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パムッカレの警官 Ⅲ

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 俺たちは日本へ帰り、すぐにトルコ政府と話し合いをした。
 「虎」の軍として、要請があれば即座に出撃すると伝えた。
 しかし、トルコ政府の反応は鈍かった。
 一応は救援要請をすると言っていたが、軍の統制の関係で自国で対応したいとも言う。
 恐らく、「業」の手が伸びていることを感じた。
 トルコ政府の中に、国を裏切り「業」に媚びようとする奴がいる。

 そして、パムッカレが襲撃された。

 俺たちが連絡を受けたのは、アキフからだった。
 俺が教えた電話番号へ直接来た。

 「イシガミさん! 今黒い兵士の一団が街に迫っています!」
 「なんだと! 政府からの連絡が無いぞ!」
 「でも! もう街の外まで来ているんですよ!」
 「分かった! すぐに行くぞ!」
 「お願いします!」

 俺は子どもたちを連れてパムッカレに飛んだ。
 皇紀は家に残し、アラスカに連絡させる。

 4分で現着し、街に侵入しようとしていたバイオノイドを一層した。
 30人ほどの襲撃隊だったが、20分ほどで駆逐した。
 あの人数でも、パムッカレは30分もしないで陥落していただろう。

 スレイマン親子は町の入り口で他のジャンダルマの隊員と防衛線を築いていた。
 バイオノイドの戦力は知っていただろうに、誰も逃げようとしなかった。
 俺たちの姿を見ると、みんなが歓声を上げた。

 「イシガミさんがきっと来てくれると信じていました!」

 アキフが嬉しそうに笑っていた。

 「バカヤロウ! 危ない所だっただろう!」
 「ええ、でも信じてましたから」
 「そうかよ!」

 みんな無事で良かった。
 バイオノイドはどこかから陸路で移動して来たようだ。
 パネルバンのトラックが見つかった。
 ジャンダルマで調査すると言う。

 その後、政府と軍に厳重抗議したが、国防に関わることで、他国からの指図は受けないと一蹴された。
 俺はターナー少将、外務担当のウィルソンと話し合った。

 「これも実験的な作戦だな」
 
 俺が言うと、二人ともうなずく。
 
 「ああ、トルコ政府の対応を図っているな。「業」の攻撃に対し、「虎」の軍への出動要請が出ないこと、軍の出動が遅れること。それを先日の攻撃で確認しただろう」
 「だが、個人の回線で俺たちが出た。今後はそれを阻害するようにするだろうな」
 「携帯電話では簡単に阻止されるだろう」
 「トルコ政府の奥深くへ潜ってますね」
 「NATOからの連絡を待つしかねぇだろうな。どれほどタイムロスをするのか分からんが」
 「タイガー、トルコ政府は無視するのか?」
 「当然だ。「業」をぶっ叩くのに遠慮はねぇよ」

 二人が笑った。

 「ゴネるなら上等だ。南アフリカと同じことだぜ」
 「今後は各国に浸透した敵の洗い出しが必要ですね」
 
 まあ、タマを使えば早いのだが、なるべく妖魔を安易には使いたくない。

 「その辺はCIAとかに相談しよう。あいつらの得意分野だからな」
 「はい」

 俺たちも諜報組織を持つべきなのだろうが、俺がどうにも苦手なのだった。
 スパイというのは大嫌いだ。
 でも、好き嫌いを言っている場合ではないのかもしれない。

 「タイガー、マリーンには諜報の得意な人間はいないんだ」
 「そうか」
 「陸軍や海軍ならば、独自の諜報組織を持っている」
 「ああ、知ってる。でも、CIAの方が上だろう?」
 「そうだな。NSAもな」
 「どっちも嫌いなんだよなー」
 「俺もだ」
 「私もです」

 まあ、言ってもしょうがねぇ。

 そして、俺たちが恐れていた通り、パムッカレ襲撃の第二波が来た。




 
 「タカさん! 間に合いますか!」
 「分からねぇ! 何にしてもギリギリだ」
 「今度は絶対に!」
 「おう!」

 俺たちは全力で飛んだ。
 3分を切る時間で現着したが、既にパムッカレは半壊していた。
 前回とはバイオノイドの数が違う。

 「あっちだ!」

 バイオノイドが同じ方向へ向かっている。
 俺は頭上を飛び越えながら、地上のバイオノイドを攻撃して行った。

 「タカさん! バリケードです!」
 
 ジャンダルマの隊員たちがパトカーでバリケードを作っていた。
 しかいもうほとんど破壊されている。
 多くのジャンダルマの隊員たちが倒れていた。

 俺と亜紀ちゃんは彼らの前に降り、バイオノイドを駆逐していく。

 「イシガミさん!」

 俺を知っている隊員が呼んだ。

 「アキフが!」
 
 振り返ると、パトカーの残骸の影にアキフが倒れている。
 両足を腿から喪い、酷い出血だ。

 「傷口の10センチ上を縛れ! 急げ!」
 「はい!」

 アラスカからの応援も到着し、俺は戦闘を任せて負傷者たちを見て回った。
 無線で「タイガーファング」を後方に降ろし、負傷者を収容して運ばせた。

 「街の人間は森の中へ避難させました」
 「分かった!」

 デュールゲリエを500体と、半数のソルジャーを向かわせる。
 上空で「タイガーファング」のレーダーで、バイオノイドは1000体と分かった。
 その数をジャンダルマの隊員に伝えると驚いていた。

 「そんな! 南アフリカ共和国を襲ったよりも数倍いるじゃないですか!」
 「ああ、事前に仕込んでおいたからな」
 「え!」

 俺は前回の襲撃の後で、密かに殲滅戦装備のデュールゲリエ50体を運んでおいた。
 国道から来ることを予測しておいたので、国道脇に倉庫を建て、その中で待機させた。
 しかし、予想外にバイオノイドの数が多く、取りこぼした者が市内に入ったようだ。

 「もう70%は撃破している。しかしお前ら、G3とかでよく対抗したな」
 「はい! 市民を護るのは我々の使命ですから!」
 「そうか!」

 本当に驚くべき成果だ。
 プロの軍人は、バイオノイドの高速移動で太刀打ち出来なかった。
 しかしジャンダルマの連中は、数体とはいえ、確実に撃破していた。

 「アキフが、集中砲火で隙間に撃ち込むという方法を見出しました」
 「あいつか!」
 「はい。そのお陰で何とか。まあ、あと数分ももちませんでしたけどね」
 「それでも誰も逃げなかったんだろう?」
 「我々はジャンダルマですから!」

 ヤーマンと名乗ったその隊員は、アキフの親友でありバディだということだった。
 30分後、戦闘が終了した。
 パムッカレの負傷者は「タイガーファング」で全員アラスカへ運んだ。
 避難していた市民も街に戻り、希望者はアラスカへ連れて行った。

 空軍は最初に来たが、陸軍は来なかった。
 俺たちはそのままパムッカレに残り、警戒しながら居座った。
 トルコ政府から厳重な退去勧告が来たが、無視した。

 「追い出すつもりなら来い!」

 俺の言葉がそのまま伝わり、そのうちにジャングル・マスターの操作した国際世論が一斉にトルコ政府の対応を非難した。
 パムッカレからの救援要請を無視し、「虎」の軍の呼びかけを散々拒否したことが明らかになった。
 トルコ国内からも非難が相次ぎ、政府は権威を喪いつつある。

 一方で強大な敵を前に、住民の避難を優先し、自分たちは最後まで戦っていたジャンダルマの隊員たちへの賞賛が拡大していった。
 「虎」の軍はパムッカレの復興を手伝い、ほぼ全面的に資材と人材を派遣した。
 そのことへも国際世論とトルコの国内世論が賞賛した。

 



 俺はアラスカの「虎病院」にいるアキフを見舞った。

 「イシガミさん!」
 「よう、大丈夫か?」
 「はい!」

 アキフは両足を喪ったが、命は取り留めた。

 「一緒に見舞いに家族を連れて来たぞ」
 「え! 本当ですか!」
 「奥さんはもうすぐ出産だよな? ここで産んでもらおうと思うんだが」
 「ありがとうございます!」

 パムッカレでは病院も無い。
 俺は廊下に顔を出し、病室へ招き入れた。

 「アァーー!」

 アキフが驚き、泣き出した。

 「アキフ、よく頑張ったな」
 「親父!」

 アキフの父親が笑顔でアキフを抱き締めた。

 「イシガミさんのお陰だ。国道沿いにデュールゲリエを配備してくれてたんだ。ベラトも無事だぞ」
 「ほんとに!」
 「俺たちも負傷してな。ずっとここの病院で寝ていたんだ」
 「親父! まさかほんとに!」
 「また死に損なったな」
 「親父!」

 アキフが大泣きした。
 奥さんがアキフを抱き締めた。

 「アキフ、お前たちの勇敢さに感動した。何か希望があったら言ってくれよ」
 「イシガミさん! お願いがあります!」
 「おう、なんだ?」

 アキフが涙を拭って俺を見た。

 「パムッカレに、「虎」の軍の基地を作ってはいただけませんか!」
 「なんだと?」
 「あの街を護って欲しいんです! 俺たちもやります! でも、「虎」の軍の方がいて欲しい!」
 「そうか、分かった。俺もお前たちを護りたいよ」
 「!」

 俺は笑って約束した。

 「今は強硬に居座っているけどな。必ず政府と折衝してあそこに「虎」の軍の基地を建設しよう。「業」のどんな攻撃も跳ね返す強い拠点をな。いつか必ず作る」
 「ありがとうございます!」

 


 あの美しい街に育ち、あの街を護るために命懸けで戦った男たち。
 警察官ジャンダルマというだけで、最期まで逃げなかった男たち。
 だったら、俺も護りたい。

 数か月後。
 アキフは俺たちの技術で新しい足を付けた。
 デュールゲリエと同じ人工筋肉で、自在に歩けるようになった。
 アキフがまたジャンダルマとして働きたいと言ったからだ。
 そして美しい女の子が生まれた。
 アキフはその子に「アスマン」という名を付けた。

 「《空から》という意味なんです」
 「そうなのか?」
 「イシガミさんたちは空から俺たちを助けに来てくれました」
 「!」

 亜紀ちゃんに話すと、大泣きして感動していた。

 「今度は間に合いましたね!」
 「そうだよな!」

 俺たちには護りたいものがある。
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