2,249 / 2,920
久し振りの御堂家 Ⅴ
しおりを挟む
シャワーを浴びて、オロチのべとべとを洗い流し、庭に戻った。
浴衣に着替えている。
御堂が心配して駆け寄って来た。
「石神、大丈夫か?」
「まったく、こいつのとばっちでよ!」
「タカさん! 私のせいじゃないですよ!」
柳が駆け寄って来る。
「亜紀ちゃん! ごめんなさい!」
「もう絶対にやめてくださいね!」
亜紀ちゃんも半笑いで許していた。
「亜紀ちゃん、私が柳ちゃんに頼んだの!」
「柳ちゃんは嫌がってたんだよ!」
双子も来る。
「もういいよ。なんか、貴重な経験みたいのもしたし」
みんなが笑った。
「俺はとばっちりだぁ!」
子どもたちが謝って来た。
「しかし、凄いよね。興奮した亜紀ちゃんが黙っちゃうんだから」
「そうだよなぁ」
オロチはまだいて、ニジンスキーたちも集まっていた。
俺が一匹ずつ頭を撫でてやる。
どれが誰だか分からん。
四色に分かれているので、今度亜紀ちゃんに確認しよう。
まあ、どいつもカワイイのだが。
澪さんが酒の用意を始め、俺たちと入れ違いに風呂に入って来た正巳さんと菊子さんも来る。
子どもたちがつまみになりそうなものを集めてきた。
子どもたちのバーベキュー台のものは野菜類以外は全てなくなっているが、俺たちのまともな人間台の方は結構余っていた。
ルーとハーが中心になって焼き物や炒め物を作っていく。
まあ、ほとんどがうちの子どもたちのために用意したようなものだ。
俺は薪を貰って焚火を作った。
照明の替わりだ。
皇紀と双子は大人しくジュースを飲む。
正利も一緒だ。
うちで持って来た千疋屋のフレッシュジュースだ。
いつものように、でかいアイスペールに瓶を入れている。
大人たちは俺が持ってきた菊理媛を飲んだ。
澪さんが燗にしてくれる。
ゆっくりと飲むためだ。
御堂が先ほどの柳の催眠術を褒めた。
「柳の催眠術は凄いね」
「もう、お父さん、やめて!」
「俺も驚いたよ。ほとんど用意がなく掛けられるようになったんだな」
催眠術は相手をリラックスさせ、こちらを信頼させなければ難しい。
だから静かな空間で目を閉じさせ、身体に触れてリラックスさせながら暗示を掛けて行く。
柳が先ほど実演したのは、一瞬でそういう状態に出来る、ということだった。
そんなことが出来るのは、果たして世界に何人いることか。
相当な才能だった。
「練習はしましたけど。上手く行くかどうかは分からなくて」
「誰かで実験しなかったのか?」
「多少は。友達とかで」
「あー! 柳は友達一杯いるもんな!」
亜紀ちゃんが俺を睨んでいる。
「別にお前のことは言ってないじゃん」
「私もお友達、たくさんできましたもん!」
「あー、「カタ研」な」
「ほ、ほかにも……」
「誰よ?」
「え、皇紀とか……」
「兄弟じゃねぇか!」
みんなが笑う。
柳は他人と仲良くなるのが得意だ。
親しい人間は俺たちの事情のために敢えて限定しているが、本来は誰とでも親しくなり、幾らでも友達は出来る。
うちの連中がちょっと変わっているので、逆に柳が浮くことも多いが。
でも、亜紀ちゃんたちももちろん柳のことは大好きで、大事にしている。
あの獣の食事の最中も、柳には手加減し、亜紀ちゃん以外はちゃんと肉とか渡している。
「石神さんが来ると、本当に驚くことばかりだよ」
「本当にすみません!」
俺が立って正巳さんに頭を下げ、みんなが笑った。
「今回は特に、あの《ミトラ》だね」
「あれは、まあ」
「オロチがいきなり石神さんを呑み込んだのも、《ミトラ》のこともあるんじゃないかな?」
「あぁ! そうかもしれませんね!」
オロチは独自の超感覚で、俺が持ってきたものを感じていたのかもしれない。
オロチが名前が出たからか、俺の背後に近づいてきた。
亜紀ちゃんが緊張する。
ニジンスキーたちが、俺の足から登って来る。
俺の腹や肩を這い回り、巻き付いて行く。
一匹、俺の頭に上ってとぐろを巻いた。
両腕と首と頭。
立ち上がってゆっくり一周して回ると、ニジンスキーたちが喜んだ。
まあ、本当は分からんが。
「タカさん、なんかショーで食べて行けそうですね」
「やめれ」
御堂が俺を見て、笑いを堪えていた。
澪さんも俺と目を合わせようとしない。
亜紀ちゃんにギターを持って来るように言った。
柳と一緒に家に入り、すぐに抱えて戻って来た。
亜紀ちゃんがニコニコしている。
「さー! CD3枚目の練習ですね!」
「違ぇよ!」
俺はニジンスキーたちを足元に移動し、『ベルガマスク組曲「月光」』を弾いた。
そして『遠き山に日は落ちて』を歌う。
モモが好きだった歌だ。
この土地によく似合う。
だから、何となく思い出して歌った。
もう辺りは暗くなっている。
バーベキュー台と、俺が作った焚火の灯だけだ。
オロチが後ろから俺の頭に近寄り、顔を舐めて来た。
ニジンスキーたちも、俺の足をまた昇って来て顔を舐めてくる。
「お前ら、なんだよ!」
みんなが笑って見ていた。
気に入ったのか。
「石神は誰にでも好かれるね」
「そんなことはねぇ!」
御堂がちょっと遠い目をした。
「ん? どうしたんだ?」
俺を見て微笑んだ。
「いや、ちょっと思い出してね」
「そうか」
俺はそのまま流そうとしたが、亜紀ちゃんが許さなかった。
「御堂さん、話して」
俺が頭を引っぱたいた。
「御堂に生意気言うな!」
「いいよ、石神」
御堂が笑っていた。
「そろそろいいだろう。別に誰かに止められていたわけでもないしね」
「なんだ?」
御堂があの優しい声で、静かに話し出した。
浴衣に着替えている。
御堂が心配して駆け寄って来た。
「石神、大丈夫か?」
「まったく、こいつのとばっちでよ!」
「タカさん! 私のせいじゃないですよ!」
柳が駆け寄って来る。
「亜紀ちゃん! ごめんなさい!」
「もう絶対にやめてくださいね!」
亜紀ちゃんも半笑いで許していた。
「亜紀ちゃん、私が柳ちゃんに頼んだの!」
「柳ちゃんは嫌がってたんだよ!」
双子も来る。
「もういいよ。なんか、貴重な経験みたいのもしたし」
みんなが笑った。
「俺はとばっちりだぁ!」
子どもたちが謝って来た。
「しかし、凄いよね。興奮した亜紀ちゃんが黙っちゃうんだから」
「そうだよなぁ」
オロチはまだいて、ニジンスキーたちも集まっていた。
俺が一匹ずつ頭を撫でてやる。
どれが誰だか分からん。
四色に分かれているので、今度亜紀ちゃんに確認しよう。
まあ、どいつもカワイイのだが。
澪さんが酒の用意を始め、俺たちと入れ違いに風呂に入って来た正巳さんと菊子さんも来る。
子どもたちがつまみになりそうなものを集めてきた。
子どもたちのバーベキュー台のものは野菜類以外は全てなくなっているが、俺たちのまともな人間台の方は結構余っていた。
ルーとハーが中心になって焼き物や炒め物を作っていく。
まあ、ほとんどがうちの子どもたちのために用意したようなものだ。
俺は薪を貰って焚火を作った。
照明の替わりだ。
皇紀と双子は大人しくジュースを飲む。
正利も一緒だ。
うちで持って来た千疋屋のフレッシュジュースだ。
いつものように、でかいアイスペールに瓶を入れている。
大人たちは俺が持ってきた菊理媛を飲んだ。
澪さんが燗にしてくれる。
ゆっくりと飲むためだ。
御堂が先ほどの柳の催眠術を褒めた。
「柳の催眠術は凄いね」
「もう、お父さん、やめて!」
「俺も驚いたよ。ほとんど用意がなく掛けられるようになったんだな」
催眠術は相手をリラックスさせ、こちらを信頼させなければ難しい。
だから静かな空間で目を閉じさせ、身体に触れてリラックスさせながら暗示を掛けて行く。
柳が先ほど実演したのは、一瞬でそういう状態に出来る、ということだった。
そんなことが出来るのは、果たして世界に何人いることか。
相当な才能だった。
「練習はしましたけど。上手く行くかどうかは分からなくて」
「誰かで実験しなかったのか?」
「多少は。友達とかで」
「あー! 柳は友達一杯いるもんな!」
亜紀ちゃんが俺を睨んでいる。
「別にお前のことは言ってないじゃん」
「私もお友達、たくさんできましたもん!」
「あー、「カタ研」な」
「ほ、ほかにも……」
「誰よ?」
「え、皇紀とか……」
「兄弟じゃねぇか!」
みんなが笑う。
柳は他人と仲良くなるのが得意だ。
親しい人間は俺たちの事情のために敢えて限定しているが、本来は誰とでも親しくなり、幾らでも友達は出来る。
うちの連中がちょっと変わっているので、逆に柳が浮くことも多いが。
でも、亜紀ちゃんたちももちろん柳のことは大好きで、大事にしている。
あの獣の食事の最中も、柳には手加減し、亜紀ちゃん以外はちゃんと肉とか渡している。
「石神さんが来ると、本当に驚くことばかりだよ」
「本当にすみません!」
俺が立って正巳さんに頭を下げ、みんなが笑った。
「今回は特に、あの《ミトラ》だね」
「あれは、まあ」
「オロチがいきなり石神さんを呑み込んだのも、《ミトラ》のこともあるんじゃないかな?」
「あぁ! そうかもしれませんね!」
オロチは独自の超感覚で、俺が持ってきたものを感じていたのかもしれない。
オロチが名前が出たからか、俺の背後に近づいてきた。
亜紀ちゃんが緊張する。
ニジンスキーたちが、俺の足から登って来る。
俺の腹や肩を這い回り、巻き付いて行く。
一匹、俺の頭に上ってとぐろを巻いた。
両腕と首と頭。
立ち上がってゆっくり一周して回ると、ニジンスキーたちが喜んだ。
まあ、本当は分からんが。
「タカさん、なんかショーで食べて行けそうですね」
「やめれ」
御堂が俺を見て、笑いを堪えていた。
澪さんも俺と目を合わせようとしない。
亜紀ちゃんにギターを持って来るように言った。
柳と一緒に家に入り、すぐに抱えて戻って来た。
亜紀ちゃんがニコニコしている。
「さー! CD3枚目の練習ですね!」
「違ぇよ!」
俺はニジンスキーたちを足元に移動し、『ベルガマスク組曲「月光」』を弾いた。
そして『遠き山に日は落ちて』を歌う。
モモが好きだった歌だ。
この土地によく似合う。
だから、何となく思い出して歌った。
もう辺りは暗くなっている。
バーベキュー台と、俺が作った焚火の灯だけだ。
オロチが後ろから俺の頭に近寄り、顔を舐めて来た。
ニジンスキーたちも、俺の足をまた昇って来て顔を舐めてくる。
「お前ら、なんだよ!」
みんなが笑って見ていた。
気に入ったのか。
「石神は誰にでも好かれるね」
「そんなことはねぇ!」
御堂がちょっと遠い目をした。
「ん? どうしたんだ?」
俺を見て微笑んだ。
「いや、ちょっと思い出してね」
「そうか」
俺はそのまま流そうとしたが、亜紀ちゃんが許さなかった。
「御堂さん、話して」
俺が頭を引っぱたいた。
「御堂に生意気言うな!」
「いいよ、石神」
御堂が笑っていた。
「そろそろいいだろう。別に誰かに止められていたわけでもないしね」
「なんだ?」
御堂があの優しい声で、静かに話し出した。
2
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる