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高木 VS 佐藤家 Ⅱ

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 佐藤家のお祓いを引き受けると言う人間とは、思いも寄らない縁で知り合った。
 12月の中旬の夜だった。
 俺がいつものように石神先生のお宅の近くを見回っている時に、サラリーマン風の男性が佐藤家の前に佇んでいるのを見つけた。
 知らない人だったが、危ない場所なので声を掛けた。

 「あの、すみません。その家は近づかない方がいいですよ?」

 男性は振り向いて俺を見た。
 あまり特徴の無い顔。
 身長170センチくらいで、髪は七三に綺麗にわけている。
 もう寒くなっていたが、コートは着ていなかった。
 紺色の無地のスーツ。

 「ああ、この家を御存知の方でしたか」
 「はい?」
 「僕もね、興味があって見に来たんですよ」
 「あの、失礼ですが佐藤家を知ってるんですか?」
 「ええ。何人かこの家に入って消えているようで」
 「知ってるのなら、近付いちゃダメですよ!」

 俺は興味本位で来た人かと思った。
 思わず大きな声で叱るようなことを言ってしまったが、男性は驚くどころか、ほんの一瞬だったが目を輝かせた。
 俺は仕事柄、相手が何かを隠していることを見通す。
 大きな金が動く仕事なので、自然に身に着いた習慣だ。

 「あなたはこの家で人がいなくなったのを知っているのですか?」
 「ええ、少なくとも私が調べた限りでも1000人以上は」
 「え!」
 「?」

 今度は本当に驚いていた。
 この人は、ここが呪われた土地だと知っていたのではないのだったか?

 「失礼しました。そんなに大勢の人間が……」
 「呪われた土地なんですよ。それは御存知じゃなかったんですか?」
 「あ、ああ」

 男性は今度は一瞬戸惑って、何か考えていた。

 「いえ、そういうものじゃないかと思って」
 「そうなんですか」
 「あなたは随分と詳しそうですね」
 「まあ、不動産業をしてましてね。業界では有名な物件なんです」
 「そうだったんですか!」

 男性は名刺を差し出して来た。
 鈴木雄一郎という税理士の人で、この辺りに引っ越して開業したいと言っていた。
 俺も名刺を渡した。

 「不動産会社の方でしたか。じゃあお詳しいわけだ」
 「まあ。鈴木さん、ここは辞めておいた方がいいですよ」
 「ありがとうございます。高木さんのお陰で危ないことにならずに済みました」
 「いいえ。私も実を言えばここは何とかしたいと思っているんですけどね」
 「高木さんの所有の土地なんですか?」
 「違います。でも、近所にお世話になっている方が住んでいらっしゃるんで」
 「そういうことでしたか!」

 鈴木さんはニコニコしていた。
 そして思いがけないことを俺に言った。

 「僕は仕事柄もあって、随分と色々な人間に知り合いが多いんですよ」
 「そうなんですか」
 「はい。お祓いで有名な人間を知ってます。宜しければ今度ご紹介しましょうか?」
 「ああ、それは助かります」
 「それでは、先方に聞いてみますので」
 「宜しくお願いします」

 俺は全然期待していなかった。
 拝み屋や祈祷師たちは、この佐藤家のことを知っている人間が多い。
 知らないのであれば、能力の低い当てにならない連中であることが、経験で分かっていた。
 鈴木さんは好意で言ってくれたのだろう。
 俺は礼を言って別れようとした。

 「あ、そうだ、鈴木さん」
 「はい、何でしょうか?」
 「もしもここの写真を撮ったのなら、スマホを交換した方がいいですよ?」
 「え?」

 やっぱり撮っていたか。

 「僕も前にやったんです。そうしたら知らない所から電話が掛かって来て。気持ちの悪い呻き声がするんですよ」
 「なんですか?」
 「本当です。信じられないかもしれませんが」
 「それはちょっと……」
 「体調もどんどんおかしくなります。知り合いの霊能者から、スマホは捨てなさいと言われました」
 「はぁ」

 まあ、信じられないだろうが、持っていればそのうちに分かる。
 現象が始まれば、鈴木さんもちゃんと判断するだろう。
 その夜は、そのまま別れた。





 3日前、会社に知らない人間から電話が掛かって来た。
 俺も一応は社長なので、知らない相手の場合はすぐには取り次がれない。
 受けた人間が相手を確認し、まともな人間のようであれば、俺に相手の情報と共に内線を回して来る。
 俺が不在の場合や判断が付かない場合は折り返しにしている。

 「鈴木雄一郎さんのご紹介の方ということですが」
 
 事務員の男性から内線でそう言われ、思い出した。

 「ああ、分かった。僕が出るよ」

 俺は保留中で点滅しているランプを押した。

 「もしもし、高木です。お電話を替わりました」
 「高木さんですか。鈴木雄一郎さんからご紹介を受けてお電話しました。美園と申します」

 中年の男性の声だった。

 「美園さん。あの、失礼ですが、佐藤家の土地の件ですか?」
 「はい。是非我々にやらせていただきたい」
 「はぁ。美園さんは、あの土地を御存知ですか?」
 「ええ。前から興味はあったのです」
 「そうなんですか。でも、相当危険な土地ですよ?」
 「分かっています。我々はそういう高度な問題を専門にしております」
 「そうですか!」

 俺は思わず喜んだ。
 佐藤家の土地を知っていながら、引き受けてくれる人間はいない。
 それに美園さんは「高度な」とおっしゃった。
 相当実力のある方なのだろう。

 「是非お願いしたいのですが」
 「はい、それは一度土地を拝見してからでも宜しいですか?」
 「ええ、それはもちろん」

 その言葉で、俺の興奮は鎮まってしまった。
 あの土地をそれなりの人間の目で見れば、今まで通り断られるだろう。
 俺の落胆を感じたか、美園さんが言った。

 「御心配なく。これまで我々が出向いて解決出来なかったことはありませんよ」
 「そうなんですか!」
 「4人でやっています。どうぞご安心下さい。下見も、どのような方法でやるかを見るためですから」
 「分かりました! 宜しくお願いします!」

 俺は喜んで礼を言い、電話を切った。
 1週間後に会う約束をした。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 中野通りの駐車場で待ち合わせていた。
 15分遅れでシルバーのヴォクシーが駐車場に入って来た。
 美園さんが俺に挨拶をし、名刺を交換した。
 美園さんの名刺には、警備会社の名前が印刷されている。

 「警備会社の方だったのですか」
 「ええ。でもそれは表向きで、その会社で働いているわけではありません。警備会社でトラブルがあった場合に我々が動くこともありますが」
 「そうなんですか」
 「はい」

 よく分からない説明だった。
 美園さんが一番年配で、他の3人は20代と思われる若さだった。
 一人女性がいる。
 美人だが目つきが鋭い。
 女性を含め、若い2人の男性も一言も俺に口も利かなかった。
 俺は4名の男女を佐藤家へ案内した。
 美園さんも黙って歩いていた。

 「ここですよ」

 美園さんたちは佐藤家を見る。

 「まだ持ち主の会社の方にはご連絡してませんので、中には今日は入れません」

 4人の男女は塀の外から中の土地と家屋を眺めた。
 写真を撮り始めた。

 「あの、外からは構いませんが、その写真は外部には出さないで下さいね」
 
 4人は俺には何も言わずに、無視して写真を撮り続ける。
 少し気分を害した。
 だから鈴木さんには言った、写真の危険性は口にしなかった。
 怖いことが始まれば、自分で何とかするだろう。
 そういうことのプロなのだから。

 「さあ、そろそろ行きましょう。あとは正式に持ち主の許可を取ってからです」

 俺がそう言うと、やっと4人が俺に振り向いた。

 「高木さん」
 「はい?」
 「この家に石神さんは関わっていますか?」
 「石神さん? さあ、知りませんが」

 俺は意外な名前が出て驚いていた。
 しかし石神先生に少しでも不利になりそうなことは口にしない。
 怪しい集団に見えて来た。

 「いいえ、石神と関連があるのは分かっています」
 「何を言っているんです?」
 
 石神先生の名前を呼び捨てにしたことで、俺は憤慨すると共に、4人を本当に警戒した。
 一人が勝手にチャイムを押した。

 「ちょっと、あなた!」

 《おいで……おいで……おいで……おいで……》

 インターホンから不気味な女性の声が流れてきた。

 「勝手なことを!」

 俺は怒ったが、4人の男女は笑っていた。

 「やはり中にいるんだな」
 「よし、捕まえよう」
 
 「あんたら、何を言ってるんだ! 中へ入ってはいけない!」
 
 しかし、俺の制止を無視して、4人が門を開けて玄関へ向かった。
 驚くことに、4人の身体が大きくなっていった。
 身体の形が変わっていく。

 「!」

 4人は玄関に手を掛けようとした。

 「お前ら!」

 女が俺を振り向いて、耳まで口が裂けた顔で笑った。
 俺の方へ戻って来て、肩を物凄い力で掴まれた。
 門の中へ引きずり込まれた。

 「お前も来い」

 その時、黒いヘビのようなものが地面から現われた。




 4人の姿が消えた。




 俺は慌ててその場を離れた。




 警察にとも思ったが、警察官が敷地に入れば恐ろしいことがまた起きるかもしれない。
 思い悩んだ末、石神先生にお電話した。
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