子の話を聞いていた。
今日は院長夫妻が別荘に来る。
別荘で昼食の中華丼を食べ、JRの駅に迎えに行こうとすると、早乙女から磯良が中学校で襲われたという連絡を受けた。
その前に愛鈴が獅子神のマンションの駐車場で襲われている。
敵は5人のようだが、結構な強敵だ。
愛鈴に瀕死の傷を与えた。
磯良には無理だったが、後者に携帯ミサイル撃ち込んでいる。
呆れた無差別殺人だ。
しかし、敵にとっては何の躊躇も必要のない命だった。
だが、実は被害は無かった。
愛鈴が襲われた時に、早乙女と密かに相談していたのだ。
学校へ通う磯良が襲われる可能性が高く、だからこそ「準備」をしていた。
俺と早乙女、そして副官の成瀬しか知らない。
事前にデュールゲリエを50体配備し、敵が来たと当時に生徒を避難させる。
正門に教室は面しており、廊下へ逃がせば大抵のことは大丈夫だ。
戦闘の開始と同時にデュールゲリエが生徒を避難させた。
そして早乙女が携帯ミサイルが飛び込んだ教室の生徒全員が犠牲となったこととした。
一つは「業」のテロリズムへの人々の反発を促すためであり、もう一つは磯良たちの怒りを促すためだった。
また、自分のせいで生徒たちが死傷したという状況を、磯良がどう受け止めるのかの反応を見たかった。
それは今後の戦いにおいて、必ず俺たちに付きまとうことだ。
磯良はそれを乗り越える必要がある。
午後に早乙女から報告を受け、打合せ通りに磯良には偽装された内容が伝えられた。
「ショックを受けているか?」
「少しはな。でも想像以上にそれを抑えている」
「そうか、やはり磯良は特別な感性を持っているな」
「石神、俺にはそれが悲しいよ」
「仕方がない。あいつは自分の運命を背負おうとしているんだ。そういう生き方をして来たんだよ」
早乙女は少しの間を置いて話す。
「自分の周囲が犠牲になることをか?」
「そうだ。磯良が相手にしているのは恐ろしい敵だ。甘い感情は戦いの支障になる」
「そうか……」
落ち込む早乙女に言った。
「だけどな、それも変わっていくぞ」
「え?」
「磯良は大事な仲間を得た。多分堂前家の人間にはこれまでも特別な思いがあっただろう。それに加えて、「アドヴェロス」の仲間も磯良は同様に思うようになった」
「でも、それだけなんだろう? 自分の同級生や学校の人間は、それほどの思い入れが無い」
「今はな。でも磯良の考える「大事な人間」が倍以上に増えたんだ。そのことは必ず磯良に変革をもたらすぞ」
「それは、縁のない他人にも同情するということか!」
「今まで以上にはな。磯良は自分が全然弱いと思ってきた。だから大事な人間を増やせなかった。しかし、確実にそれは増えている。ならば、これまで見捨てても平気な人間もいなくなる」
早乙女はまだよくは分からないようだった。
「皇紀はな、すれ違った子どもを気にしてアパートまでついていく。自分に無関係な人間はいないんだ」
「ああ、前に皇紀君の家出じゃないかって騒いだよな」
「そうだ。磯良にも同じ心がある。あいつはまだ子どもで喪うことを恐れてはいるが、今後その恐怖を乗り越えるだろうよ」
「石神には分かるのか?」
早乙女が少し嬉しそうな声になった。
「分かる。あいつは愛情の深い母親に育てられた。必ずあいつの心の中には深い愛情が拡がっているはずだ。まあ、まだ表には出にくいけどな。でも、大丈夫だよ。磯良はきっと乗り越える」
「そうか! ありがとう、石神!」
俺は笑って言った。
「おい、お前が先頭を切ってやるんだぞ?」
「あ、ああ!」
「磯良をお前に家にもっと呼べよ。自分を愛する人間を、磯良は必ず大事にする。そういう奴だ。あいつをもっと安心して他人と接するようにしろ。あいつの中には既にそういう心がある」
「分かった! ありがとう、石神!」
俺は笑って電話を切った。
双子を誘ってハマーで院長夫妻を迎えに行く。
「文学ちゃんと静子さんは別荘初めてだよね!」
「楽しみだよね!」
二人が喜んでいる。
「そうだな。もっと早く招待しても良かったよな」
「でもいいよ、本当に来てくれるんだもん!」
「だな!」
時間通り、午後2時過ぎに特急が到着した。
荷物があるだろうと、俺たちはホームに入って出迎えた。
「文学ちゃーん!」
「静子さーん!」
双子がお二人に駆け寄って抱き着いた。
「なんだ、ここまで迎えに来てくれたのか!」
「「うん!」」
すぐにお二人の荷物を受け取る。
俺が以前に差し上げたグローブトロッターのスーツケースだ。
院長は白のシャツに明るいグレーのパンツ、そしてヒッキーフリーマンの革のブルゾンを羽織っている。
ブルゾンは俺が差し上げたものだ。
静子さんは薄いエンジのパンツに、ゆったりとしたセーターを着ている。
その上に、ベージュの薄手のロングコートだ。
俺の別荘は山の中腹にあり、少し寒い。
お二人をハマーに乗せて、スーパーに向かった。
ハーが助手席に乗り、ルーが院長たちと一緒に後ろのシートだ。
「石神、今日も世話になる」
「何言ってんですか! 遠い所をありがとうございました」
「石神さんの別荘なんて楽しみだわ」
「はい! 精一杯おもてなしいたします!」
二人が笑った。
「すいません、ちょっと買い物に行きますのでお付き合い下さい」
「ああ、構わないよ」
折角いらしたのだ。
あのスーパーを堪能して欲しい。
スーパーに着き、専用駐車場の少し手前で停めた。
お二人に降りて頂く。
「おい、なんだこれは!」
「タカさんがね、ここのスーパーの店長さんに感謝されて、うちの専用駐車場が出来たの!」
「そ、そうなのか」
院長は訳が分からないという顔をしていた。
そりゃそうだろう、俺にも分からん。
ハマーを駐車場に入れると、すぐに店長さんが出て来た。
「石神様! お待ちしておりました!」
「こんにちは。今日は俺の上司の院長夫妻と一緒に来ました」
「さようでございますか! わざわざのお越し、ありがとうございます!」
店長さんは名刺を院長に渡した。
院長も自己紹介をしている。
「俺の一番大事なお二人でしてね」
「そうなんですか! どうぞゆっくりお楽しみ下さい」
ルーが俺たちが入るとテーマ曲が流れるのだと説明した。
店長さんもニコニコしてドアを開ける。
ワーグナーの『ワルキューレの騎行』が流れる。
店員がこちらを向いて待っており、俺たちが入ると一斉に頭を下げた。
『石神様! いらっしゃいませ!』
「な、なんだ!」
院長が驚き、静子さんが笑っていた。
「石神さんはどこに行っても楽しいわね!」
「アハハハハハ!」
俺たちは頼んでおいた肉と海鮮を受け取り、院長夫妻を新館へ案内した。
「子ども広場」で、俺と六花のダンス映像を見せる。
「お前と一色じゃないか!」
「はい。前にここで遊んでたら録画されてました。それ以来、子ども相手のダンス教室みたいのが出来まして」
「なんだ、それは?」
双子が笑って説明していた。
静子さんがまた大笑いした。
「お昼はお済みですか?」
「ああ、電車の中で駅弁を食べたよ。お前の言っていた弁当は本当に美味かったぞ」
「そうですか! 前に六花を里帰りさせた時に美味しかったんで」
「すみだ川」という料亭の弁当だ。
「じゃあ、帰りましょうか」
「おい、買い物の荷物はどうするんだ?」
「ああ、結構な量でしてね。お店の人が別途運んでくれるんですよ」
「そうなのか」
フードコートを抜けようとすると、店長さんが飛んで来た。
「あの、石神様。今日はフードコートは御使いになりませんか?」
「ああ、そろそろ3時のお茶の時間なので、別荘に戻ってからと」
「さようでございますか! それでしたら、少々お待ちください!」
「いや、今日はいいですよ」
「そんなわけには!」
店長さんが、新たにフードコートに入ったジェラートのお店から、結構な量のアイスクリームを持って来た。
保冷バッグに入れてある。
「どうぞこちらを!」
「いや、すみませんね」
ありがたく頂き、双子が喜んだ。
ハマーに乗り込む。
今度はハーがお二人と一緒に座った。
「お待たせしました。じゃあ、出発しますね」
ルーとハーが楽しそうに別荘のことや今晩の食事のことを話していく。
院長と静子さんが来てくれるのが、本当に楽しみだったと言う。
お二人はニコニコして双子の話を聞いていた。
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