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パレボレ誘拐 Ⅱ

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 「ここから登れそうだ。丁度いい道があったな」

 俺はトランクから遺体を出そうとした。
 芳江には途中でドンキで買ったスコップと懐中電灯を持たせる。

 「なんだ、こいつ!」

 トランクで吐いてやがった。
 生きてたのか!

 「てめぇ!」

 恐ろしくカレー臭い。
 胸倉を掴んで持ち上げると、身体に力が入らないようだった。
 目も閉じられ、口も利けない。

 「なんだ、くたばり損ないかぁ!」

 トランクの掃除は後だ。
 とにかく早くこいつを埋めなければ。
 タオルを顔に巻いて、小さな男を担いだ。
 恐ろしく軽い。

 「まったく面倒をかけやがって!」

 悪態をついて山道を登って行く。
 芳江に懐中電灯を2本持たせた。
 俺の足元と、自分の前を照らさせる。
 15分も歩くと、いくら軽いからと言っても疲れた。

 「おい、もうこの辺でいいだろう」
 「タカちゃん、本当に埋めるの?」
 「そう言っただろう!」
 「うん……」

 俺は疲れたので、最初に芳江に穴を掘らせた。
 俺は地面に座ってタバコを吸った。
 芳江が泣きながら、暗い林の中にスコップを立てていく。
 力の無い奴だったので、遅々として進まない。
 仕方なく俺が替わった。

 「あなたたち」

 突然声を掛けられて焦った。
 声の方を見ると、信じられない奴がいた。
 釣鐘のような身体に頭が乗ってやがる。
 何かの仮装か?
 しかし、なんだってこんな山の中に。
 俺は不気味さを感じていた。

 「なんだてめぇは!」
 「もうおよしなさい。その男を返して下さい」
 「何言ってやがる!」
 「早くしないと、恐ろしい人たちが来ます」
 「何?」
 「生きては帰れませんよ? あの人たちはあなたがたを一瞬で殺します」
 「おい、ふざけんなよ?」

 俺はスコップを持って、そいつに近づいた。
 声は女のようだ。
 ならば、ヘンな仮装をしているが俺に敵うわけはない。
 おまけに手足も見えない。
 
 「お前、どうしてここにいんだよ?」
 「答える必要はありません。すぐに男を返しなさい」
 「ふん!」

 俺はスコップを振りかざし、女の頭へ落とした。

 「タカちゃん!」

 芳江が叫び、俺の振り下ろしたスコップが女の脇へ流れた。

 「バカなことを。わたくしの言う通りに男を返していたのなら、わたくしが取りなしもいたしましたのに」
 「てめぇ!」
 「もう遅い。もうあの方々がいらっしゃいました」
 「?」

 俺の目の前の地面が爆発した。
 俺は思わず吹っ飛ばされた。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 グランマザーからの座標を受けて、俺たちはすぐに飛んだ。
 1分で丹沢に付き、すぐに山道脇の灯を見つけた。

 亜紀ちゃんがグランマザーと男を発見し、男の前の地面に「槍雷」を撃った。
 男が吹っ飛んだ。
 三人で地上に降りる。

 「お待ち申し上げておりました」
 「おう」

 グランマザーは俺の名前は出さない。
 こいつらを殺すとは限らないと考えているのだろう。

 柳がパレボレの脇にいる女を拘束し、亜紀ちゃんがパレボレに駆け寄った。

 「パレボレ!」

 パレボレは反応しない。
 意識はあるのかもしれないが、まだ身体が治癒されていないのだろう。
 地球人スーツも同様かもしれない。

 「無事です、ご心配なく。もうすぐ話せるようになると思います」
 「そうか」

 俺は10メートルも吹っ飛んだ男の方へ歩いた。
 気絶してはいないが、引っ繰り返ったまま俺を見ていた。

 「おめぇ、散々なことをしてくれたなぁ」
 「!」
 「俺の大事な身内をこんな目に遭わせやがって」
 「あ、あんたは!」
 
 俺は答えなかった。

 「テッメェ! バラバラにしてやっぞ!」

 亜紀ちゃんが来て、男の左側の地面を「槍雷」で抉った。
 男がまた3メートル吹っ飛ぶ。

 「や、やめてくれぇ!」
 
 亜紀ちゃんが男の脚を狙ったので、俺が止めた。

 「一応聞く。お前ら何をしようとしてたんだ?」
 「……」
 
 柳が女を連れて来た。

 「すいませんでした! その人をここに埋めようとしてましたぁ!」
 「なんだとぉー!」
 「本当にすみませんでした! どんな償いでもします!」
 「じゃあ、一緒に死ね!」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが激怒し、女が地面に膝をついて土下座した。

 「死んでも構いません! 本当に酷い事をしました!」
 「まあな」

 男は何も言えなくなっていた。
 俺が男に聞いた。

 「お前、名前は?」
 「は、春山孝信です」
 「何してんだよ?」
 「親父の会社で働いてます。春山グループです」
 「春山グループだと!」

 稲城グループの下部組織だ。
 キャバレーや飲食店を中心に扱っているところだ。

 「チィッ! 稲城グループかよ!」
 「え! は、はい!」

 厄介な奴だった。

 「住田十三は知ってるな?」
 「はい! 稲城グループの総裁ですが!」
 「総裁は俺だぁ!」
 「!」

 「石神高虎だ! 俺の名前も知ってるよな?」
 「は、はいぃ!」

 春山が震え上がった。

 「俺の大事な身内に何してくれてんだぁ! てめぇ、覚悟はいいな!」
 「!」

 春山が失神しそうになっていた。

 「タカさん、もう殺していいですか?」
 「待て! 稲城グループの奴だ」
 「えぇー!」
 
 亜紀ちゃんが文句を言う。

 「しょうがねぇだろう」
 「だって、パレボレをこんな目に遭わせたんですよ!」
 「分かってる! ただじゃ済まさねぇ!」
 「殺しましょうよー!」

 亜紀ちゃんの恐ろしさに、春山が失禁した。
 臭いでわかる。
 俺は住田に連絡した。
 
 「石神さん!」
 「今、春山孝信って奴が目の前にいる。俺の身内を車で轢いて、山に埋めようとしてやがった」
 「なんですって!」
 「親が春山グループだそうだ。そのドラ息子だな」
 「申し訳ありません!」
 「これから「トランシルヴァニア」で待つ。すぐに来い。春山も連れて来いよな!」
 「はい! 必ず!」

 麓にカマロが停めてあった。
 いい車に乗ってやがる。
 パレボレはグランマザーが預かった。
 柳に頼んだ。

 「家に一度戻って着替えを持って来てくれ。「トランシルヴァニア」にいるから」
 「分かりました!」

 俺が春山を抱え、亜紀ちゃんが芳江という女を抱えて飛んだ。
 時速500キロ程度で飛行したが、二人は風圧で参りそうだった。

 20分後に「トランシルヴァニア」に着いた。
 柿崎がやっているキャバレーだ。
 途中で連絡しているので、柿崎が俺たちを迎えた。

 「石神さん!」
 「悪いな、ちょっと入るぜ」
 「はい!」

 千万の人間たちもいて、春山と芳江を受け取って中へ入れた。
 すぐに個室に通される。

 5分後に住田と春山の親父が来た。
 個室に入るなり、二人が土下座する。

 「石神さん! 申し訳ございません!」
 「おう。結構なことをしやがったなぁ!」
 「はい! どのような詫びも!」

 まったく、面倒なことになった。
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