2,108 / 2,859
アラスカ ハンティング・マラソン Ⅳ
しおりを挟む
山を駆け巡って、やっと満足できるサイズのヒグマを見つけた。
一応、額に星なんかが無いことを確認する。
前に、知らずに山の主を殺してしまい、大顰蹙を買ったからだ。
ゆっくりとヒグマに近づくと、向こうも気付いて威嚇して来る。
両足で立ち、両手を上げて吼えている。
身体のサイズが全然違うので、向こうは余裕があるようだった。
「なんだぁ? お前ヤルってかよ!」
余裕で獰猛に笑って見せた。
ヒグマは威嚇したままだ。
「オラァ!」
左足にローキックを放った。
手加減している。
一発で足を粉砕できるが、今は脅し程度だ。
目的がある。
「ガァオォー!」
「オラァ!」
何度もローキックを見舞い、ヒグマの爪の攻撃を左腕で受ける。
「オラァオラァオラァオラァ!」
ヒグマが痛みに耐えきれずに前に倒れた。
「ガォ」
「どうした! 立てぇ!」
顔面にサッカーボールキックを放つ。
ヒグマが仰向けに吹っ飛んだ。
「ガオ」
ヒグマが悲し気に叫んだ。
「もう終わりかよ!」
他愛もない。
ヒグマの口から血が滲んでいた。
「よし! じゃあ、これを喰え!」
ソフトボール大の石を口の前に持ってった。
戦意を喪失した相手に、岩をガンガン喰わせるつもりだった。
殺しては胃の中に押し込めない。
無理に体内に入れれば、違反となるだろう。
だから生きているうちに喰わせる必要がある。
「ガォ」
「早く喰え! 体重を増やすんだよ!」
口に石を押し付けた。
片手で口を開こうと掴んだ。
「ガゥ」
ヒグマが涙を流し始めた。
「お、おい!」
ボロボロと大粒の涙が零れて行く。
「な、なんだよ! おい!」
「ガゥ」
涙を前足で拭うが、どんどん溢れている。
本気で泣いてる。
「わ、悪かったよ! もう喰わなくていいから!」
「……」
デュールゲリエが降りて来た。
「おい、死んだフリをしろ!」
頭をポコンとやり、ヒグマを横に倒した。
「亜紀様、ハンティングの完了を確認。競技の計測を開始します!」
左腕の距離計が赤く光った。
デュールゲリエがそれを確認し、上空へ上がった。
「おし! じゃあ背負っていくから大人しくしろよ!」
「ガウ!」
ヒグマの頭を撫でてやり、山を駆け下りた。
絶対優勝するぞー!
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「おい、双子のってどうなんだよ!」
栞は副委員長の桜花と相談している。
「一応さ、ライフル弾なんかはそのまま計測するんだよね?」
「ライフル弾じゃねぇだろう!」
「槍とか銛とかも刺さったままでもとは思うんだ」
「だから全然ちげぇだろう!」
明らかに重量を稼ぐためにH鋼をぶっ刺した。
ムースの胸から1メートル以上飛び出している。
「あのさ! 私だってまさかあんなことすると思って無かったよ!」
栞が逆ギレした。
「あの二人が優勝したら揉めるぞー?」
「わ、分かってるよ! 今考えるから!」
「うーん」
「あなたもちゃんと考えて!」
「俺もかよ!」
「あなたの国でしょ!」
「分かったよ!」
まったく、悪知恵の働く奴らだ。
貴賓席の中にある、目の前の大モニターに別な映像が映る。
カリブーを狩った柳だ。
「柳、泣いてるなー」
「ちょっと可哀想だよね」
「あいつ、結構動物好きだからな」
「そうなの?」
「ああ。ロボとも一番仲良しだし、オロチも大好きだしなぁ。うちの近所のイヌネコとかも可愛がってるよ」
「そうなんだ」
「小学校のウサギ小屋の前で立ってるのを見たことある」
「へぇー」
映像では事故死だ。
まあ、一応ハンティングの評価にはなったようだが。
「頭にガンガンぶつかってるよね?」
「なんか恨まれてるみてぇだよな」
「カワイソー」
「そうだなー」
他の競技者も何とか獲物を狩って行く。
野生動物は探すのが難しいので、うちの子どもらのように大型動物はなかなか狩れないようだった。
タヌキのようなものを背負っている者もいる。
「問題は亜紀ちゃんかー」
「あれってハンティングってことでいいの?」
「生きてるよな」
「亜紀ちゃんなら瞬殺と思ってたけど」
「岩を喰わせて重量を増そうと考えたみたいだな」
「悪魔だよね!」
「でも、なんか仲良くなってるしよ」
「うーん」
「クマ、泣いてたもんな」
「そうだよね」
シロクマのことを思い出した。
「前にうちの庭にシロクマが来てさ」
「ど、どういうこと!」
クロピョン便の説明をした。
ヘンな動物たちがクロピョンに運ばれてくると話すと、栞と桜花たちが驚いている。
「そのシロクマを亜紀ちゃんがぶっ倒してさ。それから仲良くなったんだよ」
「なにそれ?」
「別れる時に泣いてたなー」
「へぇ」
栞はあまり動物への愛着は無い。
ロボを可愛がるくらいだ。
俺のネコだからだろう。
ロボはカワイイし。
「まあ、最後まで観てみるか。3時に競技場だよな?」
「うん」
「じゃあ、美味い物を喰って待とう!」
「石神様! すぐにご用意します!」
「ああ、頼む!」
桜花たちが繋がっているキッチンへ向かった。
「蓮花、お前もゆっくりしろよな!」
「はい! 楽しいですね!」
「そうだよな!」
ミユキたちも笑った。
蓮花が楽しんでいることが嬉しいのだ。
栞と六花は俺の隣でそれぞれの子どもをあやしている。
ロボも俺の足の下で横になっている。
柔らかい毛足の長い絨毯が敷いてある。
画面では、デュールゲリエが撮影した様々な選手の映像が流れている。
野生動物を背負って真面目に走る選手たちが楽しい。
桜花たちが豪華な食事を持って来た。
俺たちは食事を始めた。
一応、額に星なんかが無いことを確認する。
前に、知らずに山の主を殺してしまい、大顰蹙を買ったからだ。
ゆっくりとヒグマに近づくと、向こうも気付いて威嚇して来る。
両足で立ち、両手を上げて吼えている。
身体のサイズが全然違うので、向こうは余裕があるようだった。
「なんだぁ? お前ヤルってかよ!」
余裕で獰猛に笑って見せた。
ヒグマは威嚇したままだ。
「オラァ!」
左足にローキックを放った。
手加減している。
一発で足を粉砕できるが、今は脅し程度だ。
目的がある。
「ガァオォー!」
「オラァ!」
何度もローキックを見舞い、ヒグマの爪の攻撃を左腕で受ける。
「オラァオラァオラァオラァ!」
ヒグマが痛みに耐えきれずに前に倒れた。
「ガォ」
「どうした! 立てぇ!」
顔面にサッカーボールキックを放つ。
ヒグマが仰向けに吹っ飛んだ。
「ガオ」
ヒグマが悲し気に叫んだ。
「もう終わりかよ!」
他愛もない。
ヒグマの口から血が滲んでいた。
「よし! じゃあ、これを喰え!」
ソフトボール大の石を口の前に持ってった。
戦意を喪失した相手に、岩をガンガン喰わせるつもりだった。
殺しては胃の中に押し込めない。
無理に体内に入れれば、違反となるだろう。
だから生きているうちに喰わせる必要がある。
「ガォ」
「早く喰え! 体重を増やすんだよ!」
口に石を押し付けた。
片手で口を開こうと掴んだ。
「ガゥ」
ヒグマが涙を流し始めた。
「お、おい!」
ボロボロと大粒の涙が零れて行く。
「な、なんだよ! おい!」
「ガゥ」
涙を前足で拭うが、どんどん溢れている。
本気で泣いてる。
「わ、悪かったよ! もう喰わなくていいから!」
「……」
デュールゲリエが降りて来た。
「おい、死んだフリをしろ!」
頭をポコンとやり、ヒグマを横に倒した。
「亜紀様、ハンティングの完了を確認。競技の計測を開始します!」
左腕の距離計が赤く光った。
デュールゲリエがそれを確認し、上空へ上がった。
「おし! じゃあ背負っていくから大人しくしろよ!」
「ガウ!」
ヒグマの頭を撫でてやり、山を駆け下りた。
絶対優勝するぞー!
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「おい、双子のってどうなんだよ!」
栞は副委員長の桜花と相談している。
「一応さ、ライフル弾なんかはそのまま計測するんだよね?」
「ライフル弾じゃねぇだろう!」
「槍とか銛とかも刺さったままでもとは思うんだ」
「だから全然ちげぇだろう!」
明らかに重量を稼ぐためにH鋼をぶっ刺した。
ムースの胸から1メートル以上飛び出している。
「あのさ! 私だってまさかあんなことすると思って無かったよ!」
栞が逆ギレした。
「あの二人が優勝したら揉めるぞー?」
「わ、分かってるよ! 今考えるから!」
「うーん」
「あなたもちゃんと考えて!」
「俺もかよ!」
「あなたの国でしょ!」
「分かったよ!」
まったく、悪知恵の働く奴らだ。
貴賓席の中にある、目の前の大モニターに別な映像が映る。
カリブーを狩った柳だ。
「柳、泣いてるなー」
「ちょっと可哀想だよね」
「あいつ、結構動物好きだからな」
「そうなの?」
「ああ。ロボとも一番仲良しだし、オロチも大好きだしなぁ。うちの近所のイヌネコとかも可愛がってるよ」
「そうなんだ」
「小学校のウサギ小屋の前で立ってるのを見たことある」
「へぇー」
映像では事故死だ。
まあ、一応ハンティングの評価にはなったようだが。
「頭にガンガンぶつかってるよね?」
「なんか恨まれてるみてぇだよな」
「カワイソー」
「そうだなー」
他の競技者も何とか獲物を狩って行く。
野生動物は探すのが難しいので、うちの子どもらのように大型動物はなかなか狩れないようだった。
タヌキのようなものを背負っている者もいる。
「問題は亜紀ちゃんかー」
「あれってハンティングってことでいいの?」
「生きてるよな」
「亜紀ちゃんなら瞬殺と思ってたけど」
「岩を喰わせて重量を増そうと考えたみたいだな」
「悪魔だよね!」
「でも、なんか仲良くなってるしよ」
「うーん」
「クマ、泣いてたもんな」
「そうだよね」
シロクマのことを思い出した。
「前にうちの庭にシロクマが来てさ」
「ど、どういうこと!」
クロピョン便の説明をした。
ヘンな動物たちがクロピョンに運ばれてくると話すと、栞と桜花たちが驚いている。
「そのシロクマを亜紀ちゃんがぶっ倒してさ。それから仲良くなったんだよ」
「なにそれ?」
「別れる時に泣いてたなー」
「へぇ」
栞はあまり動物への愛着は無い。
ロボを可愛がるくらいだ。
俺のネコだからだろう。
ロボはカワイイし。
「まあ、最後まで観てみるか。3時に競技場だよな?」
「うん」
「じゃあ、美味い物を喰って待とう!」
「石神様! すぐにご用意します!」
「ああ、頼む!」
桜花たちが繋がっているキッチンへ向かった。
「蓮花、お前もゆっくりしろよな!」
「はい! 楽しいですね!」
「そうだよな!」
ミユキたちも笑った。
蓮花が楽しんでいることが嬉しいのだ。
栞と六花は俺の隣でそれぞれの子どもをあやしている。
ロボも俺の足の下で横になっている。
柔らかい毛足の長い絨毯が敷いてある。
画面では、デュールゲリエが撮影した様々な選手の映像が流れている。
野生動物を背負って真面目に走る選手たちが楽しい。
桜花たちが豪華な食事を持って来た。
俺たちは食事を始めた。
1
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
甘灯の思いつき短編集
甘灯
キャラ文芸
作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)
※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる