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千石と石神家本家 Ⅴ

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 双子が千石に「手かざし」をし、千石の体調は格段に良くなった。
 虎白さんがどんどん千石に奥義を教えていく。
 千石が時折笑顔を見せているのが見えた。

 「高虎! てめぇ随分と余裕じゃねぇか!」
 「すいません!」
 「俺らじゃ相手にならねぇってかぁ?」
 「そんなことはまったくありません!」
 「舐めてんのか?」
 「とんでもありません!」

 5人の剣士が8人に増えた。
 集団奥義「石神八方位」を使われ、結構ズブズブ刺された。

 「「「「「「「「ギャハハハハハハハハハ!」」」」」」」」

 「……」

 鍛錬を続けていくと、虎白さんが叫んだ。

 「おい! みんな見ろ!」

 俺も見た。
 千石が「虎相」を顕わしていた。

 「なんだよ、よりによって「白」かよ」
 「まあ、「虎相」が出ただけ大したもんだけどなぁ」
 「残念!」

 確かに、千石の「虎相」は白い炎だった。
 さほど大きくもない。
 しかし、石神家の血を引いていない人間が「虎相」を顕わしただけでも奇跡だ。

 俺は虎白さんに近づいて聞いた。

 「白いと何か不味いんですか?」
 「あ、ああ。まあ、技の威力があんまし出ねぇ」
 「そうなんですか」
 「「虎相」を出して攻撃してもよ、せいぜい倍くらいって感じか」
 「はぁ」
 「赤くなるほど強力だ。あとは炎のでかさな。千石のは小せぇ」
 「まあ」

 千石は荒い息を吐きながら、刀を構えていた。
 白い炎が身体の周囲を揺らいでいる。

 「千石、お前は出来ないことをやり遂げた」
 「はい!」
 「石神家の血筋しか出来ないはずの「虎相」を身に纏った。やったな!」
 「はい!」

 千石が嬉しそうに笑った。
 虎白さんが一旦休憩だと言い、みんなで茶を飲んだ。
 俺は双子に千石に「手かざし」をするように言った。

 「千石さん、やったね!」
 「スゴイね!」
 「いや、そんな」

 千石が白い炎を揺らめかしながら、地面に横になるように言われた。

 「「あ!」」

 双子が叫んだ。
 俺は何かと振り向いた。
 二人が俺を見ている。

 「どうした?」
 「タカさん! ちょっと試していい?」
 「なんだよ?」
 
 ルーが刀を箱から一振り出して俺に近づいて来た。

 「おい、何すんだよ?」
 「タカさん、構えて」
 「あ?」

 俺は訳が分からないまま、立ち上がって青眼に構えた。

 「連山!」

 ルーが石神家の奥義を放った。

 「おい!」

 全身をズバズバされた。
 笑いながら見ていた全員が驚いて立ち上がる。
 虎白さんがルーに駆け寄った。

 「今のはどうした!」
 「うん、なんか出来ちゃった」
 「どうしてだよ?」
 「千石さんの白い炎に触ったせいだと思います!」
 「なんだってぇ!」

 ハーも刀を持って来た。

 「タカさん、私も」
 「お前もかよ!」
 「連山!」
 「ちょっと待てぇー!」

 ズバズバ

 どうして他の人間で試さねぇ。

 「二人とも、凄いな!」

 虎白さんが大喜びだ。
 二人に、他の奥義も出来るのか聞いていた。
 
 「「出来るよ!」」
 「高虎!」
 「俺ですかぁ!」

 まあ、今度はちゃんと構えていたので、ズバズバは無かった。
 二人は9種の奥義を繰り出した。
 それは、千石が身に着けた奥義のものだと虎白さんが言った。

 「おい、どうして急に」
 「虎白さん、千石の能力は話しましたよね?」
 「他人に与えるって話か?」
 「そうです。あの白い炎は、その能力に特化したものなんじゃないでしょうか?」
 「あんだと!」

 本当に、双子は触れただけだった。
 それで奥義を身に着けてしまった。

 「おい、とんでもねぇ奴だな」
 「まあ、威力はまだまだですけどね」
 「でも、鍛えて行けばそこそこのものになるだろうぜ」
 「そうですね」

 双子が放った奥義は、石神家の剣士のものには遠く及ばなかった。
 でも、身に着けた以上、そこから更に伸ばしていける。

 鍛錬を再開し、面白がった剣士たちが双子の相手をしてくれた。
 虎白さんは千石に付いてくれている。
 俺はこっそり休んでいようとしたが、剣士たちに見つかり、「石神十二方位」で死にそうになった。






 やっと鍛錬が終わり、みんなで山を降りた。
 千石は今日は自分の足で走った。
 俺は双子に抱えられて降りた。

 双子が狩に行き、鹿を3頭持って来てみんなで食べた。
 まあ、半分は双子の胃の中に消えたが。
 虎白さんが大喜びで双子と笑いながら食べている。
 俺の前に乱入して来た真白が座り、拡げた股を見せられながら焼き魚を食べた。

 「……」

 真白が上目遣いで俺を見て来るので、食欲を失くした。
 そのまま宴会になり、双子が「マイクロビキニ宴会芸」を披露して、大喝采を浴びていた。
 俺は千石の隣に行った。

 「おい、身体はどうだ?」
 「ええ、大丈夫ですよ。昨日とは全然違う」
 「昨日がとんでもねぇんだぁ!」
 「アハハハハハ!」

 千石は流石に飲んでいなかった。
 でも、微笑みながら双子の宴会芸を見ている。

 「石神さん、本当にありがとうございました」
 「あんな目に遭ったのにかよ!」
 「アハハハハ! ええ、最高の気分ですよ」
 「そうかよー」

 俺の身体もシュワシュワしている。
 ここに来ると大抵こうなる。
 もう諦めた。

 「俺は本当に、ここで死んで生き返った」
 「まあ、そうだったな」
 「これで、俺もやっと「業」に立ち向かえますよ」
 「そうか」
 
 千石が嬉しそうに笑っていた。

 「「業」が悔しがるほどに、ソルジャーを鍛え上げておきます」
 「ああ、頼むな」
 「石神さん。もっと多くのソルジャーを俺に任せて下さい」
 「分かった。必ずな」
 「お願いします!」

 多分、千石の中で凝り固まっていた「業」への恐怖が溶けたのだろう。
 心底から明るい顔で笑っていた。




 その夜、双子と一緒に寝た。
 バカたちが日本酒を調子に乗って飲み過ぎて、明け方に吐いた。
 起きてトイレに行こうとした途中だった。
 口元から胸、腹まで汚した。
 俺はまだ傷が痛む身体で二人を風呂場に連れて行き、ぬるま湯で身体を洗ってやった。
 幸い布団は汚さなかったので、床を掃除して双子を横にした。

 「タカさーん」
 「気持ち悪いよー」
 「まったくよ!」

 俺は笑って二人の頭を撫でてやった。
 いつの間にか眠っていた。
 汚したパジャマをタライに入れ、軽く汚れを洗った。
 洗濯機もあったが、音が出る。
 虎白さんの家に泊まらせてもらっているので、遠慮した。
 
 俺はもう眠くは無かったので、外に出て素振りをした。
 その後で朝食を作る。
 普段は集落の女たちがやってくれるが、双子のために消化の良いものをと思った。
 昆布と煮干しで出汁をとって雑炊を作った。
 シジミがあったので、それで赤味噌の味噌汁を。
 大根おろしをたっぷりと作り、梅を刻んで混ぜる。
 それにアジの開きと卵焼きとキャベツの浅漬け。
 米は土鍋で炊いた。
 虎白さんの食事の用意をしてくれる女性が来たが、俺が作ったと断った。

 作り終わる頃に、虎白さんと千石が起きて来た。

 「なんだ、お前が作ったのか」
 「はい。目が冴えちゃって」
 「なんだよ」

 虎白さんが笑って座った。
 俺は双子を起こしに行った。
 オチンチンで頬をはたいて起こしてやる。
 二人が笑った。

 「どうだ、食事は食べられるか?」
 「「うん!」」

 そうは言ったが双子はまだ気分が悪そうだった。
 でも、雑炊を鍋一杯食べ、大根おろしと味噌汁を美味そうに食べた。

 「タカさん! 美味しかった!」
 「そうか」





 虎白さんと千石が優しく笑っていた。
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