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真冬の別荘 Gathering-Memory

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 12月29日。
 今日から年末年始休暇に入る。
 年明けの6日までだ。
 夏休みはほとんど戦争で費やした。
 まあ、仕方が無い。
 
 子どもたちに予定の希望を聞くと、みんな別荘に行きたいと言った。
 夏には行けなかったためだが、ニューヨークでもアラスカでもなく、あの別荘がいいと言う。
 俺たちの大事な場所になっていた。
 響子はもちろん、六花も年明けまで別荘に行く。
 六花はそこから「紅六花ビル」に行く予定だ。
 俺たちも家に戻り、のんびりする予定だ。

 六花がグランディアで響子と吹雪を連れて来た。
 朝の7時。
 響子はクークーだ。

 「いつも通りだな」
 「はい」

 俺は助手席の吹雪の顔にキスをし、吹雪が喜んだ。

 「お前はいつも元気だな!」
 「はい!」

 カワイイ。
 寝ている響子のパンツを降ろし、出発することにした。

 「ロボ忘れんなー」
 「「「「「はい!」」」」」

 門を開けてハマーを出した。





 「タカさん! 今日は『虎は孤高に』の年末大スペシャルですね!」
 「そうだな!」

 亜紀ちゃんが大興奮だ。
 ヤマトテレビで記録的高視聴率の『虎は孤高に』のスペシャル特番をやるらしい。
 全出演者と演出家や脚本家、原作の南虎、それと『虎は孤高に』芸人という大ファンと名乗る芸人や芸能人が出演する。
 番組内で豪華プレゼント企画もあるらしい。
 もちろん、亜紀ちゃんは「圧力」を掛けて全部受け取ることになっている。
 亜紀ちゃんは全スタッフ、全出演者のサイン色紙を持ち、ツーショットの写真を持っている。
 グッズももちろんコンプリートで、番宣のポスターなども全て。
 飲料水メーカーがコラボして出した「虎は孤高にコーヒー」缶は、全種類を箱買いしていた。
 大学生篇からの俺役山口君が書道を習っていたと聞き、「虎は孤高に」を書いてもらい、掛け軸にしている。
 豪華な軸装にして、山口君がわざわざ家に見に来て喜んでいた。

 「山口さん、人気が高まっているらしいですよ!」
 「そうだってな。まあ、元々いい役者だしな」
 「現場での評判もいいらしいです! スタッフや他の俳優さんに物凄く気を遣って、いいムードを作ってるとか」
 「詳しいな」

 俺は笑った。
 
 「まあ、苦労して頑張って来た人間だからな」
 「冬野さんとも親友になって、よく二人で話してるそうですよ」
 「そうか」
 「奈津江さん役の広野すずさんと栞さん役の綾野ハルさんとも本当に仲良しらしくて」
 「ほう」

 本当にメインの4人が仲良しらしい。
 なんだか嬉しい。

 「山中役の鈴本良平はどうなんだ?」
 「あ、そっちも! 木村さんとか佐藤先輩役の人たちとも、よく一緒に食事に行ってるそうです」
 「亜紀ちゃん、本当に詳しいな」
 「エヘヘヘヘ!」

 亜紀ちゃんは現場スタッフの何人かと親しくなり、情報を集めている。

 「聖さん役の松田ケンさんはみんなと現場が違うんですが、山口さんとやっぱり仲が良くて」
 「そうか! 同じ事務所同士だったよな?」
 「そうなんです! だからアクションが本格的ですよね!」
 「ガンの扱いもいいよな?」
 「相当訓練したらしいですよ?」
 「まあ、「魅せ」のアクションだけどなぁ」
 「いいじゃないですかぁ!」
 「アハハハハハハ!」

 六花のグランディアが並走してきた。
 響子が後ろのシートで手を振っている。
 起きたということらしい。


 いつものサービスエリアに寄る。
 朝が早かったので、ここでみんなで朝食を摂る。
 響子も着替えて来た。

 「おはよう」
 「おはよう、タカトラ!」

 みんなも響子に挨拶する。
 吹雪を抱きかかえ、響子と腕を組んで食堂へ入った。
 響子の分は俺がサンドイッチを作って来た。
 カニのバター炒めとBLT、卵サンド、カリフラワーの辛子マヨネーズ、ホタテのチーズ焼きだ。
 俺は亜紀ちゃんに山菜そばを頼んだ。

 「少食ですね」
 「普通だぁ!」
 「ワハハハハハハ!」

 最初に持って来てくれた。
 吹雪は俺が預かり、響子と一緒にサンドイッチを食べさせる。
 響子と一緒にニコニコして食べる。

 「タカトラ、カリフラワーの美味しいね!」
 「そうか」

 うちのサンドイッチは1枚の食パンを4等分してあるので小さい。
 響子もいろいろなものを食べられる。
 子どもたちは隣のテーブルでワイワイ食べている。
 六花も一緒だ。

 「亜紀ちゃん、スーパーへの連絡は大丈夫だな?」
 「はい! あ、向こうは雪が積もってるそうです」
 「六花、タイヤはスタッドレスだな?」
 「ばびヴょうぶべぶ!」
 「分かった!」

 大丈夫らしい。

 「前にどっかのバカ娘が御堂をノーマルタイヤで乗せて来たからなぁ」
 「すいません!」

 柳が叫ぶ。
 みんなで笑った。

 食事を終えて、また出発した。
 亜紀ちゃんに運転を替わり、助手席に柳を座らせる。
 俺は後ろのシートで双子と一緒に座った。
 双子が『地獄楽』オープニングの『W●RK』を見事に歌い、盛り上げた。

 「そういやよ、今回もそうだけどお前ら時々何日も家を空けることもあるじゃない」
 「うん?」
 「コッコたちの世話ってどうなってんのよ?」
 「あー! エサは自分たちで食べてるよ」
 「ああ、なぞミミズとかか」
 「うん。草とか穀物なんかも自動配給の機械があるしね」
 「そうかぁ」
 「掃除なんかも覚えたしね」
 「なんだと!」
 「箒なんかも使えるよ?」
 「水撒きもするしね」
 「マジか!」

 まあ、双子がやることだ。
 本当にやっているのだろう。

 「お前ら、相変わらずスゲェな!」
 「「ワハハハハハハ!」」

 まあ、相変わらず俺には報告しねぇのだが。

 「時々低級妖魔が庭に落ちてるよ」
 「結構コッコたちも強くなったよね」
 「聞いてねぇぞ!」
 
 俺は何でも話せと言った。

 「「ごめんなさーい」」

 まあ、カワイイから許すが。




 別荘が近くなり、雪道になる前にまた俺が運転を替わった。
 別荘に着き、子どもたちが荷物を運び込む。

 「タカさん! 久し振りですよね!」
 「そうだな」

 亜紀ちゃんが嬉しそうだ。
 他の子どもたちもニコニコして荷物を運ぶ。

 そうだ、ここは俺たちの思い出の場所だ。
 山中たちを喪った子どもたちを、まだ新しい暮らしに馴染む前にここに連れて来た。
 響子や六花、栞、麗星、早乙女も柳も来るようになり、いろいろな話をした。

 闘いに明け暮れて夏場は来れなかった。
 子どもたちは誰も、ここに来られないことに文句を言わなかった。
 俺たちの心の中に、この別荘がしっかりとあるからだ。

 響子が六花と楽しそうに話しながら玄関へ入って行った。
 ロボが雪の中を走って中へ入った。
 皇紀が笑いながらロボの足を拭いてやっている。
 双子が駆け出て来て、ハマーの後部から残りの荷物を出して運んだ。

 「タカさん! はやくー!」
 「ああ、分かったよ」

 俺はハマーをロックし、中へ入った。
 




 懐かしい匂いがした。
 みんなの顔が俺の中で駆け巡った。
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