2,275 / 2,840
《デモノイド》戦 Ⅸ 葛葉
しおりを挟む
「鏑木はやったか」
テラスでG28を構えている鏑木の無事な姿を見て、ホッとした。
あいつはハンターの中では近接戦闘に最も弱い。
今回の作戦で、一番不安な奴だった。
しかしあいつは自分で戦略を組み立てて、見事に成功させやがった。
大した奴だ。
「なかなかやるじゃねぇか」
ほくそ笑んで、目の前の俺の敵、スラヴァに向いた。
長い金髪をたなびかせて、笑っている。
俺には気持ち悪いとしか映らないが、女にモテるだろう。
「おい、ゴリラ女が死んだぞ」
「何を言う。俺たちがお前たちに負けるわけはない」
その直後、絶叫が響いた。
早霧と戦っていたセリョーガのものだ。
スラヴァは信じられないという顔で、そちらを見た。
「セリョーガ!」
俺はその隙を逃さずにスラヴァに迫り、拳を叩き込む。
スラヴァが反応したが、受けた左手が爆散する。
「!」
スラヴァの目が大きく見開かれ、信じられないと言う顔をした。
そして俺と距離を取ろうとした。
俺は追い縋って、連続して左右の拳をスラヴァに叩き込んだ。
今度は微妙にかわされてはいるが、スラヴァに触れた部分は破砕していく。
「貴様!」
スラヴァは足元が滑るので動きが悪い。
俺は幾度もスラヴァの身体に拳を叩きつけた。
肉が爆ぜて行く。
スラヴァが苦しそうな顔になって行く。
それが、急に思い切り動いた。
当然地面のグリースとパチンコ玉に足を取られ、派手に転んで滑って行く。
やはり只者ではない。
俺との距離を稼ぐために、強引に滑走したのだ。
「この野郎!」
俺はすぐにスラヴァが何をしようとしたのかを察した。
「させるかぁ!」
スラヴァはメタモルフォーゼしようとしている。
これまでは俺たちを舐めて掛かっていたが、仲間が殺されて本気になっている。
敷地の中で、他に磯良と愛鈴が戦っているはずだが、姿は見えない。
個別に撃破するために、建物の陰になっているのだろう。
スラヴァは一気に50メートル離れた。
追撃するが、間に合わず、激しい熱気が溢れて来た。
周囲に水蒸気が満ちる。
「チィッ!」
今度は逆に俺が距離を取った。
水蒸気が晴れ、メタモルフォーゼを終えたスラヴァが立っていた。
「もう終わりだ。お前たちは一人も助からない」
「……」
「セリョーガをやった奴もすぐに殺す。「業」様にもう顔向けできない」
「なんだと?」
「俺たちはお前たちなど敵では無かった。軽く捻ってやるつもりだった。セリョーガは油断して殺された。「業」様はもう、俺たちへの信頼を失われるだろう」
「何言ってんだ?」
「まあいい。俺一人でお前たちを殺せば、少しは認めていただけるだろう」
スラヴァは、ワイヤーを束ね、鉄骨を組み上げたような姿だ。
体長は元の身体と同じ190センチ程だ。
妖魔の中でも「ワイヤータイプ」と呼ばれる者は、上位の存在であり、「虎」の軍の精鋭にしか斃せない者たちだ。
ライカンスロープにはこれまで「ワイヤータイプ」は現われなかった。
それは人間との融合が難しかったからなのだろう。
しかし、目の前にするこの5人組は、恐らく「ワイヤータイプ」との融合に成功したに違いない。
俺はスラヴァに向かって構えた。
「無駄だ。お前の技はもう通じない」
俺はスラヴァに向かって獰猛な笑いを見せてやった。
「お前がメタモルフォーゼして強くなったんならよ」
「なんだ?」
「どうして俺らが届かないって決めつけるんだよ?」
「お前、何を言っている?」
表情は動かないが、スラヴァは笑っているようだった。
「俺たちは本気を出してねぇんだ」
「フン」
スラヴァが動き出そうとしたその時、銃撃を受けた。
「!」
驚いている。
俺は即座に「月光臨」に入った。
自分の中に輝く満月を思い浮かべ、それと一体化する。
スラヴァは動く初動を銃撃で止められて、行動できないでいる。
鏑木の神懸かり的な射撃センスだ。
スラヴァにとっては、人間が小石を当てられている程度のことだろう。
しかし、それによって一歩も動けず何も出来ないでいる。
「機」を押さえられているのだ。
武道の極限を極めた人間は、相手の初動を指で押さえるだけで止めることが出来る。
鏑木は、それを射撃で実現している。
まったく舌を巻く高度な技術だ。
これほど強大な敵にも通用している。
俺は満月と一体化し、俺の体中に満月が満ちて行く。
人間の個を超えた巨大な力と流れが身体を迸って行く。
スラヴァが鏑木の射撃に慣れて行ったのが分かる。
もうこれ以上はスラヴァを止められないだろう。
しかし、俺も満ちた。
スラヴァがやっと一歩を踏み出す。
俺も一歩を踏み出し、スラヴァと間合いが重なった。
互いに拳を突き出す。
《無量光砲》
ぶつかった拳がスラヴァの右腕を消滅させ、そのまま胸を消失させた。
黒い霧のようなものがスラヴァの後ろへ拡がっていく。
スラヴァの肩から上が地面に転がった。
「な、なにが……」
最後の一呼吸でスラヴァが喋った。
「お前は負けたんだよ」
「……」
まだ意識があるのか、スラヴァは俺を睨んでいた。
「俺の勝ちだ。呆気なかったな」
「……」
スラヴァは苦悶に顔を歪め、徐々に崩壊し、塵となって行った。
俺も地面に大の字に転がった。
「効いて良かったぜ」
笑いが込み上げて来る。
テラスを見ると、鏑木がライフルを振り上げていた。
俺も右手を振ってやった。
インカムに鏑木の声が来た。
「葛葉さん、やりましたね!」
「ああ、お前のお陰だ」
「いいえ! スゴイ技でしたよ」
「そうか」
「感動しました!」
「俺もお前の射撃には感動したよ」
「そうですか?」
「ああ、最高の仲間だ」
「アハハハハハ!」
最大奥義だ。
「アドヴェロス」の他の誰にも見せたことはねぇ。
タメに時間が掛かるのと、一発撃てばしばらく動けない。
鏑木が間に合って良かった。
あいつがいなければ、負けたかもしれない。
これで三体をやった。
離れた場所で、俺と同じく早霧が寝転がっている。
情けねぇ。
残るは磯良と愛鈴だ。
あいつらが負けるわけはねぇ。
だから少し、休ませろ。
テラスでG28を構えている鏑木の無事な姿を見て、ホッとした。
あいつはハンターの中では近接戦闘に最も弱い。
今回の作戦で、一番不安な奴だった。
しかしあいつは自分で戦略を組み立てて、見事に成功させやがった。
大した奴だ。
「なかなかやるじゃねぇか」
ほくそ笑んで、目の前の俺の敵、スラヴァに向いた。
長い金髪をたなびかせて、笑っている。
俺には気持ち悪いとしか映らないが、女にモテるだろう。
「おい、ゴリラ女が死んだぞ」
「何を言う。俺たちがお前たちに負けるわけはない」
その直後、絶叫が響いた。
早霧と戦っていたセリョーガのものだ。
スラヴァは信じられないという顔で、そちらを見た。
「セリョーガ!」
俺はその隙を逃さずにスラヴァに迫り、拳を叩き込む。
スラヴァが反応したが、受けた左手が爆散する。
「!」
スラヴァの目が大きく見開かれ、信じられないと言う顔をした。
そして俺と距離を取ろうとした。
俺は追い縋って、連続して左右の拳をスラヴァに叩き込んだ。
今度は微妙にかわされてはいるが、スラヴァに触れた部分は破砕していく。
「貴様!」
スラヴァは足元が滑るので動きが悪い。
俺は幾度もスラヴァの身体に拳を叩きつけた。
肉が爆ぜて行く。
スラヴァが苦しそうな顔になって行く。
それが、急に思い切り動いた。
当然地面のグリースとパチンコ玉に足を取られ、派手に転んで滑って行く。
やはり只者ではない。
俺との距離を稼ぐために、強引に滑走したのだ。
「この野郎!」
俺はすぐにスラヴァが何をしようとしたのかを察した。
「させるかぁ!」
スラヴァはメタモルフォーゼしようとしている。
これまでは俺たちを舐めて掛かっていたが、仲間が殺されて本気になっている。
敷地の中で、他に磯良と愛鈴が戦っているはずだが、姿は見えない。
個別に撃破するために、建物の陰になっているのだろう。
スラヴァは一気に50メートル離れた。
追撃するが、間に合わず、激しい熱気が溢れて来た。
周囲に水蒸気が満ちる。
「チィッ!」
今度は逆に俺が距離を取った。
水蒸気が晴れ、メタモルフォーゼを終えたスラヴァが立っていた。
「もう終わりだ。お前たちは一人も助からない」
「……」
「セリョーガをやった奴もすぐに殺す。「業」様にもう顔向けできない」
「なんだと?」
「俺たちはお前たちなど敵では無かった。軽く捻ってやるつもりだった。セリョーガは油断して殺された。「業」様はもう、俺たちへの信頼を失われるだろう」
「何言ってんだ?」
「まあいい。俺一人でお前たちを殺せば、少しは認めていただけるだろう」
スラヴァは、ワイヤーを束ね、鉄骨を組み上げたような姿だ。
体長は元の身体と同じ190センチ程だ。
妖魔の中でも「ワイヤータイプ」と呼ばれる者は、上位の存在であり、「虎」の軍の精鋭にしか斃せない者たちだ。
ライカンスロープにはこれまで「ワイヤータイプ」は現われなかった。
それは人間との融合が難しかったからなのだろう。
しかし、目の前にするこの5人組は、恐らく「ワイヤータイプ」との融合に成功したに違いない。
俺はスラヴァに向かって構えた。
「無駄だ。お前の技はもう通じない」
俺はスラヴァに向かって獰猛な笑いを見せてやった。
「お前がメタモルフォーゼして強くなったんならよ」
「なんだ?」
「どうして俺らが届かないって決めつけるんだよ?」
「お前、何を言っている?」
表情は動かないが、スラヴァは笑っているようだった。
「俺たちは本気を出してねぇんだ」
「フン」
スラヴァが動き出そうとしたその時、銃撃を受けた。
「!」
驚いている。
俺は即座に「月光臨」に入った。
自分の中に輝く満月を思い浮かべ、それと一体化する。
スラヴァは動く初動を銃撃で止められて、行動できないでいる。
鏑木の神懸かり的な射撃センスだ。
スラヴァにとっては、人間が小石を当てられている程度のことだろう。
しかし、それによって一歩も動けず何も出来ないでいる。
「機」を押さえられているのだ。
武道の極限を極めた人間は、相手の初動を指で押さえるだけで止めることが出来る。
鏑木は、それを射撃で実現している。
まったく舌を巻く高度な技術だ。
これほど強大な敵にも通用している。
俺は満月と一体化し、俺の体中に満月が満ちて行く。
人間の個を超えた巨大な力と流れが身体を迸って行く。
スラヴァが鏑木の射撃に慣れて行ったのが分かる。
もうこれ以上はスラヴァを止められないだろう。
しかし、俺も満ちた。
スラヴァがやっと一歩を踏み出す。
俺も一歩を踏み出し、スラヴァと間合いが重なった。
互いに拳を突き出す。
《無量光砲》
ぶつかった拳がスラヴァの右腕を消滅させ、そのまま胸を消失させた。
黒い霧のようなものがスラヴァの後ろへ拡がっていく。
スラヴァの肩から上が地面に転がった。
「な、なにが……」
最後の一呼吸でスラヴァが喋った。
「お前は負けたんだよ」
「……」
まだ意識があるのか、スラヴァは俺を睨んでいた。
「俺の勝ちだ。呆気なかったな」
「……」
スラヴァは苦悶に顔を歪め、徐々に崩壊し、塵となって行った。
俺も地面に大の字に転がった。
「効いて良かったぜ」
笑いが込み上げて来る。
テラスを見ると、鏑木がライフルを振り上げていた。
俺も右手を振ってやった。
インカムに鏑木の声が来た。
「葛葉さん、やりましたね!」
「ああ、お前のお陰だ」
「いいえ! スゴイ技でしたよ」
「そうか」
「感動しました!」
「俺もお前の射撃には感動したよ」
「そうですか?」
「ああ、最高の仲間だ」
「アハハハハハ!」
最大奥義だ。
「アドヴェロス」の他の誰にも見せたことはねぇ。
タメに時間が掛かるのと、一発撃てばしばらく動けない。
鏑木が間に合って良かった。
あいつがいなければ、負けたかもしれない。
これで三体をやった。
離れた場所で、俺と同じく早霧が寝転がっている。
情けねぇ。
残るは磯良と愛鈴だ。
あいつらが負けるわけはねぇ。
だから少し、休ませろ。
1
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる