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《デモノイド》戦 XⅡ 羽入・紅

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 俺と紅は密かに早乙女さんに呼ばれ、《デモノイド》と呼ばれる強力なライカンスロープに「アドヴェロス」本部が襲撃されると聞いた。
 5人組の連中らしく、その5人は中核のハンターで相手をすると言われた。
 しかし、敵は他にもいる可能性があり、ハイエースを運転している人物が怪しいということだった。
 そいつがライカンスロープであった場合、俺と紅で撃破するようにと。
 どうも《デモノイド》の連中は、「アドヴェロス」のハンターが5人だと考えているようだった。
 だから俺たちが呼ばれ、本部の外で待機する作戦だった。

 戦闘は5対5で行なわれた。
 そして見事にハンターが敵を斃した。
 随分と強い連中だったはずだが、流石だ、
 俺と紅も負けるわけには行かない。

 そして、本当にハイエースの運転手から強烈な妖魔反応が始まった。

 「敵! ゴールドタイプ! 最強だ! 秋田で出現したオーガの上位種!」

 成瀬さんからインカムに連絡が来た。
 石神さんたちが秋田で遭遇した金色に輝くライカンスロープだ。
 石神さん以外の、「アドヴェロス」最強の磯良の攻撃も通じなかった奴だ。
 俺と紅は「アドヴェロス」本部の向かいの建物から飛び出している。

 「紅! 後方支援を頼む!」
 「おう!」

 以前であれば紅は俺の前に出て俺を守ろうとした。
 しかし、真のバディとなった今では互いを信じ、様々な戦闘スタイルが可能だ。
 拠点防衛の「バハムート」装備の紅が、強力な火力支援をしてくれる。
 俺は敵に接近して「カサンドラ」の高出力タイプ「レーヴァテイン」で攻撃する。
 石神さんと聖さんの必殺の戦闘スタイルと聞いた。
 だから紅と二人で必死に練習した。

 紅が飛ばした「スズメバチ」が2000体、俺の頭上を飛んで行きハイエースを襲った。
 「虚震花」「ブリューナク」を連射し、たちまちハイエースは高熱に包まれる。
 敵が出てからなどとは一瞬も考えていない。
 ハイエースは爆散し、数秒で何も残っていない。
 ただ、ゴールドタイプを除いては。
 そいつは何事も無かったかのように立っていた。

 あれだけの集中した攻撃をものともしていない。
 やはり相当硬い奴だ。

 「紅! 「スズメバチ」を退け! 俺がやる!」

 紅が「スズメバチ」を上空に戻し、俺がレーヴァテインで攻撃を仕掛ける。
 ゴールドタイプは俺の攻撃を両手で軽くいなしていく。
 まったく高出力のプラズマの刃が通用しない。
 後方から紅が高出力のレーザー砲で攻撃していくが、それも表面の体毛さえ焦がしてはいない。

 「紅! エネルギー攻撃はダメだ! 物理で行け!」
 「分かった!」

 「スズメバチ」の「虚震花」や「ブリューナク」でハイエースは粉砕されたが、ゴールドタイプは無傷だった。
 あの金色に輝く体表でエネルギーが変換されてしまう。
 磯良の「無影刀」も通用しなかったそうだ。
 実際に目にすると信じられないほどの硬さだ。

 紅はバハムート装備のレールガン4門をゴールドタイプに向けた。
 俺が射線を開けると同時に紅が連射する。
 ゴールドタイプの身体にレールガンの超高速弾が撃ち込まれ、左腕が吹っ飛んだ。
 通常のライフルの比ではないマッハ80で飛翔するチタン合金の弾丸は、物質であればすべて破壊する。

 「羽入! 再生している!」

 紅の言う通り、レールガンの弾丸が抉った傷が、どんどん塞がって行く。
 レールガンはあまりの威力のために連射が難しい。
 マッハ80という超スピードは発射の際に膨大な熱を生じ、発射レールを高温に加熱させてしまう。
 冷却機構もあるが、2射もするとクールダウンが必要だ。
 紅は4門を巧みに操作して16発を1秒おきに連射した。
 レールガンのギリギリの見事な操作だ。
 しかしゴールドタイプを結構破壊したが、連射が終わると急速に再生を始めている。
 拾った左腕を自分であてがうと、そこも癒着した。

 ゴールドタイプは傷が半ば再生すると動き始めた。

 「羽入! 来い!」
 
 俺は言われたままに駆け戻った。
 まだゴールドタイプの移動速度は遅い。
 紅の攻撃が効いている。
 紅は背中から一振りの日本刀を取り出して俺に渡す。

 「石神様からお預かりした「流星剣」を使え」
 「おう!」
 「あいつには「レーヴァテイン」も効き難い」
 「そうだな」

 石神さんから、以前に「流星剣」をいただいた。
 四振りの神剣のうちの一振りだそうだ。
 俺は実際に握ってみたが、相当な重さがある。
 隕石鉄を特殊な打ち方をしているらしい。
 石神さんが言うには、この「流星剣」はおよそ物質であれば必ず両断する《権能》があるらしい。
 妖魔だろうが何だろうが、受肉している相手であれば、極めれば絶対に斬れる。
 他の「朧影」「黒笛」「常世渡理」が妖魔に特化した神剣であるのに対し、この「流星剣」は妖魔にも他の物質にも有効だ。
 紅はそれから俺のために常に持ち歩いてくれるようになった。
 俺を守るための最大の武器と思っているらしい。
 まあ、石神さんが俺にくれた、ということが重要なのだろうが。
 石神さんを心底から紅は信頼しているのだ。

 俺は「流星剣」の鞘を払い、ゴールドタイプに向いた。
 もう紅に撃たれた傷はほとんど治っているようだ。
 
 「紅、レールガンはもう使えるか?」
 「まだだ。1発は撃てるが、そうすればもうこの戦闘では使い物にならない」
 「じゃあ、最悪4発だな」
 「そうだ」
 「他の武器は?」
 「50口径の重機関砲がある。あいつにどれだけ有効かは分からんがな」
 「使い方はお前に任せる」
 「分かった!」

 俺は前に出た。
 
 「よう、他の奴らは1対1だったけどよ。お前の相手は俺たち二人だ」
 「他愛無い」
 「なんだと?」

 ゴールドタイプが口元を吊り上げて笑った。
 
 「あの若い連中もお前たちもだ」
 「……」

 俺はマントラを唱えている。
 そのための時間稼ぎの会話だ。

 「口では偉そうなことを言っていたがな。いざ戦って見ればこの始末だ。まったく他愛無い」
 「へぇ」
 「お前たちの実力も、作戦も、何もかもが他愛無い。二人だろうが全員だろうが、何も考慮する必要はない」
 「さっき、ボコボコにされただろう」
 「あれしきのこと。お前たちの攻撃など、どうということもない」
 「そうかよ。行くぜ!」

 俺はマントラを唱えたことで、限界を超えた速さで動いた。
 ゴールドタイプの首を一閃する。
 ゴールドタイプは余裕でそれを後ろへ移動してかわし、俺は強引に刃の方向を曲げて首に突きを入れた。
 ゴールドタイプの喉に突き刺さり、今度は刃を右横へ振り抜きながら叫んだ。
 首筋から激しく黒い血液が噴出した。

 「紅!」

 俺は走り抜けるように移動し、紅に射線を渡した。
 打ち合わせも指示も無かったが、紅が4門のレールガンを俺が斬り裂いた首筋に集弾する。
 レールガンの弾が首の左から右へ4発撃ち込まれた。
 ゴールドタイプは自分で上から頭を押さえ込む。
 顔が苦痛に歪んでいた。

 俺はもう一度ゴールドタイプの正面に移動し、横から必殺の力を込めて薙いだ。
 ゴールドタイプの右腕から首、そして左腕を斬り裂いた。

 「羽入!」

 俺は再び横へ移動する。
 紅が50ミリ機関砲を連射する。
 ゴールドタイプの腹から胸を集中して撃ち込み、地響きをたてて地面へ倒れた。
 俺は「流星剣」を握った両手を前に垂らした。
 右肩の骨折と左上腕の骨折、そして幾つかの筋肉の断裂。
 もう剣を振るえない。

 「羽入!」
 
 紅が50ミリ機関砲を連射しながら俺に近づいて来た。
 ゴールドタイプは崩れ去って行った。

 



 「羽入! 大丈夫か!」
 「ああ、前よりか大分ましだ」
 「おい! 見せてみろ!」

 紅が俺の手から「流星剣」を取り上げ、俺を地面に横にした。
 本部の敷地から早乙女さんと磯良、愛鈴さんが来る。

 「羽入! 負傷したのか!」
 「早乙女さん、大丈夫です。奥義を使ったんでまた腕を壊しただけです」
 
 紅がX線で俺の状態を透視した。
 早乙女さんに状況を報告する。

 「すぐに病院へ運ぶ」
 「はい、お願いします」

 担架が運ばれ、俺は一時「アドヴェロス」の本部に入った。
 紅がすぐに俺に「Ω」と「オロチ」の粉末を飲ませる。
 瞬間に楽になった。

 磯良が笑顔で俺に言った。

 「羽入さん、やりましたね」
 「紅のお陰だ」
 「はい! 紅さんも凄かったです」
 「いや、みんなの戦闘こそ凄まじかった」
 「そうですね。今日は凄い戦闘でした」
 
 磯良がそう言うと、愛鈴さんが嬉しそうに磯良を抱き締めて笑った。

 「みんな、やったよね!」
 「そうですね」
 「後で差し入れに行くから」
 「ありがとうございます」

 俺は救急車に乗せられ、石神さんの病院へ搬入された。
 一江さんと大森さんが二人掛かりで俺の腕を治療してくれた。
 石神さんの次に腕のいい外科医らしい。

 「なんだよ、もうほとんどくっついてるぜ」
 「遣り甲斐が無いな」
 「もう一度折っとく?」
 「アハハハハハ!」
 
 部分麻酔なので二人のジョークで俺も笑った。
 口ではそう言いながら、丁寧に処置してくれた。
 もちろん重傷だったのだ。

 



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 石神に、《デモノイド》を全て駆逐した報告をした。

 「そうか。御苦労」
 「一時はどうなることかと思ったけどな」
 「お前が仲間を信頼したんだろう」
 「そうだ」

 5人の敵と1対1で戦うことを俺が認めた。

 「やり方は幾つもあるさ。どれが正解なんてこともねぇ」
 「ああ」
 「選んで決めるだけだ。お前は決めて勝利したんだ。やったな」
 「ああ。これで良かったと思うよ」

 石神の電話の向こうで、大勢が騒いでいる声が聞こえる。

 「ああ! おい、今日はここまでだ!」
 「どうしたんだ?」
 「もうすぐ蓮花の必殺の宴会芸が始まるんだよ!」
 「え、蓮花さんの!」
 「爆笑確定なんだってよ! じゃあまた帰ってからな!」
 「あ、ああ、分かった。またな」
 
 電話が切れた。
 随分と楽しそうだ。
 石神も俺たちを信頼してくれ、任せてくれた。
 本当に有難い。
 こちらも今、早霧が食事を手配してくれ、祝勝会を開く。
 早霧の顔で、幾つかのレストランから美味い料理が集まる予定だ。
 その早霧の発案で、今日は一人一芸を披露することになった。
 愛鈴が困っていた。






 俺もいつか蓮花さんの芸が見てみたいなー。
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