富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
上 下
2,258 / 2,920

着られなかった着物

しおりを挟む
 いつものように激しい「訓練」で六花が気絶し、俺が背負って帰った。
 シャワーで洗ってやるうちに意識を取り戻し、身体を拭いてやって響子の隣に寝かせた。
 六花が大好きなロボも一緒になって寝る。

 石神家の剣士たちに食事を振る舞ったせいで、食糧が少なくなったものがあった。
 亜紀ちゃんと柳に買い物に行かせて、丁度帰って来た。
 二人がスーパーの新館で美味そうなケーキを買って来たので、起きている連中でお茶にする。

 その後はのんびり過ごした。
 亜紀ちゃんと柳は鍛錬に行き、皇紀と双子は防衛システムや新型装備などの打ち合わせをする。
 俺はのんびりと本を読んで過ごした。
 平和だぁ。

 夕飯は焼肉大会だ。
 俺は響子に七輪で焼き鳥を焼いてやった。
 六花も大好きなネギまを嬉しそうに食べた。
 吹雪も好物になったようで、一緒にニコニコして食べる。
 
 夕べはゆっくり過ごせなかったが、今日は屋上の「幻想空間」にみんなで上がった。
 俺と亜紀ちゃんはワイルドターキーを飲み、六花はハイネケン、柳と他の子どもたちは梅酒、響子は少しだけ冷やしたココアだ。
 みんなでワイワイと騒ぎながら上がった。
 別荘のクライマックスだからだ。
 乾杯してつまみを食べながら飲んだ。
 亜紀ちゃんが俺に話しかけた。

 「タカさん、虎蘭さんて綺麗でしたね!」
 「そうだな」
 「なんか、タカさんの子ども時代の顔に似てますよ!」
 「そうか?」
 「ちびトラちゃんの頃の!」
 「ああ」

 俺は子どもの頃は女の子のような綺麗な顔をしていた。

 「背も高いし、強そうでしたよね」
 「戦場で俺の背中を守ってくれたんだ。大した奴だよ」
 「女性なのにスゴイですよねぇ」
 「そうだな。どうしても戦いは男が担うことが多いからな。相当頑張ったんだろう」
 「へぇ!」

 まあ、うちの子どもたちも女性が多いのだが。
 「花岡」であれば、筋肉の問題以上の要素があるためだ。
 しかし剣士は違う。
 重い日本刀を振り回すのは、尋常な筋肉ではダメだ。
 
 「男の社会で女性が上になるのは難しいんだよな」
 「そうですね」

 「響子は一番だけどな!」

 頬にチュウをしてやると、響子が喜んだ。

 「いや、タカさん」
 「あんだよ?」
 「私、今、今日のお話のテーマを出しましたよね」
 「なんだよ、そりゃ!」
 「さあ、早く」
 「お前なぁ」

 みんなが拍手をしやがった。
 俺も笑って話した。

 「まあ、男社会で頑張った素晴らしい女の話だ」






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 マサチューセッツ工科大学で機械工学と流体工学を学んだレイは、静江さんが勧めたロックハート財閥の造船部門を断って、最先端の船舶を作る海軍の研究機関へ入った。
 もちろんロックハート家と袂を分かつつもりではなく、外で様々な知識を身に着けてから、いずれロックハート家のために役立ちたいという思いからだった。

 若く美しいレイは、最初は上司からも可愛がられていた。
 研修期間の間、レイは優秀な成績も相まって上司から褒められ、同僚からも尊敬された。
 その一つには、レイがまだ16歳とという若さもあった。
 飛び級で大学を優秀な成績で卒業した美しい少女。
 その幼さが、純粋にレイの頑張りを評価させた。

 しかし、レイが本当の能力を発揮し、頭角を現わすようになると、徐々に上司や同僚から冷遇されるようになっていった。
 今のアメリカは男尊女卑を許さない。
 それでも、一部の業界や職場では厳然と男性優位の伝統が残っていた。
 その海軍の研究所もそういうものの一つだった。
 まだ10代の幼い少女が、自分たちよりも優秀さを発揮している。
 そのことが、今度は以前の優遇を反転させてレイをほとんどいじめのような状態に置いた。

 挨拶もされない。
 話しかけても無視される。
 仕事を与えられない。
 大きな郵便物をデスクに置かれ、一日仕事が出来ないこともあった。
 思い余って海軍の上に訴えかけ、上司たちは激しい叱責を受けた。
 だが処罰は無かった。
 当時の海軍自体が、女性を上に立たせたくない体質があったのかもしれない。

 叱責を受けた上司たちは、レイへ表面的には通常に接するようにはなったが、実質は以前と変わらなかった。
 レイにはレイの能力が発揮できるような仕事は与えられなかった。
 常に同期の人間の下働きや雑務を命じられ、レイはただの雑用要員になった。
 それでも、レイは与えられた仕事を真面目にこなし、自分で仕事を生み出し、それに打ち込んで行った。
 自分で図面を引き、新型船の設計を始めたりした。

 決定的なことが起きた。
 ある日、上司のマクダネル中佐に呼び出された。

 「コシノ少尉、君にスペンサー少佐と共に「ニューヨーク造船」でのパーティに出席してもらいたい」
 「私がですか?」

 「ニューヨーク造船」は海軍の軍船を建造している大手の造船所だ。
 だから海軍の人間を招いて、定期的に懇親会のようなパーティが開かれている。

 「そうだ。定期的に交流している気楽なパーティだ。君もそろそろそういうものに顔を出しておきたまえ」
 「分かりました!」

 レイは喜んだ。
 自分などが、そういう席に出られるとは思ってもみなかった。

 「そうだ。君は確か母親が日本人だったね?」
 「ええ、そうですが?」
 「それでは、君はキモノを持っているか?」

 母親の形見の着物があった。

 「はい、所有しております」
 「良かった。それでは、パーティではそのキモノを着用したまえ」
 「着物をですか?」
 「気楽な集まりだ。異国情緒の漂う服装は、みんなの気分を良くするだろう」
 「はい、分かりました。当日は着物を用意いたします」

 レイの同期の人間も何人かが、そのパーティに出席するらしい。
 そのパーティの前日に、海軍の研究所の代表として出席するスペンサー少佐から呼び出された。

 「コシノ少尉。君は明日のパーティに出席するのだね?」
 「はい、お世話になります!」

 スペンサー少佐が、何か言おうとして口を噤んだ。
 近くにいたマクダネル中佐を見ていた。

 「そうか。申し訳ないが、集合時間の1時間前に来てもらえないか」
 「はい? 分かりました。1時間前に参ります」
 「うん。悪いがそうしてくれ。ああ、それと礼装は常にロッカーへ用意しておくように」

 少し声を落としてスペンサー少佐が言った。

 「はい? は、失礼しました! 礼装はロッカーに用意しておきます!」

 何のことかは分からなかったが、スペンサー少佐の指示に従った。




 そしてレイに、卑劣な事件が起きた。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

婚約者には好きな人〜ネガティブ思考令嬢は婚約破棄を告げスルーされる〜

ドール
恋愛
   ザシアール侯爵家の長女レミリアは、入学式の日、婚約者と待ち合わせの場所で、自分ではない女の子と手を取り、微笑み合う姿を見てしまう。    両親からも愛されず、愛を知らずに育ったレミリアは、やはり自分に居場所はないのだと、愛される事はない関係を終わらせようと婚約解消を告げた。  けれど彼に聞かなかった事にされたあげく、彼が想い人を優先する姿に傷つくが、大好きだった彼の幸せを考える日々を送りながら自分の気持ちと葛藤していく、実はすれ違いストーリー。  最後はハッピーエンドです。 *誤字脱字、設定などの不可解な点はご容赦ください。 だだの自己満作品です。 R18の場合*をつけます! 他作品完結済みも、宜しければ! 1作目<好きな人は兄のライバル〜魔導師団団長編〜>【完結】後日談は継続中 2作目<好きな人は姉への求婚者!?〜魔導騎士編〜>【完結】 あとは獣人ストーリーもあります 3作目 獣人の番!?匂いだけで求められたくない!〜薬師(調香師)の逃亡〜【本編完結】後日談継続中 4作目 獣人の番!?勝手に結んだ婚約なんて破棄してやる!〜騎士団長の求愛と番の攻防〜【完結】    

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

「奇遇ですね。私の婚約者と同じ名前だ」

ねむたん
恋愛
侯爵家の令嬢リリエット・クラウゼヴィッツは、伯爵家の嫡男クラウディオ・ヴェステンベルクと婚約する。しかし、クラウディオは婚約に反発し、彼女に冷淡な態度を取り続ける。 学園に入学しても、彼は周囲とはそつなく交流しながら、リリエットにだけは冷たいままだった。そんな折、クラウディオの妹セシルの誘いで茶会に参加し、そこで新たな交流を楽しむ。そして、ある子爵子息が立ち上げた商会の服をまとい、いつもとは違う姿で社交界に出席することになる。 その夜会でクラウディオは彼女を別人と勘違いし、初めて優しく接する。

離婚しましょう、私達

光子
恋愛
「離婚しましょう、私達」 私と旦那様の関係は、歪だ。 旦那様は、私を愛していない。だってこの結婚は、私が無理矢理、お金の力を使って手に入れたもの。 だから私は、私から旦那様を解放しようと思った。 「貴女もしつこいですね、離婚はしないと言っているでしょう」 きっと、喜んで頷いてくれると思っていたのに、当の旦那様からは、まさかの拒否。 「私は、もう旦那様が好きじゃないんです」 「では、もう一度好きになって下さい」 私のことなんて好きじゃないはずなのに、どうして、離婚を拒むの? それどころか、どうして執着してくるの? どうして、私を離してくれないの? 「諦めて、俺の妻でいて下さい」 どんな手を使っても手に入れたいと思った旦那様。でも違う、それは違うの、そう思ったのは、私じゃないの。 貴方のことが好きだったのは、私じゃない。 私はただ、貴方の妻に転生してしまっただけなんです! ―――小説の中に転生、最推しヒロインと旦那様の恋を応援するために、喜んで身を引きます! っと思っていたのに、どうしてこんなことになってしまったのか…… 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔法ありの世界です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。 R15です。性的な表現があるので、苦手な方は注意して下さい。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

【R-18・連載版】部長と私の秘め事

臣桜
恋愛
彼氏にフラれた上村朱里(うえむらあかり)は、酔い潰れていた所を上司の速見尊(はやみみこと)に拾われ、家まで送られる。タクシーの中で元彼との気が進まないセックスの話などをしていると、部長が自分としてみるか?と尋ねワンナイトラブの関係になってしまう。 かと思えば出社後も部長は求めてきて、二人はただの上司と部下から本当の恋人になっていく。 だが二人の前には障害が立ちはだかり……。 ※ 過去に投稿した短編の、連載版です

老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪
ファンタジー
世界には多種多様な種族が存在する。 人間、獣人、エルフにドワーフなどだ。 その中でも最強とされるドラゴンも輪の中に居る。 最強でも最弱でも、共通して言えることは歳を取れば老いるという点である。 この物語は老いたドラゴンが集落から追い出されるところから始まる。 そして辿り着いた先で、爺さんドラゴンは人間の赤子を拾うのだった。 それはとんでもないことの幕開けでも、あった――

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...