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《デモノイド》戦 Ⅵ

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 ポルシェに乗って現場に着くと、多くの制服警官が周囲を警備していた。
 俺のことは知っていて、敬礼をして来る。

 「御苦労様。ちょっと現場を見せてもらうよ」
 「はい! どうぞこちらへ!」

 警官の一人に案内され、規制テープを潜って地下へ降りた。
 猛烈な臭いがする。
 大勢の鑑識が現場を当たっている。
 顔見知りの安西刑事が俺を見つけて近づいて来た。

 「よう、随分な現場だろう?」
 「ああ、酷いな」

 数十人の若い男女が虐殺されていた。
 激しい人体破壊が行なわれたことが分かる。

 「若い奴らはダメでよ。外に出した」
 「そうか」
 「俺もたまらんぜ。こんな現場は初めてだ」
 「ああ」

 広い部屋の全体に、死骸とその一部が散乱している。
 中央には赤い液体の入ったバスタブがあり、その液体が何なのかは見れば分かった。
 ライカンスロープが人間を食い荒らした現場は見たことがあるが、これほどのものは滅多に無い。
 新宿のワニの妖魔の現場以上だ。
 食い荒らしたという以上に、残虐に殺して楽しんだ痕跡がある。

 「スマホの映像がずっと送られて来ててよ。俺たちも必死に探したんだが、間に合わなかった」
 「いや、敵に遭遇していたら、お前たちも危なかっただろう」
 「ケッ! 俺は刑事だぜ。市民が危ないってのに間に合わないで良かったなんてよ!」

 安西が吐き捨てるように言った。

 「済まない、言い方が悪かった。でも、ここにいた5人組は俺たちもやられている。相当な連中だ」
 「そうかよ」

 安西は自分たちが間に合わなかったことを苦にしている。
 でも、間に合ったとしても、間に合わなかったことが分かる。
 一般警察が相手に出来る連中ではないのだ。
 それは口にしなかった。

 隅にカタギではないと分かる男たちがいた。

 「あの連中は?」
 「ああ、外道会だ。ここの「掃除」に来たんだとよ」
 「じゃあ、犯人と繋がっているのか!」
 「まあな。でも一方的に顎でこき使われる連中らしい。俺も聞いたが、大したことは知らなかったよ。ただ、前にもここで掃除をしたらしい」
 「なんだと! 今回が初めてじゃないのか!」
 「そうだってよ。まったく、とんでもない連中だぜ」

 俺も四人の男に話を聞いた。
 外道会の人間だが、やはり詳しいことは知らなかった。
 逆に愚痴をこぼした。

 「俺らだって嫌だったんだよ。でも、逆らえば殺されるんだ。さっきも熊谷の兄貴がちょっと文句を言ったら殺された。あいつら、殺しなんかなともねぇ! まあ、この通りだよ!」
 
 男が入り口近くで倒れている頭の無い遺体を指差した。
 それが熊谷という男だったのだろう。

 「もう御免だ! おい、俺たちをちゃんと匿ってくれよな!」
 「洗いざらい話せばな」
 「おい、全部話すって! だから頼むよ!」
 「分かったよ」

 あの連中は、こんな雑魚など相手にはしないだろうが。
 俺は安西に、通信で得た映像と外道会の連中の証言を教えてもらうように頼んだ。

 「すぐに映像は送るよ。でも《デモノイド》って一体なんなんだ?」
 「「業」が新たに作り出した化け物のようだ。うちのハンターでもヤバい」
 「そうかよ。まあ、頼むな」
 「分かってる」
 「こんなサドの化け物は絶対にぶっ殺してくれ」
 「ああ、任せろ」

 俺は「アドヴェロス」の本部に戻った。





 石神に連絡し、六本木のクラブで大量殺人があったことを話した。

 「俺たちが行こう」

 即座に石神は言ってくれた。

 「いや、まだいい。今、「アドヴェロス」の本部に連中を誘い込む準備を進めている」
 「そこを戦場にするのか?」
 「ああ、成瀬の発案だ。随分と速い連中のようだから、敷地にグリースを敷く」
 「じゃあよ、パチンコの玉も撒いておけよ」
 「なるほど!」
 「稲城会系のパチンコ店に運ばせる」
 「ありがとう、石神!」
 「他には何をするんだ?」

 俺は幾つかの案を話し、石神は強力な発光弾を送ると言ってくれた。

 「タイミングを間違えるなよ? 爆発を見ればしばらく目が見えない。「ぴーぽん」とリンクして、爆発と同時にレールガンと荷電粒子砲を浴びせろ」
 「分かった!」
 「ヤバい時にはすぐに呼べよな!」
 「分かってる。じゃあ、早速準備に掛かるよ」

 本部に戻ると、成瀬が指揮を執って署員全員で作業をしていた。
 ハンターたちも武装したままで手伝っている。

 「早乙女さん! 先ほど四谷のパチンコ店から連絡がありました!」
 「ああ、今説明する」

 俺は成瀬に石神から提案されたことを話す。

 「なるほど! 確かにグリースだけではと思ってました!」
 「偽装する砂も運んでくれるそうだ。それと発光弾も」
 
 石神の計画は成瀬もすぐに把握した。

 「では起爆は「ぴーぽん」に任せて、一気に攻撃するということで」
 「多分、戦闘の開始で全てが始まると思う。問題は、《デモノイド》が仕込んでいる妖魔だ」
 「はい、そちらは全くの未知数ですね」

 俺はハンターを集めて、麻布警察署から送られて来たデータを示した。

 「2メートルの男がリーダーのセリョーガ、金髪のロングがスラヴァ、一番体格がいいのがコースチャ、逞しい方の女がミーラ、細い方の女がオーリャだ」
 
 俺は続けて、六本木のクラブでの映像を見せた。

 「ライカンスロープってのは、まったくどうしようもねぇな」

 愛鈴が自分も気分を害しながら、磯良を気にしていた。

 「磯良、大丈夫?」
 「平気ですよ。これまでもこんなものは見て来ましたし」
 「そう」

 愛鈴が少し悲しそうな顔をしていた。
 まだ子どもの磯良が、こんな凄惨な現場に慣れてしまっている。

 「早乙女さん、頼みがあるんだ」
 
 早霧が言った。

 「なんだ?」
 「俺たちとあいつらを、総当たりでやらせてくれよ」
 「なんだと!」

 5対5でやりたいと言う。

 「早霧、それは無茶だ!」
 「だから頼んでるんだよ。俺たちは絶対に負けねぇ」
 「ダメだ! 危険な真似をしないで確実に勝つことが重要なんだ」

 早霧が立ち上がった。
 葛葉も一緒に立った。

 「俺たちは負けられねぇ。どんな時にもだ。だからそれを示したい」
 「早霧、ダメだ!」
 「なあ、早乙女さん。俺たちは何のためにここにいる? 安全に守られて、それでいつ命を懸けりゃいいんだ? 俺には出来ねぇよ。大事にされて、楽な仕事ばっかやらされりゃ、俺の技は鈍る一方だ」
 「おい、早霧! 落ち着け!」

 早霧が微笑んだ。

 「頭は冷えてるよ。でも俺の魂が燃えてる。ここでやれなきゃ、俺は終わる。悪いが抜けさせてもらうぜ」
 「早霧!」
 「早乙女さん、俺もだ」
 「おい、葛葉まで何を言うんだ!」
 
 愛鈴と磯良、そして鏑木までが立ち上がった。
 微笑んでいる。

 「お前ら……」

 「早乙女さん。私たちはチームですよ。仲間が誇りを掛けてやるんなら、一緒にやりますよ」
 「いい加減にし……」

 十河さんも立ち上がった。

 「十河さん……」

 「早乙女さん。もしもの場合は私がみなさんを護りますから」
 「何を……」

 早霧が笑いながら言った。

 「早乙女さん、「虎」の軍を必要なら呼んで待機させてくれ。それでいい。だけど、俺たちにやらせてくれよ」
 「……」

 「なあ、頼む!」

 早霧が頭を下げた。
 他の5人も一緒に下げる。

 「分かった! 一応「虎」の軍にも話しておく。それでいいな?」
 「「「「「「はい!」」」」」」

 「おい、成瀬」
 「はい、なんでしょうか?」
 「なんでお前まで立ってるんだ?」
 「ああ、私も仲間ですから」
 「お前なぁ」

 みんなが笑った。
 俺も苦笑した。




 石神に連絡すると、石神が大笑いした。

 「じゃあ、やらせてやれよ。もうしょうがねぇだろう」
 「石神、お前まで」
 「そこまで根性を見せたんだ。負けはしないだろう」
 「そうだな」
 「ヤバかったらすぐに呼べ。俺たちも仲間だ」
 「石神……」

 石神から、作戦をいくつか提案された。
 それに必要なものをすぐに送ると。
 成瀬とハンターたちに話すと、全員が賛成してくれた。

 「流石は「虎」だな」
 「そうか」
 「ありがたく、使わせてもらおう」
 「そうだな」

 


 5月8日。

 「アドヴェロス」本部が襲撃された。
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