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挿話: 柳の挑戦

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 「柳ちゃん、本当に一緒に行かない?」

 ハーちゃんが声を掛けてくれる。
 ルーちゃんも皇紀君も、心配そうに私を見ている。
 みんな優しい。

 「うん、ありがとうね。でも、石神さんにもお願いしたことだから」
 「そっかー」
 「みんな楽しんで来てね」
 「うん!」

 スパイダーマンの格好で出掛けるらしい。
 響子ちゃんも一緒だ。
 きっと楽しいだろう。
 でも、私は聖さんの所へ行くことに決めていた。
 聖さんに鍛えて貰えるチャンスは滅多に無い。
 だから石神さんにお願いして、聖さんに頼んでもらった。
 聖さんは私のことも覚えていてくれ、「来い」と言ってくれた。

 聖さんの会社「セイントPMC」の場所はよく覚えている。
 だからロックハート家から走って向かった。
 9時の約束だった。

 


 会社の門衛の方に名前を伝えると、すぐに場所を教えてもらえた。
 広い敷地なので、詳細に教えてくれる。

 「あんまり動き回ると攻撃されちゃうから」
 「!」

 気を付けて歩いた。
 前に言った砲撃訓練場とのことだったので、間違えることは無かった。

 「よう、来たか!」
 「今日は宜しくお願いします!」

 聖さんも私と同じタイガーストライプのコンバットスーツだった。
 石神さんとニカラグア時代から、同じデザインのものを使っているらしい。
 石神さんから砂漠や森林などの状況で、本来は迷彩のパターンを変えるものらしい。
 でも、お二人はいつもタイガーストライプのものだそうだ。
 迷彩柄は、それほど気にしなくていいらしい。
 ふーん。

 「じゃあ、早速始めるぞ。掛かって来い!」

 聖さんのやり方は、石神さんと同じだ。
 私が庭で鍛錬していると、時々石神さんが相手をしてくれた。
 私が攻撃し、石神さんがそれを捌きながら、いろいろとアドバイスしてくれる。
 本当に役立つことばかり、いつも教えてくれた。

 「行きます!」

 私が近付くと、いきなり殴り飛ばされた。
 あれ?

 「お前! 考えながら来い!」
 「は、はい!」

 何か石神さんと違う。
 でも、立ち向かっていくしかない。
 今度は蹴り飛ばされた。

 「お前、何やってんの?」
 「すいません!」
 「お前の攻撃なんか、俺に当たるわけないだろう」
 「はい!」
 「じゃあ、来い!」

 どうすんのー!
 取り敢えず行くしかない。

 離れた位置から「虚震花」を撃ち込んだ。
 聖さんは「闇月」を使うことなく、射線を読んでかわした。
 物凄いスピードで私に迫って来る。
 コワイ!

 拳が迫って来るので、両腕でガードしようとした。
 軌道が変わって下腹部に喰らった。

 「グェェー!」

 身体を折って地面にうずくまった。
 そしてそのまま顎を蹴り上げられる。
 気絶した。
 10秒ほどだったと思うが、気が付くと聖さんに見下ろされていた。

 「お前、やる気ある?」
 「は、はい!」
 「うーん」
 「すぐに立ちます!」
 「いや、ちょっと待て。俺も考えるわ」
 「は、はい」

 聖さんは腕を組んで考え込んでしまった。
 私は立ち上がって待つしかなかった。

 「お前さ、幾ら何でも弱すぎだわ」
 「す、すみません!」
 「トラに頼まれたから付き合うけどよ。何で俺のとこに来た?」

 そんなにか。

 「聖さんが物凄く強い人なので、何かいろいろアドバイスが貰えるんじゃないかと」
 「ああ!」

 聖さんが何かに気付いたようだった。

 「なんだ、そういうことか!」
 「はい?」
 「俺、てっきりぶちのめして何かを掴ませるんだと思ってた!」
 「はぁ」
 「教えるのね?」
 「はい、お願いします」
 「なんだー」

 何だろう。

 「ほら、亜紀とかブサチビ共ってさ、勝手に俺に突っかかって来て覚えるじゃん」
 「そうなんですか」
 「だからお前もそうなんだと。どうもおかしいと思ったぜー」
 「良かったです」
 「おし! じゃあ、シャドウをしてみろ」
 「シャドウ?」

 聖さんがイラついている。

 「敵をイメージして攻撃してみろ!」
 「はい!」

 私はハーちゃんを相手に選んだ。
 あの子は亜紀ちゃんの次に格闘センスがある。
 いつも相手にならないけど、ハーちゃんの攻撃をイメージして私も挑んだ。

 「ハーか」

 聖さんにはすぐに分かったようだ。
 流石だと思った。

 「どうしてあいつにお前が勝てないか分かるか?」
 「才能の差でしょうか?」
 
 頭をはたかれた。

 「お前が考えてないからだよ! お前はとにかく「やってみる」という攻撃しか出来ないのな。だから相手にはすぐに読まれちまうんだよ!」
 「なるほど!」

 そう言えば、今日も聖さんは「考えてやれ」と言ってくれた。

 「でも、どう考えていいのか分からなくて」
 「それはお前が相手を観てないのな。まあ、これまで戦闘経験もほとんど無いんだろうよ」
 「そうですね」
 「お前、いつも一人でやってんの?」
 「大体、そんな感じです」
 「それで強くなれんの?」
 「分かりません」
 「バカなの?」
 「一応東大ですけど」

 殴り飛ばされた。
 聖さんが電話で話した。
 すぐに、白人の大柄な男の人が来た。

 「こいつは「花岡」が使える。だからお前も使っていいぞ」
 「はい!」

 名前も教えてもらえなかった。

 「最初は相手の攻撃を受けろ!」
 「はい!」
 「手が出せるようなら、お前も攻撃しろ」
 「分かりました!」

 私も「花岡」は一通り学んでいる。
 だから相手の動きで、どんな技が来るのかは分かる。
 ブロウや蹴りを捌いて行った。
 遣り合っているうちに、相手のパターンが見えて来た。
 こういうことか!

 右手が伸び切った瞬間に、右わき腹にフックを打ち込もうとした。
 相手が一歩踏み出して、それがかわされ、左手のアッパーを喰らった。
 上方にジャンプして威力を殺す。
 そのまま身体を捻ってローキックを左腿に打った。
 当たった。

 相手が距離を取った。
 ローキックが効いている。
 左腿を手で押さえている。
 私はすかさず踏み込んで行った。
 チャンスだ。

 その瞬間に相手が前に前傾し、私は両足首を掴まれた。
 瞬時に引きずられ、相手が私の腹にマウントを取った。
 無数のパンチと肘が撃ち落される。

 「そこまで!」

 男の人が離れた。

 「どうだ、何か分かったか」
 「ヴァイ」
 「すげぇー鼻血だな」
 「ヴァイ」

 お昼にしようと言われた。




 食堂で、ステーキが沢山出た。
 聖さんはハンバーガーだった。
 鼻に詰め物がされ、折角のステーキの匂いが分からなかった。
 でも、夢中で食べる。

 「ローキックまでは良かったけどな」
 「はい」
 「お前、何であれが入ったのか分かるか?」
 「夢中でしたので」
 「バカだな」
 「……」

 とにかく喰えと言われた。
 4キロくらい食べて、取り敢えず満足する。
 コーヒーが来た。

 「フックは相手に誘われたんだ」
 「そうなんですか!」
 「だからヌケた。でもお前はそこから「予想外」の攻撃をした」
 「はい、ローキックですね!」
 「そうだ。しかもアッパーをかわしながらだ。だから相手はお前の攻撃を喰らった」
 「なるほど!」
 
 私が喜ぶと、聖さんは困った顔をした。

 「だからよ、そういうことだよ」
 「どういうことです?」
 「「予想外」ということだ!」
 「はい!」

 聖さんが私を睨んでいる。

 「お前、全然分かってないだろう?」
 「はい!」

 分かんないよー!

 「とにかく、またやるぞ!」
 「はい!」

 


 がんばるぞー! 
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