富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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久し振りの御堂家 Ⅴ

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 シャワーを浴びて、オロチのべとべとを洗い流し、庭に戻った。
 浴衣に着替えている。
 御堂が心配して駆け寄って来た。

 「石神、大丈夫か?」
 「まったく、こいつのとばっちでよ!」
 「タカさん! 私のせいじゃないですよ!」
 
 柳が駆け寄って来る。

 「亜紀ちゃん! ごめんなさい!」
 「もう絶対にやめてくださいね!」
 
 亜紀ちゃんも半笑いで許していた。

 「亜紀ちゃん、私が柳ちゃんに頼んだの!」
 「柳ちゃんは嫌がってたんだよ!」

 双子も来る。
 
 「もういいよ。なんか、貴重な経験みたいのもしたし」
 
 みんなが笑った。

 「俺はとばっちりだぁ!」

 子どもたちが謝って来た。

 「しかし、凄いよね。興奮した亜紀ちゃんが黙っちゃうんだから」
 「そうだよなぁ」

 オロチはまだいて、ニジンスキーたちも集まっていた。
 俺が一匹ずつ頭を撫でてやる。
 どれが誰だか分からん。
 四色に分かれているので、今度亜紀ちゃんに確認しよう。
 まあ、どいつもカワイイのだが。

 澪さんが酒の用意を始め、俺たちと入れ違いに風呂に入って来た正巳さんと菊子さんも来る。
 子どもたちがつまみになりそうなものを集めてきた。
 子どもたちのバーベキュー台のものは野菜類以外は全てなくなっているが、俺たちのまともな人間台の方は結構余っていた。
 ルーとハーが中心になって焼き物や炒め物を作っていく。
 まあ、ほとんどがうちの子どもたちのために用意したようなものだ。
 俺は薪を貰って焚火を作った。
 照明の替わりだ。

 皇紀と双子は大人しくジュースを飲む。
 正利も一緒だ。
 うちで持って来た千疋屋のフレッシュジュースだ。
 いつものように、でかいアイスペールに瓶を入れている。

 大人たちは俺が持ってきた菊理媛を飲んだ。
 澪さんが燗にしてくれる。
 ゆっくりと飲むためだ。
 御堂が先ほどの柳の催眠術を褒めた。

 「柳の催眠術は凄いね」
 「もう、お父さん、やめて!」
 「俺も驚いたよ。ほとんど用意がなく掛けられるようになったんだな」

 催眠術は相手をリラックスさせ、こちらを信頼させなければ難しい。
 だから静かな空間で目を閉じさせ、身体に触れてリラックスさせながら暗示を掛けて行く。
 柳が先ほど実演したのは、一瞬でそういう状態に出来る、ということだった。
 そんなことが出来るのは、果たして世界に何人いることか。
 相当な才能だった。

 「練習はしましたけど。上手く行くかどうかは分からなくて」
 「誰かで実験しなかったのか?」
 「多少は。友達とかで」
 「あー! 柳は友達一杯いるもんな!」

 亜紀ちゃんが俺を睨んでいる。

 「別にお前のことは言ってないじゃん」
 「私もお友達、たくさんできましたもん!」
 「あー、「カタ研」な」
 「ほ、ほかにも……」
 「誰よ?」
 「え、皇紀とか……」
 「兄弟じゃねぇか!」

 みんなが笑う。

 柳は他人と仲良くなるのが得意だ。
 親しい人間は俺たちの事情のために敢えて限定しているが、本来は誰とでも親しくなり、幾らでも友達は出来る。
 うちの連中がちょっと変わっているので、逆に柳が浮くことも多いが。
 でも、亜紀ちゃんたちももちろん柳のことは大好きで、大事にしている。
 あの獣の食事の最中も、柳には手加減し、亜紀ちゃん以外はちゃんと肉とか渡している。

 「石神さんが来ると、本当に驚くことばかりだよ」
 「本当にすみません!」

 俺が立って正巳さんに頭を下げ、みんなが笑った。

 「今回は特に、あの《ミトラ》だね」
 「あれは、まあ」
 「オロチがいきなり石神さんを呑み込んだのも、《ミトラ》のこともあるんじゃないかな?」
 「あぁ! そうかもしれませんね!」

 オロチは独自の超感覚で、俺が持ってきたものを感じていたのかもしれない。
 オロチが名前が出たからか、俺の背後に近づいてきた。
 亜紀ちゃんが緊張する。
 ニジンスキーたちが、俺の足から登って来る。
 俺の腹や肩を這い回り、巻き付いて行く。
 一匹、俺の頭に上ってとぐろを巻いた。
 両腕と首と頭。
 立ち上がってゆっくり一周して回ると、ニジンスキーたちが喜んだ。
 まあ、本当は分からんが。

 「タカさん、なんかショーで食べて行けそうですね」
 「やめれ」

 御堂が俺を見て、笑いを堪えていた。
 澪さんも俺と目を合わせようとしない。

 亜紀ちゃんにギターを持って来るように言った。
 柳と一緒に家に入り、すぐに抱えて戻って来た。
 亜紀ちゃんがニコニコしている。

 「さー! CD3枚目の練習ですね!」
 「違ぇよ!」

 俺はニジンスキーたちを足元に移動し、『ベルガマスク組曲「月光」』を弾いた。
 そして『遠き山に日は落ちて』を歌う。
 モモが好きだった歌だ。
 この土地によく似合う。
 だから、何となく思い出して歌った。
 もう辺りは暗くなっている。
 バーベキュー台と、俺が作った焚火の灯だけだ。

 オロチが後ろから俺の頭に近寄り、顔を舐めて来た。
 ニジンスキーたちも、俺の足をまた昇って来て顔を舐めてくる。

 「お前ら、なんだよ!」
 
 みんなが笑って見ていた。
 気に入ったのか。

 「石神は誰にでも好かれるね」
 「そんなことはねぇ!」

 御堂がちょっと遠い目をした。

 「ん? どうしたんだ?」
 
 俺を見て微笑んだ。

 「いや、ちょっと思い出してね」
 「そうか」

 俺はそのまま流そうとしたが、亜紀ちゃんが許さなかった。

 「御堂さん、話して」

 俺が頭を引っぱたいた。

 「御堂に生意気言うな!」
 「いいよ、石神」

 御堂が笑っていた。

 「そろそろいいだろう。別に誰かに止められていたわけでもないしね」
 「なんだ?」





 御堂があの優しい声で、静かに話し出した。
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