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ネコ男 RISING Ⅱ

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 正月4日。
 俺と早乙女はアヴェンタドールに乗って花の病院へ行った。
 病院脇の花屋で、俺が花を見繕い、早乙女に支払わせて持たせた。

 「トラさん! それに早乙女さんも」
 
 俺たちが病室に行くと、花が喜んだ。

 「よう! 今日は一緒に来たんだ」
 「そうなんですか! 嬉しいです!」

 早乙女が持って来た花を新しい花瓶に入れた。
 どうせいつも突っ込んでいるだけだろうと、俺は家から持って来た鋏で綺麗に活け直してやった。
 桃の枝があり、それを横に伸ばして空間を拡げる。
 早乙女が感心して観ていた。

 「お前は何でも出来るんだな」
 「お前も雪野さんに教えてもらえよ」
 「うん!」

 早乙女の家の花を見て、雪野さんが華道を嗜んでいることが分かっていた。

 「トラさん、素敵です!」
 「そうか」

 俺は持って来たしいたけのスープを用意した。
 辰巳芳子先生の言う通り、大分県のカトウシイタケを使っている。
 循環器系に効能があるとされるものだ。
 しいたけと梅と昆布だけのシンプルな材料だが、その調理法によって辰巳先生が見事な「コンソメ」に昇華させた。

 「じゃあ、今日も俺が飲ませてやるな」
 「お願いします!」

 スプーンでスープを掬って花に呑ませる。
 今日は早乙女がいるが、花はまったく気にしていなかった。
 花が口に含んで優しく笑った。

 「今日はどうだ?」
 「美味しい!」
 「そっか」

 俺は二口目を口に持って行った。
 早乙女が口を押えて病室を出て行った。
 あのバカ。

 「今、急な電話が来たみたいだな」
 「そうだったんですか」
 「結構忙しい男なんだよ」
 「それなのにここに来てくれるんですか」
 「花がカワイイからな!」
 「エヘヘヘヘヘ!」

 花がスープを飲み終えた頃に、早乙女が戻って来た。
 目が赤い。
 俺はいつものように花に紅茶を飲ませ、歯を磨いてやった。
 横に寝かせて、また話をする。
 花がまたレイの話を聞きたがった。
 もう何度か話しているが、花はあの話が大好きだった。

 「トラさん、私もレイに会いたかったな」
 「そうか。優しい奴だったよ」
 「そうですよね! 私、きっと会えると思うんです」
 「え?」
 
 花が目を閉じて微笑んでいた。
 もう間もなく眠る。
 消化にエネルギーを使うので、何かを口に入れると花は眠くなる。

 「夢でね、レイに会えたんですよ」
 「それはスゴイな」
 「それがね、とっても大きな虎で。私を背中に乗せてくれました」
 「へぇ!」

 花が少し目を開けて、また嬉しそうに笑った。

 「なんだかね、今は可愛らしい女の子と一緒にいるそうですよ」
 「え?」
 「優しそうに笑うんです。虎が笑うなんておかしいですよね?」
 「いや、あのレイならやるかもな」
 「アハハハハハハハ」

 花が眠った。
 本当に花はレイに会ったのかもしれない。
 
 俺は早乙女と病室を出た。
 廊下を歩きながら、早乙女が俺に話し掛けて来た。

 「石神、お前は毎日ああいうことをしているんだな」
 「花はもう両手が上手く動かない。それに食事も摂れなくなって来ている」
 「だからお前がああやってスープを作って来るのか」
 「そうだよ。スープなら飲めるみたいだしな。花の病院食も、段々流動食が多くなってきた」
 「そうか」
 
 早乙女がまたハンカチで目を押さえた。

 「お前は凄い! お前は優しい!」
 「おい!」
 「お前はあんなに優しく花さんにスープを飲ませていた」
 「やめろよ。医療従事者として出来て当たり前だ」
 「違う! お前は違うよ、石神!」
 「うるせぇ! もう黙れ!」

 早乙女が黙った。
 声を殺しながら歩いた。

 俺は早乙女をアヴェンタドールに乗せ、渋谷へ向かった。
 獅子丸と一緒に昼食を食べる予定だった。
 獅子丸のマンションに着き、駐車場にアヴェンタドールを入れる。

 獅子丸の部屋へ行った。
 まだ11時半で、昼食には少し早いが。
 獅子丸が俺たちを招き入れ、俺はネコたちにたかられた。

 「相変わらず石神さんはスゴイっすね!」
 「おい」

 ソファに座ると、ネコたちが俺によじ登って来ようとする。
 頭にまで乗られた。
 獅子丸が大笑いしている。

 「俺でもそうはなりませんよ」
 「何とかしろ!」
 「無理ですって」

 コーヒーが出された。
 獅子丸もコーヒーが好きなようで美味かった。

 「ゴールドだけはいつも来ないよな?」
 「ああ、こいつとは特別なんで」
 「へぇ」

 ゴールドだけは獅子丸の傍にいる。
 時々は俺の方にも来るが。
 ゴールドが来た時は、他のネコが一斉にどく。
 まるで昔のロボみたいだ。
 俺は以前に五十嵐さんから預かったゴールデンレトリバーのゴールドの話をした。
 獅子丸と早乙女が感動してくれた。

 「あいつが死んでからなんだよ。やたらと動物に好かれるようになってな」
 「石神さんは前からでしょう」
 「まあ、ちょっとはそういう傾向はあったけどなぁ。一時は散歩してると犬にたかられ大変だったんだ」
 
 獅子丸がまた大笑いした。

 「その犬と同じ名前なんですね」
 「そうだな。まあ、いい名前だよな」
 「そうですよね!」

 ゴールドが俺の方へ歩いて来た。
 他のネコがどいていく。
 ゴールドは俺の膝に上がり、前足を俺の肩にかけて顔を舐めてきた。
 ロボもよくやる。

 「ああ! ゴールドが完全に石神さんを好きになりましたよ!」
 「そうなのかよ」
 
 獅子丸には分かるようだ。
 まあ、嫌な気分ではない。

 「そういえば、うちのロボも俺だけにしかやらないな」
 「そうでしょう!」
 
 早乙女が笑って見ていた。
 早乙女の脚の上に、俺から離れたネコが乗っていた。
 嬉しそうにネコを撫でている。

 「早乙女は邪悪な心を持ってるからな。ゴールドには分かるんだろう」
 「早乙女さんはいい人ですよ!」
 「そうか?」
 「間違いありません!」
 
 早乙女が嬉しそうに笑った。
 ゴールドは獅子丸の所へ戻った。
 そろそろ外へ出ようかと言うと、獅子丸が俺に言った。

 「あの、こいつらの御飯の時間なんです。申し訳ないんですが、出前じゃ不味いですか?」
 「ここで食べるのか」
 「ええ、申し訳ありません。出来ればあんまし時間をずらしたくなくて」
 「まあいいけどよ」
 
 外で話すよりも、ここでの方がいいかもしれない。
 獅子丸に鰻でいいかと聞いて、早乙女に注文させた。

 「早乙女、松川に電話してくれ」
 「松川って誰だ?」
 「鰻屋だよ! いいか、特注で二重天井を3つ、タレは別に追加で3つ、寿司を2人前だ」
 「分かった!」

 早乙女が検索して松川に電話する。
 高い店なのを知っており、獅子丸が緊張する。

 「大丈夫だ、早乙女のおごりだからな!」
 「いえ、自分が出しますって!」
 「いいよ。今日は俺たちのために時間を取って貰ったんだしな」
 「ありがとうございます!」

 獅子丸は俺たちに断って、ネコの餌を作り始めた。
 キッチンにネコたちが集まって行く。
 ゴールドは俺の所へ来た。

 「おい、お前は行かないのかよ?」
 「にゃー」

 優しく綺麗な声で鳴いた。
 それもロボと同じだ。

 「おい、まさかお前も尻尾が2つに割れたりしないだろうなぁ」

 俺が笑ってゴールドに言った。
 ゴールドが俺を見ていた。

 「ほら、やってみろ」

 ゴールドの尻尾を優しく撫でた。

 「「!」」


 



 ゴールドの長い茶色の尾が2つに分かれた。
 俺と早乙女の目的は、一瞬で解決した。
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