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真冬の別荘 Gathering-Memory XⅢ
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俺は全てを語り終えた。
みんな黙って泣いている。
奈津江との別離は話している。
今回は、その全てを話した。
御堂、山中、栞、そして奈津江。
俺を巡って4人の人間がどう動いてくれたのか。
俺がその後に知った限りのことを話した。
みんなの言葉や記憶で紡がれた、俺の最愛の女との別離の物語だった。
その全てが俺の人生の中心にある。
今も尚、血を噴き出し、俺を苦しめつつ大いなる愛を奏でる記憶。
俺を「俺」でいさせる全てのセントラル・ドグマの宝石。
俺は死ぬまでそれを抱きかかえて行くのだ。
「これで全てだ」
「タカさーん!」
亜紀ちゃんが真っ先に俺を抱き締めに来た。
最初に奈津江の話が出来たのは、亜紀ちゃんだった。
城ヶ島で寒風の暗闇の中で話した。
亜紀ちゃんは以降、俺が奈津江のことで苦しんでいることを、誰よりも心配してくれていた。
隣の響子も俺を抱き締め、六花や他の子どもたちも来た。
「タカさんが20年も誰にも話せなかったのが分かりましたー!」
「……」
亜紀ちゃんが大泣きして言った。
そうだった。
俺は俺と同様に、掛け替えのない大事な人間を喪った子どもたちを見て、ようやく硬く厚い氷に覆われた何かが溶け始めた。
俺は前に進まなければならなかったのだろう。
俺は奈津江の死から、同じ場所にうずくまっていただけだったような気がする。
仕事をし、部下を持ち、毎日を懸命に生きて来た。
だが、俺は本当の意味で人生を前に進めることは出来なかった。
俺はずっと「死」の方向ばかり見ていた。
奈津江がくれた「命」をどうしても真直ぐに見詰めることは出来なかった。
「お前たちのお陰だ」
「え?」
「山中たちを喪って、尚前を観ようとするお前たちが、俺の呪縛を解いた」
「タカさん!」
「深く感謝している。今までそれが言えなくて済まなかった」
「「「「タカさーん!」」」」
子どもたちが一層俺を抱き締めた。
響子が潰されそうだ。
「おい! 響子が死んじゃうぞ!」
みんなが一斉に離れた。
響子が「ふしゅー」と言った。
みんなで響子を撫で回して謝る。
「奈津江にも申し訳ないと思っている。折角俺に命をくれたのに、俺は奈津江に会いたいとばかりどこかで考えていた」
響子が俺にまた抱き着き、ロボが脚に昇って来た。
みんなが俺に抱き着いていたので、ロボは俺に触れることが出来ずにいて機嫌が悪かった。
柳にネコキックをした。
俺の肩に前足を置き、俺の顔を舐める。
「響子のオペをした時」
響子が俺を見上げた。
「俺は「絶対」に響子を助けると誓った。本当にそれまでの人生で無かった程に、全身全霊でそう思った。あの時、俺は初めて分かったんだ。俺は本気で生きていなかったのだとな」
「タカトラ……」
「響子がいなければ、俺は今でも何も分かっていなかっただろう。ありがとう響子」
「タカトラ!」
響子を抱き締める。
「お前は生きてくれた。誰もが死ぬと言っていた状況で、お前は俺の前で生きてくれた。あれで俺は前に進めるようになった。最後まで生きるという希望をお前が教えてくれたんだ」
「タカトラー!」
響子も大泣きだ。
「だから俺は六花を愛することが出来た。栞も鷹も麗星も蓮花や他の女たちも」
「ちょっと多いですけどね」
六花が言い、みんなが笑った。
「しょうがねぇだろう。奈津江への愛は一人の女じゃ納まらねぇんだ」
「そうですね」
「まあ、でもやっぱ多いかな?」
「でも楽しいですよ?」
「そうか」
六花が輝く笑顔で笑った。
ロボが俺を見詰めていた。
何か自分にも言えという目だ。
「何よりもロボと毎日一緒なのがいいよな!」
「にゃ!」
響子がロボを撫でた。
ロボが俺と響子の足の上で伸びる。
「まあ、ろくでもない世界になっちまったけどな。俺のせいじゃねぇ」
みんなが爆笑した。
「最後まで踊るぞ!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
「にゃ!」
響子と六花、吹雪を連れ、寝ることにした。
「六花は明日、「紅六花」ビルに行くんだよな」
「はい。響子をお願いします」
「ああ、楽しんで来いよ」
「はい!」
響子はもう眠っている。
俺たちは身体を伸ばし、響子の頭の上でキスをした。
「トラ、お願いがあります」
「なんだ?」
「私も、奈津江さんのお墓参りに行きたいです」
「え?」
「まだ、一度も行ってませんので」
「そうか、分かった。ありがとうな」
六花が微笑んだ。
暗い中でも、その笑顔は輝いていた。
「「超虎曜日」です」
「なんだ?」
「奈津江さんだけは、いつでもトラを独占出来ます」
「アハハハハハハ!」
「特別ですよ?」
「そうか」
「そうなのです」
「スゴイな!」
「スゴイです!」
六花の中で、奈津江が根付いた。
きっと、美しく育って行くのだろう。
「俺」という人間が、六花の中で全て納まった。
魂の半分を渡している奈津江。
奈津江の魂の半分を持っている俺。
全ての「俺」が六花の中へ、そして子どもたちの中へ入って行った。
ロボがベビーベッドから俺を見ていた。
飛び出してトコトコと歩いて来る。
「おい、暖房器具が無くなったじゃねぇか」
六花が笑って吹雪を抱いて、自分の隣に寝かせた。
「じゃあ、寝るか!」
栞が夢で奈津江に会ったという、あの草原の丘の白いパラソルの下。
俺も宇留間の銃弾で死に掛けた時に、同じ場所にいたのだと思う。
俺と奈津江は、そんな場所に行ったことは無い。
引きこもりのようだった生活の奈津江も、多分行ったことはないだろう。
奈津江が用意している場所。
きっとそこで俺を待っていてくれているだろう、その美しい場所。
いつかそこへ行きたい。
でも、それは俺がこの世で生き切ってからだ。
まだ今じゃない。
でも、夢でもいいから、そこで奈津江に会いたい。
そして、俺は……
みんな黙って泣いている。
奈津江との別離は話している。
今回は、その全てを話した。
御堂、山中、栞、そして奈津江。
俺を巡って4人の人間がどう動いてくれたのか。
俺がその後に知った限りのことを話した。
みんなの言葉や記憶で紡がれた、俺の最愛の女との別離の物語だった。
その全てが俺の人生の中心にある。
今も尚、血を噴き出し、俺を苦しめつつ大いなる愛を奏でる記憶。
俺を「俺」でいさせる全てのセントラル・ドグマの宝石。
俺は死ぬまでそれを抱きかかえて行くのだ。
「これで全てだ」
「タカさーん!」
亜紀ちゃんが真っ先に俺を抱き締めに来た。
最初に奈津江の話が出来たのは、亜紀ちゃんだった。
城ヶ島で寒風の暗闇の中で話した。
亜紀ちゃんは以降、俺が奈津江のことで苦しんでいることを、誰よりも心配してくれていた。
隣の響子も俺を抱き締め、六花や他の子どもたちも来た。
「タカさんが20年も誰にも話せなかったのが分かりましたー!」
「……」
亜紀ちゃんが大泣きして言った。
そうだった。
俺は俺と同様に、掛け替えのない大事な人間を喪った子どもたちを見て、ようやく硬く厚い氷に覆われた何かが溶け始めた。
俺は前に進まなければならなかったのだろう。
俺は奈津江の死から、同じ場所にうずくまっていただけだったような気がする。
仕事をし、部下を持ち、毎日を懸命に生きて来た。
だが、俺は本当の意味で人生を前に進めることは出来なかった。
俺はずっと「死」の方向ばかり見ていた。
奈津江がくれた「命」をどうしても真直ぐに見詰めることは出来なかった。
「お前たちのお陰だ」
「え?」
「山中たちを喪って、尚前を観ようとするお前たちが、俺の呪縛を解いた」
「タカさん!」
「深く感謝している。今までそれが言えなくて済まなかった」
「「「「タカさーん!」」」」
子どもたちが一層俺を抱き締めた。
響子が潰されそうだ。
「おい! 響子が死んじゃうぞ!」
みんなが一斉に離れた。
響子が「ふしゅー」と言った。
みんなで響子を撫で回して謝る。
「奈津江にも申し訳ないと思っている。折角俺に命をくれたのに、俺は奈津江に会いたいとばかりどこかで考えていた」
響子が俺にまた抱き着き、ロボが脚に昇って来た。
みんなが俺に抱き着いていたので、ロボは俺に触れることが出来ずにいて機嫌が悪かった。
柳にネコキックをした。
俺の肩に前足を置き、俺の顔を舐める。
「響子のオペをした時」
響子が俺を見上げた。
「俺は「絶対」に響子を助けると誓った。本当にそれまでの人生で無かった程に、全身全霊でそう思った。あの時、俺は初めて分かったんだ。俺は本気で生きていなかったのだとな」
「タカトラ……」
「響子がいなければ、俺は今でも何も分かっていなかっただろう。ありがとう響子」
「タカトラ!」
響子を抱き締める。
「お前は生きてくれた。誰もが死ぬと言っていた状況で、お前は俺の前で生きてくれた。あれで俺は前に進めるようになった。最後まで生きるという希望をお前が教えてくれたんだ」
「タカトラー!」
響子も大泣きだ。
「だから俺は六花を愛することが出来た。栞も鷹も麗星も蓮花や他の女たちも」
「ちょっと多いですけどね」
六花が言い、みんなが笑った。
「しょうがねぇだろう。奈津江への愛は一人の女じゃ納まらねぇんだ」
「そうですね」
「まあ、でもやっぱ多いかな?」
「でも楽しいですよ?」
「そうか」
六花が輝く笑顔で笑った。
ロボが俺を見詰めていた。
何か自分にも言えという目だ。
「何よりもロボと毎日一緒なのがいいよな!」
「にゃ!」
響子がロボを撫でた。
ロボが俺と響子の足の上で伸びる。
「まあ、ろくでもない世界になっちまったけどな。俺のせいじゃねぇ」
みんなが爆笑した。
「最後まで踊るぞ!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
「にゃ!」
響子と六花、吹雪を連れ、寝ることにした。
「六花は明日、「紅六花」ビルに行くんだよな」
「はい。響子をお願いします」
「ああ、楽しんで来いよ」
「はい!」
響子はもう眠っている。
俺たちは身体を伸ばし、響子の頭の上でキスをした。
「トラ、お願いがあります」
「なんだ?」
「私も、奈津江さんのお墓参りに行きたいです」
「え?」
「まだ、一度も行ってませんので」
「そうか、分かった。ありがとうな」
六花が微笑んだ。
暗い中でも、その笑顔は輝いていた。
「「超虎曜日」です」
「なんだ?」
「奈津江さんだけは、いつでもトラを独占出来ます」
「アハハハハハハ!」
「特別ですよ?」
「そうか」
「そうなのです」
「スゴイな!」
「スゴイです!」
六花の中で、奈津江が根付いた。
きっと、美しく育って行くのだろう。
「俺」という人間が、六花の中で全て納まった。
魂の半分を渡している奈津江。
奈津江の魂の半分を持っている俺。
全ての「俺」が六花の中へ、そして子どもたちの中へ入って行った。
ロボがベビーベッドから俺を見ていた。
飛び出してトコトコと歩いて来る。
「おい、暖房器具が無くなったじゃねぇか」
六花が笑って吹雪を抱いて、自分の隣に寝かせた。
「じゃあ、寝るか!」
栞が夢で奈津江に会ったという、あの草原の丘の白いパラソルの下。
俺も宇留間の銃弾で死に掛けた時に、同じ場所にいたのだと思う。
俺と奈津江は、そんな場所に行ったことは無い。
引きこもりのようだった生活の奈津江も、多分行ったことはないだろう。
奈津江が用意している場所。
きっとそこで俺を待っていてくれているだろう、その美しい場所。
いつかそこへ行きたい。
でも、それは俺がこの世で生き切ってからだ。
まだ今じゃない。
でも、夢でもいいから、そこで奈津江に会いたい。
そして、俺は……
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