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真冬の別荘 Gathering-Memory Ⅷ
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「トラ、亜紀ちゃんたちを許してあげて下さい」
六花が湯船に浸かりながら言った。
吹雪は先に上げて身体を拭いて髪を乾かし、脱衣所のベビーベッドで温かくして寝かせている。
「タカトラ、お願い」
響子も暗い顔で俺に言った。
楽しいはずの別荘で、俺が怒って台無しにしている。
子どもたちには明日帰るとまで言ってしまった。
あいつらが反省しているのは分かるが、俺の中で簡単に許すことが出来ない問題だ。
「ダメだな。俺の大事な響子と六花に対して、なんだアレは! 絶対に許さん!」
「そんな、私は全然構いませんから」
「許さん」
「タカトラ、お願い!」
「ダメだな」
二人が黙った。
この二人のせいではないのだが、俺は許すつもりは無かった。
「アキたちも反省してるよ」
「しなきゃ、もう縁を切るからな」
「だったらタカトラ、許してあげて」
響子の髪を撫でた。
「許すよ。でも今じゃねぇ」
「タカトラ……」
響子と六花の首を抱いて抱き寄せた。
俺の本心を話した。
「頭に来たと言うよりもな。なんか悲しいんだよ」
「タカトラ……」
「折角みんなで楽しくやろうとしていたのにな」
「みんな夢中になっちゃったんだよ」
「夢中になったら許せるという問題じゃねぇんだ。絶対にやってはならんことをあいつらがした。あんなに約束したのに、やった。だから悲しいんだ」
「うん」
響子も悲しそうな顔をした。
六花は俺の心の底まで分かるようだ。
そうだ、これは食い物の話ではないのだ。
響子に話した。
「俺たちはもう、結構真剣な戦いをしている。これまでに何度も危ないこともあったよ」
「うん」
「俺が指示してそれを守れないということは、俺たちには命に係わる問題なんだ」
「あ!」
「夢中になってるとか、どう思ったとかじゃねぇ。俺が指示したら守れってことだ」
「うん、そうだね!」
響子も理解した。
「しかもこれは今回が初めてじゃねぇ。何度もやり、その度にもう絶対にやらないとあいつらは言った。それがこのザマだ」
「うん……」
「笑って許してはいけない問題なんだよ」
「うん、分かったよ」
響子の頭を撫でた。
風呂を上がり、吹雪を連れてリヴィングに行った。
子どもたちが床に土下座していた。
俺は無視して松茸の揚げ物と、刺身や豆腐を切ってつまみを作った。
「お前たちは来るな。好きにここで喰ってろ」
「「「「「……」」」」」
六花と響子を連れて屋上へ上がった。
六花がベビーベッドに吹雪を入れて運ぶ。
ロボも付いて来る。
六花と俺はワイルドターキーを飲んだ。
響子はミルクセーキだ。
ロボはミルク。
しばらくすると、階段の下に子どもたちが来たのを感じた。
上へは流石に上がって来ない。
俺はあいつらにも聞こえるように話した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
山中の家に双子が生まれてしばらく経った頃。
病院の食堂で山中と一緒になった。
隅のテーブルで独りで食べようとしている。
午後2時すぎだったので、食堂には人は少ない。
俺はオペの都合でこれから昼食だ。
山中も研究職なので、実験などの段取りの関係でいろいろな時間に食べている。
「よう!」
俺は特注のカツ丼をトレイに乗せて、山中の前に座った。
厨房長の岩波さんに頼んで、ヒレカツ400gで作ったカツ丼だ。
「山中も今から昼か?」
「うん」
山中が俺を見て、ちょっと気まずそうな顔をした。
見ると、小さな弁当箱に白米しか入っていない。
「おいなんだ、それだけかよ?」
「うん」
山中は白米を食べ始めた。
俺にはすぐに事情が分かった。
家族がいきなり二人も増えた。
だから家計を節約するつもりなのだろう。
俺がカツを一切れやろうとすると断られた。
「俺はこれだけでいいんだよ」
「そうか」
俺から施しを受けるようなことはしたくないのだろう。
その気持ちもよく分かった。
亜紀ちゃんが生まれてから、誘ってもなかなか酒を飲みに行かなくなった。
俺が奢るということも、嫌がった。
ボーナスが出た時などに、ようやく一緒に飲みに行くような感じだった。
山中は研究職でも、決して少ない給料ではなかったが、子どもたちの将来の貯金を始めていた。
双子が生まれ、その貯金も考え始めたのだろう。
食事を終えた俺は、山中の奥さんに電話した。
「こんにちは、石神です」
「石神さん! また是非うちにいらして下さいね!」
奥さんが明るくそう言ってくれた。
「はい! ああ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「なんですか?」
「あの、山中には知らないことにしておいて欲しいんですが」
「はい?」
俺は山中が昼に白米だけの弁当を食べていたと話した。
「え! 主人はおかずは病院で自分で好きなものを用意するからと言っていたんですけど!」
「やっぱりそうですか」
「あの、すいませんでした! すぐに主人に話しますので」
「いや、それはちょっと待って下さい」
山中が奥さんに心配させないように考えていたことが分かる。
そういうことを話した。
「奥さんが気にしないようにしているんだと思います」
「でも、お小遣いはちゃんと渡しているんです」
「はい。でも、それもあいつは貯金に回してるんじゃないかと思いますよ?」
「え!」
多分そうだ。
奥さんにも気づかれないように、恐らく別に貯金をしている。
山中は奥さんと子どもたちを溺愛している。
自分のことなど、これっぽっちも考えていない。
そういう奴だ。
だから独りで勝手に家族のために何かしているのだ。
俺は奥さんに提案した。
最初は奥さんも躊躇していたが、俺が山中家のために何かしたいんだと説得した。
奥さんは俺の申し出を受け入れてくれた。
六花が湯船に浸かりながら言った。
吹雪は先に上げて身体を拭いて髪を乾かし、脱衣所のベビーベッドで温かくして寝かせている。
「タカトラ、お願い」
響子も暗い顔で俺に言った。
楽しいはずの別荘で、俺が怒って台無しにしている。
子どもたちには明日帰るとまで言ってしまった。
あいつらが反省しているのは分かるが、俺の中で簡単に許すことが出来ない問題だ。
「ダメだな。俺の大事な響子と六花に対して、なんだアレは! 絶対に許さん!」
「そんな、私は全然構いませんから」
「許さん」
「タカトラ、お願い!」
「ダメだな」
二人が黙った。
この二人のせいではないのだが、俺は許すつもりは無かった。
「アキたちも反省してるよ」
「しなきゃ、もう縁を切るからな」
「だったらタカトラ、許してあげて」
響子の髪を撫でた。
「許すよ。でも今じゃねぇ」
「タカトラ……」
響子と六花の首を抱いて抱き寄せた。
俺の本心を話した。
「頭に来たと言うよりもな。なんか悲しいんだよ」
「タカトラ……」
「折角みんなで楽しくやろうとしていたのにな」
「みんな夢中になっちゃったんだよ」
「夢中になったら許せるという問題じゃねぇんだ。絶対にやってはならんことをあいつらがした。あんなに約束したのに、やった。だから悲しいんだ」
「うん」
響子も悲しそうな顔をした。
六花は俺の心の底まで分かるようだ。
そうだ、これは食い物の話ではないのだ。
響子に話した。
「俺たちはもう、結構真剣な戦いをしている。これまでに何度も危ないこともあったよ」
「うん」
「俺が指示してそれを守れないということは、俺たちには命に係わる問題なんだ」
「あ!」
「夢中になってるとか、どう思ったとかじゃねぇ。俺が指示したら守れってことだ」
「うん、そうだね!」
響子も理解した。
「しかもこれは今回が初めてじゃねぇ。何度もやり、その度にもう絶対にやらないとあいつらは言った。それがこのザマだ」
「うん……」
「笑って許してはいけない問題なんだよ」
「うん、分かったよ」
響子の頭を撫でた。
風呂を上がり、吹雪を連れてリヴィングに行った。
子どもたちが床に土下座していた。
俺は無視して松茸の揚げ物と、刺身や豆腐を切ってつまみを作った。
「お前たちは来るな。好きにここで喰ってろ」
「「「「「……」」」」」
六花と響子を連れて屋上へ上がった。
六花がベビーベッドに吹雪を入れて運ぶ。
ロボも付いて来る。
六花と俺はワイルドターキーを飲んだ。
響子はミルクセーキだ。
ロボはミルク。
しばらくすると、階段の下に子どもたちが来たのを感じた。
上へは流石に上がって来ない。
俺はあいつらにも聞こえるように話した。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
山中の家に双子が生まれてしばらく経った頃。
病院の食堂で山中と一緒になった。
隅のテーブルで独りで食べようとしている。
午後2時すぎだったので、食堂には人は少ない。
俺はオペの都合でこれから昼食だ。
山中も研究職なので、実験などの段取りの関係でいろいろな時間に食べている。
「よう!」
俺は特注のカツ丼をトレイに乗せて、山中の前に座った。
厨房長の岩波さんに頼んで、ヒレカツ400gで作ったカツ丼だ。
「山中も今から昼か?」
「うん」
山中が俺を見て、ちょっと気まずそうな顔をした。
見ると、小さな弁当箱に白米しか入っていない。
「おいなんだ、それだけかよ?」
「うん」
山中は白米を食べ始めた。
俺にはすぐに事情が分かった。
家族がいきなり二人も増えた。
だから家計を節約するつもりなのだろう。
俺がカツを一切れやろうとすると断られた。
「俺はこれだけでいいんだよ」
「そうか」
俺から施しを受けるようなことはしたくないのだろう。
その気持ちもよく分かった。
亜紀ちゃんが生まれてから、誘ってもなかなか酒を飲みに行かなくなった。
俺が奢るということも、嫌がった。
ボーナスが出た時などに、ようやく一緒に飲みに行くような感じだった。
山中は研究職でも、決して少ない給料ではなかったが、子どもたちの将来の貯金を始めていた。
双子が生まれ、その貯金も考え始めたのだろう。
食事を終えた俺は、山中の奥さんに電話した。
「こんにちは、石神です」
「石神さん! また是非うちにいらして下さいね!」
奥さんが明るくそう言ってくれた。
「はい! ああ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「なんですか?」
「あの、山中には知らないことにしておいて欲しいんですが」
「はい?」
俺は山中が昼に白米だけの弁当を食べていたと話した。
「え! 主人はおかずは病院で自分で好きなものを用意するからと言っていたんですけど!」
「やっぱりそうですか」
「あの、すいませんでした! すぐに主人に話しますので」
「いや、それはちょっと待って下さい」
山中が奥さんに心配させないように考えていたことが分かる。
そういうことを話した。
「奥さんが気にしないようにしているんだと思います」
「でも、お小遣いはちゃんと渡しているんです」
「はい。でも、それもあいつは貯金に回してるんじゃないかと思いますよ?」
「え!」
多分そうだ。
奥さんにも気づかれないように、恐らく別に貯金をしている。
山中は奥さんと子どもたちを溺愛している。
自分のことなど、これっぽっちも考えていない。
そういう奴だ。
だから独りで勝手に家族のために何かしているのだ。
俺は奥さんに提案した。
最初は奥さんも躊躇していたが、俺が山中家のために何かしたいんだと説得した。
奥さんは俺の申し出を受け入れてくれた。
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